旅客船等利用者の安全及び利便の確保に関する行政評価・監視結果(要旨)

第1  調査実施時期・対象機関

 1    調査実施時期:平成14年8月〜11月

 2   
調査対象機関: 九州運輸局、宮崎運輸支局、細島海事事務所
第七管区海上保安本部、油津海上保安部
航路事業者(福岡県内16事業者、宮崎県内14事業者 計30事業者)

第2  実施の経緯
   九州において、旅客船等(フェリーを含む。)は、離島住民等の足として、生活必需物資の輸送手段として重要な役割を果たしている。
   旅客船等利用者の安全及び利便の確保を図る観点から、旅客航路事業者における安全及び利便対策の実施状況等について調査を実施。

第3  通知年月日及び通知先
 通知年月日 :平成14年12月12日
 通知先 :国土交通省九州運輸局

第4  担当部局
   九州管区行政評価局
   宮崎行政評価事務所

第5  調査結果
 運航管理
(1)  運航管理体制
【制度の概要等】
 運 航管理規程:海上運送法の規程に基づき、一般旅客定期航路事業者等は、運航管理規程を作成し、国土交通大臣に届出(内容=船舶の運航に関する責任者の選任、船舶の運航の管理の組織、その実施の基準及び手続に関する事項等の事業者が運航の管理を行う際の基本的事項)
 運航管理者: 船舶の運航の管理を総括する責任者

【問題点】
      福岡県内及び宮崎県内の一般旅客定期航路事業等30事業者(一般旅客定期航路事業11事業者、旅客不定期航路事業8事業者、海上タクシー等事業11事業者)を抽出し、運航管理規程に基づく運航管理に係る組織体制等の整備や操練・訓練の実施状況を調査した結果、運航の管理体制等については、1)運航管理者の解任及び選任に伴う国土交通大臣に対する届出を励行していないもの、2)船舶が運航している間、運航管理者が所定の場所に勤務していないものなど、また、操練・訓練については、1)防火操練、非常操舵操練等を適切に実施していないもの、2)事故処理に関する訓練を実施していないものなど、23事業者において問題がみられた。

【主な事例】
 〔運航の管理体制等に問題がある事例〕
  1)    運航管理規程に基づき、運航管理者を解任し、新たに選任しているにもかかわらず、国土交通大臣にその旨を届け出ていないもの(1事業者)
  2)    運航管理者は、運航管理規程に基づき、船舶が就航している間、本社等の所定の場所に勤務することとされているが、所定の場所に勤務していなかったり、運航管理者が、旅客船が就航している間に、不在となる時間帯が生じているもの(3事業者)

 〔操練・訓練が適切に実施されていない事例〕
  1)    船員法に基づく海員に対する防火操練、非常操舵操練等が適切に実施されていないもの(2事業者)
 また、非常操舵操練を実施していると説明しているが、その結果を航海日誌に記録しておらず、同操練の実施状況が明確でないもの(1事業者)
  2)    国土交通省が策定している「運航管理規程・基準例集」に基づく事故処理に関する訓練(年1回以上実施)を全く又は一部しか実施していないもの(12事業者)
   また、事故処理に関する訓練を実施していると説明しているが、その結果を記録しておらず、同訓練の実施状況が明確でないもの(2事業者)

【改善所見】
   九州運輸局は、旅客船等の安全な運航を確保するため、一般旅客定期航路事業者等に対し、次の措置を講じるなど指導する必要がある。
 1)    運航管理者の解任及び選任の届出を励行すること。
2)    旅客船の就航している間、運航管理者等の運航管理要員が不在とならないように適切に運航管理要員を配置すること。
3)    防火操練、非常操舵操練等の必要な操練を適期・適切に実施するとともに、実施した操練は正確に記録すること。
4)    事故処理に関する訓練は、適切に実施するとともに、実施した訓練は正確に記録すること。


