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調停調書、調停条項の書き方

ちょうせい第9号(平成9年5月)より

特集 ‐調停調書、調停条項の書き方

1 はじめに

 調停期日注1)が開かれた場合、調停委員会は、調停の手続について、その必要がないと認めたときを除き、調書を作成しなければならないとされています(公害紛争処理法施行令第15条の2)。しかし、調書にどのような事項を、どのように記載すべきかについては定めがないので、初めて調停事件に携わった担当者の方は、調書の作成に戸惑うこともあるかも知れません。そこで、今回の特集は、書式例を紹介しながら、調書の記載事項、調書作成に当たって留意すべき事項等を説明することにします。注2)

注1) 調停の手続は、通常、調停委員会が日時、場所を定めて当事者等の関係人の出頭を求め、その意見を聴取したり、資料の提出を求める形式で進められますが、このような形式で手続が行われる日時又は「場」のことを調停期日あるいは期日と呼び、調停委員間あるいは事務局員を加えて内部的会議として実施される「調停委員会」とは明確に区別されます。
注2) 調停調書と言う場合、調停期日調書のほか、期日における参考人等の意見の要旨を記載した調書、立入検査調書、現地調査調書等があり、これらが全体として一つの調書を構成しています。本稿では、誌面の関係上、主として調停期日調書についての説明に限らせていただきます。

2 調停期日調書の意義等

 調停期日調書は、調停期日の開始から終了までの間に行われた事柄を記録するものですが、議事録や速記録とは異なり、手続の進行を一言一句漏らさずに記載する必要はありません。調書作成の目的が手続の進行状況を調書自体から把握することにあることや、当事者の主張等を詳細に記載することがかえってその後の円滑な話合いに支障を及ぼすことがあること(調書は、閲覧の対象になることに注意してください。施行令第15条の3参照)等を考慮すると、調書には必要最小限度の範囲で手続の概要等を簡略に記載すれば足りるといえます。また、調書には当事者が提出した書面(調停申請書、答弁書、準備書面等)の全部または一部を引用することができますし、調書に書面、図面あるいは写真等を添付して調書の一部とすることも許されます。要は、個々の事件の持つ特殊性や手続の内容に応じて工夫をこらし、手続の進行状況を正確に把握できるように作成することです。
 なお、調停期日が複数回にわたって開かれた場合には、調書は期日ごとに作成する必要があり、数回分をまとめて一つの調書にすることはできません(これを「一期日一調書の原則」といいます。)。

3 調停期日調書の記載事項及び留意点

 調停期日調書は、期日が開かれたときに作成する基本的な調書で、通常書式例1のように(1)事件の表示、期日、場所等の形式的記載事項と(2)実質的記載事項である手続の概要とを記載します。

(1) 形式的記載事項
  期日の記載に関し、年月日は元号を用い、時間は分単位(正時の場合は00分)で記載する必要があります。他の期日との区別を明確にするためです。
  期日の回数に関し、まず、当事者双方が欠席した場合も、期日開始前に期日が変更された場合を除いて回数に加えます。調停手続自体は実施されているからです。
  次に、調停手続が併合・分離された場合は、基本となった事件の回数に従います。例えば、A事件が3回、B事件が5回の調停期日を終了した後、B事件をA事件に併合した場合は、併合後に開かれた最初の期日の回数は、第4回となります。

(2) 実質的記載事項
  ア 手続の概要には、当該調停期日で行われた手続の要旨を記載します。具体的な記載事項としては、通常、(ア)調停委員会が行った決定その他の手続上の行為(代理人の承認、参加申立の許可、手続の分離・併合等)で、当該期日に当事者に告知したもの、(イ)申請人の調停を求める事項及びその理由に関する主張の要旨、それらに対する被申請人の答弁及び反論等、(ウ)調停期日において、参考人又は鑑定人に意見を求めた場合には、その意見の要旨等がありますが、その他、(エ)調停委員会が必要と認めた事項についても、調書に記載する必要があります。注3)

