農業担い手対策に関する

  行政評価・監視結果に基づく通知    

 

 

 

 

 

 

平成13年7月

 

総務省行政評価局

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前  書  き

  総務省は、平成8年1月、「農業担い手対策に関する行政監察−法人化の推進、育成対策等を中心として−」の結果に基づき、農業経営の法人化推進のための指導・支援の充実、農業担い手の経営規模拡大のための農用地の集積等について、農林水産省に対し勧告を行った。
  この勧告に対し、農林水産省は、1.法人化志向農業者等の実態把握、法人育成推進重点地区活動の適正化、2.法人設立指導及び法人経営指導の適正かつ効果的な実施、3.農業経営基盤強化促進事業及び農地保有合理化事業の効果的実施による認定農業者等への農用地の集積の促進等について、都道府県等に対し指導を行っている。
  平成8年の勧告以降、農業生産の重要な担い手として農地の権利を取得し農業経営を行う農業生産法人は、平成12年1月には 5,889法人(平成8年比28.4パーセント増)に、また、全国における農業担い手への農用地の集積面積は、平成12年3月末には 210万ヘクタール(平成8年比16.7パーセント増)に増加しているが、農業経営の法人化を推進するための各種事業及び農業担い手への農用地の集積を図るための各種事業の実施状況をみると、なお適正かつ効果的な実施を図る余地がみられる。
  また、我が国の農業労働力についてみると、農家戸数や農家人口の減少、兼業化の進展等に伴い、基幹的農業従事者(ふだん主に仕事をしている者のうち、農業に主として従事する者)は平成5年の 270万 2,000人が12年には 240万人に11.2パーセント減少するとともに、高齢化の進行により、65歳以上の者が基幹的農業従事者に占める割合は51.2パーセントと5割以上を高齢者が占める状況となっている。一方、新規就農青年(新規学卒就農者と39歳以下の離職就農者)は平成5年の 6,500人が11年に1万 1,900人に増加してきているが、基幹的農業従事者の減少数にははるかに及ばない現状にあり、このままで推移すると基幹的農業従事者は、平成12年の 234万人が22年には 184万人に減少し(農林水産省、「農業構造の展望」平成12年3月)、農業労働力の減少と高齢化が今後更に進むものと見込まれており、農業担い手の育成・確保は重要な課題となっている。
  この評価・監視は、以上の状況を踏まえ、「農業担い手対策に関する行政監察」の結果に基づく勧告で指摘した事項に関する改善措置状況等を中心に調査し、農業担い手対策の一層の推進を図る観点から実施したものである。


 
 

目      次

 農業経営の法人化の推進
 農業担い手への農用地の集積の促進
 農用地の集積等に係る補助事業費の取扱いの明確化

 
 
 

1 農業経営の法人化の推進

   我が国の農業労働力については、農家戸数や農家人口の減少、兼業化の進展等に伴い、基幹的農業従事者は平成5年の 270万 2,000人から12年の 240万人へ30万 2,000人(11.2パーセント)減少するとともに、高齢化の進行により基幹的農業従事者の51.2パーセントを65歳以上の高齢者が占める状況となっている。一方、新規就農青年(新規学卒就農者と39歳以下の離職就農者)は、平成2年以降は増加に転じているが、11年では1万 1,900人の増加にとどまっている。
   農林水産省は、平成4年6月に取りまとめ公表した「新しい食料・農業・農村政策の方向」(以下「新政策」という。)において、農業経営について、経営管理能力、資金調達力及び取引信用力の向上、雇用労働関係の明確化並びに社会保険の適用による雇用労働者の福祉の増進や新規就農者の確保がより容易となるという利点を踏まえ、法人の設立・運営の指導、金融・税制面の支援措置などの整備等の施策により法人化を推進することとしている。これを受けて、農業法人の育成・支援は、平成5年度から農業生産法人育成・指導事業として、また、8年度からは農業経営基盤強化促進対策事業の中の農業法人育成支援活動事業として実施されている。
   農業法人育成支援活動事業は、「農業経営基盤強化促進対策事業実施要綱の制定について」(平成7年4月1日付け7構改B第 455号農林水産事務次官通達。以下「基盤強化実施要綱」という。)及び「農業経営基盤強化促進対策事業実施要領の制定について」(平成7年4月1日付け7構改B第 456号農林水産省構造改善局長通達。以下「基盤強化実施要領」という。)に基づき、1.都道府県は、農業法人の育成に意欲のある市町村を対象として法人育成推進重点地区を選定した上で、農業法人の育成、推進体制の整備等について現地検討を行うための法人育成推進重点地区活動等の推進体制整備活動を行うものとされ、また、2.都道府県知事の指定する都道府県農業会議等(以下「指定農業団体」という。)は、農業法人の設立促進及び経営体質の強化を図るため、法人設立指導、法人経営指導等の法人育成支援活動を行うものとされている。

