昭和60年版 通信白書

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4 材料・素子技術

 材料技術は,最も基礎的な技術分野に属し,各素子やデバイスの性能の決め手となる技術である。
 最近では,半導体材料の主流となっているシリコンに比べ,更に高速動作を可能とするガリウムひ素の研究が盛んに行われている。また,シリコンやガリウムひ素のような半導体材料に代わる次世代の材料素子として,超伝導現象を利用したジョセフソン素子の実用化が期待されている。
 素子技術は,各種のシステムや機器の機能実現に欠かせない重要な技術であり,材料技術とともに,通信関連技術の基盤となるものである。
 素子技術の代表的なものはLSI技術であり,各種通信機器の小型・軽量化、高機能化,経済化,高信頼化に大きく貢献している。LSIについては,その高集積化へ向けた開発が進められており,現在では,1MbDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)が実用化されているとともに,4MbDRAMの実用化研究が進められている。
 また,光通信に必要な発光素子,受光素子等の光通信の基盤となる素子技術の研究も積極的に進められている。
 さらに,バイオチップ等の生体機能を応用した新しい素子の研究も始められており,将来への期待が大きい。
 (開発の進むガリウムひ素)
 ガリウムひ素は,電子移動度が速く,また発光効率も高いことから,高速な半導体素子が実現できると同時に,能率の良い発光材料にもなる。
 ガリウムひ素の用途としては,高速ICが考えられ,今後ますます信号処理が高度になるディジタル画像処理や高精細度テレビジョン放送等に有効である。
 また,高速性がゆえに,高い周波数で動作するという特徴を生かして,衛星通信,衛星放送での利用が考えられており,現に,衛星受信機のBSコンバータや,衛星に搭載する中継器の受信部分,進行波管の励振段等に用いられている。
 さらに,発光性を利用して,光ファイバケーブル伝送の光源として使用されているレーザや発光ダイオードへの適用が期待されている。
 59年度においては,1チップ上に従来の4倍の10万素子を搭載し,アクセス時間4.1ns,消費電力1.5Wの16kbガリウムひ素メモリの試作が電電公社により行われたところである。
 (ジョセフソン素子の開発)
 ジョセフソン素子は,超高速動作及び低消費電力を特徴とした超伝導材料である。
 ジョセフソン素子の用途としては,その優れた高速性を生かした超高速コンピュータ用素子が最も期待されており,このほか,ミリ波・サブミリ波発振器,パラメトリック素子,光検出器等への利用が検討されている。
 ジョセフソン素子の研究開発は,国際的には1968年から始められており,我が国では,昭和57年にスイッチング速度10.8psを達成したのを皮切りに,次々と高速化が実現されており,現在5.6psまで進んでいる。
 ジョセフソン素子の実用化を図る上では,極低温に冷却しておく実装化技術,経年変化や性能のバラツキの小さい信頼度の高い素子の製作技術,また素子性能を十分に生かすための周辺技術等の開発が必要であり,現在その研究が進められている。
 (光通信を支える半導体レーザ)
 半導体レーザは,発光素子として使用されており,コヒーレント光(位相及び波長のそろった光)に近い光を発生するため,インコヒーレント光(位相や波長がそろっていない光)を発生する発光ダイオードに比べ,光発振スペクトル幅が小さく,光ファイバによる高速伝送に適している。
 しかし,現在の半導体レーザは,その発生する光が純コヒーレント光ではなく,近接するいくつかの異なる波長をも同時に発振してしまうため,高速になるに従い,信号の形が乱れるという問題がある。そのため,単一波長のみを発振する半導体レーザの開発が求められており,我が国でも積極的にこの研究開発が進められている。
 56年度に,従来高速のディジタル伝送用に使用されている1.3μm帯の光に比べ,伝送損失が約半分となる1.55μmの単一波長で発振する新しい半導体レーザの開発が電電公社によって行われ,59年度には,更にこれを改良して単一波長性を向上させた半導体レーザがKDDによって開発された。この波長の光を使うことにより,中継器の間隔を従来の2倍に伸ばすことができ,通信システムの信頼性と経済性の向上が期待される。

 

 

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