水資源に関する行政評価・監視結果に基づく勧告

 

 

 

 

 

 

平成13年7月

 

総務省

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前  書  き

   水は、国民生活に必要不可欠な天然資源であるとともに、経済・産業等の活動を支える基本的な資源である。
   全国の水使用量は、昭和40年代の高度経済成長期に急増し、その後も生活様式の変化、景気の拡大等を背景に徐々に増加してきたが、近年では、経済状況等を反映し、横ばい傾向が続いている。
   国は、水利用の安定性の確保を図るため、地域の実情やニーズに応じた水資源の有効活用や新たな水資源開発の実施など、供給面・需要面にわたる各種の施策を展開してきている。国土交通省では、水資源に関する施策を長期的かつ総合的な観点から計画的に推進するため、全国総合開発計画との整合を図りつつ、水資源に関する総合的な諸施策を検討する上での指針として全国総合水資源計画を策定している。
   産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い、広域的な用水対策を特に必要とする地域については、国は、水資源開発促進法(昭和36年法律第217号)に基づき、国土交通大臣が指定した七つの水系ごとに水資源開発基本計画を閣議決定し、水資源開発事業等を実施してきている。水資源開発基本計画は、水資源の総合的な開発及び利用の基本となるべきものであり、需要実態に即した的確な内容であることが重要である。
   また、貴重な資源である水の有効利用を図るためには、用途間転用の推進等による一層の水利用の合理化及び既存の水資源開発施設の機能の維持、確保等が重要となっている。
   さらに、水資源開発基本計画に基づく水資源の開発等の事業を実施している水資源開発公団については、行政の減量化の観点から、特殊法人に関する累次の閣議決定に基づく整理合理化事項の着実な推進が求められている。
   この行政評価・監視は、以上のような状況を踏まえ、水資源開発基本計画の策定状況、水利用の合理化の状況、水資源開発施設の管理の状況及び水資源開発公団の業務の実施状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施したものである。


目      次


   的確な水資源開発基本計画の策定
   水資源の有効利用
(1)    水利用の合理化
   水の用途間転用の推進
   水利用の適正な管理
   渇水調整協議会の設置の推進
(2)    水資源開発施設の有効利用
   堆砂対策の推進
   樹林帯区域及び保安林の指定によるダム湖周辺の保全
   水資源開発施設の適切な維持管理等の推進
   水資源開発公団の業務等の合理化・効率化
(1)    業務委託の推進・合理化
(2)    契約事務の改善
(3)    組織の簡素化及び要員の効率的な配置
   組織の簡素化
   要員の効率的な配置


  的確な水資源開発基本計画の策定
   水資源に関する施策は、長期的かつ総合的な観点から計画的に推進する必要があることから、国土交通省では、全国総合開発計画との整合を図りつつ、水資源の開発、保全及び利用に関する総合的な諸施策を検討する上での指針として「全国総合水資源計画」を策定している。
   また、国土交通大臣は、水資源開発促進法(昭和36年法律第217号。以下「水資源法」という。)第3条により、産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域について、広域的な用水対策を緊急に実施する必要があると認めるときは、当該地域に対する用水の供給を確保するため、水資源の総合的な開発及び利用の合理化を促進する必要がある河川の水系を水資源開発水系として指定し、同法第4条により、水資源開発基本計画(以下「基本計画」という。)を決定することとされている(注)。
  (注)   基本計画は、一般に「フルプラン」とも称されている。また、総人口に占める基本計画に係る地域の人口の比率は約49.5パーセント(平成11年)、全国の工業出荷額に占める同地域の比率は約47.3パーセント(9年)となっている。
   国土交通大臣は、水資源開発水系として、これまでに利根川水系、荒川水系、木曽川水系、豊川水系、淀川水系、吉野川水系及び筑後川水系の7水系を指定し、計六つの基本計画を決定している(利根川水系と荒川水系は一つの基本計画)。
   基本計画は、当該水資源開発水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の基本となるべき計画であり、水資源法第5条により、(i)水の用途別の需要の見通し及び供給の目標、(ii)供給の目標を達成するため必要な施設の建設に関する基本的な事項、(iii)その他水資源の総合的な開発及び利用の合理化に関する重要事項を記載しなければならないこととされている。これまでに決定された基本計画の計画期間は、おおむね10年間程度となっている。
   また、国土交通大臣は、水資源法第4条の規定に基づき、基本計画を決定するに当たっては、その内容について関係行政機関の長に協議し、かつ、関係都道府県知事及び国土審議会の意見を聴くこととされ、また、その決定は、閣議の決定を経なければならないこととされている。これを変更しようとするときも、決定するときと同様の手続を要することとされている。
   なお、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)第4条第7号において、政府は、行政運営の透明性の向上を図るとともに、政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるものとすることとされており、基本計画についても、必要な情報の提供の充実を図り、透明性を確保することが必要となっている。また、国土交通省(当時建設省)が平成10年11月に公表した「国民から見た公共事業の現状」においても、情報提供の充実度についての設問に対して回答者の約7割が「公共事業に関する情報が不足している面がある」としており、この調査結果において公共事業全般の取組姿勢についての意見として、説明責任の向上、情報提供の改善、情報公開の推進等がみられる。

   今回、基本計画の変更(水の用途別の需要の見通し及び供給の目標の変更を伴う計画の変更を「全部変更」といい、それ以外の計画の変更を「一部変更」という。以下同じ。)の状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   現行の基本計画(以下「現行計画」という。)への全部変更を行った際に国土交通省(当時国土庁)が国土審議会(当時水資源開発審議会)に提出した資料をみると、水道用水及び工業用水については、旧計画の計画期間内の需要実績及び新計画案の目標年度における需要見通しは示されているものの、需要見通しの積算方法や積算のための基礎係数は示されておらず、ま た、需要見通しと需要実績を対比して基本計画の達成状況を明らかにする資料や需要見通しと需要実績にかい離が生じている場合の原因分析に関する資料も示されていない。
   農業用水については、実際の使用量からの集計が困難であり、計画されている土地改良事業単位で将来見込まれる水量の合計を需要量としているため、上記の提出資料においては、需要の全体量ではなく新規の必要水量のみが示されている。
   需要実績の把握が可能な水道用水及び工業用水について、国土交通省(当時国土庁)が毎年度水資源開発公団に委託して実施している水資源開発基本計画調査の結果を基に、水資源開発水系7水系6計画における現行計画の直前の計画(以下「直前計画」という。)及び現行計画6計画のそれぞれにおける需要見通し(手当て済み水量(注)と新規需要水量との合計値)に対する需要実績(現行計画については計画最終年度ではなく平成8年度の実績)をみると、次のとおりである。
  (注)   水資源開発基本計画に基づく開発水量であって、水資源開発基本計画の全部変更時において、施設の完成等によって既に確保された水量をいう。
   水道用水については、直前計画におけるデータが把握可能である5水系4計画の需要見通しに対する需要実績の割合は、約30パーセントから約60パーセントとなっている。現行計画においても、7水系6計画のうち、3水系3計画では約86パーセントから約100パーセントとなっているが、残り4水系3計画では約36パーセントから約58パーセントとなっている。工業用水(工業用水の開発が計画されていない豊川水系を除く6水系5計画)については、経済変動等の予測が結果的に異なったこともあり、直前計画における需要見通しに対する需要実績は約2パーセントから約48パーセントであり、現行計画においても約3パーセントから約50パーセントとなっている。
   水道用水、工業用水ともに、現行計画における需要見通しと需要実績とのかい離状況は直前計画におけるよりも縮小傾向にあるものの、需要見通しと需要実績がかい離している。
   水資源開発水系7水系6計画について直前計画の計画期間中の開発予定水量に対する開発実績水量の割合をみると、現行計画が初回の計画である豊川水系及び計画どおりの開発実績水量を達成している吉野川水系を除く5水系4計画では、約5パーセントから約50パーセントとなっている。また、現行計画についても、既に計画どおりの実績をほぼ達成しているか又は達成する見込みである3水系3計画を除く4水系3計画では、開発実績がないものから約60パーセントとなっている。現行計画における開発予定水量と開発実績水量のかい離状況は直前計画におけるよりも縮小傾向にあるものの、なお開発予定水量と開発実績水量がかい離している水系がみられる。

