昭和58年版 通信白書

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第3節 宇宙通信システム

 1 宇宙通信の現状

(1)国際動向
 ア.インテルサット
 インテルサット(国際電気通信衛星機構)は,109か国が加盟(1983年3月現在)しており,1965年に業務を開始して以来,現在もその扱うトラヒック量は着実に増加している。現在のシステムは6/4GHz帯を使用するIV号系衛星(電話4,000チャンネル及びテレビジョン2チャンネル)及びIV号A系衛星(電話6,000チャンネル及びテレビジョン2チャンネル),そして新たに14/11GHz帯も使用するV号系衛星(電話12,000チャンネル及びテレピジョン2チャンネル)により構成されている。V号系衛星の改良型であるV号A系衛星(電話14,000チャンネル及びテレビジョン2チャンネル)も打ち上げられる予定である。サービスに関しては従来の電話及びテレビジョン伝送のほかに,高速データ回線を小型地球局を用いて提供するビジネスサービスの検討も開始された。
 今後,大西洋において大幅に増大するトラヒックに対処するため,1986年には,<6>号系衛星(電話33,000チャンネル及びテレビジョン4チャンネル)が打ち上げられる予定となっている。VI号系衛星は,6/4GHz帯及び14/11GHz帯を使用し,6/4GHz帯では6重の周波数再利用を行うほか新たにSS/TDMA(衛星内切換えを伴う時分割多元接続)方式を導入する予定である。
 イ.インマルサット
 1976年,米国は,三大洋上にマリサット衛星を打ち上げ,以来各大洋上を航行する船舶と陸との間において電話,テレックス等の通信サービスを提供してきたが,このサービスは1982年2月1日をもって,インマルサット(国際海事衛星機構)に引き継がれた。トラヒック量は大西洋において最も多く,容量の小さなマリサット衛星は大西洋海域においてはESA(欧州宇宙機関)のマレックス衛星に,また,インド洋海域においてはインテルサットV号系衛星に搭載されたMCS(海事通信サプシステム)に替えられた。他のマリサット衛星もマレックス衛星又はMCSに替えられるとともに,軌道上予備機も整備される予定である。
 また,増大するトラヒックに対処するため,1988年ごろには第二世代のインマルサット衛星が必要となるので,現在,衛星システムの検討が進められている。
 ウ.米 国
 米国では,1974年以来,6/4GHz帯を使用し電話やテレビジョン伝送等を行うためのウェスター衛星,サトコム衛星,コムスター衛星,そして14/12GHz帯を使用しユーザーが直接,衛星にアクセスして高速ディジタル通信を行うためのSBS衛星の各シリーズが打ち上げられてきた。
 また,1983〜84年ごろにはGスター衛星,ギャラクシー衛星,スペースネット衛星等が打ち上げられ,従来の電話やテレビジョンに加えてSBSと同様のサービスも提供される予定である。
 衛星放送に関しては,1974年に打ち上げられた応用技術衛星ATS-6により2.6GHz帯及び800MHz帯を使用し世界で初めての衛星放送実験が行われた。1982年には12GHz帯を使用する直接衛星放送の計画について,8社の衛星放送計画が認可された。
 エ.ソ  連
 ソ連では,1/0.8GHz帯,4.1/3.4GHz帯又は6/4GHz帯を使用する周回軌道のモルニア衛星及び6/4GHz帯を使用するラドガ衛星,ゴリゾント衛星による通信サービスが行われており,700MHz帯を使用するエクラン衛星により共同受信のための放送が行われている。
 また,ソ連,東欧等13か国(1982年11月現在)の加盟する国際通信のための組織としてインタースプートニクがあるが,これにはソ連のゴリゾント衛星が使用されており,電話やテレビジョン等の通信サービスが行われている。
 さらに,捜索救難通信のためのCOSPAS/SARSAT計画の一環として,COSPAS衛星2機が打ち上げられた。
 オ.カナダ
