昭和59年版 通信白書

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3 利用の高度化・多様化の進むデータ通信

(1)データ通信の概要

 データ通信は,電気通信回線にコンピュータや端末機器を接続してデータの伝送と処理を一体的に行うものである。我が国においては,39年に国鉄の座席予約システム「みどりの窓口」や日本航空の座席予約システムに導入されて以来,システム数は第1-2-27図のとおり飛躍的に増加し,58年度末で8,468システムに達している。とりわけ自営システムの発展は著しく,58年度末で全体のシステム数の99考を占めている。
 データ通信の発展に伴って,データ通信に適した高速・高品質の新しいネットワーク・サービスの必要性が高まっている。これに応じて,交換機能とディジタル通信機能を高度に利用したディジタル・データ交換網(DDX)サービスとして,54年12月から回線交換サービスが,また,55年7月からパケット交換サービスが提供されている。
 また,種々のデータ通信システムの効率的な結合を可能とするVAN(付加価値通信)サービスについて,57年10月から,いわゆる中小企業VANサービスが提供可能となった。

(2)データ通信の現状と動向

 ア.データ通信システム
 データ通信は39年の誕生以来,システム数は高い伸び率で増加し,58年度末には8,468システムとなっている。
 データ通信の利用状況をみると,製造業・商事会社等の生産・販売・在庫管理及び金融機関等の預金・為替業務等を中心として利用され,企業経営の効率化に大きな役割を果たしているほか,公害監視,交通制御,救急医療等の公共的分野においても利用され,国民福祉の向上に資している。また,現金自動支払(CD)システムの普及や近年における音声照会通知システム(ANSER)等のサービスの開始等,データ通信は国民生活に身近なものとなっている。
 第1-2-28図は,国内自営システムの業種別設置状況について,53年度末と58年度末とを比較したものである。58年度末では製造・建設業が3,077システム(構成比36.7%)で最も多く,以下商業が2,321システム(同27.7%),金融業が580システム(同6・9汚)であり,これらの4業種の合計で全システムの71%を占めている。全システム数に占める構成比の推移をみると,データ通信の導入が比較的早期に普及した金融業のウェイトが次第に低下している反面,商業のウェイトが逐年増加している。
 また,国内自営システムの対象業務別設置状況(第1-2-29図参照)では,製造業・商事会社等の事務管理を対象とするものが53年度末で全体の62%であったが,逐年増加し,58年度末では68%となっている。公害監視,交通制御等の官公庁関係の業務を対象とするものは,58年度末で全体の7%であり,53年度末と比較して構成比では相対的に低下しているが,システム数では394システムから589システムヘと着実に増加している。
 近年,通信技術等の進展を背景に,データ通信システムのネットワーク化の傾向が顕著である。従来,データ通信は企業内システムとして利用されてきたが,最近では,企業間を結ぶデータ通信システムのネットワーク化が進んでいる。このネットワーク化は,例えば
[1]製造業・小売業・運送業等間を結び生産・販売・受発注等の管理を行う関連企業間のネットワーク化
[2]金融機関,製造業,運送業等の異業種間のネッワトーク化
[3]海外のデータ通信システムとの接続というような国際的なネットワーク化
など,様々な局面で,その進展がみられている。
 イ.情報通信事業
 データ通信サービスを顧客の需要に応じて提供する情報通信事業は,電電公社,国際電電及び民間企業により営まれている。
 郵政省が行った「情報通信業実態調査」によれば,58年12月現在,情報通信事業を営んでいるとして同調査に回答を寄せた民間企業は171社となっている。1社当たりの平均資本金は10億3千万円,従業員数181人,年間売上高は23億4千万円となっている。(従業員数と年間売上高は,情報処理・情報提供部門のものである。)最近5年間における売上高別企業比率をみたものが,第1-2-30図であるが,特に56年以降売上高の大きな企業の比率が高まっていることから,需要規模が急速に拡大していることがうかがえる。
 第1-2-31表は,民間情報通信事業者が事業経営上どのような問題に直面しているかについて集計した結果である。「熟練技術者の不足」を問題点として挙げる企業が74%もあり,情報通信に関する需要規模が急速に増大しつつあることを反映しているものと考えられる。しかし「新規の顧客獲得が困難」並びに「過当競争によるダンピング傾向」等を挙げる企業も多く,この業界が厳しい企業競争状況に一あることがうかがえる。このため,35%の企業が,公衆電気通信事業者が提供するデータ通信回線について「回線料の負担が過大」であるとしている。
 ウ.VANサービス
 いわゆるVANサービスは,異機種コンピュータ間,異システム間の通信を可能とすることにより,企業間データ通信システムの効率的な結合を可能とするサービスである。データ通信の利用形態の多様化の中で,VANサービスに対する需要の急速な拡大に伴い,民間企業が自由にVANサービスを提供したいという要望が高まっている。このため,57年10月に臨時暫定措置として,主として中小企業を対象とする,民間企業によるVAN(中小企業VAN)サービスが制度化され,郵政大臣への届出により可能となった。59年9月末現在,50社64システムが届出を行っている。
 この中小企業VANは,高度化・多様化する電気通信ニーズにこたえ得る体制が求められている現在において,今後の民間電気通信事業の先駆となるものである。産業界においても,VANサービスを新たなビジネスチャンスと考え,本格的なVANサービスの提供に向けて,この事業分野にどのようなかたちで参入するか検討が進められている。例えば,先の「情報通信業実態調査」によれば,VANサービスについて「関心あり」とする企業は145社(95%)にのぼり(第1-2-32表参照),また,41社が「具体的な事業化準備」あるいは「提供の計画」を進めている(第1-2-33表参照)。

