水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告(要旨)

勧告日平成13年7月6日
勧告先厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省
実施時期平成11年12月〜13年7月

実施の背景事情等
  水の使用量は、昭和40年代の高度経済成長期に急増。近年は、経済状況等を反映し、横ばい傾向
  国は、水資源開発促進法(昭和36年法律第217号)に基づき、広域的な用水対策を特に必要とする7つの水系ごとに「水資源開発基本計画」(以下「基本計画」という。)を策定し、事業を実施。基本計画は、ダム、堰等の水資源開発施設の建設の基本となるべきものとされており、需要の実態に即した的確な内容であることが重要
  貴重な資源である水については、その有効利用を図るため用途間転用の推進等による水利用の合理化及び水資源開発施設の機能の維持、確保等が重要
  基本計画に基づく水資源開発施設の建設及び管理を行う水資源開発公団については、累次の閣議決定に基づく整理合理化事項の着実な推進が求められている。
  この行政評価・監視は、水資源開発基本計画の策定状況及び水資源の有効利用並びに水資源開発公団の業務の実施状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施
  調査対象機関:厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、水資源開発公団、都道府県、市町村、関係団体
主な勧告事項
  的確な水資源開発基本計画の策定
  基本計画(7水系。2水系で1計画のものあり、全体で6計画)は、水の用途別の需要の見通し、供給の目標、開発予定水量等についての計画
  基本計画における水需要の見通しとその実績を、現行計画の直前の計画及び現行計画において、実績が把握可能な水道用水及び工業用水についてみると、見通しと実績とがかい離。また、基本計画における開発予定水量に対する開発実績水量にもかい離
  水道用水の需要見通しに対する実績:直前計画で約30%〜約60%(データのない1水系及び直前計画のない1水系を除く。)、現行計画(平成12年度の見通しに対する8年度実績)で約36%〜約58%(計画を達成した1水系など3水系を除く。)
  工業用水の需要見通しに対する実績:直前計画で約2%〜約48%(直前計画のない1水系を除く。)、現行計画(平成12年度の見通しに対する8年度実績)で約3%〜約50%(工業用水の需要見通しのない1水系を除く。)
  開発予定水量に対する実績:直前計画で約5%〜約50%(計画達成の1水系及び計画未策定の1水系を除く。)現行計画(平成12年度予定に対する11年度実績)で0%〜約60%(計画達成及び達成見込みの3水系を除く。)
  的確な需要見通しとするため、推計精度の向上を図ることが必要。また、基本計画について、需要見通しの推計手法等の詳細は公表されていない。

1.  基本計画の全部変更に当たっては、変更しようとする計画の総括評価を行うこと。また、全部変更を行った基本計画は、おおむね5年を目途に計画の達成度について点検を行い、必要に応じて計画の全部変更又は一部変更を行うこと。
2.  基本計画に記載した需要見通しについて、その推計方法等が的確であったかどうかを総括評価の際に検証するなどにより、推計精度の向上を図ること。
3.  基本計画の全部変更を行った場合には、計画の総括評価の結果、需要見通しの推計手法、使用した数値等について分かりやすい資料を作成し公表して、情報提供の充実を図ること。
(以上 国土交通省)

※総括評価:  計画に掲げた需要見通し、供給の目標及び開発予定水量とこれらに対する実績を把握するとともに、計画と実績とにかい離があった場合にはその原因を分析し、計画を総括的に見直して、その妥当性について評価すること
  水資源の有効利用
(1)  水の用途間転用の推進
  全国の水使用量は、約891億m3(平成9年取水量)でほぼ横ばい傾向にあるが、地域的には毎年渇水が発生している状況。近年、水資源開発施設の建設による水源の確保が困難になってきており、限られた水資源の中で、新たな水需要に対応するための用途間転用の必要性が増大。そのためには、地域の利水関係者間等で、日ごろから他の利水者の水利用の実態等の情報を共有し、共通の問題意識を醸成することが重要
  補助に係る水資源開発施設に水源を確保している各用途別の水の利用実態をみると、10年以上未利用のもの等あり。
  厚生労働省、農林水産省及び経済産業省は、地域における補助施設に係る水の利用状況等水利使用の情報交換が不十分
  国庫補助金により確保した水道用水で、10年以上未利用であり給水年度が未定のもの(2事業)
  国庫補助金により確保したかんがい用水で、水田の減少率が高く農業用水の転用の可能性について検討の余地があるもの(4地域)
  国庫補助金により確保した工業用水で、その全部又は一部が10年以上未利用であり、当面水需要が見込めないもの(4事業)
  地域における利水関係者等間の情報の共有の場である流域水利用協議会又は同協議会の機能の代替が可能な渇水調整協議会が設置されている水系は、調査対象一級河川71水系のうち47
水需給がひっ迫している状況にもかかわらず、これら協議会が未設置の水系が3

