公害防止対策への反映

ちょうせい第8号(平成9年2月)より

わかりやすい公害紛争処理制度 ‐第8回 公害防止対策への反映

1 意見の申出の制度

 公害等調整委員会は内閣総理大臣又は関係する国の行政機関の長に対し、都道府県公害審査会は当該都道府県知事に対し、その所掌事務の遂行を通じて得られた公害の防止に関する施策の改善についての意見を述べることができるとされています(公害紛争処理法(以下「法」という。)第48条)。この制度は、紛争処理機関が紛争処理の過程で得た知識、経験に基づく意見を環境行政に活用、反映させることを目的としています。次の事例は、この制度に基づいて意見を述べ、その結果、必要な措置が採られたケースです。
 A県公害審査会において、隣接するアパートの屋外ガス給湯器からの騒音に係る調停申請を受け付けました。当該ガス給湯器はJIS規格に適合していましたが、JIS規格がA県公害防止条例の規制基準値に適合していないことがわかり、また、問題となった当該機種と同様の給湯器が最近急速に普及していることから、今後とも本件と同様の紛争が頻発するおそれがあるため、A県公害審査会は、法第48条の規定に基づき、A県知事に対しJISを所管する工業技術院に対しJIS規格の見直しについて検討するよう要請を行ってほしいとの意見を述べ、A県から工業技術院に対しJIS規格の見直しの要請が行われました。その後、工業技術院においてJIS規格の見直しが行われたのです。

2 紛争処理を通じた行政施策への公害対策の反映

 公害紛争処理制度における具体的な紛争処理を通じて、行政施策に影響を与えることが少なくありません。公害等調整委員会や都道府県公害審査会等は行政機関であり、行政の一翼を担っていることから、当該紛争の解決に当たり、関係行政機関との間で、情報提供、意見交換等が可能であり、これらの過程が関係行政機関における施策の検討の契機となりやすいからです。
 このような例としては、例えば、公害等調整委員会や都道府県公害審査会等におけるゴルフ場に関する調停事件が、各地方自治体の大規模リゾート開発政策や指導要綱等の見直しや改定を促す契機になったケースが挙げられます。また、公害等調整委員会で扱ったスパイクタイヤに関する調停事件は、立法化を促す契機となりました。
 スパイクタイヤに関する調停事件は、昭和62年4月に長野県在住の弁護士が、スパイクタイヤの使用による粉じん被害の発生を防止するため、長野県内におけるスパイクタイヤの販売停止及び製造中止を求めた事件です。公害等調整委員会は全国的、広域的見地からの解決が必要と判断し、当委員会において手続を進めることとしました。その結果、63年6月に、スパイクタイヤメーカーは平成2年12月末日限りでスパイクタイヤの製造を中止し、3年3月末日限りでスパイクタイヤの販売を中止すること等を合意の内容とする調停が成立しました。ところで、スパイクタイヤによる粉じん被害の防止をより実効性あるものにするためには、製造及び販売を中止するだけでなく、輸入タイヤ等を含めたすべてのスパイクタイヤの使用を規制することを検討する必要があります。この調停事件が成立したことを契機として、関係行政機関においてスパイクタイヤの使用規制への取組が活発となり、平成2年6月に、スパイクタイヤの粉じん発生を防止し、国民の健康の保護及び生活環境の保全を目的とする「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が制定されるに至ったわけです。

3 まとめ

 公害紛争処理制度は加害者と被害者間の公害紛争の解決を直接の目的としています。しかしながら、それとともに1で述べた意見の申出の制度により、あるいは2で述べた具体的な紛争処理を通じた行政施策への公害防止対策の反映により、広く環境行政に影響を及ぼすことが可能な制度となっています。簡易、迅速、低廉な紛争解決手段というのみならず、そのような点にも本制度の存在意義が認められることでしょう。

公害等調整委員会事務局

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