昭和58年版 通信白書

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2 国際情報流通をめぐる問題

 日本が海外から正しく理解され,国際社会の一員として国力に応じた貢献を行っていくためには,日本と外国との情報流通を拡大し,均衡のあるものに是正する必要がある。
 特に,近年,外国と日本との間の相互理解や認識のギャップが貿易摩擦等の一因となっていると指摘されており,これらの問題の解決のためにも,我が国は,情報蓄積・発信機能を拡充・強化することが必要となっている。
(1)国際放送
 我が国の国際放送は,現在,NHKが「ラジオ日本」として短波で行っており,57年度では,世界の18地域及び全地域に向けて21言語で週当たり259時間実施されている。こうした国際放送は,我が国の政策,国情等について正確な情報を諸外国に提供し,我が国に対する正しい理解と認識を深めるための有力な手段となっている。
 また,我が国の国際放送は,在外邦人にとって我が国からの情報を得る手段として重要な役割を果たしているほか,日本語学習番組や日本語放送を通じて日本語の普及に役立っている。
 しかし,我が国の国際放送は次のような問題を抱えている。第1に,国内送信所は送信規模が小さく設備が老朽化しており,また,海外中継局は,ポルトガルのシネスの1箇所(1日1時間の借用)のみであり,送信体制が弱体であること,第2に,海外における受信状況は,電波の混信,減衰等により我が国から遠隔地域であるヨーロツパ,北米東部,中南米,中東,アフリカ,南西アジア等において受信不良となっており,また,近隣地域においても外国の送信出力が強いため,我が国の国際放送は,相対的に聴こえにくくなっていること,第3に,我が国の国際放送の規模をVOA(米国),英国放送協会(英国)と比べると,送信出力が1/16〜1/24,放送時間が1/3〜1/4,運営経費が1/5〜1/6と大幅に下回っており,さらに,ドイッチェ・ベレ放送協会(西独)と比べても送信出力が1/9,放送時間が1/2,運営経費が1/6となっている(第1-2-25表,第1-2-26図参照)。
 このような現状に対して国際放送の拡充強化,受信改善について各方面からその必要性が指摘され,具体的対策が要請されている。
 58年3月の「国際放送に関する調査研究会」報告は,国際放送の改善に関し,次のような提言を行っている。
[1] 国内送信所の整備・増力を実施し,アジ乙大洋州等の近隣地域向け放送の受信改善を図るとともに,あわせて海外中継局に対するバックアップ機能を維持する。
[2] 海外の数箇所に中継局を確保し,遠隔地域向け放送の受信改善を図る。
[3] 国内送信所の整備・増力と海外中継局の確保は,現在の受信改善の緊急性を考慮するのと同時並行して進めていくことが必要である。この提言を受けて,58年度には,アフリカのガボン,中南米のパナマに中継候補地を探るための調査団を派遣するなどしている。
(2)放送番組の交流
 ア.国際ニュース交換
 放送番組の中でも,ニュースは最も却時性を要することから,衛星中継による交流が中心となっている。現在,NHKと民放在京4社により衛星中継ニュースプールが結成されており,インテルサット衛星を経由して定時にアメリカ及びヨーロツパからテレビニュース素材が伝送されてきている。また,重大なニュースについては随時衛星による伝送が行われている。
 しかし,テレビニュースの交流についても,いべつかの問題点が指摘されている。第1に,受信が送信をはるかに上回っており,約6倍となっている。
 第2に,衛星による国際ニュースの交換システムが確立されているのは欧米との間のみであり,近隣のアジア諸国との間では,このようなニュース交換システムが確立されていない。
 このうち第2の点については,58年3月にアジア太平洋放送連合(ABU)加盟メンバの間で,世界コミーニケーション年を記念して,衛星によるテレビニュースの交換が試行された。今後,アジア各国間における本格的なニュース交換システムを確立することが必要である。このためには,技術者,専門家の養成が大きな課題とされており,教育研修施設の整備,専門家養成等に対する我が国の協力の充実が求められている。
 イ.放送番組の輸出入
 ニュース以外の番組の交流は,通常,フィルムやビデオテープの空輸によって行われている。我が国と外国とのこうした番組の輸出入をみると,放送時間数にして,輸出4,585時間(1980年)は輸入2,332時間(1980年10月〜1981年9月)に比べ約2倍となっている。
 輸出のうち,主として日系人のための日本語放送が1,236時間,アニメーションが2,500時間を占めており,これらを除外して考えると,輸出は輸入の1/3に逆転する(第1-2-27図参照)。
