昭和55年版 通信白書

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10 多重放送

 多重放送は,テレビジョン放送や超短波放送(FM放送)の電波の周波数的又は時間的な「すき間」を利用して,別の情報を同時に放送するものであり,電波の有効利用,放送メディアの多様化が期待できる。
 信号重畳の方式としては,本来の放送番組との間の相互妨害がなく,良好な品質が得られ,しかも普及性のあることが開発の目標となっている。
(1) テレビジョン多重放送
 信号を多重する方法として,実用性があると考えられるものは,映像信号の垂直帰線消去期間や音声信号の副搬送波等に別の信号を重畳するものである。
 一般受信者を対象とする多重放送としては,現在,音声多重放送,文字放送,静止画放送及びファクシミリ放送の4種類が主に考えられている。
ア.音声多重放送
 現在のテレビジョン放送の音声信号に別の音声信号を重畳して放送するものであり,テレビジョン音声のステレオ化や2か国語放送などのテレビジョン番組と関連した使い方のほか,独立した内容の音声放送としても使うことができる。
 方式としては,電波技術審議会が47年3月に,両立性,音質及び普及性を考慮し,FM-FM方式(副音声で副搬送波をFMし,この副搬送波で更に音声搬送波をFMする方式)が最も適当な放送方式であるとして技術基準の答申を行っており,更に,視聴者に与える影響,需要動向等をは握し,将来の円滑な実用化に備えるため,53年9月以来,東京・大阪をはじめとして,55年7月現在,NHK5地区及び民放13地区28社のテレビジョン音声多重放送が実用化試験局として免許されている。
イ.文字放送
 映像信号の垂直帰線消去期間の一部に,時刻,ニュース,天気予報,ろうあ者向け字幕等の文字あるいは簡単な図形を重畳して放送し,受信側ではアダプタを付加することにより,テレビ受信機のブラウン管上に,単独に,あるいはスーパーインポーズの形で文字又は図形を表示するものである。一般的には,数種類の情報が同時に放送され,受信者側でそれを自由に選択することとなる。
 文字放送の方式については,走査方法,伝送方法,伝送速度,制御信号方式等の異なるものが開発され,提案されているが,電波技術審議会では,これらの方式を基にして,普及性,発展性,国際性等を考慮し,53年12月に,文字放送の方式の基本について答申を行い,現在は文字放送の技術基準の細部についてのつめをい急いでいるところである。
ウ.静止画放送
 映像信号の垂直帰線消去期間の一部に静止画の信号を重畳して放送するものであり,本来のテレビジョン放送を映画とすれば,静止画放送はスライドに相当する。また,音声多重放送を組み合わせて音声付きの静止画放送とすることも可能である。静止画放送は技術面,利用面とも検討すべき問題が多く残されている。
エ.ファクシミリ放送
 現在のテレビジョン放送にファクシミリ信号を重畳して放送し,受信者はアダプタ及び記録装置を用いて印刷物の形で情報を得るものであり,ファクシミリ信号を重畳する方法としては,音声副搬送波を利用することが適当とされている。
 53年度の電波技術審議会では,ファクシミリ信号をテレビジョン放送電波に音声第2副搬送波を用いて重畳する場合の現用送受信装置の両立性及び伝送特性について検討を行ったが,テレビジョン音声多重放送への漏話がほぼ許容限であり,両立性の点から問題があるので,更にファクシミリ信号の変調条件について検討を行うこととしている。
(2) FM多重放送
 FM放送に多重できる信号は,二つに大別できる。一つは現行2チャンネルステレオ放送の拡大としての多チャンネルステレオ音声信号であり,もう一つはステレオ放送と内容を異にする信号(独立音声信号,データ信号等)である。
ア.多チャンネルステレオ
 4チャンネルステレオ音声信号を重畳する場合については,電波技術審議会において,54年度末までに,音響効果,信号対雑音比,占有周波数帯域幅,混信保護比等の多重方式検討上の基本的事項を明らかにしている。今後は,ステレオ放送と内容を異にする信号を重畳する場合との関連などについて,審議が行われるものと考えられる。
イ.ステレオ放送と内容を異にする信号
 ステレオ放送と内容を異にする信号を重畳する場合については,電波技術審議会における検討の結果,42年度答申に挙げられている方式(米国が行っているSCAと同じ方式)では,現行ステレオ放送受信に漏話を生じ,両立させることは困難であることが明らかにされている。同審議会は,今後さらに,その他の方式により現行ステレオ放送と両立可能な多重を行うための技術条件について,引き続き検討を行うこととしている。
ウ.緊急放送システム
 大規模地震の直前予知技術の水準は近年とみに向上し,53年12月施行の大規模地震対策特別措置法により,地震防災対策強化地域の指定や地震予知情報の位置づけが行われるなど,研究,開発の段階からようやく予報,警報の時代に入った。
 いうまでもなく,地震予知という自然科学の成果も,それが情報として迅速,正確かつ漏れなく必要なところへ伝達されない限り,防災には生かされない。
 このような情勢を背景として,郵政省では,54年1月,放送波を利用する緊急放送システムの方式及び技術基準の早期確立に資するため,郵政省,NHK,民間放送連盟,関係民間放送事業者及び日本電子機械工業会を構成員とする「緊急放送システム技術懇談会」を設置した。
 この緊急放送システムとは,災害に関する緊急情報を漏れなく周知するため,放送電波に緊急警報信号を重畳することにより,深夜など家庭の受信機のスイッチが入っていない場合でも,受信者の備える専用アダプタ,専用受信機などにより,警報音の発生,受信機電源の操作等を自動的に行うシステムの総称である。
 同技術懇談会は3月までの間,3回にわたり,予想される利用形態,望ましい信号重畳方式等について予備的検討を行い,システムの方式,適用対象,妨害対策等の6項目にわたる意見の集約を行った。
 さらに,郵政省は,3月の電波技術審議会定時総会において,55年度の新規審議事項として,「放送電波に重畳する緊急警報信号に関する技術的条件」を諮問した。答申が得られ次第,早急に関係法令等の整備を行った上で,実用化の道が開かれることになろう。

 

 

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