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集団で申請することはできますか?(その1)

ちょうせい第10号(平成9年8月)より

プラクティス公害紛争処理法 ‐第10回 集団申請型公害紛争について

はじめに

 公害紛争処理制度は、「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲の……(略)……被害」(環境基本法第2条第3項)についての紛争を対象としており、当事者、特に申請人が多数に及ぶことが多い。
 しかし、公害等調整委員会(以下「公調委」という。)及び都道府県公害審査会等(以下「審査会」という。)においてこれまでに処理した事件についてみると、一口に申請人が多数であると言っても、申請人同士の関係や申請に至る経緯などにより、いくつかの異なるグループに分かれており、また、それぞれのグループ毎に、申請の内容、手続の経過、手続の帰趨(きすう)などに一定の傾向があることに気付く。
 そこで、今回は、申請人が多数である事件に焦点を当て、申請人の集団としての特性を明らかにし、それが手続の帰趨(きすう)にどのような影響を与えているかを分析してみたい。

1 集団申請型公害紛争

 まず、分析の対象を、「(1)個人若しくは家族又は日常的つきあいのある近隣住民の範囲を超える相当数の住民が、(2)公害・環境問題に対処するために何らかの意思統一を図り、(3)住民全員又はその代表者が申請人となり、(4)損害賠償、原状回復、公害防止対策、事業差止め、情報公開、環境影響評価の実施、住民との協議の実施、政策変更等を請求した事件」に限定し、これを「集団申請型公害紛争事件(以下「集団事件」という。)」と定義することとする。(また、集団事件以外の事件を「個人等申請型公害紛争事件(以下「個人等事件」という。)」と呼ぶこととする。)
 なお、上記の定義によると、申請人が少数でもその背後に多数の住民がいる場合には集団事件となる。また、代表者と代理人は区別されており、上記定義では代表者に着目しているものである。ただし、実際には、住民の代表者が代理人となっている場合も多いと考えられる。

2 都道府県審査会等における事件の概況

 はじめに、審査会において平成元年度以降に受付け、8年度までに終結した事件210件について、それらを上記の定義にしたがって分類すると、集団事件が82件、個人等事件が128件となる。
 公害の発生源別の分布を見ると、集団事件では、ゴルフ場が82件中36件と最も多く、廃棄物処分場等の18件、工場等の13件が続く。個人等事件では、工場等が128件中59件で断然多く、工事の13件、店舗と家庭のそれぞれ12件が続いている。
 被害が既に発生しているか未だ発生していないか(いわゆる「おそれ公害」)で見ると、集団事件で82件中60件が未発生であるのに対し、個人等事件では、128件中120件が既発生であり、顕著な違いがある。
 終結区分について見ると、成立の他に、一部成立、手続外で解決したことによる取下げを解決と評価した場合、集団事件では、82件中30件が解決したのに対し、個人等事件では、128件中63件が解決しており、集団事件の方が解決がより困難であることがうかがえる。

3 集団事件の類型化

 以上概観したように、集団事件と個人等事件では、発生源、被害発生の有無及び被申請人について、それぞれ異なった傾向を示しており、さらに、解決率にも違いが見られることから、申請人の態様というものが、事件の内容や公害紛争処理の成否をある程度規定しているのではないかと推測される。そこで、集団事件を、その申請人の態様(組織化の形態)に応じて次の3つの類型に分類し、更に詳しい分析を試みることとする。

  1. 自然発生型集団:公害問題の発生を契機に、相当数の住民が、自然発生的に組織化されたもの
  2. 既存組織依拠型集団:公害問題に対処するため、既に存在する他の目的を有する団体(町内会、経済団体など)を足掛かりにして組織化されたもの
  3. ネットワーク型集団:公害問題に目的意識的に取り組む複数の個人・組織が、ネットワーク的に組織化されたもの
 もちろん、これらの類型には相対的な違いしかなく、その境界は曖昧である。さらに、自然発生型あるいは既存組織依拠型の集団が、時間の経過とともにネットワーク型の集団へと転換するなど、更に類型の適用を困難にする状況も見られる。この場合には、今回の分析の趣旨に沿って適宜判断し、何れかの類型に整理した。

4 集団事件の分析

 上記の類型に従い、都道府県公害審査会等において平成元年度以降に受付けた集団事件82件を分類すると、自然発生型39件、既存組織依拠型12件、ネットワーク型31件となる。
 それぞれの集団類型毎の解決件数を見ると、自然発生型が39件中15件、既存組織依拠型が12件中7件、ネットワーク型が31件中8件となり、集団類型毎に解決率に顕著な違いがある(表1)。
 このように、集団類型によって解決率に格差が生じるのはなぜであろうか?

