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道路に関する公害紛争事件は?

ちょうせい第6号(平成8年8月)より

プラクティス公害紛争処理法 ‐第6回 道路に関する公害紛争事件の取扱い

 都道府県公害審査会等で受け付けた公害紛争事件のうち、道路を発生源とするものは、事業所を発生源とするものに次ぐ数を占めていますが、昨年は国道43 号線事件についての最高裁の判断が下され、道路による騒音公害問題が関心を集めています。そこで、今回は、道路に関する公害紛争事件の取扱いを取り上げることとします。

1 事件の特色等

 都道府県公害審査会等(以下「審査会等」という。)がこれまでに受け付けた728 件の事件のうち、発生源を道路法第3条所定の道路とし、発生原因を道路供用(通行)行為とするものは76 件である。これには参加事件31 件が含まれているので、以下においてはこれを除いた45 件について検討する。

(1) 事件の傾向、特色
  1. 申請人数から見ると、申請人数100 人以上の事件が29 件(64.4%)を占め、参加事件を含めれば、1件当たりの申請人数は718 人となるなど、申請人数が多く、住民運動的な事件となっている。
  2. 被害発生前の段階で侵害の未然防止のため発生源対策、事業の差止め又は計画の撤回等を求めるいわゆる「おそれ公害事件」が36 件(80.0%)あり、その割合が高い。
  3. すべての事件で事業主体である国、地方公共団体及び公団等行政主体が被申請人となっている。

(2) 申請内容
 検討対象とした45 件について、申請理由を見ると、健康被害(19 件)、感覚的・心理的被害(10 件)、財産被害(4件)、環境悪化(24 件)のほか、これらの被害に併せて、計画段階における住民への説明不足等住民対応不適切(15 件)の主張がなされており、計画段階で住民の意見を反映する場がなかったことに不満を抱いていることを窺(うかが)わせる主張が見られる。
 次に、申請の趣旨について見ると、建設計画の差止めを求めるものが33 件、公害防止対策の実施を求めるものが30 件と多く、以下、金銭支払9件、情報公開5件、住民との協議実施2件などとなっており、申請人らに対する情報提供や協議の場の設定を求めるものが見られる。

(3) 調停成立の難易
 事件が終結した41 件の内訳は、調停成立(一部成立も含む。)15 件(36.6%)、打切り 18 件(43.9%)、取下げ7件、調停をしない措置1件となっている。これを審査会等が受け付けた全事件と比較すると、成立率が12 ポイント低く、逆に打切り率は6ポイント高くなっている。

(4) 合意内容
 調停が成立した15 件について、合意内容を類型別に分類すると、「発生源対策(遮音壁、防音築堤、植樹帯の設置、車線の移行、歩道の拡幅、路面舗装の改良など)」(12 件)、「包括的精神条項(環境の保全、環境基準の維持、交通環境の改善など)」(12 件)、「協議事項の確認・協議体制の整備(将来の延長、既設道路への接続等について協議、交通量増加時の対策、環境基準の維持が困難な場合の対策協議、関係協議機関の存続、関係協議機関への住民代表の参加、将来の話合いの約束、窓口の設定など)」(10 件)、「情報公開(調査結果等の公開、工事説明会等の開催など)」(9件)、「調査の実施・協力(騒音、振動、大気汚染物質濃度、交通量等の調査、健康調査の実施、住民の調査立会いの承認、測定に対する協力の約束など)」(9件)などとなっている。

(5) 成立、不成立の要因
 ア 成立の要因
 申請人が計画の撤回等に固執せず、紛争解決のために柔軟な姿勢を示したこと、一方、被申請人も可能な範囲内で公害防止ないし環境保全策を講ずるなどの譲歩を示したことが、調停が成立した最も大きな要因であると考えられる。その他、当事者に係る成立要因としては、申請人については、被害発生防止のための具体的な対策案を積極的に提示したこと、被申請人については、申請人の具体的な対策要求があった場合、合意成立前であっても実施可能な対策であれば速やかに実施して申請人の信頼を得たことや申請人の公害防止対策等の提案に対して逆提案を行う等して話合いを軌道に乗せたことがある。
 また、調停成立の要因となったと考えられる調停委員会の対応には、ア)工事中止勧告等調停前の措置の活用、イ)現地調査等の実施、ウ)参考人(専門家、関係行政機関の担当者)からの意見聴取、エ)申請人に対する情報の提供(被申請人に道路計画策定の経緯や根拠を開示、説明させることにより、建設計画についての申請人の理解を深めること)、オ)争点に対する見解の表明(予測交通量等の被害予測や防止対策の前提条件について争いがある場合、調停委員会が適当な段階で見解を示し、以後の議論の前提とすること)、カ)手続の分離、利害関係人の参加、キ)受諾勧告の活用などがある。

