昭和58年版 通信白書

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2 情報通信分野の先進国間の問題

 最近の情報通信関連技術の進展は著しいものがあり,取り分けコンピュータと電気通信とが結合したデータ通信分野や宇宙通信分野において飛躍的な発達を遂げつつある。このため,フランスやカナダ等の先進国においては国際間の情報流通問題を重要な政策課題として位置付け,情報主権の確保等の観点から様々な検討を進めている。
 フランスでは,1978年,大統領の諮問に対し「社会の情報化」と題する報告書(ノラ・マンク・レポート)が提出された。この報告書ではテレマティ一ク(電気通信と情報処理の融合)が社会全体に大きな影響を及ぼすこと,自国の情報流通の主体性を確保する必要があること,このため長期的ビジョンを策定する等の措置が必要であることが指摘されている。
 カナダでは,1979年,通信大臣の諮問に対し「電気通信とカナダ」と題する答申(クライン・レポート)が提出され,隣接する米国に対する独自性を確保するため,越境データ流通の規制を行うべきこと,カナダの主権を保持するため情報に関する新技術を開発しなければならないこと,等の提言がなされた。
 こうした各国の動きを背景に,経済協力開発機構(OECD)では,コンピュータにより処理・蓄積された情報の流れに関する問題を,また国連では,世界的な問題でもある直接放送衛星の利用に伴って発生する種々の問題等について討議がなされている。(1)経済協力開発機構(OECD)の動向
 OECDにおいては,60年代後半から,科学技術政策委員会(CSTP)を中心として,先進国における情報やコンピュータに関する問題について検討がなされてきた。
 世界的なコンピュータの利用の進展に伴い,1976年にこのCSTPの下部組織として,「情報・電子計算機・通信政策作業部会(ICCP作業部会)」が設置された(なお,1982年には,ICCP作業部会は,ICCP委員会に改組・拡充された)。
 ICCP作業部会では,情報経済分析,マイクロエレクトロニクスの雇用への影響,プライバシーの保護等について検討を進めてきたが,特にプライバシー保護については,OECD理事会は,1980年に「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」を採択した。その主な内容は,[1]プライバシー保護の名目で,個人データの自由な国際流通に対する不当な障害を設けないようにすること,[2]ガイドラインに掲げる諸原則(収集の制限,利用の制限,個人参加の原則等)を国内法の中で考慮すること,[3]ガイドラインの履行について協力すること,などである。
 なお,最近ICCP委員会では,国際間のデータ流通を情報,電子計算機,通信分野におけるサービス貿易の視点からも検討することが提案されており,特に1982年においては電気通信サービスの市場構造変化等の問題について検討がなされていることが注目される。
(2)国連宇宙空間平和利用委員会の動向
 直接放送衛星(DBS:Direct Broadcasting Satellite)とは,家庭までテレビ放送の電波を直接送ることを目的とした静止衛星であり,視聴者は衛星からの電波を小型パラボラアンテナで受けて視聴することができる。
 この衛星による直接テレビジョン国際放送は,受信国の経済,社会,文化等の面に大きな影響を及ぼすこととなるため,国連の宇宙空間平和利用委員会では,1972年の第27回国連総会で採択した「国際協定を締結する目的で,直接テレビジョン放送衛星の国による利用を律する原則を作成する必要を認め,そのため宇宙空間平和利用委員会に対し,,そのような原則を早急に作成するよう要請する」旨の決議にのっとり,衛星による直接テレビジョン国際放送の実施等に際し遵守すべき原則案について検討を行ってきた。
 この検討に際しては,主として西側諸国と東側諸国の間で衛星による直接テレビジョン国際放送の規制等をめぐって意見の対立があり,10余年にわたる審議にもかかわらず妥協点を見いだせず,結局,同委員会のコンセンサスが得られないまま1982年12月,第37回国連総会で,東側諸国・開発途上国寄りの表現で起草された「直接テレビジョン国際放送衛星の国にょる利用を律する原則案」を採択する旨の決議案が投票に付され,賛成多数で採択された。この原則の主な内容としては,[1]衛星による直接テレビジョン国際放送は,各国の主権を尊重して行うこと,[2]すべての国は衛星による直接テレビジョン国際放送を行う権利を平等に有するとともに,実施に伴う義務も負うこと,[3]衛星による直接テレビジョン国際放送を行う場合には,事前に受信国に通知し,受信国の要請により協議を行うことなどである。

 

 

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