昭和60年版 通信白書

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3 多様化する電気通信

(1)充実する電気通信サービス

 我が国は,今日,情報化,国際化,高齢化という大きな社会的変化の中にあり,社会の電気通信に対する期待はますます大きくなっている。電気通信は一層のサービスの高度化・多様化を通じて社会の期待にこたえていく必要がある。
 ア.国内電気通信
 (普及の進む加入電話)
 電話は,電気通信の中でも国民生活や企業活動に欠くことのできない基幹的な通信手段としての地位を占めている。
 59年度末現在の加入電話等加入数は,前年度末に比べ107万9千加入増加し,4,395万9千加入となり,また,人口100人当たりの普及率は,36.9加入となり,前年度末に比べ1.1加入増加した。
 (多様なニーズにこたえる電話機器)
 加入電話の量的充実につれて,利用者ニーズはより便利,より高機能,より装飾性豊かなものへと高度化・多様化してきている。
 このようなニーズにこたえて,カラー電話(電話機の色は3色あり,ベルの音量調節ができる。),ボタン電話(簡易な交換機能をもち複数の電話機を利用できる。),切替電話(2台目,3台目の電話機),押しボタン式ダイヤル電話機等の電話機器が提供されており,その施設数は着実に増加している。
 また,新たな通信機器の提供が進められており,59年度以降に提供された主な通信機器には,ワードプロセッサに通信機能を加えた日本語テレテックス(60年4月提供開始),通話をしながら文字や図形を送ることが可能なテレライティング端末(60年5月提供開始)がある。
 60年4月から,端末設備の自由化(いわゆる本電話機の開放)が実施された。それまでは,1台目の電話機(本電話機)は電電公社の電話機の設置が義務付けられていたが,電気通信事業法の施行に伴い,利用者は様々な事業者の提供する多彩な電話機を自由に設置できることとなった。
 (充実する福祉用電話機器)高齢化社会に向けて,ひとり暮し老人等に役立つ電話機器の開発が求められてきている。また,これとともに,身体障害者に役立つ電話機器の開発を一層推進していく必要がある。
 このため、福祉用電話機器については、これまでにも開発が進められ,特定の連絡先への緊急発信機能を備えた電話機器,受話音量増幅機能を備えた電話機器,息・足又はひじでダイヤルできる電話機器等の各種の機器が提供されている。
 59年度にはさらに,特定の連絡先への緊急発信機能を備えた電話機器の改良形機器の提供が開始された。改良形シルバーホン(あんしん)では,緊急時に押すボタンをペンダント型のワイヤレスリモートスイッチとし,電話機から離れたところからでも発信を可能としたほか,ダイヤルを大型の押しボタン式にして利用しやすくしたり,ダイヤルした番号を表示盤に表示するなどの利便性の向上が図られている。また,このほか,新たに,描画パッドに書いた文字・図形を液晶ディスプレイに出力し,筆談による通信を可能とするシルバーホン(ひつだん)の提供が開始され,福祉用電話機器の充実が図られた。
 (高速ディジタル伝送サービスの開始)
 電気通信技術の進歩は,多様化・高度化するニーズにこたえた様々な新しいサービスの提供を可能としている。
 59年度には,光ファイバケーブル等を用いた新世代のサービスとして,高速ディジタル伝送サービスの提供が開始された。
 高速ディジタル伝送サービスの概要は,第2-2-10図のとおりである。このサービスにおいては,中継区間には日本縦貫光ファイバケーブル(60年2月に旭川から鹿児島まで完工)等を使用するとともに,端末区間には,光ファイバケーブル加入者伝送方式,実用化されたばかりのディジタル無線方式(26GHz帯)及び二線時分割伝送方式(メタリックケーブルを使用した場合)等の新しい技術が使用されている。
