III.資産の状態


 償却資産の減価償却をもとにして資産の状態をみるもので、企業債償還元金対減価償却費、有形固定資産減価償却率により分析する。

(1) 企業債償還元金対減価償却費
                     建設改良のための企業債償還元金
 企業債償還元金対減価償却費(%)=────────────────×100
                        当年度減価償却費

区分 企業債元金対減価償却費
19 20 21
当該団体      
類似団体平均      
施設別平均 97.9 99.0 94.7
A  施  設 67.5 79.3 132.7
団体別平均 104.5 106.7 96.3
B    市 9.9 7.8 7.1

 【指標の見方】
 工業用水道事業は、大規模な施設建設(設備投資)とその維持管理が主な業務であり、その施設建設に要する資金として企業債の依存度が高く、結果として毎年度の支出に占める企業債償還金の割合も必然的に高いものとなる。
 減価償却費は現金支出を伴わない費用であり、通常、企業内部に留保され投下資本の回収がなされるものであるが、公営企業の場合、前述のように資産取得のための資金の大部分を企業債により調達していることもあり、この企業債の元金償還に要する資金を確保しなければならない。ここで、企業債元金償還のための原資は損益勘定留保資金によることとなるが、損益勘定留保資金は、主に減価償却費により得られるものであることから、このは、減価償却費に対して返済すべき企業債元金償還金の割合を求め、併せて残余の実質的な内部留保となった額の割合を考察することができる。
 したがって、このが低いほど資金的に余裕が生じ、経営の健全性を示すことになるが、投資型(施設型)事業ではもともとこのは高いため実質的な内部留保は少ないと考えられ、同種同規模、場合によってはこれに地理的条件等を加えた上で他団体の事業と比較する必要がある。また、建設改良費のための企業債償還元金には繰上償還した元金も含まれるため、特に補償金免除繰上償還の影響を受け高く算定される場合があるので、基礎数値の分析が大切となってくる。
 さらに、損益勘定留保資金は減価償却費のほか、純利益によっても得られるが、純損失が生じた場合には減価償却費で得た留保資金を割り込み、実質的な内部留保資金を減少させることとなるため、併せて総収支も留意してみる必要がある。
 以上は、理論上の指数の見方であるが、実際には上記の事項を前提として、(1)施設の平均耐用年数※に比較して企業債の償還年限が短いため、施設の供用開始から期間を経ないものは比較的高率となること、(2)償却資産及び無形固定資産(減価償却を行わないものを除く。)の帳簿価格別内訳でみると、耐用年数が長期である資産の構成割合が大きい場合には比較的高率となること、を念頭に置き、分析する必要がある。

          (前年度末償却資産−減価償却累計額)×0.9+無形固定資産
 ※平均耐用年数=────────────────────────────
                  当年度減価償却費

【施設別:A施設の分析】
 A施設については132.7%と、全国平均に比べ高いものとなっている。これは、水資源機構割賦負担金の繰上償還の資金として縁故債を借り入れたことによるものである。

【団体別:B市の分析】
 B市については7.1%と、全国平均に比べかなり低いものとなっているが、他会計借入金が多いB市においては、よりも実質的な内部留保はあまり大きくないものと思われる。

【全体の傾向】   施設別にみると、規模が小さくなるほどが高い。これは、規模が小さいほど供用開始から期間を経ないものが多いことが要因となっている。また、通常、ダムを有する施設で高い傾向があるが、平成20年度は水源区分が「地下水のみ」の施設でが高くなっており、これは繰上償還(補償金免除繰上償還を含む)の影響が大きい。「ダムを有するもの」で高い傾向となるのは、当該施設の全固定資産額に占めるダム使用権の構成比が大きく、しかも耐用(償却)年数が55年と長期にわたることが要因である。
(※工業用水道事業債の償還年限は借入時点では、25又は28年が多く、ダムはもとより全工業用水道事業の全資産平均の耐用年数約45年より短い。)

企業債償還元金対減価償却費(施設別)

規模別・水源別企業債償還元金対減価償却費(施設別)

規模別・年度別企業債償還元金対減価償却費(施設別)

水源別・年度別企業債償還元金対減価償却費(施設別)

企業債償還元金対減価償却費(団体別)


