昭和55年版 通信白書

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第2節 国内公衆電気通信の現状

1 電電公社業務

(1) 電   報
 電報は,明治以来,国民一般の緊急通信手段として重要な役割を果たしてきたが,近年,加入電話の普及,データ通信等多様な通信手段の発展に伴い,その性格は変容してきている。このことは,電報の利用通数や利用内容等に反映されており,電報通数は,38年度の9,461万通をピークとして大幅に減少してきており,54年度には4,105万通(国民1人当たり0.35通)となっている。また,その内容については,総電報通数中に占める慶弔電報の割合は約73%(2,986万通)と前年度に比べて更に大きくなるとともに,死亡・危篤等を知らせる緊急信等の一般電報は27%と逆に減少している(第2-2-1図参照)。
 なお,新しい電報サービスとして緊急定文電報を55年8月から提供した。緊急定文電報は,個人の死亡・危篤・事故・病気・被災等に関する緊急連絡事項について,利用しやすいよう,ケースごとにあらかじめ定めた文(定文)を通信文に使用する電報であって,定文の前後に20字以内で任意の補完文を追記できる。また,その料金についても,緊急時に際して分かりやすいよう,通信文の長短にかかわらず1通ごとに300円(通常電報の基本料相当額)となっている。
 ところで,電報事業の収支状況については,利用通数の減少,人件費等諸経費の増嵩により,毎年大幅な赤字を続けている。電電公社も,電報受付局(115取扱局)の統合,電報配達業務の民間委託の推進等を実施して業務運営の効率化を図ってきているが収支を改善する抜本的な対策にはなり得ず,電電公社の事業経営問題点の一つとなっている。
(2) 加入電信
 加入電信は一般にはテレックスと呼ばれ,任意の相手方と50b/sの符号伝送が可能な交換網サービスで,31年のサービス開始以来,企業における情報化指向,事務合理化の機運にマッチし,その加入数は着実に伸びてきていたが,近時,新規需要数が伸び悩み,ファクシミリやデータ通信等他の通信手段への移行等の要因により,54年度末加入数は,前年度末に比し4,525加入減少し,6万3千加入となった(第2-2-2図参照)。
(3) 電   話
 電話は,交換網を通じて任意の相手方との間に音声通信を行うことが可能な典型的なパーソナル電気通信メディアであり,日常生活や企業活動に欠くことのできない基幹的な通信手段としての地位を占めている。
 なお,電電公社は,52年度において「全国的規模での積滞解消」を達成し,引き続き53年度において,「全国ダイヤル自動化」を完了し,ここに電電公社発足以来の二大目標の双方が達成され,電話サービスは名実ともに新たな時代を迎えるに至ったが,電話の需給均衡時代を迎えた現在,電電公社の今後取り組むべき課題の一つは,社会の進展に伴ってますます多様化,高度化する需要動向にきめ細かに対応していくことであり,今後とも安定した良質なサービスの提供に積極的に取り組んでいくことが要請される。
 電電公社が提供している電話には,一般家庭や事業所等で使用される加入電話や,街頭や店頭に設置されて公衆の利用に供される公衆電話が代表的なものであるが,このほか,沿岸を航行する船舶に設置されて陸上との間若しくは船舶相互間の通話に用いられる船舶電話や,国鉄新幹線に設置されている列車公衆電話,自動車に設置されている自動車電話等がある。
 なお,船舶電話については,54年3月末から自動化が図られ,また,自動車電話については54年12月3日からサービスが開始されている。
ア.普及の状況
(ア) 加入電話
 54年度末現在,加入電話総数は3,776万加入であり,このうち単独電話は3,471万加入,共同電話は170万加入,構内交換電話63万4千加入,事業所集団電話31万5千加入,地域集団電話39万9千加入となっており,また,地域団体加入電話組合加入回線及び有線放送電話接続回線の加入電話の数は,1,357加入となっている。総数では前年度末より135万8,157加入(3.7%)の増加となった(第2-2-3図参照)。
