昭和61年版 通信白書(資料編)

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4 電磁波有効利用技術

(1)ディジタル陸上移動通信方式

 ディジタル陸上移動通信方式は,秘話性の確保,信号伝送の高速化,伝送路の透明性,システム設計の柔軟性等の特徴を有しており,また適用分野は音声通信,非音声通信,音声と非音声の複合通信に大別される。
 実用化に当たっての課題は,次のとおりである。
[1] フェージング対策技術の完成
[2] ディジタル通信固有の周波数有効利用技術の完成
 電波研究所は,56年度から研究に着手し,60年度には,等化技術を取り入れた干渉信号除去技術及び実時間動作を考慮した誤り制御技術の検討を行った。さらに,音声符号化に関しては,各種効率的な方式を実験的に検討するとともに,一部の方式の大規模集積回路によるハードウェアを実現した。

(2)準マイクロ波帯における陸上移動通信システム

 郵政省では陸上移動通信用の周波数帯として,準マイクロ波帯(1〜3GHz)の開発を59年度から進めている。陸上移動用として準マイクロ波帯を使用するためには,電波伝搬特性,システム構成等については技術的検討を行う必要がある。このため,準マイクロ波帯を使用した移動通信システムの一例として「蓄積交換機能を備えたマルチゾーン方式によるFDMAシステム」を構想し,このシステムのネットワーク構成,回線制御方式等の技術的条件について検討を行った。また,電波伝搬データの収集,フェージング対策技術等について,実地試験,ハードウェアの試作等を検討している。

(3)スペクトラム拡散地上通信方式

 スペクトラム拡散通信方式は,無線通信における電波の占有周波数帯幅を積極的に拡大させて伝送する通信方式であり,送信側では,情報伝送のための通常の変調(1次変調)を行った信号を,さらに,通信の相手方との間であらかじめ約束された一定の符号によって変調(2次変調)して伝送し,受信側では,約束された符号を用いて検波する場合にのみ,はじめの情報が受信できるような方式である。特徴としては,秘話性に優れ,干渉に極めて強いことが挙げられる。
 電波研究所は,59年度から,車載実験用周波数ホッピング方式スペクトラム拡散通信装置(1次変調:8周波FSK)を用いて,都市内野外走行実験を実施した。その結果,マルチパスフェージング下において,良好な誤り率特性を示すことを確認した。また,誤り率特性の車速依存性がなく,ディジタル移動通信固有のいわゆる軽減不能な誤りがないことがわかった。

(4)40GHz以上の電波利用の研究

 40GHz以上の周波数の電波は,降雨により著しい減衰を受けるため,この周波数帯電波の利用には,降雨減衰推定法の開発が必要である。電波研究所では,52年度から10か年計画で,この周波数帯における伝搬実験を実施し,降雨減衰特性の解明を進めており,本研究の一部は,既に50GHz帯の電波を使用する無線局制度の新設に反映されている。60年度は,ミリ波帯伝搬実験システムを用いて最終年度のデータ収集を行うとともに,その解析公表を行った。また,ミリ波帯電波のセンシングシステムヘの利用に関して調査を行った。

(5)高機能型無線呼出

 高機能型無線呼出は,これまでの単なる呼出音による呼出しに加えて,数字,文字等の表示によりメッセージを伝送することが可能なものである。
 高機能型無線呼出の信号方式には,諸外国で実用化されているPOCSAG方式,GSC方式及びD3方式があり,いずれの方式も信頼性,加入者収容能力において使用可能である。

 

資料6-12 諸外国で使用されている信号方式の概要

 

(6)大容量自動車電話の導入

 自動車電話サービスは,現在NTTにより提供され,加入者数は全国で約6万2,000(60年度末),うち首都圏で約3万4,000(同)に達している。しかしながら,現行の方式では,首都圏の収容能力の限界に近づきつつある状況にあること,及び自動車電話の分野においての新規参入を図る観点から,郵政省では,新規事業者にも適用可能な大容量の自動車電話方式について検討を行っている。