(3)データ通信の課題

 データ通信利用の高度化・多様化に伴い,データ通信が社会経済活動及び国民生活に果たす役割は極めて大きなものとなっている。また,今後においても,電気通信事業分野に競争原理が導入されることにより,電気通信に対する社会及び国民の多様なニーズにこたえて,民間事業者の創意と工夫により多彩で多様な電気通信サービスが提供されることが期待されているところであり,この中でデータ通信も一層飛躍的な発展が予想される。しかし,データ通信に対する社会及び国民の期待にこたえ,データ通信を発展させるためには,解決すべきいくつかの課題がある。
 第1に,ネットワーク化技術等の開発・標準化がある。通信技術等の進展,利用形態の多様化に伴い異機種コンピュータ間,異システム間の通信に対するニーズが高まっている。そのため,多種多様なネットワークが相互に利用可能となるよう網間接続技術の開発や技術の標準化が不可欠な要件となっている。
 第2に,データ通信システムの安全性・信頼性の確保がある。近年,データ通信システムは社会の幅広い分野で導入されており,システムの故障や人為的妨害,自然災害等により,データ通信システムが機能停止に陥ると,社会経済活動全般に大きな混乱をもたらすことが予想される。このような社会のぜい弱性に対処するため,電気通信システムの信頼性向上や各種安全対策を検討する必要がある。
 第3に,プライバシー保護がある。データ通信の普及・発展あるいは情報蓄積量の増大及び情報流通の拡大に伴い,プライバシーの侵害等のおそれも一段と高まっており,プライバシーやデータ保護に関する対策の早急な確立が必要となってきている。
 第4に,データベースシステムの開発がある。データベースシステムが構築され,オンラインで提供されるためには,情報を収集・整理・統合しデータベースを作成することと,そのデータベースを提供するためのデータ通信システムの構築が必要である。

 

第1-2-27図 国内データ通信システム数の推移

第1-2-28図 国内自営システムの業種別設置状況

第1-2-29図 国内自営システムの対象業務別設置状況

第1-2-30図 民間情報通信事業者の売上高別企業比率の推移

第1-2-31表 民間情報通信事業者として直面している問題点(複数回答)

第1-2-32表 民間情報通信事業者におけるVANサービスへの関心度合

第1-2-33表 民間情報通信事業者におけるVANサービスの事業化意向

 

 

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