   農業担い手対策について、総務省は、平成8年1月、「農業担い手対策に関する行政監察」の結果に基づき農林水産省に対して勧告(以下「8年勧告」という。)を行っており、農業生産法人の育成対策について、次のとおり指摘している。

1.    農業生産法人の実態調査と併せて法人化を志向する農業者及び生産組織(以下「法人化志向農業者等」という。)の実態把握をも行うよう関係通達に明記するとともに、基盤強化実施要綱の趣旨を十分踏まえた法人育成推進重点地区活動を行うよう都道府県を指導すること。
2.    法人育成活動について、事業実施計画の審査等を通じてその実施団体に適正かつ効果的な法人設立指導を行わせるよう都道府県を指導すること。
3.    法人経営指導について、事業実施計画の審査等を通じてその実施団体に適正かつ効果的に行わせるよう都道府県を指導すること。
 
この指摘に対し、農林水産省は、次の措置を講じている。
1.    推進体制整備活動として実施する農業生産法人実態調査については、法人化志向農業者等についても対象とする旨、基盤強化実施要綱及び基盤強化実施要領の改正を行い明記するとともに、平成9年2月に開催した地方農政局農政課長会議等において、これら実施要綱等の改正の趣旨を踏まえて適切に実施するよう指導を行っている。
   また、法人育成推進重点地区活動については、推進体制整備活動事業の趣旨に沿ってモデル的な市町村における農業法人の育成体制整備を一層推進するため、「農業法人育成支援活動の実施に当たっての留意点について」(平成8年5月10日付け農林水産省構造改善局農業経営課長通達。以下「指導通達」という。)により都道府県を指導している。
2.    法人育成支援活動については、指導通達により、その実施団体に適正かつ効果的な法人設立指導及び法人経営指導を行わせるよう都道府県を指導するとともに、上記地方農政局農政課長会議等において、指導通達の趣旨を踏まえ適切に実施するよう指導を行っている。
 
   8年勧告以降、農業生産の重要な担い手として農地の権利を取得し農業経営を行う農業生産法人は、実施できる事業範囲及び構成員要件の見直しや農業生産法人育成・指導事業等が継続して実施されてきていることもあって、平成8年に全国で 4,588法人であったものが12年には 5,889法人へと1.28倍に増加している。
   しかしながら、農業経営の法人化を推進するための各種事業の実施状況をみると、以下のとおり、なお適正かつ効果的な実施を図る余地がみられる。

   今回、8道県及び8指定農業団体(いずれも農業会議)における農業法人の育成支援に係る事業の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

