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国地方公共団体を相手に申請された事件の取扱い

ちょうせい第2号(平成7年8月)より

プラクティス公害紛争処理法 ‐第2回 行政主体を被申請人とする事件の取扱い

1 はじめに

 公害紛争処理制度では、「公害に係る被害について、損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合」(公害紛争処理法第26条第1項)に、あっせん、調停又は仲裁の申請ができることとなっている。ところが、係属事件の実態を見ると、公害等調整委員会(以下「委員会」という。)や都道府県公害審査会等(以下「審査会」という。)に係属した事件のうちには、行政主体(国、地方公共団体等)を被申請人とする事件が、約2割と相当の割合を占めている状況にある。
 行政主体を被申請人とする事件を扱う上で、「民事上の紛争」との関係をいかに考えるか、どのように手続を進めていくかということは、委員会及び各審査会で各々工夫して対処しているところであるが、今回は、これらの点をテーマとして取り上げ、特に調停にポイントを絞って、過去の事例について共通する考え方の整理を試みることとする。

2 請求事項からの分類

 まず、行政主体を被申請人とする事件を請求事項に着目すると、次のように分類することができる。
  1. 行政主体に対し損害賠償を請求する事例
  2. 行政処分の発動・取消し・変更、法律・条例等の制定・改廃、一般処分(例:騒音規制法の地域指定)等の発動・取消し・変更など、行政主体が公権力の行使として一方的に行う行為(不作為を含む。以下同じ。)を請求する事例
  3. 上記I、II以外の行為を請求する事例

3 行政主体に対し損害賠償を請求する事例(分類I.)

 行政主体に対する損害賠償請求は、違法な行為によって現実に生じた損害という事実に着目してその補填を求めるものであり、公害紛争処理制度で扱う「民事上の紛争」として整理できる。
 国家賠償法に関する判例の考え方においても、「国又は公共団体が本法(国家賠償法)に基づき損害賠償責任を負う関係は、実質上、民法上の不法行為により損害を賠償すべき関係と性質を同じくするから、本法に基づく損害賠償請求権は私法上の金銭債権」(最高裁判所昭46.11.30判決、民集25-8-1389)とされ、民事上の請求として扱われている。
 以上のとおり、分類Iの事例は、私人間の一般の事件と同様に扱い得ると考えられるが、実質的には特定の行政処分の効力が争われているような場合は、慎重な取り組みが要請されよう。
 損害賠償を行政主体に請求し、成立した実例を一つ紹介しよう。

ケース1
 ○○市が一般廃棄物の処理を適正に行わず、汚水が浸出し、水田耕作が不能となったため、○○市に対して損害賠償等を請求する調停申請が行われた。手続を進めた結果、○○市が金××円を申請人に対して支払うこと等を内容とする調停が成立した。

4 行政主体が公権力の行使として一方的に行う行為を請求する事例(分類II)

 この分類に該当する事例は、公害紛争処理制度で扱う「民事上の紛争」には該当しないという整理ができる。
 これらの行為は、行政主体が、政策的判断の下、公権力の行使として一方的に行うものであり、当事者間の自由な意思による合意に基づき行われる行為ではない。また、その結果は紛争の当事者のみならず、広く不特定多数の者に影響を及ぼすものである。したがって、これらの行為に係る紛争は、性質上、当事者間の自由な意思による合意に基礎を置く調停にはなじまないと考えられる。
 分類IIの事例は、私人間の一般の調停と同様に対処することは適当でなく、以下のような取扱いをすることが考えられる。
  1. 申請前の相談段階においては、公害に係る民事紛争を扱うという本制度の趣旨を十分説明し、請求事項の変更・補正を求めるといったことも含め、適切な事前指導に努める。
  2. 分類IIの請求に係る申請を受付けた場合には、「民事上の紛争」に該当しないことをもって手続を拒否するといった判断を早急に行うのではなく、申請書の記載には表れていないが、互譲の精神の下、当事者間の自由な意思による合意が可能な事項を見いだすべく努力し、紛争解決をめざすことが重要である。 手続を進めたものの、当事者間の自由な意思による合意が可能な事項が見いだせなかった場合には、調停をしない(公害紛争処理法35条)、調停の打切り(同法36条)の措置をとるか、申請人に申請の取下げの考慮を促すといったことを行うことになろう。
  3. 原則的には、以上1.、2.のとおりであるが、申請書、当事者双方からの事情聴取等から判断して、申請人があくまで分類IIのみに係る請求を求め、他に合意に達しうるような事項が見いだせないことが明らかである場合には、申請要件を欠く調停であるから、速やかに却下を行うこともあるであろう。
 当初は分類IIに該当する請求であったが、手続を進めていき、調停成立に至った例を紹介する(ケース2)。また、行政主体との関係では民事上の紛争に該当しないとして、調停をしない措置をとったが、その他の被申請人との関係では調停が成立した例も紹介する(ケース3)。