 カナダは,世界に先駆け1972年に国内衛星通信システムの運用を開始した。現在,6/4GHz帯を使用するアニクA衛星3機及び6/4GHz帯と14/12GHz帯を使用するアニクB衛星の計4機によりサービスが提供されている。
 1982年からアニクA,B衛星の替わりとして,6/4GHz帯を使用するアニクDシリーズの初号機及び南部の通信需要に応じるため14/12GHz帯を使用するアニクCシリーズを打ち上げている。
 また,衛星放送に関してカナダは米国と共同し,1976年通信技術衛星CTSを打ち上げ,12GHz帯では世界で初めての衛星放送実験を行った。
 カ.インドネシア
 インドネシアでは,1976年から6/4GHz帯を使用するパラパA衛星2機を用いた通信衛星システムを運用しており,その中継器の一部をフィリピン,マレイシ乙タイに賃貸している。また1983年6月には6/4GHz帯を使用する次世代のパラパBを打ち上げた。
 キ.フランス
 フランスは,1984年にテレコム1衛星を打ち上げる計画である。この衛星により14/11GHz帯を使用する国内又は西ヨーロツパ諸国に対する通信サービス,6/4GHz帯を使用する海外領地に対する通信サービス及び8/7GHz帯を使用する政府用通信を行う。
 また,1985年には,12GHz帯による個別受信を目的とした放送衛星TDF-1の打上げを計画している。
 ク.英 国
 英国は,1986年ごろにUNISAT衛星を打ち上げ,12GHz帯を使用する放送及び14/12GHz帯を使用する通信を行う計画である。
 ケ.その他の国々
 インドは,1982年からインサット1を打ち上げている。
 また,オーストラリ乙中国,コロンビア,ブラジル等の国々においても通信衛星を打ち上げる計画が進められている。そして,インテルサット衛星の中継器の一部を国内通信用に賃借りし国内通信の改善に充てる国も増加している。
 衛星放送に関しては,12GHz帯を使用し個別受信を行う計画が西独,イタリア等において,2.6GHz帯を使用し共同受信を行う計画がインド及びアラブ衛星通信機構(アラブサット機構)において進められている。
 コ.地域通信
 ヨーロッパでは,欧州電気通信衛星機構(ユーテルサット)が設立されており,1983年に14/11GHz帯を使用する通信衛星ECS-1を打ち上げた。また,アラブ諸国においてはアラブサット機構が設立されており,6/4GHz帯を使用する通信及び2.6GHz帯を使用する放送を行うアラブサット衛星の打上げを計画している。
 サ.国際電気通信連合
 国際電気通信連合(ITU)は,1963年以来,宇宙通信に関連する規定の整備を行ってきている。
 1979年に開催された世界無線通信主管庁会議(WARC-79)においては,宇宙通信に関する技術基準,周波数分配表等が従来のものから大幅に改正された。また,放送衛星の軌道位置及び周波数の割当計画は,アジア,アフリカ及びヨーロッパ地域に関して1977年の世界無線通信主管庁会議(WARC-BS)において作成されており,残る南北アメリカ地域に関しては1983年夏に開催予定の地域無線通信主管庁会議(RARC-83)において作成されることとなっている。主要な通信・放送衛星の静止軌道上配置は,第2-7-1図のとおりである。
(2)国内動向
 ア.宇宙開発体制
 我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が行う総合的な企画調整に基づき,郵政省,科学技術庁等関係各省庁が推進しており,宇宙開発事業団及び文部省宇宙科学研究所が国立試験研究機関及び電電公社,NHK等の関係機関の協力を得て開発を実施している。
 宇宙開発委員会は,我が国の宇宙開発がこれまでの技術の蓄積の結果,科学研究及び実利用の両分野にわたって多様かつ本格的な活動を展開し得る基盤が整ってきたことから,53年3月,今後15年程度の間に遂行する宇宙開発の基本的枠組と方向を示した「宇宙開発政策大綱」を策定した。
 現在における具体的な宇宙開発活動は,宇宙開発委員会が,宇宙開発に関する内外の情勢,宇宙開発政策大綱の趣旨,国内の研究及び開発の進ちょく状況,宇宙の利用に関する長期的な見通し等を踏まえて,毎年度に策定する「宇宙開発計画」に従って進められている。