(2) 有形固定資産減価償却率

 (注) 有形固定資産は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。
                    有形固定資産減価償却累計額
 有形固定資産減価償却率(%)=─────────────────────×100
                 有形固定資産のうち償却対象資産の帳簿原価

区分 有形固定資産減価償却率
19 20 21
当該団体      
類似団体平均      
全国平均 37.2 38.0 39.1
B    市 51.7 52.7 54.8

【指標の見方】
 有形固定資産減価償却率は、償却資産の減価償却済み割合を示すである。このにより減価償却の進み具合や資産の経過年数を知ることができる。当の向上は、資本費(支払利息+減価償却費)を構成するもののうち減価償却費の低下をもたらす(大部分の資産が定額法を用いて償却を行っているため、必ずしも比例はしない)が、同時に施設の老朽化の度合を示しているから、修繕費の発生や生産能力の低下を知らせるものでもある。すなわち、償却資産の減価償却の進み具合を分析することによって、施設更新の必要性や今後の修繕費の発生見込みを推測し、今後の設備投資計画を立てる際の参考とすることができる。
 また、更に償却資産を電気設備、機械設備等勘定科目の目ごとに分析することにより、緻密な投資計画を立てることができ、費用についてもそれぞれ修繕費と比較することにより、施設管理の一層効果的な運用を図ることができる。
 一方、このは、一般的には減価償却の効果として資金の内部留保がどれだけ図られているかの指標となり、資金計画を策定する上で重要な判断材料の一つとなるが、先の「企業債償還元金対減価償却費」で述べたように、必ずしも資金の内部留保の大小が明確になるわけではない。

【B市の分析】
 B市については、54.8%であり、全国平均と比べて高い数値を示しているが、これは供用開始から50年を経過したことの影響によるものと思われる。

【全体の傾向】
 当については、現在配水能力規模の大きい事業が概ね高くなっているが、これは一般に現在配水能力の大きい事業の方が年数を経過した資産が多く比較的減価償却が進んでいること、逆に小さい事業は新規の事業が多く比較的減価償却が進んでいないためと考えられる。
有形固定資産減価償却率(団体別)

(3) 固定資産に対する建設仮勘定の割合

 (注) 固定資産は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。
                            建設仮勘定
    固定資産に対する建設仮勘定の割合(%)=───────────× 100
                            固定資産

区分 固定資産に対する建設仮勘定の割合
19 20 21
当該団体      
類似団体平均      
全国平均 16.8 14.2 14.0
B    市 1.5 0.1 0.1

【指標の見方】
 固定資産に対する建設仮勘定の割合は、団体が保有している資産に対する建設中の資産の割合を示すである。工業用水道事業においては、他の公営企業と比べると、このが非常に高いものとなっているが、これは、ダム等水源開発施設の建設期間が長期化し、完成まで長い年月を要すること、産業構造等社会経済情勢の変化による企業誘致の停滞等により、水需要が当初見込んでいたものより伸び悩んでいるため、将来の需要の増加に対応するために確保した水源開発施設を建設仮勘定に経理していることなどが大きな要因として考えられる。
 このは、今後の潜在的な赤字要因であり、契約率が伸び悩んでいる一方で、この割合が高い団体においては、施設が完成した際に経営状況が大幅に悪化する可能性がある。このため、現下の水需要の動向等を勘案し、将来の水需要を的確に見極め、将来に渡って使用する見込みのない水利権等については積極的に他の利水等へ転換する必要がある。
 また、建設仮勘定にある資産については、費用として料金回収することはできないため、当該資産に係る企業債元利償還金等の財源は他会計からの繰入金等により賄うほかない。このため、このが高い団体においては、資本的収入に対する他会計繰入金の割合が高いものとなる。

【B市の分析】
 B市においては0.1%となっており、潜在的な赤字要因に直結するとは今のところ考えられないが、施設利用率及び契約率が全国平均より低く、今後の水需要の動向に留意する必要がある。

【全体の傾向】
 規模別に見ると大規模が最も高いものになっている。大規模施設は、供用開始年度が早く、耐用年数を経過した管路・施設を更新している事業が多いためと考えられる。



固定資産に対する建設仮勘定の割合(団体別)


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平成21年度工業用水道事業経営指標