(1) 集団事件に係る公害の状況
 そこで、まず、組織化の契機となる公害の状況について、発生源及び被害発生の有無から見てみる。自然発生型は幅広い発生源に分布し、全体の平均と比べ既発生がやや多く、集団事件の標準タイプとみなすことができる。これに対し、既存組織依拠型では、廃棄物処理場等と工場等で12件中9件、既発生が12件中7件を占めている。他方、ネットワーク型では、ゴルフ場が31件中24件を占めており、残りは道路4件、廃棄物処理場等3件のみである。その上、未発生が31件中28件である。

(2) 解決率の違いを説明する要因の分析
 一般的に、公害紛争処理の成否は、公害の規模や深刻度によって最も強く規定されていると考えられることから、発生源や被害発生の有無の影響を強く受けるはずである。先に見たように、特定の集団類型は特定の発生源、被害発生の有無と結びつき易いので、集団類型によって違うように見える解決率は、発生源や被害発生の有無を反映したものにすぎないかもしれない。そこで、これらの要因と集団類型毎の解決率との相関関係を見ておく必要がある。
 まず、集団事件の発生源の上位3位であるゴルフ場、廃棄物処理場等及び工場等について解決率を見ると、それぞれ、36件中13件、18件中7件、13件中5件となり、ほとんど変わりがない。これを集団類型毎に見ても、既存組織依拠型は傾向的に高く、ネットワーク型は傾向的に低いという違いはあるものの、何れの類型においても発生源毎の解決率に顕著な違いは見られない(表2)。このことから、発生源から解決率の違いを直接説明することはできないと考えられる。
 次に、被害発生の有無と解決率との関係を見ると、未発生が60件中23件、既発生が22件中7件と、未発生の方が解決率が高い。集団類型毎に見ても、何れの類型においても未発生の方が解決率が高い。ところが、未発生事件の多いネットワーク型は解決率が低く、既発生事件の多い既存組織依拠型は解決率が高いなど、矛盾する事実が確認できる。したがって、被害発生の有無も解決率を説明する中心的な要因ではないと考えられる。

(3) 解決率を説明する申請人集団に内在する要因
 このように、集団類型による解決率の違いは、公害の状況からだけでは説明できない。そこで、集団類型による解決率の違いを申請人集団に内在する要因から説明するための一つの試みとして、請求事項と合意事項から集団類型毎の交渉姿勢を探ってみることとする。
 集団事件における請求事項は、事業差止、公害防止対策及び政策変更の3つにほぼ集約されるが、集団類型毎にその重点が微妙に変化している。すなわち、自然発生型では、事業差止めが39件中24件、公害防止対策が26件、政策変更が10件であるのに対し、既存組織依拠型では、事業差止が12件中8件、公害防止対策が8件、政策変更が3件、ネットワーク型では、事業差止が31件中23件、公害防止対策が12件、政策変更が19件となっている。ネットワーク型がより根源的な請求をする傾向にあると言える。
 一方、合意事項について見ると、公害防止対策が30件中20件と最も多く、事業中止や、政策変更はそれぞれ7件、2件と少ない。精神条項(18件)や協議実施(14件)、アセスメント等調査実施(12件)、情報公開(11件)、補完条項(11件)等の手続的事項も多くなっている。この傾向は集団類型毎に見ても同様である。
 ただし、これからは、請求段階では事業差止めを求めたものが最終的に公害防止対策で合意した場合など、請求事項が合意事項にどのように反映されたかは十分わからない。そこで、制度上独立して請求し得る事業差止めと公害防止対策について、請求事項の合意事項への反映を見てみる(表3)。
 請求段階で事業差止めを求めて最終的に解決した事件20件中、事業中止に至ったものは7件で、請求事項が実現する度合いはかなり低い。しかし、残りの13件は全て公害防止対策に結びついている。他方、公害防止対策を求めた事件17件では、公害防止対策に結びついたものは12件ある。また、残りの5件のうち1件は事業中止、3件は問題が生じた場合には公害防止対策をとることが合意されている。
 これを集団類型毎に見ると、請求事項が合意段階でそのまま実現される程度は、集団類型のいかんにかかわらず、かなり近似している。すなわち、事業差止めについては、自然発生型が24件中3件、既存組織型が8件中1件、ネットワーク型が23件中3件となっており、また、公害防止対策については、それぞれ、26件中7件、8件中2件、12件中3件となっている。しかし、請求事項以外の事項で合意に至る度合いは、集団類型によって非常に違いがある。すなわち、事業差止めについて請求事項以外の事項で合意に至っている事件は、自然発生型では24件中7件、既存組織依拠型では8件中3件、ネットワーク型では23件中3件となっており、また、公害防止対策では、それぞれ、26件中3件、8件中2件、12件中0件となっている。この違いが、解決率の格差として現れるものと考えられる。

