第3章 都道府県公害審査会等における公害紛争の処理

公害紛争処理法が昭和45年11月1日に施行されて以来,平成17年度末までに審査会等に係属した事件は,1,095件である。これらのうち,終結しているのは,1,048件である(表2−3−1)。

平成17年度中に審査会等が受け付けた事件は36件であり,これらに前年度から繰り越された42件を加えた計78件が17年度に係属した。このうち,31件が17年度中に終結し,残り47件は18年度に繰り越された(平成17年度に係属した78件の概要については,付録2参照)。

 

第1節 公害紛争の申請状況

1 申請の件数

(1) 手続別件数

公害に係る紛争を解決するため,審査会等が行う手続には,あっせん,調停及び仲裁(審査会等においては,裁定は行えない。)並びに調停等で定められた義務の履行に関する勧告を行う義務履行勧告があるが,これまで審査会等が受け付けた事件の9割以上が調停事件となっている。また,平成17年度中に受け付けた36件は,すべて調停事件である(表2−3−1)。

(2) 都道府県別受付件数

平成17年度中に受け付けた36件について都道府県別に見ると,三重県及び大阪府が各5件,神奈川県及び京都府が各3件,茨城県,埼玉県,長野県,兵庫県及び広島県が各2件,北海道,東京都,石川県,岐阜県,静岡県,奈良県,和歌山県,福岡県,宮崎県及び沖縄県が各1件であり,19都道府県において事件を受け付けている。

なお,平成17年度末までに審査会等に係属した事件について都道府県別に見ると,東京都の183件が最も多く,次いで大阪府が171件,愛知県が57件,千葉県が53件などとなっており,一般に大都市地域において多くなっている(表2−3−2)。
 

2 申請の内容

(1) 公害の種類

平成17年度中に受け付けた調停事件36件について,環境基本法第2条第3項に定める公害(大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下及び悪臭の7種類の公害。以下,「典型7公害」という。)の種類別に見ると,騒音に関するものが25件,大気汚染に関するもの及び振動に関するものが各12件,水質汚濁に関するものが8件,土壌汚染に関するものが7件,悪臭に関するものが4件,地盤沈下に関するものが3件となっている(重複集計)。

平成17年度末までに審査会等に係属した事件について,申請人から主張されている典型7公害の種類の数を見ると,この10年間は,1件当たり1.7から2.5種類で推移している(表2−3−3)。

また,近年,日照阻害,眺望阻害,土砂崩壊,交通環境悪化等典型7公害以外の生活環境を悪化させる要因を併せて主張するものが増加しており,それらを含めた紛争の一体的,総合的な解決を求める事件が目立ってきている。

(2) 被害の態様

平成17年度中に受け付けた調停事件36件について,申請人が個人であるか法人であるかを見ると,個人が31件,法人が5件となっている。また,個人が申請人となっているものについて,その人数別に見ると,10人未満のものが21件,10人以上100人未満のものが5件,100人以上のものが5件となっている(表2−3−4)。

次に,申請の内容を被害の種類別に見ると,感覚的・心理的被害を訴えるものが28件,健康被害を訴えるものが21件,財産被害を訴えるものが8件,動物被害を訴えるものが3件,植物被害を訴えるものが1件となっている(重複集計)(表2−3−5)。

なお,審査会等に係属した事件は,既に発生した被害に対する措置・救済等を求めるものと,将来発生するおそれのある被害の未然防止を求めるもの(おそれ公害事件)とに分けられるが,平成17年度中に受け付けた調停事件36件のうち,14件がおそれ公害事件となっている(表2−3−6)。

(3) 発生源の態様

平成17年度中に受け付けた調停事件36件について,発生源側の当事者を見ると,民間企業のみが当事者となっているものが18件,国,地方公共団体,公団等のみが当事者となっているものが11件,両者が当事者となっているものが3件,その他が4件となっている(表2−3−7)。

次に,平成17年度中に受け付けた調停事件36件について,加害行為とされる主な事業活動の種類を見ると,廃棄物・下水等処理関係が9件,交通・運輸関係(道路建設に係るものを含む。)が7件,製造・加工関係が6件,建築・土木関係が3件,畜産関係及び精錬・採石関係が各1件,その他が9件となっている。なお,その他の内訳は,店舗に関する事件が4件,民家に関する事件が2件,学校に関する事件,病院に関する事件及びペット霊園に関する事件が各1件となっている。