   基本計画の目標年度以降において引き続き水資源開発水系に係る地域に用水の確保を図る必要がある場合、基本計画の全部変更を行うこととなる。この計画を的確な内容とするためには、変更しようとする計画について総括評価(計画に記載された需要見通し、供給目標及び開発予定水量とこれらに対する実績を把握するとともに、計画と実績がかい離している場合には渇水の発生状況等を含めその原因を分析し、計画を総括的に見直してその妥当性について評価することをいう。以下同じ。)を行い、その結果を変更後の計画における需要見通し、供給目標等に反映させることが必要である。また、計画の全部変更後においても、適時かつ的確に計画の達成度について点検を行い、必要がある場合は、計画の目標年度以前であっても需要実績等の動向に基づいて計画を変更することが重要である。
   なお、基本計画の見直しに際し、水資源の供給面においては降雨状況の変動等による渇水の発生等を踏まえ、水資源開発施設(注)の維持・整備など供給の安定性への配慮も求められている。また、水資源の開発及び利用を進めるに当たっては、水源の保全かん養を図るための森林の整備等が望まれる。
  (注)   ダム、河口堰、湖沼水位調節施設、多目的用水路、専用水路その他の水資源の開発又は利用のための施設をいう。
2.   基本計画に記載される水の用途別の需要見通しは、その需要に対処するために供給目標を設定し、この供給目標を達成するために必要な施設を建設するために立てられるものである。このため、的確な需要見通しであることが求められるが、上記1.bのとおり需要見通しと需要実績がかい離している状況からみて、実績を踏まえた的確な見通しとすることが重要である。そのためには、需要見通しを算出する際に行った社会経済状況等の分析や使用した推計方法(推計手法、使用した数値等)が結果的に的確であったかどうかについて、基本計画の全部変更時に検証することにより、推計精度の向上を図ることが必要となっている。
3.   全部変更が行われた基本計画に係る情報の公表の状況をみると、都府県別・用途別の需要見通しや水資源開発施設の建設等の事業別・用途別の供給水量等の情報は公表されているが、需要見通しの推計手法、推計に使用した数値、その算出根拠や出典に関する資料などの詳細な情報は公表されていない。

   したがって、国土交通省は、的確な水資源開発基本計画を策定するとともに、その一層の透明性の確保を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   基本計画の全部変更に当たっては、変更しようとする計画について総括評価を行うこと。また、全部変更を行った基本計画は、おおむね5年を目途に計画の達成度について点検を行い、必要に応じて計画の全部変更又は一部変更を行うこと。
2.   基本計画に記載した需要見通しについて、その推計方法等が的確であったかどうかを総括評価の際に検証するなどにより、推計精度の向上を図ること。
3.   基本計画の全部変更を行った場合には、計画の総括評価の結果、需要見通しの推計手法、使用した数値等について分かりやすい資料を作成し公表して、情報提供の充実を図ること。


  水資源の有効利用
(1)  水利用の合理化
   全国の水使用量は、平成9年取水量ベースで年間約 891億立方メートル(国土交通省(当時国土庁)による推計)であり、その内訳は、生活用水が約 165億立方メートル(約19パーセント)、工業用水が約 138億立方メートル(約15パーセント)、農業用水が約 589億立方メートル(約66パーセント)となっている。また、水使用量の推移をみると、全国的には、社会経済状況等を反映して近年はほぼ横ばい傾向を示しているが、その一方で毎年のようにいずれかの地域において渇水が発生している状況がみられる。河川法(昭和39年法律第167号)においては、河川の流水を占用しようとする者は、同法第23条の規定に基づき、河川管理者の許可を受けなければならないこととされている。「流水の占用」とは、ある特定目的のために、その目的を達成するために必要な限度において、公共用物たる河川の流水を排他的かつ継続的に使用することと解されている。この河川の流水を量的に占用する権利は、河川行政の実務上一般に「水利権」と称され、同法第23条の許可を受けた水利権は「許可水利権」と称されている。
   なお、新規の許可水利権は、申請された取水予定量が、基準渇水流量(10年に1回程度の渇水年において、年間を通じて 355日はこれを下回ることがない程度の取水予定地点における流量)から河川維持流量及び他の水利使用者の取水量を控除した流量の範囲内である場合に与えられるものであり、その流量がない場合に流水を占用しようとする者は、新たに建設される水資源開発施設に水源(貯水、取水等のための権利)を確保するか、水利権に係る手続を経て他の水利権を有する者から水の転用を受ける等の措置が必要となる。


   水の用途間転用の推進

(ア)   未利用水の活用
   既得の水源又は水利権に基づく利用可能な水であって長期にわたり未利用となっているもの(以下「未利用水」という。)がある場合には、将来の明確な需要が見込めない未利用水のうち他の用途への転用が可能な水について、地域の実情に応じ関係者の相互の理解と合意を踏まえ、新たに又は更に水利用が必要である者に転用するなどその有効活用を図っていく必要がある。
   特に、水資源の利用がかなり進んだ水系においては、水需給がひっ迫している場合であっても、効率的な建設適地の減少、環境への配慮等から近年新たな水資源開発施設の建設による水源の確保が困難になってきているところであり、円滑な用途間転用を推進することにより、限られた水資源の中で新たな水需要に対応していくことが強く求められている。
   このため、水資源開発に係る補助事業を所掌する各省においては、補助に係る水資源開発施設(以下「補助施設」という。)の有効活用を図るとともに、補助施設において長期間にわたって未利用水がある場合には、利水者(水道事業者、工業用水道事業者又は土地改良事業の事業主体)に対して転用の可能性についての検討を促したり必要な助言・支援を行うこと等により、水の円滑な用途間転用を推進していくことが重要である。

(イ)   利水情報の共有化等
   水の用途間転用を推進するためには、地域の利水関係者(新たに又は更に水利使用を求める者や既存の利水者、地方公共団体等)の間及び利水関係者と河川管理者との間において、日ごろから他の利水者の水の使用実態や未利用水の状況等の水利用の実態を把握し、利水情報を共有化することにより、水系全体の視点から合理的かつ効率的な水利使用に関する共通の問題意識を醸成していくことが重要である。このためには、水資源開発に係る補助事業を所掌する各省が、補助施設に係る未利用水の情報や用途ごとの水需給の動向等の利水情報を関係省間で交換すること等が求められる。
   平成11年3月の河川審議会(当時)の提言「今後の水利行政のあり方について」は、「河川管理者、利水者、地方公共団体等が水系単位で水利調整等に関する情報交換や当該水系固有の課題についての意見交換を行い、「地域のためには、どのような水利用をすべきか」ということに関する共通の問題意識を形成する場…が必要」であるとし、その理由を次のように述べている。
    「利水者から寄せられている新規水需要に対する水利使用の実行、限られた水資源の維持保全と有効活用、河川の維持流量の確保等、…さまざまなニーズが存する。これらに的確に対応していくためには、河川の取水実態が明確になることが不可欠である。特に、河川水の利用が進み、水資源開発が限界に近づいているような水系では、これらの課題への対応は、現状の水利使用の実態をもとにした水系全体での取り組みの中で進められねばならない。まず、河川管理者は、利水者の協力を得ながら、取水実態の把握に努めるとともに、将来の水利調整が円滑に進むよう、関係者にこの利水情報に加え、流量等の河川情報を積極的に提供すべきである。」
   国土交通省では、この提言を踏まえ、一部の主要水系について、上記の「共通の問題意識を形成する場」として流域水利用協議会を設置している。また、河川法第53条の規定を踏まえて水利使用者が渇水時における水利使用の調整について必要な協議を行うことを目的として設置される渇水調整協議会も、共通の問題意識を形成する場として活用されている。
   さらに、水の供給面から渇水に強い社会を構築する方策として、平成8年12月の河川審議会(当時)の提言「社会経済の変化を踏まえた今後の河川制度のあり方について」が、「長期的な視点に立って、水需給のひっ迫状況や水資源開発の可能性が地域により異なることに配慮しつつ、広域的な水融通…等を含め、様々な手法を適切に選択して計画的に推進することが重要」であるとしており、広域的な水融通により水資源の有効利用を推進することも重要な手段の一つである。国土交通省においても、広域的な水融通等の観点から、2以上の河川を連絡することにより豊富な河川水を移動するなど相互に河川の流況を調整し、それぞれの流況を改善する流況調整河川事業を実施している。

