昭和60年版 通信白書

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1 周波数資源の開発

 周波数資源開発については,通信の広帯域性を目指して常に高い周波数の開発に力が注がれてきた。今日では,マイクロ波技術の進歩により,およそ50GHzまでの周波数帯が開発され,実用の域に達している。
 また,既利用周波数帯の電波を有効に利用し,周波数資源の増大を図る技術として,同じ情報量をより少ない帯域で伝送する周波数帯域圧縮技術及び同一周波数帯を複数の者で共用する周波数共用技術があり,種々のシステムで開発されている。例えば,現在実験中の高精細度テレビジョン放送におけるMUSE方式は,画像信号のサンプリング数を効率よく減らして帯域圧縮を実現する方法であり,また,コードレス電話等で採用されているマルチ・チャンネル・アクセス方式は、同一の周波数を空間的に繰り返して使用することにより,周波数の有効利用を図るものである。
 しかしながら,電波利用の増大によって,使用周波数は拡大の一途をたどり,更に新しい周波数帯の開発が急務となっている。
 特に,通信内容が音声にとどまらず,データ,画像,文書等へと多様化している陸上移動通信においては,周波数の需給がひっ迫しており,新しい周波数帯の開発が必要となっている。
 また,将来の通信に対する需要の増大と利用のパーソナル化等を考慮すると,ミリ波帯(30〜300GHz)以上の未利用の周波数帯の開発が必要である。

(1)準マイクロ波帯における陸上移動通信システム

 我が国の陸上移動通信用の周波数帯については,これまで60MHz帯,150MHz帯,400MHz帯、800MHz帯と順次高い周波数帯が開発されるとともに,占有周波数大域幅の狭帯域化が実施されてきた。しかしながら,将来の需要を考えると,現在の利用可能周波数帯と狭帯域化技術では対応が困難になることが予想される。そこで,郵政省では,新しい周波数帯として,従来,陸上移動用に使用されていた周波数帯の上の準マイクロ派帯(1〜3GHz)の開発を59年度から進めており,これに関するシステムの概念,特徴等の分析,技術的問題点の把握等を行った。
 準マイクロ派体の適用が有効と考えられるシステムには,治安・防災システム,交通管制・案内システム,福祉医療システム等がある。
 陸上移動用として準マイクロ波体を開発するに当たっての技術的検討事項としては,電波伝搬に関すること,システム構成に関すること,移動局に関することなどがある。
 電波伝搬特性については,準マイクロ波帯が従来の陸上移動通信用周波数帯より高くなるため,[1]直進性が強く,場所的な変動を強く受ける,[2]伝搬の損失が大きくなる,[3]移動に伴うフェージングの影響が大きくなるなどの問題があり,これらを解決するために,電波の減衰対策及びフェージング対策が不可欠である。
 システム構成については,小ゾーン構成によるマルチ・チャンネル・アクセス方式技術の高度化,無線回線の品質に応じて通話チャンネルの切替等を行う無線回線制御技術等が課題である。
 移動局については,移動体への設置型のみならず,個人が容易に携帯し得る小型装置の開発が必要であり,これを実現するために,高周波素子等の小型化,電池の小型・高容量化,小型実装技術等が重要となる。

(2)ミリ波帯の電波利用の研究

 ミリ波帯以上の周波数帯は,広帯域の使用及び高密度の回線設定が可能であることから,ビル間の超高速データ伝送,画像伝送,高精細度テレビジョン放送,衛星間通信等の利用が考えられている。
 郵政省では,将来に向けてのニーズの伸びや多様化に対処するとともに,先導的技術の発掘という観点から,未開拓の周波数帯であるミリ波帯の通信システムの研究開発を行うこととしている。
 ミリ波帯には,大気成分による吸収が顕著となる「大気吸収帯」と大気成分による吸収が比較的少ない「窓周波数帯」がある。システムを検討するに当たっては,こうした周波数帯の特徴を生かし,それぞれに合った利用方法を考えていく必要があることから,システムを二つに大別し,それぞれに対する適用領域の検討及び機器,方式等の開発を進めていくこととしている。
 想定される用途例は,第3-1-1表のとおりである。
 ミリ波帯では,大気成分による吸収をはじめ,各種気象条件下での影響等が問題になるが,これらに関する実用的なデータは十分には得られておらず,大気成分による吸収特性の詳細な把握,気象条件とミリ波伝搬損失との詳細な対応付け等,大気伝搬特比の解明が必要である。
 また,大気吸収帯と窓周波数帯とを明確に分離し,それぞれに対する適用システムへの周波数資源配分の最適化を図るとともに,機器の製造業者に対しては機器仕様の明確化,利用者に対しては適用領域を明らかにするためのモデルシステムの構築が必要になると考えられる。
 一方,発信機や受信機等の機器構成技術の開発も重要である。特に発信機に必要な固体発振素子についても,100GHzを超える領域は現在実用化に至っておらず,今後,ガン,インパットに加えてタンネット等の新しい素子の開発が必要である。また,方式的には,受信レベルによって伝送速度を可変とするなど,ミリ波の弱点をカバーする研究も進めていく必要がある。

第3-1-1表 想定されるミリ波通信システムの用途例

 

 

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