 高速ディジタル伝送サービスには,64kb/s,192kb/s,384kb/s,768kb/s,1.5Mb/s,6Mb/sの6品目(これまでの最高は48kb/s)がある。59年度末現在,27回線が開通してサービスが提供されている。緊急発信機能を備えたシルバーホン(あんしん)改良形イ.国際電気通信(国際化を支える国際電気通信)我が国社会経済の国際化が進展する中にあって,国際電気通信の利用は飛躍的に増大している。
 第2-2-11図は,国際電気通信の動向について,国際電報,国際テレックス及び国際電話取扱数の合計の推移でみたものである。
 40年代前半までは,国際電報が国際電気通信の主役であったが,40年代後半からは,国際テレックス及び国際電話の取扱数が増えるとともに,国際電気通信全体の取扱数も飛躍的に増加してきている。
 特に,国際電話については,個人利用の増大及び国際電話網を利用したファクシミリ通信あるいはデータ伝送の増加によりその取扱数の増加は著しく,58年度に国際テレックスの取扱数を超え,国際電気通信の主役としての位置を占めている。
 59年度の国際電報,国際テレックス及び国際電話の取扱数(発着及び中継信の合計)は,国際電報が対前年度比14.0%減の185万通,国際テレックスは対前年度比5.O%増の5,210万度,国際電話は対前年度比38.5%増の6,890万度となった。
 (進む国際ダイヤル自動化)
 利用者がオペレータを介さず直接相手国加入者をダイヤルして接続する国際ダイヤル通話は,48年に米国本土等4対地との間で開始された。その後,利用可能対地の拡張が進められ59年度末には前年度末に比べ13対地増加し126対地となった。
 また,国内の利用可能地域の拡大,52年の小刻み課金制(6秒毎に課金)の導入及び57年の料金改定(番号通話と国際ダイヤル通話に料金格差を設ける。)等により,国際ダイヤル通話が全発信度数に占める割合は,48年度末には0.4%であったが,59年度末には71.1%と大幅に増加した。
 ウ.電気通信料金の改定国内については,59年7月から,60〜320kmの中距離の通話料金を3〜29%引き下げ,6段階となっていた同区間の距離区分を4段階へ統合することを内容とする通話料金の改定を行った。
 一方,国際については、KDDはこれまで数回にわたり国際電気通信料金の改定を行ってきたが,さらに60年4月にも料金改定を行った。
 今回の料金改定は,値下げ額ではこれまでの中で最も大幅なものであり,また,引下げの対象となったサービスも国際通話,国際テレックス,国際専用回線,国際テレビジョン伝送等広範なものとなっている。
 国際通話の改定概要は次のとおりである。
[1] 番号通話料金制を導入しているヨーロッパ,中南米,アフリカ地域の140対地の番号通話及び指名通話について2〜10%の引下げ
[2] 国際ダイヤル通話が可能な126対地を対象に4〜14%の引下げ
[3] 国際ダイヤル通話の夜間・日曜帯の割引率を10%から20%に拡大,及び深夜帯の割引率を20%から40%に拡大,あわせて,夜間割引の開始時間を20時から19時へ繰上げ
[4] ヨーロッパ,中南米,アフリカ地域の番号通話料金制未導入の51対地を対象に3〜11%引下げなお,改定後の主要対地向け料金は,第2-2-12表のとおりである。
 国際テレックスについては,全取扱地域(205対地)を対象に7〜21%の引下げを行った。改定後の主要対地向け料金は,第2-2-13表のとおりである。
 国際専用回線については,45対地を対象に音声級5〜10%,電信級4〜11%の引下げを行った。改定後の主要対地向け料金は,第2-2-14表のとおりである。