1.  地域における利水関係者等間の情報の共有化による円滑な水の用途間転用の推進を図るため、補助に係る水資源開発施設の水源の利用状況も踏まえた水利使用に関する情報交換を推進するなど、必要な条件整備を図ること。(厚生労働省、農林水産省、経済産業省)
2.  利水者の協力を得つつ、流域水利用協議会、渇水調整協議会等を活用するなどし、河川管理者・利水関係者間における河川・利水情報の共有化を推進すること。(国土交通省)

(2)  水利用の適正な管理
  河川管理者は、許可水利権に係る河川の流水の占用の許可・更新の際には、水利使用の目的、取水量等を審査し許可。慣行水利権は、必要取水量等の内容を明らかにするとともに、取水内容の変更を伴う取水施設の新築等の機会にできるだけ許可水利権に切り替えることとされている。
  資料不足から適正な必要取水量が確定できないまま、当初の許可の取水量で更新許可を行なっている事例あり(1地方整備局2事例)。
  慣行水利権に基づく水利使用の管理について次のような事例あり。
  届出済みの取水量と現在の取水実態が相違している可能性が高いにもかかわらず、取水実態を未把握のもの(1地方整備局1事例)
  水利使用者が取水内容の変更を伴う取水施設の改築等を行っているにもかかわらず、流水の占用許可の申請が行われず、結果として長期にわたり許可水利権への切替えが行われていないもの(2地方整備局4事例)

1.  流水の占用許可申請の審査に当たっては、申請者に使用水量の算出根拠資料等を規定どおりに提出させ、適正な量による取水の許可を行うこととすること。
2.  慣行水利権に基づく取水の状況について、一級河川の直轄区間における大規模な水利使用者を中心としてその実態を把握すること。
  また、慣行水利権に基づく取水を行っている者であって河川からの取水内容の変更を伴う工作物の新築等を行おうとするものに対して、流水の占用許可の申請を行うよう求めること。
(以上 国土交通省)

(3)  堆砂対策の推進
  ダム建設時には、おおむね100年間に流入する土砂量を推定してあらかじめ堆砂容量(計画堆砂量)を設定。堆砂率(堆砂量/堆砂容量)が100パーセントを超過し有効貯水量が減少した場合には、必要利水量確保への悪影響等が生ずるため、堆砂対策が必要
  堆砂率が100パーセントを超過しているもの(89ダム中5)
  ダムから排除した土砂の処分について、個々のダム管理者は、有効な処分方法を有しておらず、広域的に利用先等を探すことが必要。一方、これら建設発生土砂等の利用を容易にするためその発生の時期や量等の情報を共有・交換するシステム(各地方整備局等が運用)へのダムから排除した土砂に係る情報の登録等は低調
  堆砂進行速度(堆砂量/経過年数)が計画上の堆砂進行速度の2倍以上のもの(89ダム中19)
※計画上の堆砂進行速度:  ダムの実際の堆砂量は、気象・水象等流域の状況によって変動するが、仮に毎年一定の割合で堆砂が進行すると仮定して計算した年当たりの堆砂量

1.  堆砂率が 100パーセントを超過しているダムを中心として、堆砂による利水等への影響の度合等も踏まえつつ、次の措置を講ずること。
i)直轄ダムについて、堆砂対策を推進すること。(国土交通省)
ii)国営造成農業用ダムについて、管理者に堆砂対策の推進を要請すること。(農林水産省)
2.  ダムから排除した土砂の処分について、環境に配慮しつつ、各地方整備局等が運用している土砂の発生時期、発生量等の情報を共有するシステムの活用などを通じた広域的な処分方策を検討すること。(農林水産省、国土交通省)
3.  実際の堆砂進行速度が計画上の堆砂進行速度を大幅に超えているダムについてその原因を調査し、堆砂量の推計方法の改善に向けた分析に努めること。(国土交通省)