(ウ)   農業用水の転用対策
   平成9年取水量ベースで全国の水使用量の約66パーセントを占める農業用水は、水田のかんがい用水としてだけでなく、一般に、防火・消流雪用水等の「地域の水」としても活用されるほか、地域の水源かん養等の多面的な機能を持っている。また、水田面積は都市化の進展等とともに減少してきているが、各水田への公平かつ効率的な配水に要する用水路の水位維持の必要性、水田の乾田化に伴う浸透水量の増大や用水路と排水路の分離に伴う水の反復利用の低下など水需要が増大する要素もあり、水田面積の減少が単純に必要水量の減少に結び付かない場合がある。こうした中で、土地改良事業の実施に伴う農業水利施設の改修時や許可水利権の更新時等において、水田面積が大幅に減少している場合であって必要取水量を見直して取水量を減らすことが可能な場合に、農業用水から他用途への転用が実施されている。また、農林水産省では、水路のパイプライン化等の施設整備により配水システムを合理化し、農業用水の適正な確保を図りつつ、かんがい面積の減少に係る余剰水を顕在化させて転用することを目的として、都道府県営農業用水再編対策事業(昭和47年度に農業用水合理化対策事業として創設)及び国営農業用水再編対策事業(平成4年度創設)を実施している。

   今回、22都道府県における水需要の動向、利水者における水利使用の実態、河川管理者及び水資源開発に係る補助金を所掌する各省における水の用途間転用の推進方策の実施状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   水資源開発事業は、将来の水需要の見通しに基づいて実施される。しかし、水資源開発施設に水源を確保した利水者は、当該施設に予定どおりの需要が発生していない場合であっても、将来にわたり水を安定確保しようとすること等から、未利用水の他用途への転用について自発的に検討を進めることが難しい場合もある。このため、補助金を所掌する各省は、用途別の利水に係る補助金について、その交付目的を達成しているか否かを定期的に把握し、達成していないと認められる場合は、補助金によって確保された水が長期間にわたって未利用となることのないよう、他用途への転用についての助言を含め必要な改善措置を講ずることが必要である。また、補助金を所掌する各省において、補助施設に係る水源の利用状況等の情報を相互に交換することが重要である。
   補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第 179号)第3条においては、「各省各庁の長は、その所掌の補助金等に係る予算の執行に当つては補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに特に留意し、補助金等が…公正かつ効率的に使用されるように努めなければならない」とされている。補助事業に係る水資源開発施設については、水資源の有効利用の観点に加え、補助施設の有効活用の観点からもその利活用が強く求められている。
   補助金を所掌する厚生労働省、農林水産省及び経済産業省では、補助施設に係る水源の利用状況等について、以下のとおり把握しているとしている。

(a)   厚生労働省では、補助を実施する者としての観点に加え、水道事業の適正な実施を確保する等の観点から、水道統計調査を毎年実施し、補助施設を含むすべての水道事業者等の水源施設の利用状況を把握している。
(b)   農林水産省では、補助に係るかんがい施設の適正かつ有効な利活用を図る観点から、農業用水の許可水利権の更新時に都道府県を通じてその利用状況を把握している。
(c)   経済産業省においても、工業用水道事業費補助金交付規則等に基づき、工業用水道事業計画の変更承認時に補助施設に係る水の利用状況を把握している。

   しかしながら、いずれの省においても、水の用途間転用が具体化している事案を除いて、用途間転用を促進する観点からは実際の利用状況を踏まえた水利使用の情報を他の省に提供しておらず、情報の共有化が十分図られている状況にはない。
   補助施設に水源を確保している水道用水、農業用水及び工業用水の利用状況をみると、次のとおり、水需要の動向の変化に伴って、調査時点において長期間未利用となっているものがみられる。
(a)   22都道府県管内の水道事業者が将来の水需要のために確保した水源の利用状況をみると、水道水源開発等施設整備費補助金により確保した水道水源であって、将来利用する予定があるとしているものの、10年以上未利用であり給水開始年度も未定となっているものが2事業(2市)ある。
(b)   22都道府県のうち水需給に関する長期計画を策定している18都道府県の現行の水需給計画における農業用水の需要見通しをみると、前回の計画を下方修正しているものが11県ある。
   こうした状況の下、かんがい排水事業費補助等の土地改良事業により農業水利施設を整備し、かんがい用の水源を確保した24地域(16都道県)における農業用水の利用状況をみると、水田面積の減少率が高く(昭和50年度から平成10年度までの間に15パーセント以上)、農業水利施設を整備し配水システムを合理化して余剰水の顕在化を図ること等により、用途間転用の可能性について検討する余地があるとみられるものが4地域(3県)ある。
   また、予定されていた土地改良事業が実施されていないことから、水資源開発施設に確保された水源が10年以上未利用となっているものが2地域(1県)ある。
(c)   22都道府県のうち水需給に関する長期計画を策定している18都道府県の現行の水需給計画における工業用水の需要見通しをみると、前回の計画を下方修正しているものが11都道府県ある。
   また、水道用水の需要が高まっている地域においては、社会経済情勢の変動により水需要が当面見込めない工業用水道の水が水道用水へ転用されており、平成元年度から10年度までの間に全国で水道用水に転用された工業用水は16件、その流量は合計で毎秒約 9.5立方メートルとなっている。
   こうした状況の下、工業用水道事業費補助金により工業用水道の水源を確保し、又は工業用水道施設を整備した22都道府県における32事業(14県1市)について水利使用の状況をみると、確保した水源の一部が未利用であって、長期的にも当初計画どおりの工業用水の需要の増加が具体的に見込まれないことから、用途間転用を検討中であるとしているものが1事業(1県)ある。
   一方、将来水源として利用する予定があるとしているものの10年以上未利用となっているものが3事業(1県1市)あり、また、一部用途間転用を行っているものの当該水源の残りの部分については10年以上未利用となっているものが1事業(1県)ある。
2.   河川管理者及び利水関係者間の水の有効利用等に係る情報の共有の場である流域水利用協議会又は同協議会の機能の代替が可能である渇水調整協議会が設置されている水系は、今回調査した一級河川71水系のうち47水系(注)となっている。
  (注)   流域水利用協議会設置23水系、渇水調整協議会設置43水系の計から重複する19水系を除く(平成12年10月現在)。
   しかし、残りの24水系の中には、水需給がひっ迫しているにもかかわらず、これらの水の有効利用等のための協議会等が未設置となっているものが3水系ある。
3.   水田面積の大幅な減少や施設の改修等により農業用水の必要取水量が減少した地域においては、農業用水から他用途への転用も行われてきており、平成元年度以降10年度までの間に他用途へ転用された農業用水は、全国の一級河川 109水系において計20件、その流量は合計で毎秒約12.2立方メートルとなっている。
   しかし、農業水利施設を整備することにより配水システムを合理化し、余剰水を顕在化して用途間転用する国営農業用水再編対策事業については、同事業が創設された平成4年度以降11年度までの間に実施されている事業は1地区であり、また、都道府県営農業用水再編対策事業については、同事業が創設された昭和47年度以降6地区で実施され、水の用途間転用が行われているが、平成3年度に1地区が完了して以降新規に事業に着手した地区はない。


   したがって、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省は、水資源の有効利用を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   地域における利水関係者等間の情報の共有化による円滑な水の用途間転用の推進を図るため、補助に係る水資源開発施設の水源の利用状況も踏まえた水利使用に関する情報交換を推進するなど、必要な条件整備を図ること。
(厚生労働省、農林水産省、経済産業省)
2.   利水者の協力を得つつ、流域水利用協議会、渇水調整協議会等を活用するなどし、河川管理者・利水関係者間における河川・利水情報の共有化を推進すること。
(国土交通省)
3.   地域での都市用水の需要があり、転用可能な水が見込まれる場合には、国営農業用水再編対策事業の活用を図り、農業用水の用途間転用を推進すること。
(農林水産省)
   また、都道府県営農業用水再編対策事業について、都道府県に対して同様の措置を採るよう要請すること。
(農林水産省)