こうした現状を,制度発足当時の製造・加工関係が全体の約半数を占めていた状況と比較すると,近年では被害の発生源の変化・多様化の傾向が見られる(表2−3−8)。

(4) 請求事項

平成17年度中に受け付けた調停事件36件について,申請人の請求事項を見ると,発生源対策を求めるものが25件,金銭支払及び発生源対策を求めるものが7件,金銭支払を求めるものが3件,その他が1件となっている。

このうち,発生源対策を求めるものについて,その内容を見ると,施設・作業方法の改善を求めるものが20件,道路等の建設(計画)の差止めを求めるものが5件,操業停止・移転を求めるものが3件,操業停止・移転及び施設・作業方法の改善を求めるものが2件,その他が2件となっている。

従前から,申請人が発生源対策を求める事件の割合は高く,平成17年度末までに審査会等に係属した事件全体の8割以上を占めている(表2−3−9)。

 

第2節 公害紛争の処理状況

1 処理状況

(1) 終結区分別件数

平成17年度中に終結した31件について,その終結区分を見ると,調停が成立したものが11件,調停を打ち切ったものが17件,調停申請を取り下げたものが3件となっている(表2−3−1)。

(2) 合意の内容

平成17年度中に成立した調停事件11件について,どのような内容で合意したかを見ると,発生源対策を行うことで合意したものが8件,金銭支払及び発生源対策を行うことで合意したものが3件である。

また,発生源対策を行うことで合意したものの内訳を見ると,施設・作業方法の改善及び計画の変更が7件,操業停止・移転が4件となっている(表2−3−10)。

(3) 処理に要した期間

平成17年度中に終結した31件について,申請受付から終結までの期間を見ると,3か月以内に終結したものが4件,3か月を超え6か月以内に終結したものが6件,6か月を超え1年以内に終結したものが11件,1年を超え1年6か月以内に終結したものが3件,1年6か月を超え2年以内に終結したものが1件,2年を超えているものが6件となっており,約8割が2年以内に終結している。

なお,制度発足以来の全事件の平均処理期間は,16.2か月となっている(表2−3−11)。

(4) 期日の開催回数

平成17年度中に終結した調停事件31件について,申請受付から終結までの間に開催された期日の回数を見ると,4回以下のものが15件,5回から10回のものが11件,11回以上のものが4件となっており,1事件当たり平均5.9回となっている。

平成17年度中に成立した調停事件11件について,期日の開催回数を見ると,4回以下のものが1件,5回から10回のものが7件,11回以上のものが3件となっており,1事件当たり平均9.5回となっている。

平成17年度中に打切りとなった調停事件17件について,期日の開催回数を見ると,4回以下のものが12件,5回から10回のものが4件,11回以上のものが1件となっており,1事件当たり平均4.1回となっている(表2−3−12)。
 

2 調停が成立した事件の例

平成17年度中に審査会等に係属し調停が成立した11件の事件のうち,発生源側である民間企業に対して,将来発生するおそれのある被害の未然防止を求めた事件及び騒音・振動の防止を求めた事件並びに地方公共団体を発生源側として,現在の被害及び将来発生するおそれのある被害の未然防止を求めた事件の3件について,ひとつのモデルケースとして以下に紹介することとする。

(1) 埼玉県平成17年(調)第3号事件

(申請の概要)

埼玉県の住民2人から,平成17年10月,埼玉県公害審査会に対して,分譲マンションの販売事業等を経営する会社を相手方(被申請人)として,以下の内容の調停申請がなされた。

(請求事項)

(1) 被申請人は,駐車場の運転時に発生すると思われる騒音について,規制基準内にとどまるよう防音壁を設置する等の対策を講じること。

(2) (1)の措置を採らない場合は,規制を超える騒音を発生させるおそれのある立体駐車場の設置を取りやめること。

(申請の理由)

被申請人は,現在建築中のマンション敷地内に立体駐車場の設置を予定しているが,当該駐車場が稼動した場合,駐車場の稼動に伴い発生する騒音,エンジン音,車両ドアの開閉音等により,申請人らは睡眠妨害及び精神的苦痛を受け,著しく日常生活に支障を来すおそれがある。

(合意の内容)

