第3章 係属中の主な事件

平成17年度に公害等調整委員会に係属した事件(表1−2−1参照)のうち,第2章で述べた平成17年度中の終結事件を除く,公害紛争事件12件,行政処分に対する不服の裁定事件4件及び土地収用法に基づく国土交通大臣に対する意見の申出事案12件が,平成18年度に繰り越された。

 本章では,これら係属中の事件のうち,主な公害紛争事件である,富山県黒部川河口海域における出し平ダム排砂漁業被害原因裁定嘱託事件,川崎市における土壌汚染財産被害責任裁定申請事件及び伊賀市産業廃棄物処分場水質汚濁防止等調停申請事件を,それぞれ概説することとする。

 

 

1 富山県黒部川河口海域における出し平ダム排砂漁業被害原因裁定嘱託事件

 本件は,平成16年8月4日,富山地方裁判所に係属中の「出し平ダム排砂差し止め等請求事件」に関し,黒部川河口以東の海域で刺し網漁業及びワカメ栽培業を営む漁民13人及び栽培組合(原告ら)の漁獲量が,平成4年度以降継続的に減少しているのは,電力会社(被告)が,平成3年12月から継続して出し平ダムのダム底に堆積した土砂を黒部川に排砂したことに起因して,これらの土砂が,黒部川河口の海域に拡散,堆積し,魚類や海草類の育成環境を破壊したことによるものであるか否かについて,公害紛争処理法第42条の32第1項に基づき,同裁判所から原因裁定の嘱託がされた事件である。本件は,公害紛争処理制度に特有な原因裁定の嘱託制度が初めて活用されたものとして,注目に値する。

原因裁定の嘱託制度は,紛争解決に当たって最大の争点となることの多い因果関係について迅速に確定させるために特別に設けられた原因裁定制度の中でも,当事者からの申請によらず,公害に係る被害に関する民事訴訟が係属している裁判所からの嘱託により事件が係属するという点で,極めて特徴的な制度である。したがって,公害紛争処理法に基づき富山地方裁判所から公害等調整委員会に原因裁定の嘱託がされ,同制度が活用されたことは,公害等調整委員会が有する専門的知見の有効活用とともに裁判所と裁判外紛争処理機関との連携が図られたということでもその意義は大きいと言える。

公害等調整委員会は,本嘱託を受け付けた後,直ちに裁定委員会を設け,8回の審問期日を開催して争点と証拠資料の整理に努めるとともに,ダム排砂と漁業被害に関する専門的事項を調査するために専門委員を選任するなど,手続を進めている(事件の詳細については,第2編第2章第3節参照)。

 出し平ダムと黒部川(富山県) 
排砂中の出し平ダム及び出し平ダムと黒部川周辺地図

2 川崎市における土壌汚染財産被害責任裁定申請事件

本件は,平成17年8月16日,鉄道会社(申請人)が,学校法人及び川崎市を相手方(被申請人)として申請された事件である。申請の内容は,申請人が被申請人学校法人から購入した土地において判明した土壌汚染について,昭和40年代当時,当該土地への廃棄物埋立てに被申請人らが関与していたとして,本件土壌汚染により申請人が被った損害のうち,土壌汚染とそれに伴う地下水汚染を除去するための直接工事費及び同工事に必要不可欠な調査費等の損害賠償を求めるというものである。

土壌汚染問題については,土壌汚染の状況の把握,土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することを内容とする土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)が平成15年2月に施行され,同法に基づき,有害物質使用特定施設に係る土地の調査の実施やその結果を踏まえた指定区域の指定等の措置が採られている一方で,こうした社会的背景の下に,事業者が自主的に行った汚染調査等により土壌汚染が判明した事案も増加している(図1−3−1)。これらの中には,数十年前に汚染原因と考えられる行為がなされたため,それを特定するには長期にさかのぼった調査が必要である上,事実関係の解明も困難である等の問題を含んでいるものも多い。

本件は,このような特性を有する土壌汚染問題に係る事案の中でも大規模なものであり,公害紛争処理制度が活用された意義は小さくない。

公害等調整委員会は,本申請を受け付けた後,直ちに裁定委員会を設け,3回の審問期日を開催するなど,手続を進めている(事件の詳細については,第2編第2章第3節参照)。

3 伊賀市産業廃棄物処分場水質汚濁防止等調停申請事件

本件は,平成17年8月29日,三重県,大阪府及び京都府の住民ら110名から,三重県内の安定型最終処分場について,設置・操業者,産業廃棄物搬入業者,土地所有者及び三重県を相手方(被申請人)として申請された事件である。申請の内容は,本件処分場に違法に埋め立てられた産業廃棄物に起因する有害物質を含んだ排水が地下水やその周辺の河川へ流入し,その水系に水源地を持つ住民の生活環境にも影響するおそれがあることから,本件処分場の適正な管理を求めるとして,被申請人らに対し,許可された産業廃棄物以外の産業廃棄物について,その同処分場からの撤去と,埋立状況,PCB(ポリ塩化ビフェニル),硫化水素及び有害化学物質による汚染についての調査を求めるというものである。

本件は,被害発生地が三重県,大阪府及び京都府の3府県の区域にまたがることから,公害紛争処理法第24条第1項第3号に定めるいわゆる県際事件として公害等調整委員会に係属したものである。これまで公害等調整委員会には,豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件(第1章(注)参照)やスパイクタイヤ粉じん被害等調停申請事件など,当事者の多数に上る大型の公害紛争事件が県際事件として係属してきたが,その多くについて調停を成立させて,紛争解決に導いてきた。

また,廃棄物については,排出量の増加や種類の多様化,最終処分場の残余容量の逼迫,不法投棄や不適法処理などの問題があり,例えば廃棄物投棄について見ても,苦情件数が増加傾向にある上,その発生地域も全国に及んでいる(図1−3−2,図1−3−3)。このように,廃棄物問題全体に対して高い社会的関心が寄せられている状況下において,それに関する大規模な公害紛争事件が係属したという点で,本件は社会的にも意義があり,事件の解決に向けた公害等調整委員会の努力が特に期待されていると言えよう。

公害等調整委員会は,本申請を受け付けた後,直ちに裁定委員会を設け,2回の審問期日を開催するなど,手続を進めている(事件の詳細については,第2編第2章第2節参照)。


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