 人口100人当たりの普及率は,54年度末において32.4加入となり10年前に比し約3倍となった。加入数の推移を事務用,住宅用の利用種別でみると,最近の著しい傾向として住宅用電話の増加が目立っており,54年度は,事務用26万7千加入の増加に対し,住宅用は128万5千加入増加して,新規架設の約83%を占め,これにより年度末における住宅用電話の構成比は約67%に達している。
 また,電話機数では,前年度末より256万個増加して5,363万個となり,米国に次いで世界第2位,人口100人当たり電話機数は46.0個となり,米国,スウェーデン,スイス,カナダなどに次いで世界第7位となっている。
 このような電話加入の普及にもかかわらず,地域集団電話の一般加入電話化,普通加入区域の拡大による過疎地域への電話の普及等なお解決を要する問題は残されている。
 地域集団電話は,農山漁村地域等における集団的な電話需要に応じて設置される多数共同方式の電話であるが,生活条件の変化等による通話量の増大に伴い,一般の加入電話への変更の要望が強くなってきている。電電公社では,遂次計画的に一般加入電話への変更を実施してきており,54年度においては,21万加入の一般加入電話化が行われたが,引き続き,積極的かつ計画的に地域集団電話の一般加入電話化を推進していくこととしている。
 また,現在,普通加入区域外に設置される一般の加入電話については,通常の料金のほか,特別の費用の負担を要することとなっており,このため,普通加入区域の拡大又は負担の軽減について多くの要望が寄せられている。電電公社では,これらの要望にこたえ,57年度までに収容局から半径7キロメートルまで普通加入区域を拡大することとして,その推進を図っている。
 郵政省としては,54年度に加入区域外加入電話普及に関する会議(座長伊藤善市・東京女子大学教授)を設置して,普通加入区域外における加入電話の普及を図るための方策の検討を行い,引き続き具体案について検討している。
(イ) 公衆電話等
 公衆電話は,公社直営で電話ボックス等に設置されている街頭用公衆電話と,商店等に管理を委託している店頭用公衆電話(赤電話)とに大別される。また,街頭用公衆電話は,10円硬貨のほか100円硬貨も併用可能な100円硬貨併用公衆電話(黄電話)と10円硬貨専用公衆電話(青電話)に区分される。電電公社では,利用者の利便の向上を図るため,積極的に公衆電話の増設に努めており,54年度には黄電話が6万1千個増設され,年度末には,総数85万個,人口1,000人当たり7.3個の普及率となった。
 また,加入電話の一種で,公衆にも利用できるように電話機に硬貨投入装置が付加されているいわゆるピンク電話も,その新規需要には根強いものがあり,54年度は8万3千個の増設が行われて年度末総数は93万個となった(第2-2-4図参照)。
(ウ) 電話に関するその他のサービス
 社会活動の高度化に伴い国民の生活様式は大きく変化し,電話についても,従来のようにただ単に通話ができればよいというだけでなく,より便利かつ高度な機能を備えることが求められてきており,そういった要求を満たすための各種の技術開発が進められてきた。
 その例としては,プッシュホン,電話ファクス,ホームテレホン(小型簡易交換電話装置),ビジネスホン(簡易交換電話装置)等の各種の電話機や附属装置のほか,キャッチホン(通話中着信サービス),でんわばん(不在案内)等のサービスがあるが,これらのうち主なものの普及状況は,第2-2-5図のとおりである。
 54年度に新たに提供されたサービスとしては,電話ファクス1分機,電子式PBX,自動車電話,シルバーホン(ひびき)などが挙げられる。主なサービスの概要は,次のとおりである。
(自動車電話サービス)
 自動車の中でも電話を使いたいという要望にこたえるため,“動く電話サービス”の一つとして,自動車電話サービスが54年12月3日から東京23区内で開始された。
 この自動車電話サービスは,東京23区内を走行中の場合,自動車電話と全国の電話との間はもとより,自動車電話相互間でも通話を行うことができ,システムの概要は第2-2-6図のようになっている。
 55年3月末現在,自動車電話サービスの申込数は2,894件(6月末3,466件)で,このうち,開通数は1,557加入(6月末2,871加入),積滞数は1,337件となっている。
