年月日 |
経過 | |
平成9年5月21日 |
原因裁定申請書及び代理人承認申請書を受付 | |
平成9年9月12日 |
第1回審問期日 | |
・申請人の申請書及び被申請人の答弁書陳述 | ||
平成10年6月3日 |
第2回審問期日 | |
・主張整理に関する双方の意見陳述 | ||
平成10年7月9日 |
第3回審問期日 | |
・申請人申出の当事者尋問(1人) | ||
平成10年9月29日 |
第4回審問期日 | |
・反対尋問(1人) | ||
・申請人申出の当事者尋問(3人) | ||
平成10年11月17日 |
第5回審問期日 | |
・反対尋問(3人) | ||
平成11年1月22日 |
第6回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(北里大学医学部眼科臨床研究教授 宮田幹夫) | ||
平成11年3月5日 |
第7回審問期日 | |
・反対尋問(同上) | ||
平成11年5月27日 |
第8回審問期日 | |
・被申請人申出の参考人尋問(中継所職員 國田憲一) | ||
平成11年6月28日 |
第9回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(高千穂商科大学商学部教授 勝木渥) | ||
平成12年12月5日 |
第10回審問期日 | |
・杉並事件専門委員報告書の取り扱い | ||
・今後の期日の進行 | ||
平成13年2月21日 |
第11回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(岡山大学医学部衛生学教室 津田敏秀) | ||
平成13年2月27日 |
第12回審問期日 | |
・反対尋問(同上) | ||
平成13年4月18日 |
第13回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(東京薬科大学薬学部教授 渡部烈) | ||
平成13年6月21日 |
第14回審問期日 | |
・反対尋問(同上) | ||
平成13年7月24日 |
第15回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(帝京科学大学教授 田中敏之(元産業技術総合研究所研究員)) | ||
平成13年10月11日 |
第16回審問期日 | |
・被申請人申出の参考人尋問 | ||
(国立公衆衛生院疫学部理論疫学室長 丹後俊郎) | ||
平成13年12月11日 |
第17回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(元東京都立大学大学院理学研究科化学専攻助教授 小椋和子) | ||
平成14年1月25日 |
第18回審問期日 | |
・反対尋問(同上) | ||
平成14年3月13日 |
第19回審問期日 | |
・申請人申出の参考人尋問 | ||
(元日立病院内科部長 大谷育夫) | ||
平成14年4月24日 |
第20回審問期日 | |
・審問終結 | ||
平成14年6月26日 |
裁定 |
1 申請人18人中14名について、平成8年4月から8月ころに生じた健康不調の被害の原因は、被申請人の管理に係る杉並中継所の操業に伴って排出された化学物質によるものである。
2 上記申請人のその他の症状に係る申請及び他の申請人の申請については棄却する。
1 大気環境の負荷要因
中継所周辺大気の環境負荷要因として考えられるもののうち、中継所から排出される空気以外の負荷要因として考えられる自動車排出ガス、井草森公園樹木添え木の防腐剤等については、いずれも平成8年4月以降に中継所周辺の大気環境に新たな負荷を及ぼしたという状況にない。
2 本件中継所における作業と当初の環境保全設備
(1) 操業
平成8年2月7日から試験操業し、同年4月1日から本格操業を開始。
(2) 排気
排気系(ゴミが投入されるホッパーやコンテナに積み込まれるコンパクター周辺の空気を処理する系統)では、活性炭処理を施して排気するシステムを採っていたが、換気系(場内の作業環境の空気を処理する系統)にはこのような保全措置はとられておらず、活性炭フィルターが設置されたのは平成9年3月。
(3) 排水
何らの環境保全措置をとることなく公共下水道に放流していたが、平成8年7月17日以降は放流を停止し、バキュームで汲み上げる方式が採られ、平成9年3月31日の排水処理設備完成後は処理した上で放流。
3 本件中継所周辺における健康不調等の発生
(1)周辺住民の健康不調等の訴え
杉並区が把握している健康不調者(平成11年末迄で121名)のうち、平成8年4月から8月迄に発症したと訴える者は中継所周辺に集中し、毎月7〜12人で推移しているが、9月以降は時の経過とともに地理的に分散し、人数も毎月0〜5人で推移するなど、発症状況が明らかに異なる。
(2)申請人らの発症状況
一部の申請人を除き、周辺住民の健康不調と同質のものと認められる。
4 被害の原因(因果関係)
健康不調の発生が中継所周辺に集中し、中継所の操業の時期と一致している事実からみれば、他に特段の事情が認められない限り、申請人らの「健康不調一覧表1」記載の被害(平成8年4月から8月ころに生じたもの)については、中継所が原因施設であり、その操業に伴って排出された化学物質が原因と推認するほかはなく、この推定を覆すに足りる証拠がない場合、因果関係は肯定されると解すべき。
5 本件中継所から排出される化学物質について
(1)排気
平成8年7月末以降の測定結果では高濃度の化学物質は検出されていないが、搬入されるゴミの量や組成によって排出状況や排出濃度に変動のある化学物質もあり、換気系活性炭フィルターも設置されていなかったことも軽視できず、前記4の推定を覆す事情には当たらない。
(2) 排水
床排水を直接放流していた平成8年7月中旬までは、未処理の排水に含まれていた硫化水素等が住宅内の配管や道路上の雨水桝から放出されたと推認でき、これは前記4の推定の裏付けとなり得る。 なお、申請人らの症状には硫化水素の毒性だけで説明できないものがあるから、硫化水素だけに原因を限定できない。
6 杉並区アンケート調査結果について
杉並区アンケート調査からは、調査時以前1年以上3年未満(平成8年5月から平成10年5月)の間に中継所付近で健康に影響を与える何らかの状況が発生したことは明らかであり、この事実は前記4の推定に沿う。 なお、調査時以前1年未満(平成10年5月から平成11年5月)の発現状況は、改善傾向にあることが認められる。
7 平成8年9月以降の健康被害について
杉並区アンケート調査に見られる統計学的な改善傾向や新たな健康不調等の訴えの著しい減少からは、周辺住民の健康不調の発生状況は、もはや多発しているとも、中継所周辺に集中しているとも言えない。 このような平成8年9月以降の住民の発症状況や大気測定結果からは、住民の健康不調と中継所の操業とを関連づけることは困難であり、さらに現時点における科学的知見のもとでは、申請人らの症状の病因を化学物質過敏症や化学物質アレルギーの疾病概念等で説明することは困難である。 したがって、申請人らの平成8年9月以降の健康不調については、その原因は不明というほかはない。
よって、主文のとおり裁定する。
終わりに当委員会の意見を述べる。
化学物質の数は2千数百万にも達し、その圧倒的多数の物質については、毒性をはじめとする特性は未知の状態にあるといわれている。このような状況のもとにおいて、健康被害が特定の化学物質によるとの主張、立証を厳格に求めるとすれば、それは不可能を強いることになるといわざるを得ない。本裁定は、原因物質の特定ができないケースにおいても因果関係を肯定することができる場合があるとしたものであるが、今後、化学物質の解明が進展し、これが被害の救済に繋がることを強く期待するものである。