昭和57年版 通信白書

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5 移動通信

 社会活動の高度化・多様化に伴い,従来の移動通信のほかに,近年,走行中の自動車,列車,船舶等の移動体から一般の加入電話,歩行中の人等との通信ができる,より一層機動性と即時性に優れた移動通信が発達してきた。ポケットベル,自動車電話,列車公衆電話等の移動通信の利用加入者数,利用回数等の利用状況の推移をみると移動通信に対する需要が着実に増加していることが分かる。また,限られた移動業務用周波数を有効に利用し,より多くの利用者が移動通信を利用できるような新たな通信システムが開発,導入されようとしている。
 このように移動通信が高度化・多様化してきた要因としては,国民のニーズや移動通信に利用できる周波数帯,新しい通信方式の開発のほかに,最近の半導体技術の進歩等により小型,軽量かつ高性能の無線機の製造が容易になったことが挙げられる。
(1)我が国の動き
 ア.陸上移動通信
(ア)自動車電話サービス
 現代社会において自動車の果たす役割は極めて大きいが,自動車の中でも電話が利用できるようにという要望にこたえて登場したのが自動車電話である。
 自動車電話は,サービス・エリア内を走行中の場合,自動車電話と全国の電話との間はもとより,自動車電話相互間でも通話を行うことができる。システムの概要は,第1-2-20図のようになっている。システムの特色としては,周波数の有効利用を図るため小ゾーン方式(サービス・エリア内を半径5〜10kmの無線ゾーンに分割する方式)を採用していること,800MHz帯を使用していることなどが挙げられる。
 この自動車電話は,54年12月に東京23区でサービスが開始されたのに続いて大阪地区,東京周辺地区,大阪周辺地区,名古屋地区においてもサービスが開始されている。57年度には,札幌,仙台,岐阜,広島,福岡の各地区においてサービスが開始される予定であり,更にその後は逐次全国の主要都市及びこれらを結ぶ主要幹線道路へ拡大していく計画がなされている。
 加入者数も55年度末で6,406加入,56年度末で1万3,275加入と順調に増加している。自動車電話の利用は,一般企業が82%を占め,次いで個人が13%,病院等公共機関が4%,官公庁2%となっており,車種別では乗用車が93%で大部分を占めている(56年度末現在)。
 各種の技術開発もサービス・エリアの拡大に併せて進められており,自動車に取り付ける無線機については、LSI技術を導入して従来のものに比べ大幅に小型・軽量化されたものが名古屋地区を皮切りに提供されている。
 さらに,各種サービスの拡充については,現在自動車電話は加入したサービス・エリア内でしか使用できないが,これを他のサービス・エリアヘ移動した場合でも使用できるようにする全国広域サービスの検討,自動車に取り付けてある無線機を車外へ運び出して使用できる着脱式移動機の開発等が進められている。
(イ)マルチ・チャンネル・アクセスシステム(MCAシステム)
 トラック等陸上運送事業界においては,迅速,正確なサービス等きめ細かい輸送体制確立と省エネルギー対策上から事業所と移動中の車両との通信を確保し,車両の位置,稼働状況等を事業所において常時把握し管理できる通信システムの要望が強い。一方,陸上移動業務用周波数は,陸上移動通信に対する需要が著しいため極めてひっ迫している。
 このような現状から,周波数をより効率的に利用するために複数の周波数を多数の利用者が共用するMCAシステム(Multi Channel Access System)が開発された。
 このシステムは,800MHz帯を使用して,第1-2-21図に示すとおり,制御用チ.ヤンネル1チャンネルと最大15の通話用チャンネルから成り立っている。このシステムは,制御用チャンネルによって空いている通話用チャンネルを順次使用希望者に付与し,しかも1通話当たりの通話時間を制限することによって,周波数の利用効率を高めたもので約5,000局の収容が可能である。
 この新しく開発されたMCAシステムは,自動車運送事業等の各種業務用として.需要の極めて多い東京及び大阪地域に57年秋から導入することとしている。このMCAシステムは,首都圏,近畿圏に続いて名古屋,札幌等主要都市へと急速に拡大されることが予想される。
(ウ)パーソナル無線
 陸上移動通信のうち,パーソナル・メディアに対する需要は,国民生活の向上と生活様式の複雑多様化に伴い,ますます増加の傾向にある。
 個人が利用できる陸上移動通信で自動車電話サービス等の公衆通信系のサービス以外にはアマチュア無線と市民ラジオとがあるが,近年のモータリゼーション社会の進展に伴い,現行市民ラジオ制度に対し,利用周波数の増波,通信可能範囲の拡大等の要望が利用者から多く出されている。また,電波技術の進展により,無線設備の小型・軽量・省電力化が進んでいることから,個人でも簡易に操作ができる無線設備が開発されてきている。