  水資源開発公団の業務等の合理化・効率化
  水資源開発公団においては、累次の閣議決定に沿った車両管理業務等の定型的業務の競争入札による民間委託の推進に加え、個別ダム管理所の総合管理所化等組織の簡素化、要員の計画的削減等が必要
(1)  業務委託の推進・合理化
  車両管理業務について委託されていないもの(26機関中2(うち1は平成13年4月に委託))。
また、平日昼間の基幹的配水施設(ダム、基幹用水路等)の操作、監視作業のうち、委託可能で、かつ委託した方が効率的な業務が委託されていないもの(4機関中2)、又は一部のみ委託しているものあり(4機関中2)。((注)機関とは同公団の会計機関をいい、全51会計機関から抽出。以下同じ。)
  委託している業務のうち、施設管理等業務の中には、施設そのものが廃止可能なもの及び業務の必要性がないものあり。
  分室(会議室を補完する支社等の附属施設)43施設の中には、会議での利用が皆無であるもの等利用が低調のものあり(平成13年3月末にこうした分室1か所が用途廃止され、管理業務も廃止)。
  給食業務を実施している寮(単身者用宿舎)及び事務所143か所の中には、周辺において食堂等が営業する地域に所在するものあり(平成13年3月末にこうした地域にある寮及び事務所(各1か所)の給食業務が廃止)。


  水資源開発公団に対し、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。(国土交通省)
1.  車両管理業務について引き続き委託を推進するとともに、これ以外の補助的、定型的な業務についても委託を推進すること。
2.  民間に委託している業務のうち、分室の管理業務並びに寮及び事務所の給食業務について、その必要性を見直した上、必要性のないものを廃止すること。

(2)  契約事務の改善
  庁舎等管理業務、車両管理業務等役務関係業務について、随意契約としているものあり。
・  庁舎等管理業務 25機関中13、車両管理業務 23機関中21、文書処理業務 17機関中13等
  指名競争入札の業者選定方法や契約の方法が公団の定めるところに沿ったものとなっていないものあり。
  業者選定の方法がi)過去に当該業務の実績がある業者に限定、ii)業者の所在地を限定、iii)異種の業務を一括発注している等のため、指名業者数が10人未満となっているもの(26機関中12)
  また、車両購入契約(物品購入契約)において合理的な理由がなく1車種に限定し、随意契約としているもの(26機関中2)


  水資源開発公団に対し、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。(国土交通省)
1.  庁舎等管理業務、車両管理業務、文書処理等業務、施設設備の点検等業務、現場業務等の役務関係業務に係る契約で随意契約によっているものについて、随意契約としている理由を精査し、合理的な理由がないものについては、早期に競争入札に移行すること。
2.  指名競争入札を行う場合、指名業者数がなるべく10人以上となるよう業者の選定を適切に行うこと。また、物品購入についても、原則として競争入札に移行すること。

(3)  組織の簡素化及び要員の効率的な配置
ア  組織の簡素化
  公団の出先機関は、支社・開発局等4のほか水資源開発施設の建設又は管理を行う現地組織44。
また、現地組織の出先機関として支所等39(平成11年度末)
  水系を同じくするもので、相互の距離等からみて、統廃合の余地のある支所等あり(4)。
  総合事業部等から10km程度の距離にある工事完了が見込まれる支所等につき、工事完了後に近隣の総合事業部等への統廃合を検討する余地あり(4支所等)。

  水資源開発公団に対し、現地組織とその支所等について、相互の距離や事業の進ちょく段階等を勘案し、配置の見直しを検討するよう指導する必要がある。(国土交通省)

  要員の効率的な配置
〔職員の定員は1,939人(うち、現地組織の定員は支所等を含め1,472人)(平成11年度末)〕
  現地組織及び支所等における客観性のある要員配置を行っていくためには、各種の要因を加味した客観的な要員配置基準の策定が効果的
  業務委託の推進や建設所等の統廃合に伴い要員の合理化を図る余地あり。


  水資源開発公団に対し、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。(国土交通省)
1.  現地組織とその支所等について、業務内容等に応じた客観的な要員配置基準の策定を検討し、これを踏まえた要員配置を行うこと。
2.  業務の民間委託の推進や組織の統廃合に伴う要員の合理化を検討すること。

  その他
(1)  渇水調整協議会の設置の推進
(2)  樹林帯区域及び保安林の指定によるダム湖周辺の保全
(3)  水資源開発施設の適切な維持管理等の推進