注3) なお、当事者から資料として文書等が提出された場合、期日調書の別紙として資料目録を作成し、これに文書の番号、提出された期日(期日外に提出されたときは提出年月日)、文書の表題等を一覧できる形で記載する方法もありますが、通常の場合は、資料を事実上記録に編綴しておけば足りると思われます。
 
 イ 当事者の主張等についての記載順序は、実際に行われた順序に従うのではなく、書式例1のように主張や反論の論理的順序によるべきことになります。すなわち、まず、申請人の調停を求める事項、その理由となる主張の要旨、次に、それに対する被申請人の申立て、申請人の主張に対する認否・反論の要旨、さらに被申請人の反論に対する申請人の認否・再反論というように記載します。
 そして、調停委員会の釈明や相手方当事者の意見等により、調停を求める事項の一部を撤回したり、変更をした場合、それが当該期日のどの段階で行われても、調停を求める事項に関するものとして、その部分に一括して記載します。また、同様に主張の撤回や変更があった場合にも、当該期日における最終的に整理された主張を論理的順序に従って記載することになります。

 ウ 参考人又は鑑定人の意見の要旨は、手続の概要欄の最後に記載します。それらの記載量が大部にわたるような場合には、別途「参考人調書」や「鑑定人調書」を作成し、手続の概要欄には「別紙参考人(鑑定人)調書記載のとおり。」とするのが適当でしょう。また、当事者から提出された資料について資料目録を作成する場合には、手続の概要欄には「資料関係は、別紙資料目録記載のとおり。」と記載した上、資料目録に文書の番号、提出の期日、文書の表題を記載することになります。

 エ 調停委員会が記載する必要があると認めた事項としては、次のようなものが考えられます。これらは、後に当該期日において何が行われたかを認識する上で、正式な記録として残しておいた方がよいと調停委員会が判断した事項です。
 (ア) 調停委員会が当事者に釈明を求めたこと及びその内容
 当事者の主張の不十分・不明確な点、あるいは矛盾があると思われる点について、調停委員会が調停期日において、趣旨を明らかにするよう釈明を求めた場合、その内容は次回以降の手続進行に種々の影響を及ぼすことが考えられますから、記録に残しておく必要性が高いといえます。また、これに対する当事者の応答も記録しておく必要性が高いと判断されることが多いと思われます。ただ、同一期日内で応答がなされた場合には、例えば、「○○に関する意見書の×項の記載は、△△という趣旨である。」というように、当事者の応答だけを記載するだけで足ります。
 (イ) 調停委員会が職権で決定すべき事項に関する当事者の意見や前提事実の説明
 例えば、調停手続の併合・分離は、調停委員会が職権で決定すべき事項であり、調停委員会としては当事者に意見を求めたり、当事者の意見に対して応答する義務はないため、本来、調書には決定の内容とそれを当事者に告知したことのみを記載すれば足ります。しかし、手続の併合・分離は、手続進行に大きな影響を与えることがあり、当事者としてもこれに重大な関心を寄せることが少なくないので、当事者が述べた併合や分離を求める事情やこれに対する相手方当事者の意見等を記載しておくことも、十分意味のあることだと思われます。
 (ウ) 調停委員会の調停作業とこれに対する当事者の応答等
 調停手続が相当程度進捗すると、調停委員会としては、調停作業を円滑に進めるために、作業の基本的な方針を示すことがありますし、これに対し当事者等も意見を述べることがあります。このような調停作業の重大な局面における当事者等の主張については、調書に記載する必要性が高いといえます。例えば、「申請人としては、○○施設の建設中止を主張していたが、今後施設建設を前提とした上で、騒音防止対策等具体的な環境保全対策について協議することに異議はない。」、「被申請人は、△△の建設計画の中止を前提とする協議には一切応じられない。」「被申請人は、できる限り騒音を発生させないように対策を採るつもりはあるが、申請人に慰謝料を支払う意思はない。」等と記載します。ただ、話合いの過程においては、調停委員会には話しても相手方当事者には知られたくない事柄もあります。前述したとおり、当事者は審査会等の許可を得て事件の記録を閲覧することができることを考えると、このような事項については、調書に記載してはならないことに注意してください。
 (エ) 次回の予定等に関する事項
 例えば、「申請人の○○についての主張に対する認否・反論は、事実を調査した上、次回期日に行います。」という被申請人の発言や、「次回期日までに○○に関する書面を提出してください。」という調停委員長の指示等は、特に法律的に意味のある手続上の行為ではありませんが、次回期日までに、あるいは次回期日に何をすべきかを記録に残して手続の進行管理に役立てるということからすれば、調書への記載の必要性は高いといえるでしょう。