 このような状況を踏まえて,モータリゼーション社会に適応した簡易な連絡用として,無線従事者の資格を必要とせず,簡易に操作がでぎ,しかも通信可能範囲が5〜6kmという,車載通信も可能なパーンナル無線の検討が進められている。
 なお,放送の受信に障害を与え又は他の無線通信等に妨害を与えて社会問題化している不法市民ラジオ(免許されない無線局で主に車載用のもの)は,依然として跡を絶たないが,パーソナル無線の導入によって,その排除効果の上がることが期待される。
(エ)列車公衆電話サービス
 列車公衆電話は,列車内に設置した公衆電話と加入電話等相互間の通信サービスを行うものであり,東海道・山陽新幹線では開業と同時にサービスを開始し,57年6月からは東北新幹線で開始され,57年11月からは上越新幹線でサービスが開始された。
 東海道・山陽新幹線のものは,列車と沿線基地局の間を無線で結んだものであり,通話は交換手を通じて行われ,通話できる地域も新幹線沿線地域の25都市に限られている。東北・上越新幹線では,ケーブルに設けられた溝から微弱電波が出る漏えい同軸ケーブルを線路に沿って敷き,これを利用して通信を行うため,より安定した通信が可能になるとともに,列車からの発信通話については,一般の公衆電話と同様ダイヤル通話ができるようになり,また,通話できる地域も全国となっている。
 なお,東海道・山陽新幹線の56年度の利用状況については年間約105万呼で,仕事上の連絡や出迎え依頼等に利用されており,列車からの発信が約90%となっている。
(オ)ポケットベル
 電話のネットワークを利用して,無線により外出している人を呼び出すいわゆるポケットベルは,電電公社が43年7月に東京23区でサービスを開始して以来,その軽便かつ機動性に富んだ効用によって急速な普及を示し,56年度末現在,加入数はおよそ124万加入となっている。
 このポケットベルは,150MHz帯及び250MHz帯の周波数を使用し,全国に66の提供地域を設定してサービスを行っており,そのサービス提供地域は,およそ700市町村に及んでいる。60年度末までにはおおむね全市制施行都市等に拡大するとともに,周波数帯を150MHz帯から250MHz帯へ吸収して,より適切なサービスが行えるよう計画している。
 57年度は,新たなサービスとして「デュアルコールサービス」を9月から全国一斉に開始した。
デュアルコールサービスは,受信機に二つの番号を付与し,呼ばれた番号によって鳴音を変え,受信側において発呼の識別を二つまで可能とするサービスである。
 また,57年度には沖縄地区に導入を図ることとしている。
 イ.航空移動通信
(ア)空港無線電話
空港無線電話は,航空機の運航に関する通信を行うため,航空機と航空会社の事務所との間,あるいは空港における旅客サービスや貨物に関する通信を行うため,航空会社等の事務所と空港内の作業現場との間を結ぶ公衆通信サービスであり,47年5月にサービスを開始して以来,成田,大阪,那覇の各空港で提供されている。
(イ)航空機公衆電話
 航空機内の公衆電話から加入電話等へ通話を行うことができるシステムである航空機電話は,米国内において1982年末ごろから定期旅客機を対象にサービスが開始される予定になっている。
このシステムは,従来の自動車,列車及び船舶内に設置する移動公衆電話サービスと異なり,高速で飛行中の航空機という特殊な環境条件下で使用するものである。我が国においては,このシステムの導入に当たっての需要動向等について的確な把握を行うとともに,航空機・地上間の最適通信方式,航空機搭載設備の技術的条件及び地上施設の規模等について調査研究を行う必要があり,現在これらの諸問題について具体的検討を進めているところである。
 ウ.海上移動通信
(ア)船舶電話
 船舶電話は,日本沿岸を航行する船舶と陸上との間及び船舶相互間の通信サービスであり(一部は船舶公衆電話として一般乗客が利用できる。),通話のできる海域も日本沿岸のほぼ全域にわたっている。船舶電話は,従来は150MHz帯及び250MHz出帯を使用し手動交換によりサービスを実施していたが,54年3月から250MHz帯を使用する自動交換方式が導入されダイヤル通話ができるようになった。電電公社では,現在,手動方式から自動方式への移行を進めている。
 56年度に入ってからは,沖縄先島諸島周辺,伊豆七島周辺海域にサービス・エリアが拡大されるとともに,新たに硬貨投入式船舶電話機の提供を開始した。
 56年度末における加入者数は,手動方式が4,674加入,自動方式が6,590加入,合計1万1,264加入となっている。
 なお,船舶電話加入者の内訳をみると,貨物船が38%で最も多く,次いで油槽船15%,漁船13%,ひき船12%となっており,客船は4%となっている。