   水利用の適正な管理
   河川の流水を占用しようとする者は、河川法第23条の規定に基づき、河川管理者の許可を受けなければならない。また、許可の申請に当たっては、水利使用の目的、取水量等を記載した申請書に、水利使用に係る事業計画の概要、使用水量の算出の根拠等の図書を添付することとされている(河川法施行規則(昭和40年建設省令第7号)第11条)。
   河川管理者は、流水の占用の許可の申請があった場合、「行政手続法の施行に伴う河川法等における処分の審査基準の策定等について」(平成6年9月30日付け建河政発第52号建設省河川局長通達)等に基づき、申請された水利使用に公益性及び実行の確実性があるか、申請された取水量が河川の流況等に照らし安定的に取水可能なものであるか等について審査を行うこととされている。また、河川管理者は、河川法第90条により、流水の占用許可を行う際に、必要な条件を付することができることとされており、占用の目的、取水口の位置、最大取水量、取水の条件、許可の期間、取水量の測定・報告等について条件を付している。
   また、河川管理者は、流水の占用許可について更新の申請があった場合、取水実績を踏まえ、上記の通達等に基づき申請のあった取水量が合理的な根拠に基づいて算出されたものであるか、水利使用の目的、事業計画、河川の流況等からみて必要かつ妥当な範囲内のものであるか等について申請者の提出資料等に基づき審査して、取水量等の許可の内容及び許可条件について必要な見直しを行い、公益上の判断を行うことによって、適正な許可を行うこととされている。さらに、流水の占用を実行していない等の特別の事由がない限り、不許可の処分を行うことはできないこととなっている。
   一方、これに対し、水の事実上の支配を基に社会的に承認され、社会慣行として成立した水利秩序が権利化したものを慣行水利権(注)といい、慣行水利権を有する者は、河川管理者に対し、流水の占用の目的、占用している流水の量等を届け出なければならないこととされている。
   (注)   慣行水利権の多くは旧河川法(明治29年法律第71号)の施行以前から行われている水利使用であって、旧河川法において、水利使用を許可制とする制度が創設された際に、同法による許可を受けたものとみなされたものであり、昭和39年に現行河川法が制定された際も、河川法施行法に基づき河川法による許可を受けたものとみなされている。
   慣行水利権に基づく水利使用は、全国の一級河川及び二級河川で約12万件あるといわれている。その中には取水量が小規模なものも多く、許可水利権(全国の一級河川及び二級河川で約2万4,000件)のように取水量の報告義務や定期的な見直しの機会もないことから、河川管理者が実態を把握することが難しいものとなっている。
   国土交通省(当時建設省)は、「農業用水の転用に関する取り扱いについて」(昭和47年12月7日付け建設省河政発第105号建設省河川局長通達)において、「慣行水利権について、かんがい面積、必要取水量等その内容を明らかにするとともに、機会を得てできるだけこれを許可水利権に切りかえること」としている。また、水利使用者は、かんがい排水事業等によって、河川からの取水内容の変更を伴う取水施設(河川法上の工作物)の新築・改築等を行う際には、緊急の用水需要に対処するため等のやむを得ない場合を除き、河川区域内の土地の占用許可申請等と流水の占用許可申請を同時に行うこととされている(河川法施行規則第39条等)。

   今回、一級河川の直轄区間を管理する国土交通省地方整備局、同北海道開発局(以下「地方整備局等」という。)及び地方整備局の工事事務所の計22局所並びに一級河川の指定区間及び二級河川を管理する22都道府県について、平成8年度から10年度の間における流水の占用許可申請に係る審査の実施状況及び水利使用の把握状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   流水の占用許可の更新の審査において、使用水量の算出根拠である水田の消費水量等の審査に必要な資料が不足しており、適正な必要取水量が確定できないまま、水利使用者の実際の取水量からかい離する当初の許可の取水量で更新許可を行っている事例(1地方整備局で2事例)がある。
2.   慣行水利権に基づく水利使用の実態の把握が不十分であるため、取水が行われていないにもかかわらず、これを把握していない事例(2県で7事例)や、届出をしている取水量と実際の取水量が相違している可能性が高いにもかかわらず、取水の実態を把握していない事例(1地方整備局及び1県で各1事例)がある。
   また、慣行水利権に基づく水利使用者が、かんがい排水事業等による河川からの取水内容の変更を伴う取水施設の改築等を行っているにもかかわらず、流水の占用許可の申請が行われていない事例(2地方整備局で4事例)がある。これらの事例においては、いずれも河川法に基づく河川区域内の土地の占用許可等を受ける際に「すみやかに流水の占用の許可の申請を行うこと」という条件が付されていたが、申請が行われず、結果として長期にわたり慣行水利権から許可水利権への切替えが行われないままとなっている。


   したがって、国土交通省は、河川の水利使用の適正な管理を行い水資源の有効利用を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   流水の占用許可申請の審査に当たっては、申請者に使用水量の算出根拠資料等を規定どおりに提出させ、適正な量による取水の許可を行うこととすること。

2.i)   慣行水利権に基づく取水の状況について、一級河川の直轄区間における大規模な水利使用者を中心としてその実態を把握すること。
   また、慣行水利権に基づく取水を行っている者であって河川からの取水内容の変更を伴う工作物の新築等を行おうとするものに対して、流水の占用許可の申請を行うよう求めること。

ii)   一級河川の指定区間及び二級河川についても、一級河川の直轄区間と同様の措置を採るよう都道府県に対して要請すること。


   渇水調整協議会の設置の推進
   渇水とは、河川の流量やダム等の水資源開発施設の貯水量が減少又は枯渇し、平常時の方法では必要な量の取水ができなくなる事態を指す。我が国では、昭和40年ころからの少雨化傾向もあり、利根川等の主要水系を始めとして毎年のようにいずれかの地域において渇水が発生している状況がみられる。
   このため、渇水が発生し又は発生するおそれがある地域では、日ごろから渇水に備え、水利使用者間における水利使用の調整及び取水制限を迅速かつ円滑に行うことができるような体制を整備しておくことが重要となっている。
   河川法においては、水利使用者は、異常な渇水により許可に係る水利使用が困難となり、又は困難となるおそれがある場合においては、水利使用の調整について必要な協議を行うよう努めなければならないこととされ、この場合において、河川管理者は、当該協議が円滑に行われるようにするため、水利使用の調整に関して必要な情報の提供に努めなければならないこととされている(同法第53条第1項)。
   また、河川管理者は、渇水時における水利使用者間の協議が成立しない場合において水利使用者から申請があったとき、又は緊急に水利使用の調整を行わなければ公共の利益に重大な支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、水利使用の調整に関して必要なあっせん又は調停を行うことができることとされている(河川法第53条第3項)。
   このため、国土交通省(当時建設省)は、「渇水対策の推進について」(昭和49年3月22日付け建設省河政発第26号建設省河川局長通達)を地方整備局(当時地方建設局)に対し発出し、渇水時における水利使用者間の水利調整を円滑に行うことによって合理的な水利使用の推進を図るため、渇水が予想される河川について、原則として水系ごとに、水利使用者、河川管理者等を構成員とする常設の「渇水調整協議会」の設置を働きかけ、同協議会において水利調整の時期、方法等を協議するように指示している。

   今回、一級河川及び二級河川について、渇水調整協議会の設置状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   平成11年度末現在、全国の一級河川 109水系から抽出した71水系のうち、43水系では渇水調整協議会が設置されているが、28水系では設置されていない。
   この28水系のうち10水系において、平成元年から11年までの11年間に渇水が発生している。この10水系のうち2水系においては、取水制限の対象となる河川の流水量が少ない等のため、渇水調整の余地がない。残る8水系のうち6水系においては、水利使用者が、河川管理者や流域水利用協議会等の渇水情報の交換等を行う組織を通じて渇水情報を入手し、水利使用目的の異なる他の水利使用者の水利権を相互に尊重しつつ自主的に取水制限を行うなどしているものの、他の2水系においては、渇水が頻繁に発生しないことや流水の占用の許可を受けた大口の水利使用者が少ないことから、水利使用目的の異なる水利使用者相互において渇水調整や取水制限が行われていない。
2.   平成元年から11年までの11年間に渇水が発生している二級河川のうち9水系についてみたところ、4水系では渇水調整協議会が設置されていない。


   したがって、国土交通省は、過去に渇水が発生している河川等の渇水時における水利使用者間の水利調整を円滑化する観点から、渇水調整協議会を設置する必要のある河川のうち、一級河川については同協議会の設置に努めるとともに、二級河川については同協議会の設置を検討するよう都道府県に対して要請する必要がある。


