昭和56年版 通信白書

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2 災害時に備えた各種対策

(1)通信事業体
 通信は,今山 日常生活にとって必要不可欠な存在となっており,一時的に通信が途絶しても社会的に大きな混乱を引き起こすこととなる。通信事業体は,災害対策基本法及び大規模地震対策特別措置法に基づく指定公共機関に指定されて種々の義務を負っており,それに基づいて災害時の通信確保のために各種の対策を推進している。その対策は基本的には,[1]信頼性の向上,[2]通信の途絶防止,[3]早期復旧の三つの考え方に基づき進められている。
 ア.信頼性の向上
 通信システムの信頼性向上対策としては,通信設備を物理的に強固にして災害に耐え得るようにするとともに,万一,通信設備が被災した場合でも代替手段により通信を確保できるよう対策を講じている。
 具体的な施策としては,交換機については東京,大阪,名古屋等大都市の市外交換機が被災した場合の交換機能の確保のために周辺都市に市外交換機を分散設置しており,また,国際通信の場合には東京と大阪に関門局を設置し交換機能の分散を図っており,さらに60年運用開始を目途に栃木県小山市に新関門局の建設を計画している。
 伝送路については,国内通信,国際通信共に一つのルートが被災しても他のルートを経由して通信ができるようにするため,ある地域に向けて異なる経路を経由したり,有線,無線の異なる方式により伝送することにより相互補完できるよう整備を進めている。
 さらに,災害活動に直接関係する指定行政機関,指定公共機関等の加入者と電話局間については,一つのルートが被災しても他のルートで通信が確保できるよう2ルート化を促進している。
 テレビ中継伝送路については,東京を起点に北と西にループ化した網を形成し,災害時にある中継所や伝送路が被災しても別ルートからの伝送でテレビ中継が確保できるよう整備を図っている。
 また,災害が発生した場合,被災地への連絡,問い合わせあるいは見舞いのための通話が殺到して電話がかかりにくくなると考えられる。そこで,交換機によって通話を規制し,災害復旧活動に関係する通話,公共性の高い通話及び公衆電話からの通話を優先的に接続することとしている。しかし,災害時におけるふくそう対策は交換機における接続規制だけでは不十分であるため,災害時には電話がかかりにくくなっている旨の広報活動を放送等を通じて行うこととしており,さらに,平常時においても災害時の電話の利用法について周知徹底を図っている。
 イ.通信の途絶防止
 通信の途絶防止対策としては,災害によって通信設備が被災した場合でも,被災地と最小限の通信が確保できるよう対策を講じている。
 具体的な施策としては,都市部が被災し,そこでの通信が途絶した場合に備えて,災害復旧活動に直接関係のある国や地方公共団体の機関に無線電話機を配備している。また,市町村部が被災し,そこでの通信が途絶した場合に備えて,市町村役場等に無線電話機を配備している。なお,都市部に配備する無線電話機は,被災者が避難する場所に設置して特設公衆電話機としても利用できる。
 ウ.早期復旧
 早期復旧対策としては,交換設備,電源設備,伝送設備が被災した時に備えてそれぞれ可搬形の電話局装置,電源装置,移動無線機を配備している。また,ケーブルが被災した場合に備えて,簡単に敷設,接続できるよう各種応急ケーブルの配備を進めている。
 これらの施策の概要は第1-2-11表及び第1-2-13図に示すとおりである。
 以上のように通信事業体の災害対策は年々整備・改良されてきている。これを電電公社の設備投資額の推移からみると,次のとおりであり,年々多額の災害対策投資が行われている。
(2)放送事業体
 放送事業体は,災害時において地域住民に対し正確かつ迅速に災害情報を伝達することにより災害時の混乱を防止し,災害復旧に寄与することが社会的に要請されている。そこで,NHKは災害対策基本法の規定により指定公共機関となっており,また,民間放送は同法の規定によって都道府県知事から指定地方公共機関の指定を受けるなどにより災害時における放送を確保するため種々の対策を講じている。
 その対策は,基本的には次の三つの考え方に基づき進められている。
 ア.災害情報の伝達及び収集手段の確保
 放送事業体は,災害時において災害対策本部及び都道府県からの情報を正確かつ迅速に収集し,それを放送するために種々の方策を講じてきている。特に災害対策基禾法及び大規模地震対策特別措置法の規定に基づく,都道府県知事の求めによって行う災害に関する情報等の放送の円滑な実施を確保するため,都道府県知事と協定を締結している。
 また,都道府県の防災行政用無線網の中に放送事業体が参画し,災害対策本部からの情報伝達体制の整備が図られているほか,陸上移動局及び携帯局を活用して災害対策本部及び防災関係機関からの情報収集の補完体制を充実している。
 イ.災害時における放送の実施体制の確保
 災害時において正確かつ迅速な放送を行うため,あらかじめ災害対策要綱等を制定し,災害時における社内の責任体制,連絡体制,職員の動員体制及び放送実施体制を明確にしている。
 ウ.放送施設の確保
 放送施設に地震対策等の防災対策を施し,災害時における放送及び情報収集の確保に努めている。万一,放送施設が被災した場合に備えて予備送信機(又は代替送信機),予備電源,予備中継回線の設置を進めている。さらに,現用及び予備の両設備が被災した場合に備えて可搬形放送装置の配備を進めているところである。
 これらの施策の概要をNHKを例にみると第1-2-14表に示すとおりとなる。
 以上のように放送事業体の災害対策は年々整備・改良されてきている。これをNHKの設備投資額の推移からみると次のとおりである。