(7)構内無線局

 構内無線局は,工場敷地内,ビル内等,一の構内で行う無線通信の需要にこたえるため創設されたものであり,需要の顕在化した次の四つのシステムについて導入された。
[1] テレメータ・テレコントロールシステム
[2] データ伝送システム
[3] 構内ページングシステム
[4] 移動体識別装置
 構内無線局は,通信可能な電波の到達距離を200m程度とし,周波数の繰り返し利用効率を高めるとともに,混信がなく,公平に使用できるようにするための装置(キャリアセンス,送信時間制限装置,送信装置識別装置)を有している。

(8)テレビジョン同期放送

 テレビジョン同期放送とは,隣接する複数のテレビジョン放送局相互間で互いの送信周波数を一致させて放送するシステムである。
 郵政省は,テレビジョン同期放送の実用化を検討中であり,60年度には,シミュレータによる画像評価,ハイブリッド同期方式,故障時の対策等について調査を実施した。

(9)ファクシミリ放送

 ファクシミリ放送とは,写真等階調のある画像や文字情報を放送し,受信端末の記録紙に再生させるシステムである。電気通信技術審議会では,現在,テレビジョン放送の音声第二副搬送波にファクシミリ信号を重畳する方式について審議を行っている。60年度は,伝送実験規格の作成,家庭用VTRとの両立性実験等を行った。

(10)テレビジョン放送の画質改善(EDTV)

 EDTVとは,既存のテレビジョン放送波に画質を改善するための情報を重畳し,画像の高精細化及びゴーストの低減化を図るものである。このシステムは,既存のテレビジョン放送との両立性を保ちつつ,60%程度精細度を高めることが可能である。現在,「テレビジョン放送画質改善協議会」でその技術的条件について審議が行われており,63年度中に結了する予定である。

(11)FM多重放送

 FM多重放送とは,FM放送電波にもう一つの独立した音声又はデータを多重して放送するシステムであり,米国,欧州では,専門情報放送,道路交通情報放送,データ放送等に使用されている。電気通信技術審議会では,60年度から技術的条件について審議を行っており,これまでに既存FM受信機との両立性調査を行い,野外実験のための暫定仕様を定めた。

(12)放送衛星によるテレビジョン放送の有料方式

 有料方式は,放送視聴者が,特定の放送番組の視聴を希望し,放送事業者と対価的契約を結ぶことによって放送サービスを受ける方式であり,衛星放送に適用が考えられている。有料方式は,放送信号にスクランブルをかけて送信するため,放送電波をそのままテレビジョン受像機で受信しても正常な放送受信ができない。その信号を正常な画面に復元するためには,放送電波とともに送られてくる情報を用いてスクランブルを復号する必要があるが,この情報は,不正に利用されることを防ぐため,通常,暗号化される。そして,契約受信者のみがこの暗号を解くためのかぎをもつことによって,有料放送番組を正常に受信できることになる。
 スクランブル方式等の有料方式に関する技術的条件については,BS-2を用いた実験の成果等を踏まえて電気通信技術審議会の答申が行われることとなっている。

 

資料6-13 有料放送システムの概要

 

(13)放送衛星によるデータ伝送

 我が国の衛星テレビジョン放送の方式においては,音声を副搬送波方式のディジタルチャンネルで伝送している。このディジタルチャンネル(伝送容量2,048kb/s)ではテレビジョン音声以外のデータも伝送できる能力を有しており,この伝送容量上の余地(以下「データチャンネル」という。)を利用して,他の用途のサービスに適用することが技術的に可能となっている。
 将来,このデータチャンネルを利用したサービスとしては,有料テレビジョン放送を実施する際に必要となる関連情報(料金情報,加入者情報),市況情報,電子新聞,パソコンソフト等の伝送が考えられる。
 データチャンネルを使用する場合の共通データフォーマット等の共通的伝送規格等の技術的条件については,BS-2を使用して行われる実験の成果等を踏まえて電気通信技術審議会の答申が行われることとなっている。