(2)   水資源開発施設の有効利用

   堆砂対策の推進
   河川法第44条第1項に規定するダム(河川の流水を貯留し又は取水するためのダムで、基礎地盤から堤頂までの高さが15メートル以上のもの)の建設に当たっては、ダムに堆積する土砂がダムの洪水調節容量及び利水容量を過度に少なくしないよう、近傍の類似水系の既設ダムの堆砂実績並びに流域の地形、地質及び気象等からおおむね 100年間に流入する土砂量を推定し、あらかじめそれに対処するための容量(以下「堆砂容量」という。) を計画堆砂量として、ダムに設定している(注)。
   (注)   堆砂容量の設定に当たっては、国土交通省の直轄事業及び国土交通省関係補助事業により建設するダムについては「建設省河川砂防技術基準(案)計画編」を、また、農林水産省の土地改良事業により建設されるダムについては「土地改良事業計画設計基準」をそれぞれ適用することとされ、さらに、水資源開発公団が建設するダムについては、国土交通省又は農林水産省の上記基準を参考として算出することとされている。
   ダムに堆積した土砂を排除しダムの機能維持を図るため、国土交通省では、同省が直轄で建設し管理するダム(以下「直轄ダム」という。)、水資源開発公団が建設し管理するダム(以下「公団ダム」という。)及び都道府県が国土交通省の補助を受けて建設し管理するダム(以下「都道府県補助ダム」という。)に対し、貯水池保全事業による貯砂ダム(ダムの貯水池への土砂の流入を減少させるためにダム貯水池の上流部に設置される施設)の設置、特定ダム堆砂排除事業による掘削及び排砂管の設置等の事業を実施している。
   また、農林水産省では、同省が建設するダム(以下「国営造成農業用ダム」という。)、都道府県が農林水産省の補助を受けて建設するダム(以下「都道府県営造成農業用ダム」という。) 等に対し、基幹水利施設補修事業により土砂の掘削、運搬等の堆砂対策を行っている。
   なお、国営造成農業用ダム及び都道府県営造成農業用ダムについては、都道府県、土地改良区等に管理の委託等が行われており、管理者は、その管理費用を負担し、善良な管理者の注意をもって管理することとされている。
   ダムの堆砂が進行して堆砂容量以上に堆砂すること(堆砂量を堆砂容量で除して得られる堆砂率が 100パーセントを超えること)により、有効貯水容量(洪水調節容量と利水容量の合計)が減少した場合には、洪水調節容量の減少によるダムの洪水調節機能の低下、利水容量の減少による必要利水量確保への悪影響等の様々な障害が生ずることとなる。したがって、ダムの水資源開発施設としての機能を維持するため、適時適切な堆砂対策が求められている。

   今回、89ダム(26直轄ダム、11公団ダム、38都道府県補助ダム、9国営造成農業用ダム、3都道府県営造成農業用ダム、2工業用水専用ダム)について堆砂対策等を調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   調査した89ダムについて平成10年度末時点における堆砂率をみると、3直轄ダム及び2国営造成農業用ダムで堆砂率が 100パーセントを超えている。
   この3直轄ダム(木曽川水系の横山ダム及び丸山ダム並びに吉野川水系の柳瀬ダム)では、堆砂容量を超えた堆砂量が3ダム合計で約2,900 万立方メートルとなっている。既存ダムにおける掘削等は、新たな水需要の増加やより大きな洪水調節効果の要請等に対応するものではないが、単純に比較すれば、この3ダムの堆砂容量を超えた堆砂量は、中規模のダムの有効貯水容量(例えば、平成3年度に竣工した直轄ダムである櫛田川水系の蓮ダムの有効貯水容量は 2,940万立方メートル)に匹敵する規模となっている。
2.   ダムから排除した土砂の処分は、各ダム管理者にゆだねられており、各ダム管理者は、排除した土砂を建設用骨材等に利用することとしている。しかし、骨材価格の低迷、排除した土砂の置場の不足等のため、各ダム管理者は排除した土砂の有効な処分方法を有しておらず、排除した土砂の有効な処分のためには、骨材としての利用先や土砂置場を広域的に探すことが必要となる。一方、各地方整備局等では、建設発生土(建設工事等により発生する土砂)の有効処分のため、その発生時期・発生量等の情報を共有するシステム(注)を運用しているが、現状では、ダムから排除した土砂の同システムへの登録は少なく、これらの土砂に係る同システムの利用も低調なものとなっている。
   (注)   各地方整備局等が建設発生土の発生者側と利用者側の情報(発生土の質、量、発生の時期等)の一元的なデータベースを構築し、リアルタイムでその情報を共有・交換するシステムであり、平成10年度から運用を開始している。
3.   ダムの堆砂容量は、近傍の類似水系の既設ダムの堆砂実績等から算定することとされている。毎年の堆砂量は、気象・水象を始めとする流域の状況によって変動するものであるが、仮に1年当たりの堆砂量を「堆砂進行速度」としてとらえ、各ダムにおいて想定された計画堆砂年の間均等に堆砂が進行すると仮定して、計画堆砂量を計画堆砂年数で除したものを「計画上の堆砂進行速度」として算出し、これを平成10年度末時点の実際の堆砂進行速度(各ダムの堆砂量を同年度末までのダムの経過年数で除したもの)と比較すると、実際の堆砂進行速度が計画上の堆砂進行速度の2倍を超えているものが次のとおり89ダム中19ダムある。
i)   26直轄ダム中6ダム
ii)   11公団ダム中3ダム
iii)   38都道府県補助ダム中5ダム
iv)   9国営造成農業用ダム中4ダム
v)   3都道府県営造成農業用ダム中1ダム


   したがって、農林水産省及び国土交通省は、水資源開発施設の機能を維持・確保する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   堆砂率が 100パーセントを超過しているダムを中心として、堆砂による利水等への影響の度合い等も踏まえつつ、次の措置を講ずること。

i)   直轄ダムについて、堆砂対策を推進すること。(国土交通省)

ii)   国営造成農業用ダムについて、管理者に堆砂対策の推進を要 請すること。(農林水産省)
2.   ダムから排砂した土砂の処分について、環境に配慮しつつ、各地方整備局等が運用している土砂の発生時期、発生量等の情報を共有するシステムの活用などを通じた広域的な処分方策を検討すること。
(農林水産省、国土交通省)
3.   実際の堆砂進行速度が計画上の堆砂進行速度を大幅に超えているダムについてその原因を調査し、堆砂量の推計方法の改善に向けた分析に努めること。
(国土交通省)

   樹林帯区域及び保安林の指定によるダム湖周辺の保全
   ダムの洪水調節容量及び利水容量を確保し、水源をかん養し、貯留水の水質を保全するためには、ダムの貯水池(ダム湖)への土砂や汚濁水の流入を抑制するためのダム湖周辺の湖畔林の整備が重要である。
   このため、森林法(昭和26年法律第 249号)第25条第1項又は第25条の2第1項の規定に基づき、水源のかん養や土砂流出の防備等を図るため必要があるときは、農林水産大臣又は都道府県知事は森林(湖畔林)を保安林として指定し、立木の伐採や土石の採掘等を制限することができることとされている。
   また、平成9年には、河川管理者である国土交通大臣又は都道府県知事が自ら湖畔林を整備することを目的として樹林帯区域を指定する制度(ダム湖周辺の土地を河川管理者が取得し造林を行い、これを河川法第3条に定める河川管理施設として指定するもの)が創設されている。樹林帯区域の指定に当たっては、保安林行政との整合を図るため、保安林を樹林帯区域に指定する場合は、河川管理者が当該保安林を指定した農林水産大臣又は都道府県知事に協議しなければならないこととされており、また、保安林でない区域を樹林帯区域とする場合は、原則として保安林としても指定することとされている(河川法第6条第6項等)。

   今回、樹林帯区域及び保安林の指定状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。

1.   国土交通省(当時建設省)では、平成9年の樹林帯区域の制度創設当時に、同省所管の既に管理に移行した多目的ダム及び治水ダム(直轄ダム、公団ダム及び都道府県補助ダム)を対象とした調査を行い、その結果、樹林帯区域の指定が必要と考えられる30か所を選定したが、現在までに、そのうちの2か所(1直轄ダム、1公団ダム)と他の1か所(1都道府県補助ダム)において指定に向けた検討が行われているにとどまり、樹林帯区域の指定の実績はない。これは、樹林帯区域の指定制度創設後長い期間を経ていないことによるものと考えられるが、当該制度の趣旨を踏まえ、ダム湖周辺の森林の保全状況の総点検を行い、保安林制度との関連に留意しつつ、樹林帯区域の指定制度を活用していくことが求められる。

2.   ダム湖周辺の森林の保全は、ダム湖への土砂や汚濁水の流入を抑制するために重要であるが、二級河川水系に係る都道府県補助ダムの湖畔林において、保安林に指定されていない森林から、水道用の水源として利用されているダム湖水に土砂が流入して白濁した事例がみられる(1ダム)。