 また,地域別にみても,輸入番組の97%が北米,西ヨーロツパからのもので占められており,地域的にも不均衡が大きい(第1-2-28表参照)。番組輸出には,翻訳の手間と費用,著作権等が大きな障害となっており,こうした問題を解決して輸出を行うための機関の充実が望まれている。また,番組制作に当たって,あらかじめ輸出が容易となるような措置を講じること(出演契約,音楽使用権等)が今後の課題といえる。
 さらに,近隣アジア諸国との関係では,アジア各国の国民が相互の文化や伝統に対する理解と認識を深めるために,番組の共同制作を一層促進することが求められている。それとともに,アジア各国のすぐれた文化・思想を他の地域へ紹介するための番組の制作に,各国が,一致協力して取り組むことが重要である。58年においては,ABU加盟国間で日本とバングラディシュ等いくつかの組合せで,番組共同制作が進められている。
 しかしながら国によって番組制作能力には格差があり,開発途上国における番組制作能力の向上のための研修機関の整備等の国際協力が我が国に求められている。
(3)海外広報等
 放送のほか,国際的な情報交流は,様々な分野で行われている。例えば,政府の海外広報についてみると,我が国の広報予算,人員は米国,英国,西独等と比べて著しく少ないのが現状である(第1-2-29図参照)。教育も情報交流の重要な手段であるが,欧米の教科書をみると,日本の記述がごくわずかであったり,日本に関する誤解に基づくものがある。また,欧米でも教科書だけでなく教育資料を使うことが多くなっているが,日本に関しては教育資料もほとんどない状況である。
 ニュースの輸出入をみても,我が国の通信社へ入ってくる外国記事の総量が1日約71万語に対し,我が国から出ていくニュースは約18万語となっている。さらに不均衡が著しいのが翻訳,出版の分野であり,日本での翻訳出版は1978年では年間約2,300件に対し,日本語図書が海外で翻訳されるのは300件程度にすぎない。
 こうした状況を改善するために,我が国はこれまでも我が国の国情及び政策の紹介に努めてきたが,今後,様々な情報通信メディアを利用した海外広報の拡充,我が国に関する正確な教育資料の作成・提供の増進,日本からのニュース等の発信機能の拡充強化等を図り,我が国に関する正しい理解と認識を深める必要がある。
 また,企業が海外で行っている広告も,国際的な情報交流の一つといえる。日本企業の海外での莫大な広告が,日本製品を紹介するとともに,日本のイメージをも提供している。そのために,広告についても,日本に対する正確なイメージを提供するものであることが必要である。
(4)データベースの構築
 近年における電気通信とコンピュータとが結合したグロ-バルなネットワークの出現に伴い,コンピュータ利用の面で優越的地位にたつ国ヘコンピュータにより処理・蓄積された情報が集中していることが指摘されている。コンピュータにより処理・蓄積された情報,データベースは,学術研究,企業活動にとって欠くことのできないものとなっているが,大量の情報を収集,整理してコンピュータに入力し,さらに内容を常に更新していくためには多大な労力と費用が必要であり,今や,エネルギー,食糧と並ぶ重要な資源としての性格をもちつつある。
 我が国としても既存のデータベースの拡充強化,国際的利用価値の高いデータベースの構築及びそれらのデータベースの総合利用体制の充実により,情報資源の面での自立化を図り,国際的な情報発信能力を強化することが必要である。また,我が国のデータベースの海外における利用を促進し,我が国の学術研究,先端技術,経済環境等の情報を海外に紹介することは,国際協力,国際協調にも大きく寄与することとなるものと考えられる。
 さらに,我が国のアジア各国における情報センタの整備等に対する国際協力を推進するとともに,アジア各国の相互理解及びアジア各国の開発を促進するためには,アジア各国の科学技術情報,社会経済情報等に関し広く利用されるアジアデータベースの形成等に向けての努力が望まれている。

第1-2-25表 主要国の国際放送実施状況(1)

第1-2-25表 主要国の国際放送実施状況(2)

第1-2-26図 八俣送信所からの国際放送受信状況

第1-2-27図 輸出番組の内容 -日本語放送,外国語放送-(1980,輸出契約)

第1-2-28表 地域別放送番組輸入状況 -放送時間量比-

第1-2-29図 各国の海外広報予算と広報関係人員(本部のみ)

 

 

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