4 調停が成立した場合

 調停が成立した場合、調書には、調停成立の事実、当事者及び代理人、調停を求める事項、合意内容(調停条項。書式例2参照)を記載します。合意が成立すると、当事者間には民法上の和解契約(民法第695条)が成立したことになるので、誰と誰の間でどのような内容の合意が成立したかが後に争いにならないように正確に記載することが必要です。

(1) 合意成立に至った当事者及びその代理人
 当事者の住所と氏名を正確に記載します。ワープロやパソコンを使用する場合、氏名に用いられる漢字には特に注意する必要があります。
 調停手続の途中で、氏名や会社の商号が変わった場合、あるいは住所が変わった場合には、調停成立時の氏名、商号、住所を記載します。
 申請人が死亡し、相続人が申請人の地位を承継した場合は、氏名の肩書きに「申請人亡○○承継人」と明記します。
 代理人も、例えば後見人がいる場合は「法定代理人後見人○○」、株式会社や有限会社は「代表者代表取締役○○」(有限会社の場合には「代表者取締役○○」もあります。)、合資会社や合名会社は「代表者無限責任社員○○」というように代理人の資格と氏名を正確に記載します。

(2) 調停を求める事項
 申請人の最終的な調停を求める事項を記載します。これは後述のとおり、調停を求める事項に対して、どのような結論になったかを把握するために記載しておくものです。

(3) 調停条項
 調停条項は、当事者の一致した合意内容を箇条書きにしてまとめたものです。調停条項は、権利義務条項と努力条項に大別されます。権利義務条項は、当事者間で権利義務の存否を確認したり、一方当事者の相手方当事者に対する権利行使や義務履行の方法等を定める条項です。努力条項は、相手方にその履行を請求することはできないが、互譲の精神を明らかにするために努力目標等を定めた条項で、紳士条項(協定)等と呼ぶこともあります。このうち権利義務条項は、特に、直接的に当事者の財産や行為(事業活動等)に作用するものですから、誰の誰に対する権利(義務)か、どういう内容の権利(義務)かということが明確であることが必要です。それらが、多義的に解釈できる調停条項を作成したのでは、その解釈をめぐって紛争が後日再発するおそれがあるからです。
 書式例2のうち、第3項は努力条項で、その他の項は権利義務条項です。
 第1項は、被申請人に対し、一定以上の音量の発生の禁止を求める権利義務条項ですが、ここまで細かく定める必要があるのか疑問をもたれるかも知れません。しかし、例えば、「被申請人は、その使用する音響機器から発生する音響について、申請人住居内に○○デシベル以上の騒音を発生させない。」という条項では、まず、被申請人が使用している音響機器が、当該条項に定める音響機器に当たるか否かで後に争いが発生するおそれがあります。また、「申請人住居内」というのも、居住建物全体なのか特定の一室を指すのか、ひいては敷地をも含むのかといった争いが発生することになりかねません。したがって、できる限り細かく禁止の内容を定めておくことが望ましいわけです。第2項及び第4項も当事者間の権利義務に係わる条項ですが、この程度明確に記載がなされていれば特段問題はないでしょう。
 なお、努力条項については、それが努力条項であることが一見して分かるよう「努力をする」、「努める」等の言葉を使用する方が適切でしょう。
 第5項の前段は、申請人が申し立てた「調停を求める事項」のうち、一部についてだけ合意が成立した場合に、他の事項については、仮に権利があったとしても今後は一切請求しないという趣旨です。この条項によって当初求めていた調停事項のすべてについて結論が出されたことになり、手続の開始段階と終局段階との整合性が保たれることになります。また、同項後段は、申請人と被申請人との間のカラオケ等の騒音をめぐる紛争について、たとえこの調停手続には一度も現れることのなかった権利義務が存在したとしても、一切不問にし、再び紛争としないことを定めた条項で、清算条項といいます。この清算条項も調停手続に現れた権利義務以外の権利義務の存否をめぐっての紛争の再発を防止するために重要な意味があります。ただ、このような清算条項を入れるためには、予め当事者の意思を十分に確認した上でなければなりません。というのは、当事者が調停条項に定めた事項以外の事項については、調停手続外(例えば裁判)で決着をつけたいと望んでいたとしても、このような清算条項があるとその途が閉ざされてしまうからです。
 以上ごく簡単に調停調書の作成の要領について説明をしてきましたが、適切で無駄のない調書を作成するためには、何よりも経験を積み、作成に慣れることだと思います。本稿が審査会等における調停実務のお役に立てれば幸いです。

