昭和56年版 通信白書

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2 通信メディアの役割

 これまでみたように,災害の各期において通信は欠かすことのできない存在になっているが,ここでは,通信に課せられた使命を果たすため,通信メディアがどのような役割を果たしているかをメディアごとにみることとする。
(1)有線通信系メディア
 有線通信系メディアは電話に代表されるように,経済社会活動の中で極めて重要な役割を果たしている。しかしながら,大規模な災害においては,ケーブルの切断等伝送路の障害が発生することが考えられるため,ケーブルの多ルート化や災害からケーブルを守るためのとう道の整備など,伝送路の信頼性を向上させるための積極的な防災対策が進められており,こうした結果,有線通信系メディアの耐災害性は年々向上している。
 ア.電 話
 災害時のすべての時期において,情報連絡手段としての電話の果たす役割は大きく,特に住民の個人的情報伝達に欠くことができない手段である。
 第1-2-4図は,地震発生後における情報ニーズの中でも個人的な情報への強いニーズを示すものであるが,ここでは住民の最も知りたい情報として「家族の安否」があげられている。
 こうした情報ニーズは地震後の住民行動にはっきりとあらわれており,半数以上の人が安否確認のために電話を利用している(第1-2-5図参照)。また,災害発生の情報がラジオ,テレビ等を通じて全国に報道されると,今度は全国各地から被災地へ向けて安否の確認等の電話が殺到することが考えられる。
 このため,一時的に激増する通話により回線や交換機が異常にふくそうし,通話の機能がマヒしてしまう危険があるところから,通話の規制等の対策がとられることになる。
 電話は安否の確認など住民の個人的な情報の伝達メディアとしての役割のほかにも,防災行政用無線などと並んで防災関係情報の収集に利用されるケースは極めて多い。
 このように,電話は住民及び防災関係機関のいずれにおいても極めて重要な役割を果たしており,災害時における電話機能の確保は災害対策の中で重要な位置を占めている。
 また,有線放送電話は通話・放送兼用の情報伝達手段であり,災害時においても,この両面の機能により重要な役割を果たしている。
 イ.データ通信
 近年,データ通信の普及が急速に進み,防災関係の分野においても積極的に利用されており,防災対策実施の上でデータ通信は欠かすことのできない存在となっている。
 例えば,49年11月気象庁に導入された地域気象観測システム(AMeDAS)は,気象観測のオンライン化を目指したものである。このシステムでは,全国約1,400か所に設置された各種の観測計により自動的に観測されたデータがテレメータリング方式によってセンタに集められ,必要な解析,編集等が行われ,その結果が地方気象台へ送信されている(第1-2-6図参照)。
 このように,データ通信を利用することにより,地域に応じたきめ細かい気象情報の提供が可能となったのをはじめ,データの信頼性の向上や観測コストの低下など数々の成果を生みだしている。
 また,海底地震常時観測システムにもデータ通信が利用されている。
(2)無線通信系メディア
 無線通信系メディアは災害によって伝送路の損傷を受けることが少なく,また,端末設備のない被災地においても,可搬型等の移動無線を持ち込むことにより通信が可能なことから,有線通信メディアに比べ耐災害性に優れており,有線通信網の機能が停止あるいは低下した場合において通信を確保するための極めて重要な通信手段である。
 ア.防災無線網
 行政機関が中心となって設置している無線通信網には,中央防災用無線,消防防災用無線,防災行政用無線,防災相互通信用無線等があり,災害時における基幹的な通信網としてその役割が期待されている。これらの通信網は各種警報の伝達や警戒宣言時の連絡ルートとして重要であり,避難指示,各種規制状況等地域に即したきめ細かい情報を住民に伝達する上で不可欠であるほか,被害状況のは握にも役立っている(第1-2-7図参照)。
 イ.自営無線網
 全国に自営の無線通信網を有する機関としては,警察庁,消防庁,防衛庁,海上保安庁,気象庁,建設省,国鉄,電力会社があるが,これらの機関は災害とは密接なつながりをもつ機関であり,これらのもつ無線通信網が災害時の情報の収集,伝達に果たす役割は大きい。
 ウ.公衆無線
 公衆通信網の一部として利用される無線電話には,災害時において通常の公衆通信回線が途絶した場合に使用されるものと,船舶電話や自動車電話のように平常時にもサービスが提供されているものとがある。
 災害対策用の無線としては,都市における公共機関の通信確保を目的とした災害応急復旧用無線電話機,通信の途絶による市町村の孤立を防ぐための孤立防止用無線電話機などがある。
 また,災害時においては,船舶電話や自動車電話等,平常,サービスが提供されている無線電話も情報連絡の手段として有効である。
 船舶電話は,被災地へ船舶を急行させたり,被災地沖から陸上への各種情報連絡用として利用することができる。また,自動車電話は,一般の電話の加入者ケーブルが被災した場合でも,通話が可能な場合があるので,今後サービスエリアの拡大とともに災害時の通信用に有効なメディアとなることが考えられる。
 エ.アマチュア無線
 アマチュア無線は全国に40万局を超える無線局があり,簡易な設備で直接交信が可能なところから,災害時における通信の確保に貢献している。
(3)放送系メディア
 放送系メディアは住民に対する広報手段として極めて大きな役割を果たしており,災害の予報,警報,発生情報,避難情報,生活情報等様々なニーズに対応することにより,災害のあらゆる時期を通じて欠かすことのできないものとなっている。
 ア.テ レ ビ
 テレビは,国民が日ごろから接触する度合が大きいメディアであるため,各種の警報や警戒宣言の伝達などには極めて有効である。
 第1-2-8図は,地震予知情報が出た場合に,情報を入手したいメディアを示したものであるが,放送系メディアが圧倒的に多く,中でも「テレビ」が最も多くなっている。
 イ.ラジオ
 災害時における情報入手メディアとして,放送系メディアには大きな期待が寄せられているが,テレビが発災前の予報,警報等の情報入手メディアとして優れているのに対し,ラジオは発災後の各種情報の入手メディアとして大きな役割を果たしている。
 これは,災害によって停電したり,避難を要する場合でも,携帯用ラジオがあれば容易に情報を入手できるためであり,地震発生後における情報入手メディアとしては,「ラジオ」が「テレビ」を大きく引き離している(第1-2-9図参照)。
 ウ.有線放送
 有線放送は各種の指示・連絡や生括情報など,地域に密着した情報を伝える有力なメディアであり,災害時における役割が期待されている。
 有線ラジオ放送についてみると,その端末が家庭内のほか,道路,広場,避難場所等に設置されており,災害時に果たす役割が大きい。
 また,一部の有線テレビジョン放送施設では,防災監視機能や緊急一斉指令機能を持ったシステムの導入が検討されている。

第1-2-4図 地震発生後,住民が最も知りたい情報(住宅地区)

第1-2-5図 地震がおさまったあと何をしたか

第1-2-6図 AMeDASシステムの概要

第1-2-7図 警戒宣言時における地方公共団体等への連絡ルート

第1-2-8図 地震予知情報が出た場合に情報を入手したいメディア

第1-2-9図 メディア別の情報源(宮城県沖地震の場合)

 

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