(2)  運航の中止等
【制度の概要等】
 ○ 運航管理規程
   ・
 船 長:気象・海象が一定の条件に達したと認めるとき又は達するおそれがあると認めるときは、運航中止の措置をとらなければならない。
   ・
 運 航管理者:運航基準の定めるところにより発航が中止されるべきであると判断した場合において、船長から発航を中止する旨の連絡がないときは、船長に対して発航の中止を指示しなければならない。
   ・
 速 力基準表:船長は、誤操作防止のため、船橋内及び機関室の操作する位置から見やすい場所に掲示
   ・
 操 縦性能表:船長は、船舶の能力把握のため、船橋に備付け

【問題点】
      福岡県内の一般旅客定期航路事業等16事業者における旅客船等の運航状況を調査した結果、3事業者において、出航及び運航の中止基準以上の風速及び波高があるにもかかわらず、出航及び運航を継続していた。
   また、6事業者において、船橋等への速力基準表の掲示及び船橋への操縦性能表の備付けが励行されていなかった。

【事例】
 1)    運航基準による出航及び運航の中止基準以上に風速や波高が観測され、船長自身が海況は時化ているとの認識を有しているにもかかわらず、出航及び運航の中止の措置を講じておらず、また運航管理者においても船長に対して出航の中止を指示していないものなど(3事業者)
 2)    運航管理規程に基づき、船長は、誤操作の防止のために、速力基準表を船橋内等に掲示することになっているが、それが励行されておらず、また、操縦性能表が船橋に備え付けられていないもの(6事業者)

【改善所見】
   九州運輸局は、旅客船等の安全な運航を確保するため、一般旅客定期航路事業者等に対し、次の措置を講じるよう指導する必要がある。
 1)    運航管理規程の運航基準で定められた出航及び運航の中止基準を厳守するなど適切な運航管理に努めること。
2)    速力基準表を船橋内に掲示することもに、操縦性能が分かっている船舶については操縦性能表を船橋に備え付けること。


(3)  旅客定員
【制度の概要等】
 ○ 船舶安全法
    ・
客定員等の管理:船舶検査証書に記載された最大搭載人員(旅客定員、船員及びその他乗船者の合計)を超えて旅客その他の者を搭載してはならない。
    ・
大搭載人員の算定方法:国際航海に従事しない船舶の場合、1歳以上12歳未満の者2人で1人と換算する。1歳未満の者は最大搭載人員に算入しない。

【問題点】
    福岡県内の一般旅客定期航路事業等16事業者のうち2事業者において、旅客定員を超過して運航していた。

【事例】
 1)    運賃が無料となる6歳未満の幼児を旅客数に算入していないため、実際の旅客数が旅客の最大搭載人員を超えて運航しているもの(1事業者)
 2)    旅客の乗船状況をみると、団体客からの乗船申込みがあったため、旅客定員を超過して運航しているもの(1事業者)

【改善所見】
   九州運輸局は、旅客船等の安全な運航を確保するため、一般旅客定期航路事業者等に対し、船舶安全法で定められた旅客定員を遵守するよう指導する必要がある。


(4)  作業基準の遵守及び遵守事項の周知
【制度の概要等】
 ○ 運航管理規程
   ・    旅客の乗下船又は航送する自動車の積込み及び陸揚げ並びに船舶の離着岸の際における作業の安全性を確保のための作業方法を規定
   ・    旅客等が遵守すべき事項及び注意すべき事項の周知について規定

【問題点】
      福岡県内及び宮崎県内の一般旅客定期航路事業等30事業者における作業の実施状況を調査した結果、作業基準に沿った安全対策が適切でないものや旅客等が遵守すべき事項等が掲示されていないものが13事業者みられた。