ケース2
 A会社の私道拡張計画に関し、A会社に対し計画の中止を求めるとともに、B市に対し同計画の許可申請を承認しないことを求める調停申請が行われた。手続を進めていった結果、A会社は交差点付近の部分改良、植樹、街灯設置の実施等を行うこと、また、B市は地元自治会に対する当該工事の事前・事後の説明会の実施等を行うことを内容とする調停が成立するに至った。

ケース3
 A会社が計画中のゴルフ場について、A会社に対しては事業中止を、B県知事に対しては開発許可の取消しを求める調停申請がなされた。手続を進めていった結果、B県知事に対する許可の取消しを求める部分は「民事上の紛争」に当たらないとして調停をしない措置がとられたが、B会社との関係では、農薬使用量を控えること等を内容とする調停が成立した。

5 上記I、II以外の行為を請求する事例(分類III)

 この分類には、営造物の設置・管理、行政指導等主に事実上の行為を求めるものがここに該当する。一応、これらは、「民事上の紛争」として整理することができよう。
 この分類は、上記I、IIの分類以外という定義であるため、様々なものが混在しており、中には「民事上の紛争」として調停の対象とするのが適当でないものもあることに留意する必要がある。
 例えば、公共工事は、公共性が高いものであるが、工事そのものは、私人でも行うことができる事実行為であり、その意味では、行政主体を施工主体とする工事計画の変更は、一見、当事者間の自由な意思による合意が可能な事項のように見える。しかし、工事の実施や、工事の内容の基本的部分は認可等により拘束され、施工主体が自由に決定できる余地(裁量の範囲)は限られていることが少なくない。このように、当事者に裁量の余地がない場合には、当事者間の自由な意思による合意を基礎とする調停の対象になじまないことは当然である。しかし、計画の本質的な変更には当たらないような環境保全上の対策や公害防止施設の設置など、施工主体の自主的な判断において行えることについては、調停の対象とすることは可能である。
 このように、分類IIIには、性質上互譲の余地がなく、当事者間の自由な意思による合意に基づいた利害調整である調停になじまないものと、それ以外のものがある点に留意して、手続を進める必要がある。
 前者については、分類IIの2.に準ずる。すなわち、手続を進めたものの、当事者間の自由な意思による合意が可能な事項が見いだせなかった場合には、調停をしない(同法35条)、調停の打切り(同法36条)の措置をとるか、当事者に申請の取下げを促すといったことを行うことになろう。
 後者については、私人間の一般の調停と同様の取扱いが可能であろう。
 上記では事実行為のうち営造物の設置の例として公共工事を挙げて説明を行ったが、それ以外の行政指導等も含め前者、後者にそれぞれ該当する過去の実例を次に挙げてみる。

(前者に該当する事例)
  • 道路や鉄道等の建設計画の重要事項の変更(例:道路の車線数の大幅変更、建設ルートの大幅変更)を請求するもの
  • 水質汚濁等の防止のため、○○会社に対し、ゴルフ場の建設を中止するよう指導することを行政主体に請求するもの
(後者に該当する事例)
  • 道路や鉄道等の建設計画に関し、計画の本質的な変更に当たらない範囲内で、防音壁の設置、定期的な公害測定の実施・報告等公害防止対策を請求するもの
  • 環境基準を遵守するよう工事施工者に指導することを行政主体に請求するもの
  • 行政主体が設置する処理場の建設・操業に関し、悪臭防止対策等の公害防止対策を請求するもの
  • 行政主体の管理する公園に関し、農薬散布を控えることを請求するもの
 申請時には、被申請人の裁量の余地がない事項を請求していたが(前者に該当する事例)、手続の経過において、申請人が主張を変更し、当事者が合意するに至った事例を一つ紹介する。

ケース4
  騒音等を理由に、A公団に対しては国道○○線の建設工事を行わないことを、国に対しては当該道路を供用しないことを求める調停申請が周辺住民からなされた。手続を進めていった結果、A公団及び国は、騒音及び大気汚染に関し環境基準が維持されるよう努めること、騒音対策を実施すること等を内容とする調停が成立した。

6 おわりに

 実際の事件処理の場で、具体的にいかに手続を進めていくかは、各事件の特質・事情等を勘案し、委員会、各審査会において判断するものであるが、本稿がその際の参考となれば幸いである。

公害等調整委員会事務局

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