 イ 不成立の要因
 調停が不成立に終わる最も大きな要因は、当事者の頑なな態度にある。例えば、申請人に係る要因としては、調停委員会の説得にもかかわらず、ア)計画の中止・撤回やルート・道路構造形式の計画変更等道路建設計画の本質的部分の変更に固執すること、イ)調停手続の進行について申請人内部で意思統一が図れないことがあげられる。また、被申請人に係る要因としては、申請人の当事者適格を問題にしたり、道路建設計画の差止めを求めることは民事上の紛争には該当せず、調停にはなじまないなどと主張して、実質的な話合いに応じないことがあげられる。
 その他の不成立要因としては、環境影響評価についてその信頼性や実施の要否をめぐって双方の主張が対立し、打開策が見いだせないことなどがある。

2 公害調停による道路に関する公害紛争の解決

 道路に関する公害紛争については、公害紛争処理法に基づく公害調停が紛争の解決に優れていると考えられる。

(1) 公害調停においては、民事訴訟手続のような弁論主義や証明責任の原則は採用されておらず、主張立証責任の存否にとらわれず、調停委員会の合理的な裁量によって話合いを進めることができる。また、必要な資料については、当事者に提出を促しても不十分な場合には、調停委員会が積極的に収集することもできる。

(2) 道路に関する公害紛争事件では、道路建設による公共の利益と地域住民の環境利益という複雑で困難な利益の調整を求められることになるが、公害調停においては、単なる「発生源対策」だけでなく、道路供用開始後の「調査の実施」、「情報の公開」、「協議事項の確認・協議体制の整備」等の点について合意することによって、このような課題に応えることができる。

(3) 道路に関する公害紛争事件においては、調停の進行過程において、被申請人以外の行政機関との連絡、調整を図る必要が出てくることも予想されるが、公害調停においてはこれに対応することも可能である。

3 道路に関する公害調停事件運営上の留意点

 道路に関する公害調停事件については、前述した特色を踏まえて、事件処理に当たることが必要である。

(1) 基本的なハンドリング
 道路に関する公害調停事件については、事業主体である国、地方公共団体及び公団等行政主体が被申請人とされるが、これらのものは、法律や計画等により事業の実施が義務付けられていることから、その裁量により行える部分は一定の範囲のものにとどまり、計画の中止や本質的な部分について変更を加えることは困難である。したがって、調停作業を行うに当たり、計画の中止や本質的な部分の変更を視野に入れて作業することは非現実的であり、調停委員会としては、最終的には計画の本質部分の実施を前提とした上で、具体的な公害防止ないし環境保全対策を検討するような方向で当事者をリードする必要がある。
 また、調停作業に当たっては、公害防止ないし環境保全対策について合意が得られるよう当事者の説得を行うことが最も重要であるが、この種事件が住民運動的な色彩を持ち、申請人が道路建設までの過程で十分な情報を開示されなかったことが紛争が深刻化した要因であると考えられることを考慮すると、道路供用開始後の「調査の実施」、「情報の公開」、「協議事項の確認・協議体制の整備」等のいわゆる付随的な事項についても当事者間で合意が成立するように話合いをリードし、将来この点をめぐって紛争が再発しないような手当てをしておくことが望まれる。
 他方、申請人が計画の撤回等に固執し、調停委員会の度重なる説得にもかかわらずこれに応じないような場合には、調停の打切りを検討することになろう。

(2) 当事者の信頼関係の醸成について
 道路に関する公害調停事件について紛争が深刻化する要因として、住民が計画の策定段階において、事業の目的や内容、それによる生活環境への影響等について、十分な情報公開を受けていないという不満や事業者に対する不信感があるものと考えられる。
 したがって、調停委員会としては、当面、申請人の被申請人に対する不信感を払拭することに留意して手続を進めていくことが必要になろう。例えば、調停手続の中で、被申請人に対し、当該道路計画が策定され、あるいはルートが決定されるに至った経緯、道路供用による騒音、大気汚染等についての被害の予測に関して、資料を示した上で十分な説明を行うとともに、申請人の質問に誠意を持って答えるよう求め、このようなことを通じて当事者相互の信頼関係を醸成するように図ることが考えられる。その他、調停委員会として、必要に応じ、現地調査を実施したり、中立的な立場にある専門家の意見を聴取したりすることも、当事者からの信頼を得るには効果的である。

(3) その他
 
道路に関する公害調停事件のような申請人が多数に及ぶ事件の場合、申請人の間でもいわゆる強硬派から穏健派まで多種多様な意見が存在することが考えられる。そこで、調停委員会としては、まず申請人の代表者として活動している者が果たして申請人の多数の意見をまとめる力量があるのかを見極める必要があり、それが不足しているならば、調停委員会において、多数の意見を集約するために申請人に働きかける必要がある。
 また、申請人が多数の場合、申請人間の利害関係が必ずしも一致しないことも考えられる。このような場合、調停委員会としては、手続を分離するなどして、利害の共通するグループごとに手続進行を図るなどの対処をすることも必要であろう。

公害等調整委員会事務局

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