(イ)海事衛星通信
 衛星通信による船舶と陸上との間の通信は,52年4月から米国の私企業のシステムであるマリサット・システムを利用して開始されたが,54年7月,世界的なシステムの提供を目的とする国際海事衛星機構(イソマルサット)が設立され,57年2月1日をもってマリサット・システムは世界的なインマルサット・システムに引き継がれた。
 インマルサット・システムへの移行に伴い,料金及び提供条件が大幅に改定され,新たなサービスとして電話網を利用したファクシミリ通信及びデータ伝送の取扱い(いわゆる「みなし通話」),手動接続によるテレックスの取扱いが開始された。
 また,国際電電が設置するものに限られていた船舶地球局設備を利用者自身が設置する方法が新たに設けられた。
 海事衛星通信サービスを利用する船舶は順調に増加しており,56年度末現在,全世界で1,087隻に達し,我が国船舶も既に134隻に達している。
 船舶運航管理の近代化,貿易の拡大等により船舶通信へのニーズはますます増大かつ高度化・多様化する傾向にあるが,これに対応するため現在新しいサービスや小型船舶用の船舶地球局設備の導入等が検討されている。
(ウ)漁業新通信システム
 現在,沿岸漁業に従事している小型漁船は,26MHz帯及び27MHz帯の電波を使用して漁船と海岸局との間及び漁船間で無線通信を行っている。
 この通信システムでは,海上保安庁,警察,病院,漁業協同組合等と小型漁船との間で情報の交換を必要とする場合,いったん海岸局と通話した後,改めて海岸局から加入電話等により海上保安庁,警察等の公共機関へ情報を伝送することとなる。このような通信システムでは,即刻必要とする情報が得られないばかりか,ますます複雑多様化する情報を満足に伝送されないおそれがあるなどの理由から,漁業関係者のなかで,小型漁船から直接,海上保安庁,警察等の公共機関と通話のできる簡易な通信システムを要望する声が高まってきている。
 これにこたえるため,新しく40MHz帯の電波を使用した無線通信回線により小型漁船と海岸局との間に通信回線を設定し,必要に応じ海岸局においてこれを加入電話回線に接続して,小型漁船が公共機関等と直接通話のできる簡易な通信システムを58年度から導入することを目途に,このシステムに適した安価かつ操作の簡便な無線設備の開発及び調査を57年度中に行うこととしている。
 この新通信システムを導入することにより,漁業関係者の要望を満たすほか,いまだ無線局を開設していない小型漁船にも新通信システムが普及することなどが予想されることから,小型漁船の安全操業等に大きく役立つものと期待されている。
(2)諸外国の動き
 自動車電話の歴史は古く,まず1946年に米国で開始され,翌1947年にカナダ,1950年に西独,1959年に英国,更に1969年にフランスで開始された。米国では,約840の無線通信事業者,約360の独立系電話会社,23のベル系電話会社が自動車電話サービスを提供しており,1980年末現在の加入数は,約15万加入となっている。周波数はl50MHz帯と400MHz帯を使用しており,通話は自動方式である。さらに,一部の地域で800〜900MHz帯小ゾーン方式(セル方式と呼ばれている。)によるサービスが試行的に提供されている。
 英国は,英国電気通信公社(BT)が運営している。自動車電話の設置台数は4,900台(1979年)であl),使用周波数は150MHz帯,通話は手動方式である。現在,自動式サービスの提供,800〜900M地帯の使用,小ゾーン方式の導入等について検討が進められている。
 西独の自動車電話の加入数は,1980年末現在で約1万3,500加入であり,使用周波数は150MHz帯,通話は自動方式と手動方式の双方がある。
 フランスの自動車電話の加入数は,1980年末現在で約5千加入,使用周波数は150MHz帯,通話は自動方式となっている。MCAシステムは,欧米諸国においても陸上移動業務用周波数の有効利用を図るとともに,陸上移動通信の需要にこたえるため,検討が進められている。
 米国においては,MCA技術を応用した5チャンネル単位で最大20チャンネルのトランクド・システム(Trunked System)が800MHz帯を使用して各種移動通信サービスに導入されている。このシステムは,各事業者ごとに異なる方式でサービスが提供されており,利用者は医師のグループ,消防グループのように同じ業界でグルーブを作り,システムに参加している。
 スウェーデンでは,データとディジタル音声の統合サービス,陸上移動通信を公衆電話網に接続した全国サービス,各種専用移動通信を統合したサービスの加入区域,サービス種別による合理的料金体系を特徴とする全国統合移動通信網(SARKシステム)の建設が,1990年完成を目標として基礎検討されている。