 なお,55年度には,大阪地区と東京周辺においてもサービスを提供する予定である。
(シルバーホン(ひびき))
 難聴者向けの福祉機器については従来シルバーホン(めいりよう)が提供されているが,シルバーホン(ひびき)は聴力の特性からシルバーホン(めいりよう)では聞き取りにくい難聴者を対象に開発した福祉機器であって,通常の通話機能のほか,頭部等の骨の振動を介して内部聴覚(感音系)に直接音声を伝達する骨伝導受話機能,受話音量増幅機能及び受話音質調節機能が組み込まれた電話機である。
 また,55年度に入ってからは,5月にコードレスホン,8月に料金着信払い通話サービス(コレクトコール),及び公衆ファクスサービスが新しいサービスとして提供された。
イ.夜間通話料の引下げ
 現在,60キロメートルを超える区間の通話料について,午後8時から翌日午前7時までの間,夜間割引(4割引)を実施しているが,320キロメートルを超える遠距離区間のダイヤル通話料について,午後9時から翌日午前6時までの間深夜割引(6割引)を実施することとし,併せてダイヤル通話料,手動通話料ともに夜間割引の対象時間帯を前後それぞれ1時間拡大し,午後7時から翌日午前8時までとすることについて55年7月認可した。
 これにより,例えば東京から福岡まで3分間ダイヤル通話をした場合,昼間帯の料金では720円,夜間帯の料金では450円であるのに対し,午後9時から翌日午前6時までの深夜帯の料金では280円となる。この夜間通話料の改定は,55年11月27日から実施することとしている。
 この夜間通話料の引下げは,我が国の通話料が諸外国に比べて近距離区間は2分の1ないし4分の1となっているのに対し,遠距離区間は1.5倍ないし2.5倍となっていることから,遠距離通話料と近距離通話料とのいわゆる遠近格差が大きいということが指摘されており,この格差の是正が重要な政策課題となっているが,電電公社の経営の安定にも配慮しつつ本格的に格差是正を実施するためには,遠距離通話料の引下げとともに近距離通話料の引上げを要するなど加入者の利害が相反する面もあり,公衆電気通信法の改正を行って一挙にこれを実施することは最近における経済事情にかんがみ困難であるので,遠近格差是正についての当面の措置として郵政大臣の認可でできる通話料の夜間割引について,その拡大を図ったものである。
 この結果,午後9時から翌日午前6時までの夜間における遠近格差は,昼間1:72,夜間(4割引)1:45に対して1:28となる。
 なお,通話料金の遠近格差については,郵政省としても何らかの形での是正は必要であると考えており,今後とも国民のコンセンサスを得ながら重要な政策課題として取り組んでいくこととしている。
ウ.ポケットベルサービス
 電話のネットワークを利用して,無線により外出している人等を呼び出す,いわゆるポケットベルについては,43年サービス開始後急速に普及し,54年度末においては,第2-2-7図に示すように,サービス提供地域は64地域,加入数は95万加入となった。
エ.料金請求に関する間合せ・苦情等
 近時,通話料金請求に関する間合せ・苦情件数は,増加傾向にあり,その内訳明細を知りたいという加入者の要請が高まっている。一方,料金内訳明細については,国会でも議論がなされたほか,53年8月には行政管理庁から,料金明細サービスの提供を行うことについて,有料にすることの可否を含め検討するよう勧告があった。
 このような状況を背景として,電電公社では,今後のサービスの在り方,経営状況等を総合的に考慮し電話料金に関する利用者との信頼関係を一層高めるため,その提供に着手するとの基本的考え方に基づき,現在,サービスの詳細のほか,通信の秘密,プライバシーの保護等実施上の諸問題について,各方面の意見を聴しながら慎重に検討を進めているところである。
 なお,全国的に本サービスを提供するためには,相当の期間を要すると考えられるので,電電公社では,当面する料金間合せ・苦情の対処策として,度数計中間調査回数の増加,ビデオ方式等による日別調査の導入などを進め,応対資料の整備を図るなどして,利用者への応対の改善に努めているところである。
オ.電話の悪用に関する問題
