昭和60年版 通信白書

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2 基盤技術研究促進センターの設立

(1)電気通信の発展と技術開発

 (電気通信の発展を支える研究開発)
 電気通信は優れて技術先導性が高く,電気通信の発展は技術の進歩と密接不可分の関係にある。例えば,同軸ケーブルの導入は,伝送路の大容量化とともに漏話の減少をもたらし,通話サービスの品質を飛躍的に高め,また,衛星通信技術は,それまでになかった国際テレビジョン伝送サービスの提供を実現し,利用者の利便向上をもたらした。
 このように電気通信は,これまでも時代の要請に対して,積極的な技術の開発・導入をもってこたえてきたところであるが,実用に供される新技術の開発は,一朝一夕に成し遂げられるものではなく,そのほとんどは基礎的研究の積重ねによるものである。上記の例においても,衛星通信技術は,新材料,新素子の開発といった基礎的研究の成果をその源泉とするものである。
 今後,競争体制の下においては,「サービスメニューを豊富にする」,「コストダウンを図る」などの理由から,これまで以上に活発な技術開発を展開する必要がある。しかしながら、我が国では,これらを支える基礎的研究に対する取組みは必ずしも十分とはいい難い。今後,長期的,総合的視点に立ってその推進を図る必要がある。

(2)基盤技術研究円滑化法の概要

 基盤技術に関する試験研究の推進に当たっては,国自らが従来にもまして積極的に取り組むとともに,民間における基盤技術に関する試験研究を促進する環境を整備する必要がある。こうした見地から,基盤技術研究円滑化法(以下「円滑化法」という。)が,60年6月に施行された。
 円滑化法は,民間における基盤技術(鉱業,工業,電気通信業及び放送業(有線放送業を含む。)の技術その他電気通信に係る電波の利用の技術のうち通商産業省又は郵政省の所掌に係るものであって,国民経済及び国民生活の基盤の強化に相当程度寄与するもの)に関する試験研究を円滑化し,民間の基盤技術の向上を図るための措置を講ずることを目的としており,国有試験研究施設の廉価使用,国際共同研究に係る国有特許権等の取扱いの弾力化及び基盤技術研究促進センターの設立を骨子としている。
 (国有試験研究施設の廉価使用)
 基盤技術に関する試験研究に必要な施設の中には,高価なわりに使用頻度が低いので,民間企業が単独で所有することが困難なものがある。このため,国立試験研究機関の保有する試験研究施設に対する民間の利用ニーズが高まる傾向にある。
 国有試験研究施設については,その用途,目的を妨げない限度において,その使用を民間企業に許可することができるが,その場合財政法によって適正な対価(時価)を徴することとされている。
 こうしたことから円滑化法は,財政法の特例として,民間における基盤技術の向上のため特に必要があると認めたときは,国有の試験研究施設の廉価使用を可能とし,民間において行われる基盤技術に関する試験研究を促進することとしている。
 なお,電気通信業等の技術に係る試験研究に関する国有試験研究施設としては電波研究所の試験研究施設がある。
 (国際共同研究に係る国有特許権等の取扱いの弾力化)
 国の行う国際研究協力により生ずる特許権等について,欧米諸国間では,協力相手国等に対し相互に実施権を無償又は低廉な対価で許諾しあうのが一般的であるが,我が国においては無償又は低廉な対価で許諾することが認められておらず,国際研究協力に参加するうえで制約要因となっている。
 そのため円滑化法は,国が行う基盤技術に関する国際研究協力の結果生じた特許権及び実用新案権について相互に無償又は低廉な価格で許諾しあうことを可能とする規定を設け,国際研究協力を推進し,その成果の民間への普及を図ることとしている。
 (政府の責務)
 このほか,円滑化法は,政府に対して,民間の基盤技術の向上を図るために必要な措置を講ずるよう努めねばならないと定めている。
 具体的な措置としては,国有の試験研究施設に関する情報を広く一般に提供することなどが考えられる。

(3)基盤技術研究促進センターの概要

 円滑化法は,民間において行われる基盤技術に関する試験研究の促進機関として,基盤技術研究促進センターの設立を規定している。基盤技術研究促進センターは,60年10月1日に設立され,民間活力を最大限活用して試験研究を促進するという趣旨から,政府,日本開発銀行に加えて民間からの出資を図っている。
 事業の概要は以下のとおりである。
 ア.出融資事業
 融資事業は,基盤技術に係る試験研究であって主として応用研究段階から実施するものを遂行するために必要な資金を融資するものである。融資条件は,条件付無利子であり,研究開発に成功した場合は一定の利子を払う。
 出資事業は,2以上の企業等が研究開発会社を設立して共同で行う基盤技術に係る試験研究に対して出資するものである。出資の対象となるプロジェクトは,基礎研究又は応用研究段階から実施するもの及び技術開発要素に富む基盤的・先導的なプロジェクトであって,公共性を有し,収益を発生するまでの期間が長いもの(テレトピア推進法人,ニューメディアコミュニティ推進法人を含む。)としている。
 なお,60年度においては,産業投資特別会計から出資事業20億円,融資事業20億円の事業費を予定している。
 イ.共同研究のあっせん
 民間における試験研究を推進していく上で,国立試験研究所と民間企業等との共同研究を円滑に進めていく役割を果たす機能を整備していくことが必要とされている。このため,政府以外の者に対し,基盤技術に関する試験研究を国の試験研究機関と共同することについてのあっせんを行う。
 ウ.民間からの委託による試験研究民間における試験研究を推進していく上で,産学官の研究ポテンシャルを結集することが必要となっている。このため,政府以外の者の委託を受けて,基盤技術に関する試験研究を行う。
 エ.外国人研究者の招へい
 我が国の想像的技術開発の向上を図るとともに,経済大国としての国際的債務を果たすため,創設された公益信託制度を利用した「国際研究協力ジャパントラスト事業」を活用し,海外から基盤技術に関する研究者を招へいする。
 オ.基盤技術情報の収集,整理,提供
 基盤技術の試験研究を推進する上で,試験,測定等によって得られた数値データ等のファクト情報が必要である。このため,郵政省及び通商産業省工業技術院が保有する試験研究に関する諸数値データ等基盤技術に関する情報の収集,整理,提供を行う。
 カ.調査試験研究の推進に当たっては,広く各分野の技術開発動向等を把握する必要がある。このため,民間における基盤技術に関する試験研究の促進に資する調査を行う。

 

 

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