調停委員会は,申請受付以来,現地調査及び5回の調停期日の手続を進めた結果,平成18年3月,次の内容の合意が成立した。

(1) 被申請人は,本事件において,発生するおそれがある騒音の防止の請求を受け,下記(2)及び(3)の対応をした。

(2) 被申請人は,被申請人が建設するマンションの立体駐車場について,メッシュフェンスを二重ばりにし,植栽を非ツタ類からツタ類に変更し,施工する。

(3) 被申請人は,フェンス及びツタ類の管理について,マンション管理会社に申し送りを行う(近隣住民への配慮として,二重フェンスの設置及びツタ類の植栽を実施したこと。ツタ類の枯れ死等に注意し,機械式駐車場等へ悪影響を及ぼさない範囲まで十分に成育させ,安易な剪定,撤去等を行わないよう留意すること。)。

(4) 申請人は,被申請人の上記(1)〜(3)の対応について確認する。

(5) 本件手続に要した費用は,各自の負担とする。

(2) 京都府平成16年(調)第2号事件

(申請の概要)

京都府の住民から,平成16年8月,京都府公害審査会に対して,鉄道会社を相手方(被申請人)として,以下の内容の調停申請がなされた。

(請求事項)

被申請人は,騒音・振動とその対策工事の専門家を選出の上,出来得る最大限の騒音・振動の低減対策を早急に実行し,今後も騒音・振動の低減に改良を重ねること。

(申請の理由)

申請人は被申請人の運行する鉄道の線路脇に居住しており,そこから発生する騒音・振動による被害を受けている。騒音については,申請人が何十年にもわたり低減を求める苦情を被申請人に対し申し立ててきているが低減しない状況であり,また,振動については,被申請人による石積補強工事により更に増大した状況である。

(合意の内容)

調停委員会は,申請受付以来,現地調査及び6回の調停期日の手続を進めた結果,平成17年12月,次の内容の合意が成立した。

(1) 被申請人は,申請人居宅近辺を通過する被申請人運行鉄道車両の振動及び通過騒音,特に「きしり音」が顕著であることを認識し,騒音及び振動の低減を図るため,次の諸対策の実施に努める。

(ア) 防音車輪導入の推進

(イ) 運行の安全性を確保しつつ,きしり音抑制効果を可及的発揮し得るレール塗油器の設置方法の改善の検討

(ウ) きしり音増加の防止に意を用いたレール削正作業のあり方の検討及び実施

(エ) その他必要に応じた列車騒音及び振動低減のための技術の調査・研究及びそれらの成果導入の推進

(2) 被申請人は,今後も,列車騒音及び振動を含めた被申請人に対する意見・要望を受け付ける窓口を設け,適宜の方法により広報し,意見・要望に対しては誠実に対応するよう努める。

(3) 当事者双方は,この調停条項の趣旨を尊重し,今後も,誠意を持って相互の円満な関係を維持するように努める。

(4) 本調停に要した費用は,各自の負担とする。

(3) 奈良県平成15年(調)第1号事件・平成17年(調)第1号事件

(申請の概要)

奈良県の住民3,195人から,平成15年8月,奈良県公害審査会に対して,A市を相手方(被申請人)として,以下の内容の調停申請がなされた。その後,平成17年4月,399人から参加申立てがあった。また,そのうち70人は申請を取り下げた。

(請求事項)

(1) 被申請人は,本件ごみ焼却施設の建設,運転管理,環境影響調査等に係る一切の資料を申請人らに開示すること。

(2) 被申請人は,本件ごみ焼却施設の稼動に伴う大気汚染による申請人らの健康及び生活上の被害を根絶するため,施設の操業を停止し,移転をすること。

(申請の理由)

被申請人は,既に30年以上稼動してきているA市所在の一般廃棄物焼却処理施設が更新時期にあるとし,現在地において建て替えることを有力な選択肢としており,建替えがなされれば,住宅地域,かつ,小学校・幼稚園に極めて近接した現在地で,更に今後30年以上稼動することになる。したがって,

(1) 焼却場から排出されるばい煙は十分に希釈されずに申請人らや子供達を直撃し,健康や生活上の被害は甚大であって看過できない。

(2) そもそも,焼却処理施設は,住宅密集地や教育施設直近に建設稼動されるべきではない。

(3) 平成4年に本件施設移転を約束して小学校・幼稚園を開設した経緯があり,現在地での建替えは住民らに対する契約違反である。

(4) 本件焼却場の環境負荷を本件地区の住民だけが長年一手に引き受けるのは住民間不平等である。

(5) 建替計画は,全国的なごみ減量施策に反するとともに,経済的にも不合理と言わざるを得ない。

(合意の内容)