   したがって、農林水産省及び国土交通省は、ダム湖周辺の森林の保全を図り、ダム湖への土砂等の流入を防止する等の観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   国土交通省は、次の措置を講ずること。
i)   直轄ダムについて、ダム湖周辺の森林の保全の必要性についての総点検を実施し、保全の必要性が認められる場合は、樹林帯区域の指定又は保安林の指定の要請について検討するとともに、保安林の指定の要請が必要と判断される場合は、保安林の指定権者(農林水産大臣又は都道府県知事)に対し、指定の要請を行うこと。
ii)   公団ダムについて、水資源開発公団に対して直轄ダムと同様の措置を講ずるよう指導すること。
iii)   都道府県補助ダムについて、都道府県に対して直轄ダムと同様の措置を講ずるよう要請すること。
2.   農林水産省は、次の措置を講ずること。
i)   農林水産大臣が保安林の指定権者となっている森林について、上記1.により保安林指定の要請を受けた場合は、保安林の指定を検討すること。
ii)   都道府県知事が保安林の指定権者となっている森林について、上記i)と同様の要請を受けた場合は、都道府県知事に対し、保安林の指定を検討するよう要請すること。


   水資源開発施設の適切な維持管理等の推進
  操作を伴う水資源開発施設を河川に設置する場合は、設置者等は、河川法第14条等の規定に基づき、次の手続により、水資源開発施設の操作規則、操作規程又は施設管理規程(以下「操作規則等」という。)を策定しなければならないこととされている。
i)   直轄ダムについては、国土交通大臣が、あらかじめ関係行政機関の長等への協議及び関係都道府県知事等からの意見聴取を行い、操作規則を策定する。
ii)   都道府県補助ダムについては、都道府県知事が、共同事業者である利水者への協議及び関係市町村長等からの意見聴取を行い、操作規則を策定する。その際、一級河川の指定区間にある都道府県補助ダムについては、地方整備局長等への協議を要する。
iii)   国営造成農業用ダム、都道府県営造成農業用ダム、工業用水専用ダム等の利水専用ダムについては、農林水産大臣又は都道府県知事が、関係都道府県知事からの意見聴取を行い河川管理者の承認を受けて、操作規程を策定する。
iv)   水資源開発公団が管理する水資源開発施設のうち、
(i)   特定施設(多目的ダム等)については、同公団が、関係都道府県知事等からの意見聴取を行い操作規則を策定するとともに、関係都道府県知事等に協議し主務大臣の認可を受けて、施設管理規程を策定する、
(ii)   特定施設以外の施設(利水施設)については、同公団が、関係都道府県知事等に協議し主務大臣の認可を受けて、施設管理規程を策定する。

   以上のような手続を経て操作規則等が策定されるまでの間、暫定的に、各ダムの操作等は、操作規則等の案に基づいて行われている。
   水資源開発施設の治水及び利水の機能を十分に発揮させるためには、施設が常に正常に機能するよう、施設の計測、点検及び整備、気象及び水象の観測等を的確かつ適切に行うことが必要である。このため、操作規則等には、次に掲げる事項を定めることとされ、また、ダム管理者は、定められた操作規則等に従って操作等に当たらなければならないこととされている。
i)  施設の操作の基準及び方法に関する事項
ii)  施設を操作するため必要な機械、器具等の点検及び整備に関する事項(注)
iii)  施設を操作するため必要な気象及び水象の観測に関する事項等

(注)  施設の操作に係る機械、器具等の点検及び整備に関する事項等の具体的内容(対象施設、点検回数等)は、操作規則等に基づく操作細則及び点検整備基準等に定めることとされている。このため、以下、施設の点検及び整備に関しては、「操作規則等」の中に操作細則及び点検整備基準等を含める。

   具体的には、ダム管理者は、操作規則等に従い、施設の計測、点検及び整備を行いその結果を記録すること(以下「施設の計測、点検、整備及び記録」という。)並びに気象及び水象の観測を行いその結果を記録すること(以下「気象等の観測及び記録」という。)が求められている。
  さらに、大規模地震が発生した場合には、的確かつ迅速に臨時点検を行う必要があることから、「地震発生後のダム臨時点検結果の報告について」(昭和53年1月20日付け建設省河開発第5号建設省河川局開発課長通達)において、ダムの基礎地盤若しくは堤体底部に設置した地震計により観測された地震動の最大加速度が25ガル (注)以上である地震又はダム地点周辺の気象庁震度階級が4以上である地震が発生した場合には、ダム管理者は、ダムの堤体及びその取付部等について臨時点検(一次点検は目視による外観点検、二次点検は詳細な外観点検、計測による漏水、ひび割れ等の点検)を実施し、その結果を記録し、地方整備局長等へ報告することとされている。
   (注)   加速度の単位。1ガルは、1cm/s2の速度変化を表す。主として地震波の加速度を表す。


   今回、81ダム(23直轄ダム、12公団ダム、34都道府県補助ダム、9国営造成農業用ダム、3工業用水専用ダム)における操作規則等の策定状況及び66ダム(19直轄ダム、12公団ダム、22都道府県補助ダム、8国営造成農業用ダム、5工業用水専用ダム)の維持管理の状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
1.   操作規則等の策定状況を調査した81ダムのうち23直轄ダムについては、ダム管理者と水利権関係者等とのダム操作に関する協議が長期化していること等から、ダムの管理が開始されているが操作規則等が策定されていないものが5ダムあり、そのうち4ダムについては、次のとおり10年以上未策定となっている。
i)   未策定期間が20年以上 1ダム
ii)  未策定期間が10年以上20年未満 3ダム
  また、残り58ダムについて操作規則等の策定状況をみると、ダム管理者と関係行政機関の長等との協議が長期化していること、地方整備局長等との事前協議に基づく補正に時間を要していること等から、ダムの管理が開始されているが操作規則等が策定されていないものが6ダムあり、そのうち5ダムについては、次のとおり10年以上未策定となっている。

i)   未策定期間が20年以上 2ダム(1都道府県補助ダム、1国営造成農業用ダム)

ii)   未策定期間が10年以上20年未満 3ダム(都道府県補助ダム)
2.   81ダムについて、操作規則等(案を含む。本項において同じ。)の内容をみると、その中には、次のとおり、その後の水利使用の状況の変化によりダムの放流量が変化するなどしているにもかかわらず、必要な操作規則等の改正等が行われていないものが9ダムある。

i)   取水実態に合わせて操作方法等を変更しているにもかかわらず、操作規則等を改正していないもの等 3ダム(1直轄ダム、1都道府県補助ダム、1工業用水専用ダム)

ii)   施設の点検等の頻度及び回数が操作規則等に規定されていないもの 6ダム(1直轄ダム、1公団ダム、3都道府県補助ダム、1国営造成農業用ダム)
3.   維持管理の状況について調査した66ダム(19直轄ダム、12公団ダム、22都道府県補助ダム、8国営造成農業用ダム、5工業用水専用ダム)について、操作規則等に基づくダム管理者による施設の計測、点検、整備及び記録並びに気象等の観測及び記録の実施状況をみると、次のとおり、必ずしも規定どおりに実施されていないものが27ダムある。

i)   測定機器の故障等により、漏水量等に係る施設の計測、点検及び整備を実施していないもの 10ダム(3直轄ダム、2公団ダム、5都道府県補助ダム)

ii)   気象及び水象の観測の一部を実施していないもの 2ダム(1都道府県補助ダム、1工業用水専用ダム)

iii)   点検結果等に異常がなかったこと等を理由として、施設の計測、点検及び整備の結果を記録しておらず、所定の点検、整備等が行われたかどうかについて確認できないもの15ダム(7直轄ダム、1公団ダム、6都道府県補助ダム、1工業用水専用ダム)
4.   維持管理の状況について調査した66ダムのうち、地震動の最大加速度が25ガル以上又は気象庁震度階級が4以上の地震に見舞われた22ダムをみると、最大加速度と震度階級のいずれかが基準を下回っていれば臨時点検の必要がないと職員が誤解していたこと等により、地震発生後の臨時点検が未実施となっているものや臨時点検の結果が未報告となっているものが3ダム(1直轄ダム、2都道府県補助ダム)ある。