5 集団の行動特性に関する仮説的結論

 以上の分析から、おぼろげながら集団類型毎の交渉姿勢が浮かび上がってくる。
 自然発生型は、事業差止めを請求しても公害防止対策を併せて請求するものも多く、合意段階では、事業中止に至らなくても、公害防止対策の実施等で決着させる場合が少なからずある。
 既存組織依拠型の交渉姿勢は、自然発生型と基本的に大きな違いはない。解決率の高さは、紛争の範囲が比較的狭い上、組織的活動がし易いためではないだろうか。
 ネットワーク型では、事業差止と政策変更というより根源的な請求をする傾向があり、しかも、最後まで請求事項を実現しようとする姿勢が強い。これが解決率を低くする要因ではないだろうか。

6 集団の行動特性と調停に当たっての留意点‐公害等調整委員会処理事件から

 もとより、集団の行動特性は、集団形成の契機、集団の目的、構成員、意思決定の方法、代表者のリーダーシップ等によって異なると考えられ、その分析は、統計処理的手法の限界を超えている注1)。それらを含んだ結論は、個々の事件の具体的分析を待たねばならず、今後の都道府県における検討を期待したい。
 ここでは、そのための一つの手掛かりとして、公調委処理事件について分析してみた。ただし、本来であれば、統計処理的手法により得られた仮説的結論に則して、個別事件の細部にわたる比較検討を記述すべきところであるが、紙面の都合もあるため、以下では、その結論部分のみ記述することとする。
 なお、公調委が扱う事件は、調停等では重大事件、広域処理事件及び県際事件しか扱わないこと、裁定手続があることなどにより、審査会等とはその扱っている事件の性質がことなることに留意する必要がある。

注1)このことは、公調委においてこれまでに係属した事件の計数分析にも表れている。申請人の類型については、集団事件が28件、個人等事件が15件となり、さらに、集団事件については、自然発生型が7件、既存組織依拠型が6件、ネットワーク型が15件となる。また、平成8年度までに終結した事件について解決率を見ると、個人等事件では15件中7件、集団事件では22件中18件が解決している。これを集団類型毎に見ると、自然発生型では5件全て、既存組織依拠型では6件全て、ネットワーク型では11件中7件が解決している。

7 集団の行動特性留意点

(1) 集団の目的と交渉姿勢
 はじめに、集団の交渉姿勢は、その集団がどのような目的を持っているか、また、その目的がどの程度具体的であるかによって、大いに違ってくると考えられる。自然発生型は、表面的な請求事項はともかく、目的自体に幅があり、また、請求事項が明確でない場合も多い。このような場合には、調停委員会等の主導で請求事項を具体化していくことが大切である注2)。他方、ネットワーク型は、当初の請求事項に固執する傾向があるが、これは、メンバーの環境意識が高く、政策志向的であること、明確な目的の下に集団が組織化されていることなどによると考えられる。したがって、請求事項に拘らず、集団としての真の目的、組織の構成等を可能な限り把握することが大切である。また、請求事項が、政策変更など調停に馴染まないものを含む場合も多く、この場合、修正を促す必要がある。もちろん、ネットワーク型であるから解決が困難であるということではなく、その目的の範囲内で合理的な調停条項に収斂させ得るものもあるので、粘り強く対応することが大切である注3)

注2) 例:道路騒音等責任裁定事件(昭和62年(セ)第2号・昭和63年(セ)第1号・平成元年(調)第5号事件)では、申請人からの具体的要求事項を検討するという形ではなく、調停委員会から被申請人に対し、公害防止のために既に講じている対策及び講じようとしている対策についての情報提供、説明等を促し、申請人の理解を得るという形で手続が進められた。
注3) 例:山梨・静岡ゴルフ場農薬被害等調停申請事件(平成2年(調)第12号事件)では、当初、申請人はゴルフ場の建設中止を求めていたが、申請人集団の目的は富士山の自然保護という比較的広範なものであったため、低農薬管理、水質監視、吸着剤を埋設した貯留浸透池の設置等を内容とする調停条項で合意が成立した。


(2) 集団の意思の決定とリーダーの役割
 次に、リーダーの役割は、集団の構造、とりわけ意思決定の方法によってかなり違ってくるであろう。意思決定の方法が厳密にルール化されていれば、リーダーといえども、集団の決定に強く拘束されるが、それが曖昧な場合には、リーダーの裁量の余地が広くなる。既存組織依拠型は、意思決定の方法も既存の組織におけるそれに従っており、リーダーや代理人が集団の意思を適切に代弁していると考えられる。他方、自然発生型の中には、集団としての具体的な統一意思が形成されていないものも多く、その場合には、リーダーや代理人の意思が大きな影響力を持っていると考えられる。また、まとまりの比較的緩やかな集団は、集団としての意思統一がしにくく、あるいは、時間がかかる場合があり、適切な助言を行うことや手続の進行について配慮する必要がある。ネットワーク型では、意思決定の過程での統一を図るため、最大公約数的・硬直的な方針を採用する傾向がある。また、リーダーの中には支援者的な関与の者もみられ、その者が集団全体を適切に代弁していない場合には、状況を十分に見極めた上で、手続を分離する等の検討をすべきである。