公害等調整委員会事務局

(書式例1)
第1回調停期日調書
事件の表示 ○○県平成○年(調)第○号
期日 平成9年3月1日午後2時00分
場所 ○○○会議室
調停委員長  
調停委員  
調停委員  
出席した事務局職員  
当事者,代理人参考人,
鏡定人等の出席状況
 
次回期日 平成9年4月9日午後2時00分
手続の概要
調停委員長
 ○○から申請のあった代理人承認申請を承認する旨告知。
申請人ら
  1. 調停を求める事項は,調停申請書の「調停を求める事項」に記載したとおり。ただし,「調停を求める事項」中第3項は取り下げる。
  2. 調停を求める理由は,調停申請書の「調停を求める理由」及び平成9年3月1日付け「○○○」と題する書面の「調停を求める理由の補充」に記載したとおり。
被申請人
  1. 調停を求める事項に対する答弁及び調停を求める理由に対する認否・反論は,答弁書に記載したとおり。
  2. 被申請人の本件事業場の概要,営業の実態等は,3月末日までに書面で報告する。

                                             ○○事務局
                                                  ○ ○ ○ ○ 印
                                             調停委員長
                                                  ○ ○ ○ ○ 印


(書式例2)
  1. 被申請人は,申請人に対し,被申請人が別紙物件目録記載の建物において使用するカラオケ,有線放送,テープレコーダー,レコードその他これに類する音響設備(以下総称して「カラオケ等」という。)から発生する音響につき,平成○年○月○日以降,毎日午後6時から午後11時までの間,申請人方の台所に接続する3畳居間の中央部西側壁面下部より10cmの地点において,○○デシベルを超える音量を発生させない。
  2. 被申請人は,申請人に対し,前項の期日以降,毎日午後11時から翌日午前7時までの間は,前項のカラオケ等を使用しない。
  3. 被申請人は,カラオケ等を使用して営業するに際しては,常に申請人の静穏な生活,睡眠の確保に留意し,特に午後10時以降においてカラオケ等を使用する場合は,できる限りその音量を下げて使用するよう努力する。
  4. 被申請人は,申請人に対し,本件解決金として金○○万円の支払義務のあることを認め,これを平成○年○月○日限り,申請人方に持参又は送金して支払う。
  5. 申請人は,その余の請求を放棄し,申請人と被申請人は,本件に関し,本調停条項に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。
  6. 本件調停費用は,各自の負担とする。

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