   したがって、農林水産省及び国土交通省は、水資源開発施設の適切な維持管理を推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.   操作規則等は、ダムの管理を開始する時期までに策定すべきものであることをダム設置者に改めて徹底すること。
(農林水産省、国土交通省)
   また、現在、操作規則等が未策定となっているダムについて、次の措置を講ずること。

i)   直轄ダムについては、利水関係者及び関係行政機関等を含めた既存の組織を活用して、関係者間の調整等を迅速化し、操作規則等を早急に策定すること。
(国土交通省)

ii)   都道府県補助ダムについては、都道府県に対して直轄ダムについてと同様の措置を講じ早急に操作規則等を策定するよう要請すること。
(国土交通省)

iii)   国営造成農業用ダムについては、河川管理者との調整を迅速化し、早急に操作規則等を策定すること。
(農林水産省)
2.   国土交通省は、操作規則等(案を含む。本項において同じ。)に定められている事項について、その後の状況の変化により変更事由が生じた場合は、次の措置を講ずること。

i)   直轄ダムについては、実態を把握し、操作規則等の改正等を行うこと。

ii)   都道府県補助ダム及び工業用水専用ダムについては、都道府県に対して実態の把握と操作規則等の改正等を要請すること。
3.   国土交通省は、水資源開発施設の維持管理について、次の措置を講ずること。

i)   直轄ダムについて、施設の計測、点検、整備及び記録を励行すること。

ii)   公団ダムについて、水資源開発公団に対して施設の計測、点検、整備及び記録を励行するよう指導すること。

iii)   都道府県補助ダム及び工業用水専用ダムについて、都道府県に対して施設の計測、点検、整備及び記録並びに気象等の観測及び記録を励行するよう要請すること。
4.   国土交通省は、地震発生後のダムの臨時点検について、次の措置を講ずること。

i)   直轄ダムについては、地震発生後の的確かつ迅速な点検及び報告を励行すること。

ii)   都道府県補助ダムについては、都道府県に対して地震発生後の的確かつ迅速な点検及び報告を励行するよう要請すること。


   水資源開発公団の業務等の合理化・効率化
(1)   業務委託の推進・合理化
   水資源開発公団は、水資源開発基本計画に基づく水資源の開発又は利用のための事業を実施すること等により、国民経済の成長と国民生活の向上に寄与することを目的として水資源開発公団法(昭和37年法律第 218号)により設立された特殊法人である。
   水資源開発公団は、水資源開発水系に指定されている利根川等の7水系において、ダム・堰、用水路等の水資源開発施設の新築又は改築を行うとともに、その管理(操作等)等を行うこととされている。
   水資源開発公団の事業資金のうち水資源開発施設の建設等に要する費用は、財政投融資資金のほか、治水特別会計からの交付金、農業生産基盤整備補助金、水道水源補助金等により賄われている。また、完成した施設の管理に要する費用は、国からの交付金、水利使用者の負担金等により賄われている。このため、同公団には、水資源開発施設の建設、管理等に要する費用をできる限り抑制し、最小限の組織・体制で効率的な事業運営を行うことが求められている。
   水資源開発公団は、「特殊法人の整理合理化について」(平成7年2月24日閣議決定)において、定型業務の民間委託の推進を図ることとされたことを受け、平成7年12月に業務委託のガイドラインを定めている。同ガイドラインでは、業務を「職員自らが処理する業務」、「委託可能な業務」及び「委託する業務」の3種に区分している。このうち「委託可能な業務」として、補助的な業務であって委託した方が効率的に実施できる業務(水資源開発施設の操作・監視業務の一部等)が挙げられ、また、「委託する業務」として、専門業者に委託した方が効率的に実施できる業務(調査、測量、設計等に関する業務の一部)、単純又は定型化された業務で委託した方が効率的に実施できる業務(自動車の運転、点検・整備を行う車両管理業務等)等が挙げられている。

   今回、水資源開発公団の平成11年度における業務の民間委託の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

1.   車両管理業務及び配水管理業務について、水資源開発公団の計51の会計機関(水資源開発公団の収入及び支出の原因となる契約等を担当するために設けられている機関)のうち、本社、支社等26機関における委託状況等をみると、次のとおりである。

i)   車両管理業務の委託状況についてみると、26機関のうち既に23機関において委託が行われているが、委託を行っていない3機関の中には、委託により経費の節減等を図り得るにもかかわらず、委託していないものが2機関(うち1機関については、調査途上の平成13年4月に委託)ある。

ii)   水資源開発公団では、ダムや基幹用水路等を管理するために管理所等を設置し、配水管理業務(配水指令、配水指令に基づくダム等の操作・監視作業等)を行っている。このうち配水管理業務の実施状況を調査した4機関について、平日の昼間における基幹的配水施設(ダム、基幹用水路等)の操作・監視作業の委託状況をみると、補助的・定型的業務であるにもかかわらず、施設の形態・規模等の相違を理由として、(i)操作・監視作業を委託していないものが2機関、(ii) 操作・監視作業の一部しか委託していないものが2機関ある。

2.   施設等管理業務のうち、既に民間に委託している分室(支社等の会議室等を補完する施設であり、水資源開発公団全体で43か所設置)の管理業務及び寮等の給食業務(同公団全体の寮(単身者用宿舎)及び事務所の計143か所で実施)についてみると、 次のとおりである。

i)   分室については、そもそも会議室としての利用が皆無であ ったり副次的な機能である宿泊施設としての利用が低調であるもの(平成13年3月末、このような分室1か所が当省調査を契機に用途廃止され、これに伴い管理業務も廃止)がある。

ii)   給食業務を実施している寮及び事務所の中には、周辺において民間の食堂等が営業している地域に所在しているもの(平成13年3月末、こうした地域にある寮1か所及び事務所1か所の計2か所の給食業務が当省調査を契機に廃止)がある。


   したがって、国土交通省は、水資源開発公団に対し、民間委託業務の見直しによる経費の節減等を図る観点から、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。

1.   車両管理業務について引き続き委託を推進するとともに、これ以外の補助的、定型的な業務についても委託を推進すること。

2.   民間に委託している業務のうち、分室の管理業務並びに寮及び事務所の給食業務について、その必要性を見直した上、必要性のないものを廃止すること。

(2)   契約事務の改善
   水資源開発公団が締結する契約については、国土交通大臣の認可を受けた水資源開発公団会計規程(昭和38年6月18日水公規程昭和38年第7号)第67条第1項により、1.競争に付することが不利と認められるとき、2.契約の性質又は目的が競争を許さないとき、3.災害応急復旧を行う場合その他緊急を要する場合において、競争に付するいとまがないとき、4.業務の運営上特に必要があるとき以外は、競争に付さなければならないこととされている。
   さらに、工事については「工事請負契約の事務処理要領」(昭和37年10月8日付け水公達昭和37年第4号)において、また、物品購入契約については「物品購入等の契約事務処理要領」(平成6年3月31日付け水公達平成6年第6号)において、それぞれ随意契約によることができる場合が限定的に列挙されている。
   なお、水資源開発公団では、「役務関係業務に関する契約及び発注手続の改善について」(平成9年2月14日9経契第80号・9技第26号)を定め、車両管理業務、庁舎等管理、設備の点検等の役務関係業務については、平成9年度から、競争入札を原則とすることとしている。
   また、「特殊法人等の整理合理化について」(平成9年12月26日閣議決定)では、「特殊法人等が、公益法人、株式会社等に業務を発注する場合、独占的契約を禁止し、小規模案件、緊急案件等を除き、競争入札とする」こととされている。同閣議決定ではさらに、水資源開発公団について「小規模案件、緊急案件等を除き、競争入札とし、従来特定企業が独占的に受注してきた定型的な業務(庁舎管理・車両運転等)や現場業務(調査・測量・設計等)等についても競争入札による民間委託を行う」こととされており、その確実な実施が求められている。
   なお、指名競争入札の実施に当たっては、「工事請負契約の事務処理要領」又は「物品購入等の契約事務処理要領」により、なるべく10人以上の業者を指名しなければならないこととされている。

   今回、水資源開発公団の計51の会計機関のうち、本社、支社等26機関における契約事務の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

1.   平成11年度の役務関係業務の民間委託契約についてみると、その全部又は一部を随意契約としている機関が次のとおりみられる。

i)   庁舎管理等業務(庁舎の警備、清掃、食堂・寮の賄い業務)25機関のうち13機関

ii)   車両管理業務23機関のうち21機関

iii)   文書処理等業務(ワープロ操作、書類の整理・保存等)17機関のうち13機関

iv)   施設設備の点検等に関する業務19機関のうち16機関

v)   現場業務26機関のうち25機関

2.   平成10年度の指名競争入札における指名業者の選定状況についてみると、有資格業者名簿に指名の対象となり得る業者が多数掲載されているにもかかわらず、(i) 過去に当該業務の契約実績がある業者に限定している、(ii) 業者の所在地を限定している、(iii) 内容が全く異なる業務を一括発注している等のため、指名業者数が10人未満となっているものがある(12機関)。
   また、物品購入契約における物品の選定状況についてみると、車両購入契約について、合理的な理由もなく自動車の車種を限定し、有資格業者名簿に該当業者が1社しか掲載されていないとして随意契約としているものがある(2機関)。


   したがって、国土交通省は、水資源開発公団に対し、契約における透明性・競争性を確保する観点から、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。