(3) 集団内の意見の不一致
 また、集団事件の処理を困難とする場合の一つとして、申請人集団内で意見の不一致がある場合がある。これは、特に、紛争の解決のために何らかの譲歩を必要とする時に顕在化し易い。このことは、集団の目的にどの程度の許容度があるか、意思決定の方法がどのようなものであるか、代表者のリーダーシップがどの程度強いかなどとも深くかかわっている。まとまりが比較的緩やかな集団の場合、柔軟な対応が期待される一面で、手続の経過とともに一般のメンバーの関心が薄れ、リーダーや代理人はかえって態度を硬化させるといったことも見受けられる。また、合理的な調停案について、集団の目的と反するが故に集団としては受け入れられない場合でも、集団を構成する個々のメンバー個人としては受け入れられることもある。このような場合には、受諾勧告を行い、調停案を公表することが有効と考えられる。調停案の公表には、調停案を社会に問うことにより、当事者双方の互譲を引き出す機能がある注4)

注4) 例:北陸新幹線騒音防止等調停申請事件(平成3年(調)第8号・平成4年(調)第1号事件)では、北陸新幹線の騒音防止対策等を内容とする調停条項がまとめられたが、「新幹線のフル規格反対、在来線のJRからの分離反対」という目的に反するため申請人集団としては受け入れられないとのことから、受諾勧告、調停案の公表を行い、2人について個人として調停が成立した。

おわりに

 集団申請型公害紛争事件の定義をはじめ、自然発生型集団、既存組織依拠型集団、ネットワーク型集団の3類型分類などは、今回の分析のために仮に設定した概念であり、個々の事件が、それぞれ有する個別の事情等を、必ずしも適切に反映してはいない。しかし、これまで申請人の組織形態に着目して、その特性を分析するという試みがなされたことはなく、今回の試みが、公害紛争処理制度の分析に新たな視点を加えることとなれば、所期の目的は達せられたと言えるのではないか。
 なお、統計的分析を使用し、又は個別事件の比較検討の結論部分を実際の事件に適用する場合には、今回の分析に内在する限界について十分に理解した上で、使用・適用していただきたい。

公害等調整委員会事務局

表1 集団類型別終結区分
  合計 解 決 合計 非 解 決 合計
成立 一部
成立
取下げ
(解決)
取下げ 打切り  却下
個人等  63  46  8  9  65  12  52  1  128
集団  30  16  7  7  52  1  51  0  82
 自然発生型  15  9  2  4  24  0  24  0  39
 既存組織依存型  7  5  2  0  5  0    5  0  12
 ネットワーク型  8  2  3  3  23  1  22  0  31

表2 集団類型・発生源別終結区分(主な発生源のみ)
  合計 ゴルフ場 合計 産業廃棄物
処理場等
合計 工場等
解決 非解決 解決 非解決 解決 非解決
合計 36 13 23 18 7 11 13 5 8
 自然発生型  12  5  7  10  4  6  9  3  6
 既存組織依存型  0  0  0  5  3  2  4  2  2
 ネットワーク型  24  8  16  3  0  3  0  0  0

表3 「事業差止」「公害防止対策」を請求した事件の終結内容
  合計 事業差止 合計 公害防止対策
解決   非解決 解決   非解決
事業
中止
公害防止対策 公害防止対策 事業
中止
その他
合計   55
100%
 20
36.4%
  7
12.7%
 13
23.6%
 35
63.6%
  46
100%
 17
37%
 12
26.1%
  1
2.2%
  4
8.7%
 29
63%
 自然発生型  39件   24
100%
 10
41.7%
  3
12.5%
  7
29.2%
 14
58.3%
  26
100%
 10
38.5%
  7
26.9%
  1
3.8%
  2
7.7%
 16
61.5%
 既存組織依拠型 12件    8
100%
  4
50%
  1
12.5%
  3
37.5%
  4
50%
   8
100%
  4
50%
  2
25%
  0
 0%
  2
25% 
  4
50%
 ネットワーク型 31件   23
100%
  6
26.1%
  3
13%
  3
13%
 17
73.9%
  12
100%
  3
25%
  3
25%
  0
 0%
  0
 0%
  9
75%

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