 

資料6-14 ディジタルチャンネルの構成

 

(14)高精細度テレビジョン放送

 高精細度テレビジョン放送(High Definition Television=HDTV)は,現行のテレビジョン放送に比べて,はるかにきめが細かく鮮明で,しかもワイドな画面により迫力と臨場感にあふれた画面が得られるテレビジョン放送である。HDTV技術は主として我が国で研究開発された技術であり,原理的な面ではほぼ完成の域に達しているが,カメラの高感度化,受信機の小型低廉化,伝送技術の開発等,なお技術的課題が残されており,実用化には至っていない。
 また,HDTVの規格については,国際電気通信連合(ITU)の国際無線通信諮問委員会(CCIR)で検討が行われており,これを受けて我が国でも電気通信技術審議会でスタジオ規格,伝送規格について審議を進め,CCIRに対して多くの寄与をしてきた。61年5月のCCIR総会においては,日本が提案したHDTVのスタジオ規格が報告書の付録に「新勧告の提案」として盛り込まれることとなり,今後はこれを基礎としてできる限り早期に国際規格の結論が得られるよう研究を促進することとなった。
 電気通信技術審議会においても,CCIRの検討状況をみながら,さらに実用化に向けての技術課題について審議を行うこととしている。

 

資料6-15 現行テレビジョン方式とHDTVのスタジオ規格の比較

 

(15)VLBIによる高精度測位技術

 VLBIは同じ電波源から輻射される電波を遠く離れた二つのアンテナで独立,同時に受信して,電波が二つのアンテナに到達する時間差を超精密に測定するものである。
 電波研究所は,58年度までに完成したVLBIシステムを用いて,59,60の両年度にわたり,日米共同実験を実施し,史上初めて,太平洋上の島々が日本列島へ接近していることを確認した。
 この成果は,プレートテクトニクス理論の検証として,長期的地震予知に役立つものである。

(16)電波音波共用大気隔測装置(ラス)

 ラス(Radio Acoustic Sounding System)は,大気の風・気温高度分布を地上から連続的に遠隔測定する計測装置である。
 60年度は,音波発射装置と大出力MUレーダ(京都大学)とを組み合わせたラス実験を風の弱い8月と風の強い1月の2回実施し,それぞれ高度21km,8.5kmまで達する音波面からのレーダ・エコー(ラス・エコー)の受信に成功した。測定高度21kmは,ラスで得られた世界最高の記録である。また,風と気温の高度変化を考慮した音波面の解析と,ラス・エコーの最大探査高度の予測計算法の誘導により,最大探査高度は,風の影響を強く受けて大きく変化することを明らかにした。

(17)マイクロ波リモートセンシング

 電波によるリモートセンシングは,通信の分野と並んで,電波の利用分野の大きな柱である。特にマイクロ波帯の電波を用いれば,従来の可視・赤外域の光を利用する方法とは異なり,昼夜の別なく,天候にもほとんど影響されることなく地表等の観測が可能となる。
 電波研究所では,電波の有効利用の立場から,各種マイクロ波センサに関する研究として,[1]スペースシャトル搭載の映像レーダー(SIR-B)による実験,[2]当所が開発した航空機搭載マイクロ波散乱計/放射計等による宇宙からの降雨観測に関するNASAとの共同研究,[3]海洋の油汚染監視を第一目的とする航空機搭載側方監視レーダー(SLAR)の研究開発,[4]多周波FM-CWレーダーによる稲等各種対象物のマイクロ波散乱特性の研究等を進めている。

(18)レーザリモートセンシング

 レーザリモートセンシングとは,レーザ光と物質・物体や原子・分子等との相互作用を利用し,種々の物質・物体や大気中の原子・分子等を測定するものである。
 電波研究所では,光化学スモッグ発生時に,オゾンの三次元分布を測定する航空機搭載型炭酸ガスレーザレーダーの開発と,レーザを局発光として,太陽等の熱輻射光のヘテロダイン検波を行う基礎技術の研究を進めている。

 

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