 イ.科学分野の開発
 宇宙科学研究所は,45年2月に我が国初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以来,各種の科学衛星計画を進めている。同研究所では,53年9月に打ち上げた第6号科学衛星(EXOS-B「じきけん」),54年2月に打ち上げた第4号科学衛星(CORSA-b「はくちょう」),56年2月に打ち上げた第7号科学衛星(ASTRO-A「ひのとり」)及び58年2月に打ち上げた第8号科学衛星(ASTRO-B「てんま」)の運用を行っており,電子密度,粒子線,プラズマ波,X線等各種宇宙観測に多大の成果を上げてぃる。
 ウ.実利用分野の開発
 宇宙開発事業団は,実利用の分野における人工衛星開発,ロケット開発及び打上げを行っており,各種の実用衛星システムの実現に不可欠な基礎技術を確立するため,N-Iロケットにより50年9月に技術試験衛星I型(ETS-I「きく」)を打ち上げたのをはじめ,電離層観測衛星(ISS「うめ」及びISS-b「うめ2号」),我が国初の静止衛星となった技術試験衛星II型(ETS-II「きく2号」)及び大電力を必要とする人工衛星等に共通な技術の開発能力を高めるなどのための技術試験衛星III型(ETS-III「きく4号」)を打ち上げた。
 また,本格的実用衛星の開発を目指し,52年から53年にかけて米国航空宇宙局(NASA)の協力を得て,静止気象衛星(GMS「ひまわり」),実験用中容量静止通信衛星(CS「さくら」)及び実験用中型放送衛星(BS「ゆり」)をデルタ2914型ロケットにより打ち上げ,それぞれ所定の静止軌道に投入することに成功した。
 これらの衛星は,宇宙開発事業団,気象庁,郵政省電波研究所,電電公社及びNHKにより運用され,人工衛星の開発,打上げ,利用に関する基礎技術の習得等においてほぼ所期の成果を上げている。
 さらに,我が国の打上げ能力の向上を図るため,N-1ロケットを改良大型化したN-IIロケットを開発し,この初号機により56年2月に技術試験衛星IV型(ETS-IV「きく3号ヨ),56年8月には同じくN-IIロケット2号機により静止気象衛星2号(GMS-2「ひまわり2号」),58年2月にはN-IIロケット3号機により通信衛星2号-a(CS-2a「さくら2号-a」),さらに8月にはN-IIロケット4号機により通信衛星2号-b(CS-2b「さくら2号-b」)が打ち上げられた。
 エ.今後の動き
 今後の宇宙開発は,科学研究分野においては,第9号から第11号までの科学衛星の開発を行うこと,実利用の分野においては,放送衛星2号(BS-2a,2b),静止気象衛星3号(GMS-3),海洋観測衛星1号(MOS-1),技術試験衛星<5>型(ETS-V)及び通信衛星3号(CS-3a,3b)の開発を進めるとともに,放送衛星3号(BS-3)の開発研究を行っている。
 「おおすみ」の打上げ以来,十余年を経過した我が国の宇宙開発は,科学研究及び実利用の両分野にわたって着実な進展を遂げ,今や人工衛星打上げのための基礎技術の確立の段階から多様な利用目的に基礎を置いた宇宙開発を展開する段階に入りつつある(第2-7-2表及び第2-7-3表参照)。
 特に,通信・放送の分野では,CS-2・BS-2に続く第二世代の実用通信・放送衛星の技術的検討及び利用方法の検討が進められるなど通信・放送衛星の実用化施策が積極的に進められている。

第2-7-1図 主要な通信・放送衛星の静止軌道上配置(計画中の衛星を含む)

第2-7-2表 実利用分野の人工衛星(1)

第2-7-2表 実利用分野の人工衛星(2)

第2-7-2表 実利用分野の人工衛星(3)

第2-7-3表 科学研究分野の人工衛星(1)

第2-7-3表 科学研究分野の人工衛星(2)

第2-7-3表 科学研究分野の人工衛星(3)

 

 

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