 パーソナル無線については米国において900MHz帯を利用し,自動識別符号発射方式を採用し,公衆電話網に接続ができるものが検討されている。
 ポケットベル・サービスは,米国,英国,フランス,西独,スウェーデン,カナダ等で実施されている。これらのうち大部分の国では,全国主要地域をサービス・エリアとしており,すべての加入電話と自動方式で接続できるようになっている。米国の例をみると,1980年現在,約150万の加入者を有しており,ディスプレイを備えて連絡してほしい先の電話番号等の情報を
 英国は,英国電気通信公社(BT)が運営している。自動車電話の設置台数は4,900台(1979年)であl),使用周波数は150MHz帯,通話は手動方式である。現在,自動式サービスの提供,800〜900M地帯の使用,小ゾーン方式の導入等について検討が進められている。
 西独の自動車電話の加入数は,1980年末現在で約1万3,500加入であり,使用周波数は150MHz帯,通話は自動方式と手動方式の双方がある。
 フランスの自動車電話の加入数は,1980年末現在で約5千加入,使用周波数は150MHz帯,通話は自動方式となっている。MCAシステムは,欧米諸国においても陸上移動業務用周波数の有効利用を図るとともに,陸上移動通信の需要にこたえるため,検討が進められている。
 米国においては,MCA技術を応用した5チャンネル単位で最大20チャンネルのトランクド・システム(Trunked System)が800MHz帯を使用して各種移動通信サービスに導入されている。このシステムは,各事業者ごとに異なる方式でサービスが提供されており,利用者は医師のグループ,消防グループのように同じ業界でグルーブを作り,システムに参加している。
 スウェーデンでは,データとディジタル音声の統合サービス,陸上移動通信を公衆電話網に接続した全国サービス,各種専用移動通信を統合したサービスの加入区域,サービス種別による合理的料金体系を特徴とする全国統合移動通信網(SARKシステム)の建設が,1990年完成を目標として基礎検討されている。
 パーソナル無線については米国において900MHz帯を利用し,自動識別符号発射方式を採用し,公衆電話網に接続ができるものが検討されている。
 ポケットベル・サービスは,米国,英国,フランス,西独,スウェーデン,カナダ等で実施されている。これらのうち大部分の国では,全国主要地域をサービス・エリアとしており,すべての加入電話と自動方式で接続できるようになっている。米国の例をみると,1980年現在,約150万の加入者を有しており,ディスプレイを備えて連絡してほしい先の電話番号等の情報を表示したり,プリンタを付加してメッセージを打ち出す機能のポケットベルの開発が進められている。
 航空機電話は,米国において1969年から自家用小型航空機を対象として実用化されており,1980年現在,地上局52局,利用航空機数は約4千機に達している。
 また,定期旅客航空機を対象とした航空機公衆電話もその導入計画が推進されている。この計画は,国内の12の航空会社500機の大型ジェット旅客機を対象に,1機当たり4台前後の波内電話を取り付け,当面,米本土全域をサービス地域とし,1982年末からの実用化を目指している。
 船舶電話サービスについては,米国,英国,西独,スウェーデン等でVHF帯を使用したサービスが提供されている。
(3)今後の取組
 移動通信の分野においても,音声通信に加えて,ファクシミリ,データ通信等の非音声通信の需要が高まり,多様な情報を効率よく伝送できるディジタル通信の早期導入の傾向にある。また,自動車運送事業等の分野において多数の利用者が複数の周波数を共用して通信を行うマルチ・チャンネル・アクセスシステムのほか,ディジタル通信方式による時分割マルチ・チャンネル・アクセスシステムの実用化も期待されている。これらの新技術を利用して増大する需要にこたえるためには,指向性可変アンテナや受信ダイバシティ技術を開発して,1GHzを超える準マイクロ波帯を,移動業務に使用することが必要冫こなろう。
 また,移動通信は,業務用・個人用を問わず,モータリゼーション社会と情報化社会の進展につれて車載用の利用が拡大されてきたが,今後は,更に機器の小型・軽量化が進み,身近に携帯できる大衆的なハンディ・タイプのものの登場が予想されるので,これに必要な新技術の開発が望まれる。
 今後,移動通信の利用態様はますます多様化し,利用分野も広範にわたる傾向にあるが,周波数の効率的利用を図るための総合システム化,公衆通信メディアとの整合性の検討が必要となろう。

第1-2-20図 自動車電話サービス・システム概念図

第1-2-21図 MCAシステム概念図

 

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