【主な事例】
 〔作業基準に沿った安全対策が適切でない事例〕
  1)    船体が着岸時にまだ大きく上下しているにもかかわらず、十分な誘導がないまま旅客を下船させているもの(1事業者)
  2)    船長1人が船首を岸壁に押し当てた状態で、旅客に下船を促しており、作業基準で定めた綱取り作業や下船時の旅客の誘導が行われていないもの(2事業者)
  3)    車両の陸揚げが完了したことを確認後、旅客を誘導して下船させることとなっているが、旅客に対して誘導しておらず、旅客と車両が同時に同一ランプから下船しているもの(1事業者)

 〔旅客等が遵守すべき事項等の掲示等による周知が行われていない事例〕
  1)    待合所において旅客等が遵守すべき事項等の掲示が行われていないもの及び掲示が不十分なもの(4事業者)
  2)    船舶内において旅客等が遵守すべき事項等が掲示されていないもの(7事業者)

【改善所見】
   九州運輸局は、旅客船等の運送に係る安全な作業を確保するため、一般旅客定期航路事業者等に対し、次のように指導する必要がある。
 1)    旅客の乗下船作業や離岸準備作業などに当たっては、運航管理規程及び作業基準に沿って適切に実施すること。
 2)    旅客等が遵守すべき事項等は、運航管理規程及び作業基準に沿って適切に周知させること。


 救命・消防設備の備付等
 【制度の概要等】
  ○   救命・消防設備の備付数量、備付方法及び標示
 
 総トン数20トン以上の船舶に備え付ける救命及び消防設備:「船舶救命設備規則」及び「船舶消防設備規則」
 
 総トン数20トン未満の船舶(以下「小型船舶」という。)に備え付ける救命及び消防設備:「小型船舶安全規則」
  ○   救命及び消防設備の配置図等:旅客室等に掲示(船舶設備規程)
  ○   避難要領や救命胴衣の格納場所等の掲示及び船内放送等による旅客への周知(船員法)

 【問題点】
        福岡県内及び宮崎県内の一般旅客定期航路事業等30事業者が運航する旅客船等44隻(一般船舶25 隻、小型船舶19隻)における救命及び消防設備の備付状況等を調査した結果、18事業者31隻において、救命・消防設備の備付数、備付方法、維持管理、また、救命・消防設備の標示及び配置図の掲示が不適切なもの等がみられた。

 【主な事例】
  〔救命設備の備付数が不足している事例〕
          運賃が無料となる6歳未満の幼児を旅客数に算入していないため、実際の旅客数が旅客の最大搭載人員を超え、救命胴衣が不足している状況で運航しているもの(1事業者)

  〔救命・消防設備の備付方法が不適切な事例〕
          救命浮器及び救命胴衣を入れた格納庫が施錠されているため、緊急時に容易かつ迅速に取り出すことができないもの(1事業者)

  〔救命・消防設備の維持管理が不適切な事例〕
    1)    救命胴衣庫の扉のかんぬきが錆びていて開けにくくなっており、緊急時に容易かつ迅速に取り出すことができないもの(1事業者)
    2)    消火栓、消火ホース・ノズルボックス及び消火器がコンテナの後ろにあり、緊急時に直ちに使用することができないもの(1事業者)

  〔救命・消防設備の標示が不適切な事例〕
    1)    客室の救命胴衣庫の標示(プレート)がはずれており、救命胴衣庫であることが分からないもの(1事業者)。また、客室の何も入っていない倉庫に「救命胴衣庫」と標示しているもの(1事業者)
    2)    救命胴衣庫の所在位置を示す標示が各座席横の窓枠上部に掲示されているが、カーテンを閉めた場合、掲示が隠れてしまう。また、掲示の文字自体が経年劣化により、読み取りにくくなっているもの(1事業者)

 〔救命・消防設備の配置図の掲示が不適切な事例〕
          船内改装等により救命胴衣庫や消防器具の設置位置を変更しているが、救命・消防設備配置図を修正しないまま船内に掲示しているもの(4事業者)

 【改善所見】
 
   九州運輸局は、旅客船等利用者の安全を確保するため、一般旅客定期航路事業者等に対し、法令に基づき救命・消防設備を備え付けるとともに、緊急時に直ちに救命・消防設備が使用できるよう維持管理を適切に行うよう指導する必要がある。