(2)新たな時代を迎えた電波利用

 電波法及び放送法が施行されて以来,電波が広く国民の利用に開放され,我が国の電波利用は社会経済の発展,通信関連技術の急速な進歩を背景として,目覚ましい発展を遂げている。
 60年4月から,電気通信事業法が施行され,電波利用は新たな時代を迎えた。国民の増大する電波利用ニーズにこたえて,電波利用の一層の促進を図っていく必要があるア.発展する電波利用システム無線局の数の推移は,第2-2-15図のとおりである。59年度末現在の無線局の数は330万局に達している。また,割り当てられた周波数の数も1万2,784波となり,用途も通信,放送をはじめ気象観測,スピード測定等多岐にわたっている。
 (著しい増加を示した自動車電話とポケットベル)
 電気通信事業者が電気通信サービスとして提供している電波利用システムには,自動車電話,ポケットベル,船舶電話,列車電話等がある。また,このほか,航空機電話サービスを提供しようとする計画がある。
 自動車電話は,54年に東京においてサービスが開始されて以来,順次サービス地域が拡大され,59年12月には全国いずれの都道府県庁所在地でもサービスの利用が可能となった。
 自動車電話加入数は,サービス開始以来急速に増加し,59年度末現在の加入数は,対前年度末比48.5%増の4万392加入となった(第2-2-16図参照)。
 なお,60年9月から,自動車に取り付けられている電話機を車外に運び出して利用できる車外利用形自動車電話サービスが実施された。
 ポケットベルは,43年のサービス開始以来,急速な発展を示し,59年度末現在の加入数は対前年度末比14.6%増の189万加入となった。また,サービス提供地域の拡大が進められ,60年度末までにはほぼ市制施行都市へ拡大される計画である。
 ポケットベルについては,57年から受信機に二つの番号を付与し,鳴音を変えることにより受信側において発呼の識別を可能とするデュアルコールサービスが実施されているが,さらに,現在,受信機の小型軽量化,カラー化も実施されている。
 (飛躍的発展を示すMCAシステム)
 自営電気通信の一つであり,貨物運送事業での利用が多いMCAシステム(Multi Channel Access System)は,制御局,指令局,移動局から構成され,すべての音声通信は制御局を通して中継されるシステムである(第2-2-17図参照)。MCAシステムは,制御用1チャンネルと最大15の通話用チャンネルをもち,制御用チャンネルによって空いている通話用チャンネルを順次使用希望者に付与するとともに,1通話当たりの通話時間を制限することによって,周波数の利用効率を高めたもので,約3千5百局の収容が可能であり,また,データ伝送も可能である。
 MCAシステムは,57年10月に東京でサービスが開始されて以来,サービス提供地域が拡大され,59年度末のサービス提供地域は,東京のほか札幌,埼玉,横浜,静岡,名古屋,京都,大阪,神戸,福岡,北九州となった。また,局数は,59年度末現在で対前年度末比122%増の4万9,183局となった。
 (爆発的な増加を示すパーソナル無線)
 パーソナル無線は,事業用に限らず,個人が日常生活に必要な連絡を無線によって行うことができるよう制度化された簡易無線の一つである。パーソナル無線は,57年12月に制度化されて以来,爆発的な増加を示しており,無線局の数は59年度末現在で98万局に達し,無線局の数の全体の29.7%を占めるに至っている。
 イ.電波利用の促進に向けて増加する電波利用のニーズにこたえて,一層の電波利用の促進・拡大を進めていく必要がある。このため,周波数資源の開発及び利用技術の研究を進めていくとともに利用制度の見直しを進めることが重要である。
 (電波利用の自由化施策)60年4月に電気通信事業法が施行され,電気通信分野は新たな時代を迎えた。これに伴い,電波を利用した電気通信事業分野においても,自動車電話,ポケットベル等のサービス分野に競争原理を導入し,NTT以外の事業者の参入を認めることとした。また,自営電気通信の分野においても,無線局を開設及び運用するための条件を緩和した。
 (テレターミナルシステム構想の推進)
 近年,大都市においては,高密度に情報を収集,処理するシステムが整備されてきており,また,今後,携帯型データ通信装置に対する需要が一層増大するものと考えられる。
 これらの需要にこたえる各種通信システムは,電波を利用するとともに情報量からみて同一伝送路を複数の利用者が共用できるものと考えられる。
 これらのことから,郵政省では,周波数の有効利用を図るため、電波及び通信施設を利用者が共同で利用する小ゾーン通信基地共同利用システム(テレターミナルシステム)構想について検討を開始した。
 テレターミナルシステムの構成は,半径3km程度を無線通信エリアとするテレターミナルが,必要な都市域をすき間なくカバーするように多数設置され,それぞれのテレターミナルが有線通信回線により共同利用センターと結ばれ,かつ,この共同利用センターと各利用者のセンターが有線通信回線又はテレターミナル経由の無線通信回線で結ばれるものである。各利用者の情報収集端末装置,携帯型データ通信端末装置等は,テレターミナル及び共同利用センターを経由して各利用者のセンターと通信を行う。
 テレターミナルシステムは,次のようなシステムに有効であると考えられる(第2-2-18図参照)。
[1] 携帯型データ通信装置を屋外で使用する電力,ガスの使用料検針システム等の各種業務用データ通信システム
[2] 交通データ収集システム,気象データ収集システム,大気汚染データ収集システム等の各種センサーによるデータ収集システム
 ウ.電波監視
 (センサスの運用開始)
 電波秩序を維持し,限られた電波の有効な利用を確保するため電波監視が必要である。
 特に,近年,これまでの不法市民ラジオのほか,不法・パーソナル無線,不法コードレス電話等の新たな形態の不法無線局が出現しており,防災用無線及び警察無線等の重要無線通信に対する妨害が各地で発生している。
 このため,郵政省では,これらの妨害を排除し電波秩序を維持するため,監視設備の充実を図ってきたところであるが,この一環として60年4月に東京と大阪において超短波遠隔方位測定設備(SENSAS:センサス)の運用を開始した。
 センサスは,センサー局(方位局)とセンター局からなり,センター局は制御部,伝送部及びデータ処理部から構成される。センター局は,センサー局から伝送された不法無線局等の測定電波方位データを瞬時に処理し,カラーディスプレイ上に地図とともに方位線及びその交点(不法無線局等の位置)を表示する。
 センサスの導入により,電波発射源の推定が即時に行え,かつ,センター局と移動探索車との間を無線により交信しつつ,妨害源に迅速かっ効率的に対処できることとなった。

緊急発信機能を備えたシルバーホン(あんしん)改良形

第2-2-10図 高速ディジタル伝送サービスのシステムの概要

第2-2-11図 国際電気通信の動向

第2-2-12表 主要対地向け国際通話料金

第2-2-13表 主要対地向け国際テレックス料金

第2-2-14表 主要対地向け国際専用回線料金(月額)

第2-2-15図 無線局の数の推移

第2-2-16図 自動車電話加入数及びポケットベル加入数の推移

第2-2-17図 MCAシステムの概要

第2-2-18図 テレターミナルシステム利用概念図

運用を開始したセンサス

 

 

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