(3)公共機関等
 公共機関等の自営通信網においても,種々の災害対策が講じられており,例えば,通信システムとしての信頼性向上策としては,有線通信網と無線通信網あるいはマイクロウェーブ網と短波網による電気通信網の二重構成,伝送路の幹線区間の多ルート化等,それぞれの実情に応じて進められている。
 ア.警察通信
 警察の電気通信網は,全国の警察機関相互間を結ぶ固定通信系と,第一線警察活動用の機動性に富む移動通信系とから構成されている。
 固定通信系は,主として電話,ファクシミリ及びデータ通信に使用されており,警察庁,管区警察局,都道府県警察本部を結ぶ幹線区間は警察自営のマイクロウェーブ回線によって,また,都道府県警察本部,警察署,派出所・駐在所相互間は,数署について自営通信回線があるほかは,全国的に電電公社の専用線によって結ばれている。
 災害等による重要通信の途絶を防止するため,マイクロウェーブ回線のうち警察庁と管区警察局との間については,51年度以降2ルート化が推進されており(第1-2-16図参照),さらに,大規模災害時におけるバックアップ用として全国的な短波通信網をも有している。
 移動通信系は,車載無線電話,移動警察電話等に使用されているが,災害対策用の通信施設としては,多重熱線電話装置と電子交換装置のほか応急用発電装置を整備し警察署なみの通信機能を有する非常用通信車,災害現場の実情をは握するためヘリコプター又は大型車両に積載して使用される無線テレビジョン等の配備を進めている。
 イ.鉄道通信
 鉄道事業においては,列車の安全運転と定時性の確保が最も重要な任務であり,列車の運行管理をはじめ,事故防止対策等のため自営の通信回線を有している。これを日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の例にみると,国鉄は自営による全国的通信網を有するとともに,列車運転の保安措置については,列車集中制御システム(CTC),列車自動制御装置(ATC)等の整備を進め,また,「みどりの窓口」として親しまれている旅客営業販売システム(MARS)のほか,快速貨物情報システム(FOCS),コンテナ情報システム(EPOCS)等めデータ通信システムを構築している。
 この国鉄の通信網は,従来,主として有線通信回線に依存してきたが,24年以降,有線通信の補助あるいは障害時の対策として短波による無線回線を導入し,その後,主要路線の電化と並行してマイクロウェ-ブ回線化を進めてきた。さらに,地域災害を考慮し,あるルートが故障しても他のルートにより回線のう回構成が可能なループ化方式を採用して太平洋側ルートと日本海側ルートで工事を行っており,現在では九州中部以南と北海道等を除きおおむね完了している(第1-2-17図参照)。
 また,データ通信については,次のような防災対策を講じている。
 [1] 装置の保護(直接固定方式,吸着盤方式,補強金具方式等によるコンピュータ等の移動・転倒防止)
 [2] データの保護(各種プログラム・ファイル類の重複保存,重要プログラム・ファイル類の分散保存等)
 一方,災害対策用の通信施設としても,災害時における迅速な情報連絡を確保するため,移動無線系において自動車無線,移動多重無線,ヘリコプター無線等の整備を進めている。
 ウ.民間企業
 民間企業においても,實城県沖地震及び東海地震発生説を契機として,防災対策の関心が高まっているが,その実施状況は,企業規模,経済的な理由等によりまちまちである。現在,民間企業で行われている防災対策の重点は,主に地震,及びこれに伴う火災等を考慮して行われている。
 民間企業の通信に係る防災対策としては,情報連絡体制の確立,情報伝達の確保及び訓練,マニュアルの作成等を行っている例が多く,また,通信設備,電子計算機及び端末装置の移動,倒壊防止といった比較的軽微なもののほか,電話等の有線系通信網が途絶した場合の対策として,事業所に無線機を配備したり,企業内アマチュア無線家の組織化を図っている例もある。
 近年,電子計算機の発達により,社会の情報化は急速に進展し,情報の円滑な処理なしには,社会は成り立たなくなりつつある。また,最近では通信回線と電子計算機とを結合したデータ通信システムの進展に伴い,地震,火災等の災害による電子計算機事故は,社会経済活動に大きな影響を及ぼすことが懸念され,民間企業のデータ通信に関する防災対策としては,通信回線の2ルート化,ループ化,通信センタの分散,データ・ファイルの分散保管等を行っている例もみられる。
 例えば,全国銀行データ通信システムでは,センタにそれぞれ別の回線で接続されている2台のオンライン情報処理装置と1台のバックアップ装置が設置されている。また,センタのシステムが災害等により長時間ダウンした際には,郵便による文書バックアップ・システム,加盟金機融関のシステム・ダウンの際には,電話によるテレバックアップ・システムにより,日常業務への影響を最少限にくい止める対策が講じられている(第1-2-18図参照)。

第1-2-11表 通信事業体の防災対策一覧表(1)

第1-2-11表 通信事業体の防災対策一覧表(2)

第1-2-12表 電電公社の防災計画額推移

第1-2-13図 多ルート化が進む国際伝送路

第1-2-14表 NHKの防災対策(放送施設関係)一覧表

第1-2-15表 NHKの防災計画額推移

第1-2-16図 警察通信の主要なネットワーク

第1-2-17図 国鉄通信の主要なネットワーク

第1-2-18図 全国銀行データ通信システムの概要

 

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