昭和58年版 通信白書

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14 高精度測位技術の研究開発

 超長基線電波干渉計(VLBI)システムは,電波星あるいは人工衛星からの微弱な電波を遠く離れた2地点で受信し,磁気テープ上に時刻とともに精密記録する。この二つの受信テープの信号を相関法により比較すると,電波の2地点への到達時間差を高精度に求めることができる。VLBIシステムは当初電波天文の研究に用いていたが,近年2地点間の時刻同期や測地的応用が脚光を浴びており,これを基にした地殻変動測定,長期的地震予知をもたらすプレート運動の検証のほか,衛星の軌道決定,極運動,地球回転,位相ゆらぎ検出による電波伝搬等多方面の応用が期待されている。
 電波研究所では従来からVLBIシステム開発に必要な,高安定原子周波数標準器や超精密時刻同期,天体電波源や人工衛星追尾,高速VLBIデータ処理等の技術を持ち,これを利用して衛星軌道及び電波の位相ゆらぎ等の測定のためのシステム開発を行ってきた。我が国で最初のVLBIシステム(K-1)による国内実験を,52年電波研究所鹿島支所と電電公社横須賀電気通信研究所で行い,人工衛星の雑音電波の到達時間差決定誤差±5nsを得た。次いで,電波の位相ゆらぎ等の測定のため,帯域幅合成による受信帯域の拡張,マイクロ回線でデータ伝送を行う実時間相関処理等,改良したVLBIシステム(K-2)を開発し,電波研究所鹿島支所-同平磯支所間の実験で到達時間差決定誤差±0.2ns以下を得た。
 国内では測地学審議会の建議により,54年度から始まった第4次地震予知計画(5か年)における「長期的予知のための技術の開発と研究」の中で,宇宙技術による測地測量の基礎技術の研究進展を図ることが指摘された。
 また,国際的には,宇宙開発委員会と米国航空宇宙局(NASA)との合意(54年7月)により,日本(電波研究所)と米国(NASA)との間でVLBI実験により地殻変動等を調べる「地殼プレート運動の研究」が協カテーマにとりあげられ,58年度末から日米実験が開始されることとなっており,非エネルギー分野の日米科学技術協力協定(55年5月1日締結)に基づく協カテーマともなっている。
 電波研究所では内外の要請を受け,米国システムと互換性のある超高精度電波干渉計システム(K-3)開発5か年計画(54-58年度)を策定し,施設の開発・研究を開始した。そして57年度は前年度に引き続きバックエンド部の開発を継続するとともに,VLBI用水素メーザ周波数標準器,水蒸気ラジオメータ,データ処理・解析ソフトウェアの開発を行い,58年度末に予定されている初の日米実験に向けて準備を進めている。この計画が軌道にのれば,日米間の距離が数cm以下の誤差で測定されるとともに,太平洋プレートの動きが確かめられ,ひいては長期的地震予知への利用,さらに地球回転,国際時刻同期比較等多くの分野への寄与が期待されている。

 

 

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