1.   庁舎等管理業務、車両管理業務、文書処理等業務、施設設備の点検等業務、現場業務等の役務関係業務に係る契約で随意契約によっているものについて、随意契約としている理由を精査し、合理的な理由がないものについては、早期に競争入札に移行すること。

2.   指名競争入札を行う場合、指名業者数がなるべく10人以上となるよう業者の選定を適切に行うこと。また、物品購入についても、原則として競争入札に移行すること。

(3)   組織の簡素化及び要員の効率的な配置

   組織の簡素化
   政府は、水資源開発公団の組織について、次のとおり累次の閣議決定を行っている。
   平成7年2月24日の「特殊法人の整理合理化について」では、今後の事業計画、工事の進ちょく状況等を総合的に勘案しつつ、個別ダム管理所の総合管理事務所化を推進することとしている。
   また、平成9年12月26日の「特殊法人の整理合理化について」では、新たに管理を開始するダム等に係る業務は、可能な限り既存管理所に統合して処理することとしている。
   さらに、平成12年12月1日の「行政改革大綱」では、今後、特殊法人等の事業及び組織の全般について、内外の社会経済情勢の変化を踏まえた抜本的見直しを行うこととしている。
   水資源開発公団の組織、定員及び事業については、水資源開発公団法第35条等の規定に基づき、毎年度、国土交通大臣から予算及び事業計画の認可を受けることとされている。
   水資源開発公団が実施する水資源開発施設の建設事業数(実施計画調査中のものを含む。)は、平成元年度の26事業から11年度には20事業に減少している。一方、施設の完成に伴い、管理事業数は平成元年度の30事業から11年度には47事業に増加している。このため、水資源開発施設の建設事業と管理事業の合計数は平成元年度の56事業から11年度には67事業に増加している。
   水資源開発公団は、これらの事業を行うため、平成11年度末現在、本社、研修所、試験研究所、支社2か所及び開発局2か所のほか、現地組織及びその出先機関を全国で計83か所(建設事業又は完成施設の管理事業を行う計44か所の現地組織(4調査所、10建設所、1総合事業部、4総合事業所、6総合管理所、19管理所)及びこれらの現地組織の出先機関である計39か所の支所、出張所等(以下「支所等」という。))設置している。
   なお、総合事業部及び総合事業所(以下「総合事業部等」という。)は、大規模用水事業等の管理事業と老朽施設の改築事業等を効率的かつ一体的に行うための組織である。
   水資源開発公団では、従前から、事業の進ちょくに応じて、次のとおり段階的に現地組織の改組を行ってきている。

i)   事業採択(工事費の予算化)前の実施計画調査の段階では、建設予定事業の技術的調査を行う調査所を設置する。

ii)   事業が採択され主務大臣から水資源開発施設の規模、予定工期等の事業実施方針の指示が行われた段階では、調査所を建設所に改組する。

iii)   建設事業が完了し管理事業に移行する段階では、建設所を管理所に改組する。
   建設所から管理所への改組では、当該事業が利水専用であるか又は治水及び利水を目的とするものであるかという事業目的の別ごとに、複数の建設所を統廃合し又は建設所を既存の管理所に統廃合して、総合管理所を設置している。例えば、吉野川水系では、昭和50年度に、治水及び利水を目的とする複数の水資源開発施設を管理するために、池田ダム建設所、早明浦ダム建設所及び新宮ダム建設所の3建設所を廃止し、池田総合管理所を設置している。
   現地組織の出先機関である支所等についても、調査、建設及び管理という事業の進ちょくや本所又は他の支所等との間の距離等の状況を踏まえ、統廃合を行うことが求められている。


   今回、平成11年度における水資源開発公団の現地組織とその支所等の配置状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
   水資源開発公団は、総合事業部等及び総合管理所を計11か所に配置するとともに、これらの出先機関として、既存の水資源開発施設の操作等の管理及び改築工事の監督を行う支所等を34か所に配置している。
   このうち、木曽川水系の愛知用水総合事業部長久手支所(平成11年度末定員14人)、豊川水系の豊川用水総合事業所大島出張所(同6人)、利根川水系の利根導水総合事業所羽生出張所(同10人)及び木曽川水系の木曽川用水総合事業所上流出張所(同3人)の4支所等は、総合事業部等の本所又は他の支所等との間の距離がいずれも10キロメートル以内であり、総合事業部等において、支所等が実施している管理業務、改築工事の監督及び緊急時の対応を行うことが可能である。
   また、上記4支所等については、平成13年度以降順次建設工事が完了する予定であるため、この完了に合わせて順次廃止し、近隣の総合事業部等の本所又は他の支所等に統合する余地がある。

   したがって、国土交通省は、水資源開発公団に対し、組織の簡素化を推進する観点から、現地組織とその支所等について、相互の距離や事業の進ちょく段階等を勘案し、配置の見直しを検討するよう指導する必要がある。


   要員の効率的な配置
   水資源開発公団は、国からの交付金・補助金、水利使用者の負担金等を原資として各種の事業を行っており、その要員についても最も効率的な規模と配置で業務を行うことが要請されている。
   また、特殊法人の定員については、「新たな府省の編成以降の定員管理について」(平成12年7月18日閣議決定)に基づき、国家公務員の定員管理に準じて、平成13年1月6日から23年3月31日までの約10年間の計画期間に、少なくとも10パーセントの計画的削減、新規増員の抑制等により25パーセントの純減を目指した定員削減に最大限努力することとされている。
   水資源開発公団の定員は、国土交通大臣の認可を受けた予算に基づき定められており、平成11年度末現在の定員は 1,939人(本社 250人、試験研究所25人、研修所4人、支社・開発局188人、現地組織 1,472人)、現員は1,830人となっており、13 年度から17年度までの5年間において98人(各年度19人又は20人)の定員削減を行うこととしている。
   現地組織の定員 1,472人の内訳は、4調査所に58人、10建設所に433人、6総合管理所に234人、19管理所に319人、 5総合事業部等に428人となっている。このうち6総合管理所には、その出先機関である支所等の一種として個々の水資源開発施設を管理する15管理所(総合管理所と並列の組織である「管理所」と区別するため、以下「出先管理所」という。)が置かれ、234人中113人が配置されている。
   こうした総合管理所のうち、治水及び利水を目的とするダムを管理する3総合管理所(141人。9出先管理所の定員を含む。)は、国土交通省の地方支分部局であるダム統合管理所から放流等のダム操作の指示を受けるとともに、個々のダムを管理する出先管理所を指揮し、複数のダムの管理を行っている。
   なお、水資源開発公団の総合管理所に出先管理所が置かれているのと同様に、国土交通省のダム統合管理所についても管理支所が置かれ、個々のダムの管理(ダム操作等)が行われている。

   今回、平成11年度における水資源開発公団の要員の配置状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

1.   水資源開発公団では、ダムの管理業務を遂行するため、施設の管理目的、操作・監視、維持修繕、関係機関との調整等の業務に応じて必要な要員を配置しているとしているが、客観性のある要員配置を行っていくためには、施設の管理目的、操作・監視、維持修繕等の管理業務の内容、地域における水利事情及びその他の要因を考慮した客観的な要員配置基準の策定が効果的である。
   水資源開発公団の4出先管理所が管理する4ダム及び国土交通省の4管理支所が管理する4ダムの管理要員数をみると、区々となっている。例えば、水資源開発公団管理の新宮ダム(洪水調節、農業用水及び工業用水の供給並びに発電を目的として昭和50年度に竣工。総貯水容量 1,300万トン)の管理要員数は9人であり、また、同公団管理の高山ダム(洪水調節、河川の正常な機能の維持、水道用水の供給及び発電を目的として昭和41年度に竣工。総貯水容量5,680万トン)の管理要員数は7人である。一方、国土交通省管理の柳瀬ダム(洪水調節、農業用水、水道用水及び工業用水の供給並びに発電を目的として昭和28年度に竣工。総貯水容量3,222万トン)の管理要員数は6人である。

2.   現地組織における管理業務等の民間委託の推進(項目3−1)参照)及び現地組織とその支所等の統廃合(項目3−(3)−ア参照)に伴い、要員の合理化が可能なものがある。


   したがって、国土交通省は、水資源開発公団に対し、要員の効率的な配置を推進する観点から、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。

1.   現地組織とその支所等について、業務内容等に応じた客観的な要員配置基準の策定を検討し、これを踏まえた要員配置を行うこと。

2.   業務の民間委託の推進や組織の統廃合に伴う要員の合理化を検討すること。