 今日,電話は日常生活及び企業活動にとって欠くことのできない基幹的通信手段となっているが,一方,電話の持つ覆面性(だれがどこからかけているか分からない。),応答強要性(ベルが鳴った場合応答を強要される。)などの特性を利用して鉄道機関等を混乱させる「爆破予告電話」や家庭生活等に不安を与える「いやがらせ電話」など電話を悪用する事例が社会問題化しつつあり,国会あるいはマスコミ等においても取り上げられている。
 このような状況にかんがみ,郵政省においては53年度に電話に関する実態調査を実施したが,この調査結果を踏まえて,54年度は学識経験者等により構成する迷惑電話対策研究会議を設置した。迷惑電話対策研究会議は,54年6月から55年1月まで6回にわたって迷惑電話の実態調査結果,諸外国における迷惑電話の規制の現状等をも参考としながら,迷惑電話対策について法制面・技術面等から慎重に検討を行い,現段階における結論として報告書を取りまとめた。
 迷惑電話対策は,通信の秘密・表現の自由・プライバシーの保護などとの関連もあり慎重に対処しなければならないものであるほか,同報告書においても迷惑電話の定義,迷惑の許容限度の基準,規制策の在り方をめぐって,国民のコンセンサスを得なければならないなど,幅広く奥行きの深い多くの問題が提起されているので,郵政省としてはこの報告書の趣旨を踏まえ,今後も引き続き検討を深めていく考えである。
(4) 専用サービス
 電話や加入電信が,交換網によって,任意の加入者との間で自由に通信を行うサービスであるのに対し,専用サービス(公衆電気通信設備の専用)は,特定の者が,特定の地点相互間において,公衆電気通信設備を排他的に使用するサービスで,料金が定額制であることから,企業,公共機関等が多量の通信を行うのに適した通信手段となっている。
 現在,専用の制度は,使用する周波数の幅に応じてD規格からL規格までアルファベット別に分類される品目(帯域品目)と符号伝送速度に応じて50b/sから48kb/sまでに分類される品目(符号品目)とに大別される。さらに,帯域品目の各規格は伝送速度及び使用方法に応じて細分化されており,単に音声通信のみでなくデータ伝送,模写伝送,放送中継等多様な需要に応じている。また,符号品目は,最近におけるコンピュータ利用技術の高度化に伴い,データ伝送のみに利用する回線の需要増加にこたえるものであり,混合使用は認められていない。
 利用状況を回線数(D〜J規格・符号品目)についてみてみると,54年度末で約29万8千回線と,前年度に比べて約8千6百回線(3.0%)増加している(第2-2-8図参照)。規格別には,3.4kHzの周波数帯域を使用するD規格が約22万回線と全体の73%を占めており,その中でも通常の音声伝送が可能で専用電話として利用されているD-2が約19万回線とD規格全体の88%を占めている。
 D規格に次いで多く利用されているのは50b/sで,その回線数は,54年度末で7万9千回線となっている。その他の規格については,専用サービス全体からみれば,その利用数は極めて少ない。
 また,L規格は,4MHzの周波数帯域の伝送が可能なもので,テレビジョン放送中継用としてNHK及び民間放送各社に使用されており,54年度末現在の利用状況は,459回線,延ベキロにして4万6,500kmとなっている。
 なお,テレビジョン音声多重放送の開始に伴い,54年8月からテレビジョン放送中継回線の音声多重化を実施した。
(5) その他のサービス
 近年,産業,行政,教育等の広範な分野において,従来の電信電話サービスでは十分満たされていない電気通信需要が発生しているが,技術革新等に基づく新システムの開発により,このような需要に応じて新しいタイプの公衆電気通信サービスが提供されており,その例として映像伝送サービス,高速模写伝送サービス,高速道路通信サービス等がある。

第2-2-1図 電報通数の推移

第2-2-2図 加入電信加入数の推移

第2-2-3図 加入電話加入数の推移

第2-2-4図 公衆電話機数の推移

第2-2-5図 主な附属装置等の数の推移

第2-2-6図 自動車電話サービスのシステムの概要

第2-2-7図 ポケットベルの推移

第2-2-8図 専用回線数の推移(D〜J規格・符号品目)

 

 

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