調停委員会は,申請受付以来,現地調査及び20回の調停期日の手続を進めた結果,平成17年12月,次の内容の合意が成立した。

(1) 被申請人は,循環型総合リサイクル施設としての新しいごみ焼却施設(以下「新施設」という。)の建設計画をできるだけ早期に策定し,次の手順で本件ごみ焼却施設の移転を実施する。

 新施設の竣工稼働後,直ちに本件ごみ焼却施設の操業を停止するとともに,操業を停止後,速やかに同施設の解体,撤去に着手し,土壌汚染の調査を実施する。

(ア) 平成18年3月末日までに,新施設を建設するためのごみ焼却施設移転建設計画策定委員会(以下「移転建設計画策定委員会」という。)を設置する。

(イ) 平成20年3月末日を目標として,新施設の用地の候補地を選定するものとし,用地の選定方法については,公募も視野に入れ,移転建設計画策定委員会において決定する。

(ウ) 平成23年3月末日を目標として,環境アセスメント手続を経た上で,新施設の用地を確定(所有権又は用益権の取得)する。

(エ) 新施設の用地確定後速やかに,新施設の建設工事に着手する。

(オ) 新施設の建設工事着手後4年以内を目標として,新施設を竣工,稼働し,本件ごみ焼却施設の操業を停止する。

前記の新施設の建設に当たって,前記(イ)ないし(オ)記載の各目標期限までに当該事業の実施を妨げる合理的かつやむを得ない事由が生じたときは,被申請人は,移転建設計画策定委員会に諮り,上記標期限の見直しを含め,適切な対策を講じる。

(2) 被申請人は,本件ごみ焼却施設の移転場所については,A市全域の中から300メートル以内に学校,幼稚園,保育園及び病院がなく,住居専用地域(都市計画法)に近接しない場所の中から,環境への影響,周辺住民との共存及びごみ収集の効率面等も考慮しながら適地を選定する。

新施設は,循環型社会形成に資する施設と位置付ける。

(3) 被申請人は,本件ごみ焼却施設を移転するまで,本件ごみ焼却施設の稼働に当たり,大気汚染等による申請人ら周辺住民の健康及び生活上の被害を生じさせないため,施設の構造及び環境汚染に関して必要がある場合には,移転建設計画策定委員会において検証し,適切な公害防止対策を講じる。

(4) 被申請人は,本件ごみ焼却施設の跡地利用計画を策定し実施するに当たり,跡地の調査を実施し,土壌汚染等が発生している場合には汚染土壌の除去,水質改善等の適切な措置を講じるとともに,申請人ら周辺住民の生活環境に配慮した跡地利用がなされるよう最大限の努力を行う。

(5) 被申請人は(4)の実施のため,(1)(ウ)の用地確定頃までに,跡地利用地域市民会議(以下「市民会議」という。)を設置する。

(6) 移転建設計画策定委員会及び市民会議の委員は,市議会議員の代表,自治連合会の代表,公募による市民,学識経験者,A市職員並びに申請人ら及び申請人ら推薦の学識経験者をもって構成する。その委員の数は,移転建設計画策定委員会は20名程度,市民会議は10名程度とする。

(7) 移転建設計画策定委員会及び市民会議の審議は,原則として公開とする。

(8) 被申請人は,移転建設計画策定委員会及び市民会議の決定を十分尊重しなければならない。

(9) 被申請人は,移転までの間,万一本件施設において相当規模の設備及び焼却方法の変更などを行おうとするときは,その都度,移転建設計画策定委員会に諮り説明し,その意見を求めて適正な手続により実施する。

(10) 被申請人は,申請人らから本件施設の運用・管理に関して保管する資料の開示を求められたときは,A市個人情報保護条例に抵触するもの,若しくはA市情報公開条例に定める不開示事項に該当するものを除き,これに協力し開示する。

(11) 被申請人は,事業系ごみの分別収集の推進など,ごみの減量化施策の充実に努める。

(12) 被申請人は,ごみの減量化に一層努めることとし,申請人らもごみの減量は自らの問題と位置づけ一層減量化に努力する。

(13) 本件調停に要した費用は,各自の負担とする。

(14) 申請人らの被申請人に対する本調停による請求は,前記各調停条項によってすべて解決したものとし,申請人ら及び被申請人は,今後前記各調停条項を尊重し,信義に従い誠実に協議解決することを約する。


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