昭和60年版 通信白書

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5 経営環境の変化と事業経営の動向

(1)通信事業の経営概況

 (景気拡大が続いた我が国経済)59年度の我が国経済は,景気上昇の2年目であり,物価が安定する中で順調な景気拡大を続け,経済成長率は,名目で6.7%,実質で5.7%といずれも前年度を上回った。これは,米国経済の拡大が急速で,しかもドル高が続いたため輸出の伸びも大きく,それを背景とした生産の拡大から企業収益が増加し,折りからのハイテク分野の目覚ましい進展とあいまって,設備投資が力強い拡大を示したことによるものである。
 (4.4%増となった通信サービス生産額)
 社会経済の基盤をなす通信の分野においては,このような経済の動向を受け,59年4月の国際電気通信料金の引下げ,59年7月の国内通話料金の引下げが実施されたものの,通信産業の生産額(通信サービスの収入額)は全体では7兆5,411億円と前年度に比べ4.4%の増加を示した(第2-2-25表参照)。

(2)通信事業の収支状況

 59年度の通信事業の収支状況は、順調な景気拡大を示した経済の動向を受けて,おおむね安定した推移を示した(第2-2-26図参照)。
 (黒字を維持した郵便事業)
 郵便事業については,ニーズに即した新しいサービスの開始や事業経営の効率化に努めた結果,収入は対前年度比1.6%増の1兆2,710億円,支出は同3.5%増の1兆2,596億円で,差引き114億円の収支差額を生じた。これにより累積欠損金は87億円に減少した。
 (収支率が上昇した電電公社)
 電電公社については,収入が59年7月に実施した中距離通話料金の引下げの影響を受け,対前年度比4.5%増の4兆7,562億円にとどまった。一方,支出は,同6.2%増の4兆4,285億円となり,差引き3,276億円の収支差額を生じた。この結果,収支率は93.1%となり,前年度に比ベ1.5ポイント上昇した。
 (収支が好調なKDD)
 KDDについては,国際電気通信の著しい増加等を背景として,収入が対前年度比10.3%増の2,173億円となった。一方,支出は同8.6%増の1,968億円で,差引き204億円の収支差額を生じた。
 (黒字に転じたNHK)
 NHKについては,59年4月の受信料の改定等により,収入が対前年度比17.7%増の3,451億円となった。一方,支出は同6.2%増の3,194億円で,差引き257億円の収支差額を生じた。NHKでは,このうち81億円を放送債券の償還、借入金の返済等に使用し,176億円を翌年度以降の財政安定のための繰越金とした。
 (全体として安定した収支状況の民間放送)
 民間放送については,収入が広告料収入の伸びにより,総収入が対前年度比5.5%増の1兆3,529億円を計上した。一方,総支出は,5.9%増の1兆2,323億円となり,差引き1,206億円の収支差額を生じた。

(3)通信事業の財務構造

 (人力依存度が高い郵便事業)
 郵便事業については,人力依存度が高い事業の性格によるほか,局舎借入,輸送の外部委託等の運営形態をとっていることから,職員1人当たり固定資産額を示す労働装備率が505万円と他の通信事業に比べて低い値を示している。
 (固定資産比率が高い電電公社)
 電電公社については,全国的で大規模な設備を有する事業の性格を反映して,総資産に占める固定資産の比率が93.1%と他の通信事業及び他の産業と比べて高い値を示している。また,労働装備率も2,937万円と高い値を示している。
 (負債比率が上昇したKDD)
 KDDについては,おおむね前年度と同様の財務状況にあるが,総額330億円の転換社債発行等により負債が増加し,自己資本に対する負債の割合を示す負債比率が69.4%となったが,他業種と比べると依然として低い数値であり,また,この増加分は株式への転換が進むにつれて減少が見込まれるので,健全な財務状況にあるといえる。
 (負債比率が低下したNHK)
 NHKについては,負債比率,固定比率が低下し,労働装備率が上昇した。

(4)通信関係設備投資

 59年度の通信分野における設備投資額は,2兆83億円であり,対前年度比0.9%の増加となった。
 (機械化を推進する郵便事業)
 郵便事業では,局舎事情の改善を図り,郵便局の増置を行ったほか,郵便物の処理の近代化,効率化の一環として,59年度においても郵便番号自動読取区分機,郵便自動選別取りそろえ押印機等の省力機械が配備され,引き続き機械化が推進された。これらの設備投資額は対前年度比13.0%減の1,204億円である。このうち,745億円が自己資金で,459億円が財政投融資(簡保資金)からの借入金である。
 (日本縦貫光ファイバケーブルを完成した電電公社)
 電電公社では,対前年度比2.4%増の1兆7,226億円の設備投資が行われた。これにより,一般加入電話119万加入の増設が行われたほか,公衆電話7万個,プッシュホン188万個,ホームテレホン298千セットが設置された。また,局舎の建設のほか,日本縦貫光ファイバケーブルの建設(60年2月旭川〜鹿児島間完成)等通信設備の拡充並びに維持改良が行われた。資金調達額は,2兆5,598億円であり,このうち内部資金は1兆9,173億円,電信電話債券等の外部資金は6,425億円である。
 (小山国際通信センターの建設を進めるKDD)
 KDDでは,対前年度比8.3%減の621億円の設備投資が行われた。これにより,小山国際通信センターの建設(60年8月国際電話の運用開始),沖縄・本州間海底ケーブルの建設,山口衛星通信所におけるインテルサットV号系衛星用新地球局の建設が行われた。また,国際通信回線については1,013回線が増設された。なお,60年2月,設備資金の一部に充当するため,総額330億円の転換社債を発行した。
 (実用放送衛星の整備を進めるNHK)
 NHKでは,対前年度比0.2%減の401億円の設備投資が行われた。テレビジョン放送については,テレビジョン放送難視聴解消のため極微小電カテレビジョン放送局(ミニサテ)を含め,総合放送7局,教育放送8局を開設した。ラジオ放送については,第1放送2局,FM放送3局を開設した。また,画質改善等のための放送設備の改善,老朽設備の更新,地域放送充実のための取材機器等の整備,テレビジョン音声多重放送関係設備の新設等を進めるとともに,実用放送衛星について,製作,打上げ等に関する業務を通信・放送衛星機構に委託してその整備を進めた。
 (ラジオ単営社(FM)5社が開局した民間放送)
 民間放送では,対前年度比0.8%増の631億円の設備投資が行われ,新たにラジオ単営社(FM)5社が開局(1社は中波放送からの転換)したのをはじめとして,テレビジョン放送局185局の開設等が行われた。

第2-2-25表 通信サービスの生産額

第2-2-26図 通信事業の収支率の推移

 

 

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