昭和56年版 通信白書

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15 高精度測位技術の研究開発

 超長基線電波干渉計(VLBI)システムは,電波星あるいは人工衛星からの微弱な雑音電波を遠く離れた2地点で受信し,磁気テープ上に時刻とともに精密に記録する。この二つの受信テープの信号を相関法により比較すると,電波の二地点への到達時間差を高精度に求めることができる。VLBIシステムは当初電波天文の研究に用いていたが,近年二地点間の時刻同期や測地的応用が脚光を浴びており,これを基にした地殻変動測定,長期的地震予知をもたらすプレート運動の検証のほか,衛星の軌道決定,極運動,地球回転,位相ゆらぎ検出による電波伝搬など多方面の応用が期待されている。
 現在,国内では54年から始まった第4次地震予知5か年計画に関する測地学審議会の答申「宇宙技術によるプレート及び地殻変動観測」の新たな要請があり,また,国際的には非エネルギー分野の日米科学技術協力協定(55年5月1日締結)に基づき,58年から日本(電波研究所)と米国(航空宇宙局)との間でVLBI実験により地殻変動などを調べることが合意された。この計画が軌道にのれば,日米間の距離を数cmの誤差で測定することが期待される。電波研究所ではこれら内外の要請を受け,米国システムと互換性のある超高精度電波干渉計システム(K-3)開発の5か年計画を策定した。そして,55年度は主としてバックエンド部の開発を中心に進め,K-3システムの開発についての見通しを得た。
 電波研究所では従来からVLBIシステム開発に必要な,高安定原子周波数標準器や超精密時刻同期,天体電波源や人工衛星追尾,高速VLBIデータ処理などの技術を持ち,これを利用して衛星軌道及び電波の位相ゆらぎなどの測定のためのシステム開発を行ってきた。日本で最初のVLBIシステム(K-1)による国内実験を,52年電波研究所鹿島支所と電電公社横須賀電気通信研究所で行い,人工衛星の雑音電波の到達時間決定誤差±5nsを得た。次いで,電波の位相ゆらぎなどの測定のため,帯域幅合成による受信帯域の拡張,マイクロ回線でデータ伝送を行う実時間相関処理など,改良したVLBIシステム(K-2)を開発し,電波研究所鹿島支所-同平磯支所間の実験で到達時間差決定誤差±0.2ns以下を得た。
 電波研究所は以上のような技術と実績を持っており,現在開発している超高精度電波干渉計システム(K-3)に寄せる内外関係者の期待は大きい。

 

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