昭和60年版 通信白書

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4 多様化する放送メディア

 技術革新の進展と放送ニーズの高度化・多様化に伴い,57年にテレビジョン音声多重放送が実用化され,また,テレビジョン文字多重放送についても,60年中に新たな方式により本放送が開始されることとなっている。さらに,新たなサービスとして,高精細度テレビジョン放送,PCM音声放送,FM多重放送,静止画放送,ファクシミリ放送等があり,現在,これらサービスの実用化に向けて開発が進められている。
 他方,有線テレビジョン放送は,多種多様なサービスを目的とした「都市型CATV」が構築されつつある中で,地域社会のみならず広く国民生活に密着したメディアとして発展しつつある。

(1)衛星放送

 (難視聴解消と衛星放送)
 テレビジョン放送の難視聴解消を目的に,59年5月からBS-2aを使用した1チャンネルの衛星試験放送がNHKにより実施され,日本全土でのテレビジョン放送の同時受信が可能となった。現在,衛星放送は総合テレビジョン放送番組の9割程度の番組を全国に同時放送しているほか,一部衛星独自の番組を放送している。
 (新たな衛星放送サービスの実現に向けて)現在,開発が進められているBS-3は,BS-2に比べ,チャンネル容量,設計寿命等の面で向上が図られている。BS-3では,3チャンネルの放送を予定しており,NHKのほかに民間の利用も計画されている。59年12月には,民間企業約200社の出資により,民放テレビ会社として日本衛星放送株式会社が設立されたところである。衛星放送は,臨場感と迫力に富む高精細度テレビジョン放送,雑音,ひずみが少なく,ダイナミックレンジの広いPCM(パルス符号変調)音声放送,写真等の静止画像を送れる静止画放送等の高品質で多彩なサービスの提供可能性を有しているメディアであり,今後の発展が期待される。

(2)テレビジョン多重放送

 ア.テレビジョン音声多重放送
 (拡充されるテレビジョン音声多重放送)
 テレビジョン音声多重放送は,現在のテレビジョン放送の音声信号のほかに別の音声信号を重畳して放送するものであり,57年にサービスが開始されて以来,実施局数は着実に増加しており,60年3月末現在,NHK2,459局及び民間放送3,928局において実施されている。現在,テレビジョン番組の主番組を補完するものとして,ステレオ放送,二か国語放送等が提供されている。
 イ.テレビジョン文字多重放送
 (実用化試験放送の進展)
 テレビジョン文字多重放送は、利用者がテレビジョン受像機にアダプターを付加することなどにより自由にいつでも文字・図形情報の受信を可能とするものである。58年10月からNHKがパターン方式により東京と大阪で実用化試験局により試験放送を実施している。試験放送の内容は,主として聴力障害者を対象とした番組構成であり,連続テレビ小説の字幕放送,ニュース,天気予報等8項目にわたって,総合テレビジョン放送に重畳して放送されている。
 59年度後半における週平均の延べ放送時間は759時間であり,前年度と比べ42時間増加している。
 (新たな利用に向けて)
 テレビジョン文字多重放送の利用分野としては,このような聴力障害者を対象とした番組の放送だけでなく,これまでの放送サービスになかった随時性、記録性という特質を生かし,株式市況,スポーツ情報,買物情報等各種案内への利用も考えられている。
 テレビジョン文字多重放送の伝送方式の一つである符号化伝送方式は,現在使用されているパターン方式に比べ,伝送する情報量が大幅に増加し,多彩な番組内容を可能とするものである。このため,郵政省では,60年10月,符号化伝送方式によるテレビジョン文字多重放送の実用化に向けて,符号化伝送方式の技術基準を定めた。
 これにより,早ければ60年内にも新たな方式によるテレビジョン文字多重放送が実用化される予定である。

(3)有線テレビジョン放送(大規模化の進む有線テレビジョン放送)