 危険物の運送
 【制度の概要等】
  ○  船
舶による高圧ガス、引火性液体類等の危険物の運送:「危険物船舶運送及び貯蔵規則」(以下「危規則」という。)で積載の方法等が定められている。
  ○  危
険物運送船適合証:危険物を積載する貨物区域の防火設備及び消防設備が船舶安全法第5条の検査(定期検査、中間検査、臨時検査等)を受け基準に適合している場合、船舶の所在地を管轄する地方運輸局長等から危険物運送船適合証が交付される。
  ○  プ
ロパンガス及びガソリンの積載:旅客船への積載は禁止されているが、船長が危規則第390条の2に基づき、地方運輸局長等の許可を受けた場合には、許可を受けた積載方法等により運送できる。

 【問題点】
        福岡県内及び宮崎県内の一般旅客定期航路事業11事業者における危険物の運送状況を調査した結果、2事業者において、危規則の規定に基づいて海運支局長から許可を受けた積載量を超えて危険物を運送していたり、危険物運送船適合証に記載された危険物の積載場所からはみだして、危険物を積載した自動車を運送している状況がみられた。

 【事例】
   1)    海運支局長から1便当たり300 キログラム以下のプロパンガスの積載許可を受けて運送しているが、10キログラム超過して運送しているもの(1事業者)
   2)    海運支局長から交付された危険物運送船適合証には危険物の積載場所等が記載されているにもかかわらず、同場所からはみだして危険物を積載した自動車を運送しているもの(1事業者)

 【改善所見】
 
   九州運輸局は、危険物の安全な運送を確保するため、一般旅客定期航路事業者に対し、危規則の趣旨を周知徹底するとともに、旅客船等による危険物の運送、危険物積載自動車の船舶への積載等を的確に行うよう指導を徹底する必要がある。


 運賃、運送約款等の掲示等
 【制度の概要等】
  ○  運
賃・料金表及び運送約款を記載した書面:発着所に見やすいように掲示し船舶に備付けが義務付けられているもの(海上運送法)

 【問題点】
        福岡県内及び宮崎県内の旅客航路事業等30事業者のうち、8事業者において、運賃・料金表や運送約款の掲示等が適切でないものがみられた。

 【主な事例】
  〔運賃・料金表の掲示等が適切でない事例〕
    1)    発着所の乗船券発売窓口で一部の航路の運賃が掲示漏れとなっているもの(1事業者)
    2)    運輸局に対し、団体割引は15人以上で届出ているが、発着所の乗船券発売窓口及び船内に掲示している運賃表には、「団体割引は25名以上」と誤って記載しているもの(1事業者)

  〔運送約款の掲示等が適切でない事例〕
    発着所又は船舶の客室内に運送約款を備え付けていないもの(2事業者)

 【改善所見】
 
   九州運輸局は、一般旅客定期航路事業者等に対し、発着所及び船舶における運賃・料金表及び運送約款の掲示・備付けを適切に行うよう指導する必要がある。


 発着所等における旅客船等利用者の安全の確保
 【問題点】
        福岡県内及び宮崎県内の一般旅客定期航路事業11事業者の発着所及び桟橋等における旅客の安全確保状況を調査した結果、旅客の安全確保が十分でないものが3事業者みられた。

 【主な事例】
   1)    乗降用タラップと岸壁の地表面との間に約25センチメートルの段差が生じており、体の不自由な旅客等が乗下船する際に危険であるため、タラップの改修が必要なもの(1事業者)
   2)    待合所内の壁面の棚に固定されないまま置かれている消火器が落下して、待合客がケガをする恐れがあるため、消火器の落下防止措置が必要なもの(1事業者)

 【改善所見】
 
   九州運輸局は、旅客船等利用者の安全を確保するため、一般旅客定期航路事業者に対し、発着所等における不適切な状況を改善するよう指導する必要がある。