 有線テレビジョン放送は,従来,テレビジョン放送の辺地難視聴及び都市部における受信障害の解消を目的とする小規模な施設が大部分であったが,最近では,自主放送を実施する施設が増加しているほか,大規模・多チャンネル・多目的のいわゆる「都市型CATV」施設設置の動きがみられるなど,新たな展開をみせている。
 59年度末現在の有線テレビジョン放.送施設数は,対前年度末比2,059施設増の3万8,221施設となり,また,受信契約者数は33万7,764契約増の426万6,030契約となっている。第2-1-11図は,有線テレビジョン放送の受信契約者数について,施設の規模別にその推移をみたものであるが,ここ1〜2年の間に許可施設(引込端子数501以上)の受信契約者数が,業務開始届出施設(同51〜500),小規模施設(同50以下)のそれを上回る伸びを示している。
 また,許可施設の大部分は、テレビジョン放送の難視聴解消及び受信障害の解消を目的にテレビジョン放送の同時再送信のみを行うものであったが,近年,これに併せて,自主放送を行うものも徐々に増加しつつある。59年度末現在,許可施設のうち自主放送を行っているものは80施設(業務未開始のものを含む。)であるが,このうち75施設は同時再送信業務と併せて自主放送を行っているものである。
 さらに,引込端子数が1万を超える許可施設は,前年度末に比べ7施設増加して20施設となっている。これらの施設の中には,いわゆる「都市型CATV」と呼ばれるものが8施設含まれており,設置完了時の引込端子数が約4万7千という大規模なものも出現している。「都市型CATV」は,いずれも,主目的を多チャンネルによる自主放送としているが,将来的には,ホームショッピング,ホームセキュリティ等の双方向機能を利用した様々な電気通信サービスの提供も予定されている。
 このように,施設の大規模化及び多目的化が進展する中で,有線テレビジョン放送は,地域社会のみならず広く国民生活に密着した通信メディアとして,今後ますますの発展・普及が期待されている。
 (有線テレビジョン放送の高度利用に向けて)
 今後進展する高度情報社会において,地域に密着した通信メディアとして発展が期待される有線テレビジョン放送の高度利用を図るため,郵政省は,60年3月から筑波研究学園都市において「高度総合情報通信システム」の運用試験を実施している。このシステムは,双方向機能を備えた有線テレビジョン放送施設を使用して,自主放送サービスをはじめ有料テレビ,FM放送サービス,視聴者応答サービス、セキュリティサービス等の各種実験放送の実施と実験成果の公開を目的とするものである。
 (有線テレビジョン放送の普及促進のために)
 有線テレビジョン放送は,その施設設置及び業務運営を通じて我が国の内需の拡大,民間活力の導入にも大きく寄与するものであるが,今後,有線テレビジョン放送が,地域に密着した情報通信メディアとして本格的に普及・発展していくためには,次のような課題がある(第2-1-12図参照)。
[1] 有線テレビジョン放送施設の建設に際しては,膨大な初期投資が必要であるため,事業者の資金調達の一層の円滑化を図っていくことが重要である。現在,財政投融資において,日本開発銀行及び北海道東北開発公庫を通じての低利融資制度が設けられており,今後,この制度の活用が期待される。また,従来,有線テレビジョン放送施設については,財団抵当権の設定が認められていなかったが,60年6月に工場抵当法の一部が改正され,有線テレビジョン放送施設に対する工場財団抵当権の設定が認められることとなった。
[2] 有線テレビジョン放送の施設建設に当たっては,道路や電柱等の工作物を使用することが必要であるが,施設設置が円滑に進まない事態が生じてきているため,この問題の解決を図ることが重要である。また,ネットワーク化を促進するため,無線の利用についても積極的に対応していく必要があるが,60年度においては,我が国で最初の有線テレビジョン放送事業用無線局の予備免許が付与された。
[3] 有線テレビジョン放送事業の運営に当たっては,良質な番組ソフトが大量かつ円滑に提供されていくことが必要であるため,番組供給のための通信衛星の利用促進,著作権等の処理の円滑化等の問題の解決を図ることが重要である。
[4] 有線テレビジョン放送は,地域に密着した公共的なメディアであり,その公共性に十分配慮する必要がある。
  また,有線テレビジョン放送がその機能を十分に発揮していくためには,自主制作番組の制作者をはじめとして,人材の養成策を積極的に講じていくことが必要である。60年8月5設立が許可された財団法人エヌエイチケイ放送研修センターは,今後,有線テレビジョン放送の分野における人材養成についても,大きな役割を果たすことが期待される。

第2-1-11図 有線テレビジョン放送の規模別受信契約者数の推移

第2-1-12図 有線テレビジョン放送サービス関連市場の構造

 

 

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