   推進体制整備活動
   都道府県は、基盤強化実施要綱及び基盤強化実施要領により、農業経営の法人化を推進するため、法人化志向農業者等の実態調査を新たに実施することとされ、その調査結果は、指導通達により、農業経営の法人化を支援するための事業等の基礎資料として活用するものとされている。また、都道府県は、法人化志向農業者等の実態調査の結果、法人育成についての市町村の意向等を踏まえ、法人育成推進重点地区活動の対象となる市町村を選定した上で、当該市町村に対し学識経験者等を派遣して、法人化を推進するための具体的方策、市町村を含む関係機関・団体の役割分担等についての現地検討を行うものとされている。
   しかし、調査した8道県について、推進体制整備活動の実施状況をみると、次のとおりとなっている。
1.     法人化志向農業者等の実態調査については、i)基盤強化実施要綱において、農業法人の育成支援を行う上で必要な基礎的資料を得るために実施することとされているにもかかわらず未実施となっているもの(4道県)があり、また、ii)同実態調査を実施している4道県においても、その調査結果に基づき法人化志向農業者等名簿等の資料を作成していないため、法人設立指導の対象者の選定に活用できる状況にないもの(2道県)、調査結果による資料を市町村経営改善支援センター等現地における法人育成の支援・指導機関に提供していないもの(1道県)など、同実態調査の結果が必ずしも活用されていないものがある。
2.     重点地区活動については、法人化志向農業者等の実態調査を実施せずに同活動の対象となる市町村を選定しているか、又は市町村との連携を十分に図らずに同活動を進めているなどのため、現地検討会が未開催となっている等関係機関による取組が十分に行われていないもの(5道県)があるなど、同活動の目的である農業法人育成のための具体的方策等に関する現地検討を行うまでには至っていない道県が多い。
   法人育成支援活動
   農業会議等の指定農業団体は、基盤強化実施要領に基づき、法人育成支援活動として法人設立指導と法人経営指導を実施するものとされている。法人設立指導については、指定農業団体は設立指導を受けようとする者から申請があった場合に、申請者の労働力の現状、資本装備の現状、財務状況等を調査の上、法人設立に当たっての課題と対応策、労働力、経営資金その他の経営資源の整備の方向等を明らかにした法人化計画書を作成し、助言・指導を行うこととされている。また、法人経営指導については、指定農業団体は経営指導を受けようとする法人から申請があった場合に、当該法人の労働力の状況、資本装備の状況、財務の状況等を調査の上、当該法人の経営の課題及び経営改善の方向を明らかにした経営診断書を作成し、助言・指導を行うこととされている。
   しかし、調査した8指定農業団体について法人設立指導及び法人経営指導の状況をみると、次のとおりとなっている。
1.    法人設立指導については、i)法人化研修会の参加者等法人化に意欲があると認められる者に対し、設立指導を受けるための申請の勧奨等を行っていないため、過去3年間、法人設立指導の申請又は実績が全くないもの(1団体)、ii)法人設立指導の実績のある7団体についても、基盤強化実施要領に定める法人化計画書を作成せずに設立指導を実施しているもの(2団体)、内容が不十分な法人化計画書により設立指導を実施しているもの(2団体)、市町村経営改善支援センターとの間の連携を図ることが効果的であるにもかかわらず、連携が十分に図られていないため、同センターで受け付けた法人化希望の経営体に対する助言・指導が行われていないもの(1団体)があるなど、法人設立指導を適正に実施していない団体が多い。
2.    法人経営指導については、i)法人経営研修会の参加者等経営改善意欲があると認められる者に対し、経営指導を受けるための申請の勧奨等を行っていないため、過去3年間、法人経営指導の申請又は実績が全くないもの(1団体)、ii)法人経営指導の実績のある7団体についても、基盤強化実施要領に定める経営診断書が未作成となっているもの(1団体)、稲作以外の営農類型に対応した的確な経営診断を行っていないもの(1団体)、農業法人の経営・技術指導を担当している県農業改良普及センターとの間の連携を図ることが効果的であるにもかかわらず、指定農業団体が行った経営診断結果を同センターに提供していないもの(1団体)があるなど、法人経営指導の役割を必ずしも適切に果たしていない団体がある。
 
   したがって、農林水産省は、農業法人育成支援活動のための補助事業の効果を確保し、農業経営の法人化及び法人経営の体質強化を更に推進する観点から、以下の事項について、都道府県を通じて徹底させるための措置を講ずる必要がある。
1.    都道府県は、法人化志向農業者等の実態を把握するため、基盤強化実施要綱の趣旨を踏まえて法人化志向農業者等の実態調査を適切に実施すること。
   また、その調査結果について適切な分析を行い、法人化志向農業者等名簿等の基礎資料を作成するとともに、市町村等他の法人育成指導機関に対しても当該資料を提供し、法人設立指導の活用に供すること。
2.    都道府県は、法人育成推進重点地区活動の対象となる市町村の選定に当たって、法人化志向農業者等の実態調査の結果、市町村の意向等を踏まえるとともに、法人育成推進重点地区活動を推進すること。
   また、都道府県は、同活動の対象となる市町村の選定後においては、市町村及び関係機関との連携を図り、法人化のための推進方策及び関係機関・団体との役割分担を具体的に検討するなど、より実効の上がるような同活動の展開を図ること。
3.    指定農業団体は、法人化研修会の参加者等法人化に意欲があると認められる者に対し法人設立指導の申請の働き掛けを行う等法人設立指導に積極的に取り組むこと。
   また、指定農業団体は、個別の経営体に対して法人設立指導を実施する場合には、法人化計画書を作成した上で適正な指導を行うとともに、市町村経営改善支援センター等他機関との連携を図り、効果的な法人設立指導を行うこと。
4.    指定農業団体は、法人経営研修会の参加者等経営改善に意欲があると認められる者に対し法人経営指導の申請の働き掛けを行う等経営改善指導に積極的に取り組むこと。
   また、指定農業団体は、個別の経営体に対して法人経営指導を実施する場合には、経営診断書を作成した上で適正な経営指導及び稲作以外の営農類型にも対応した経営診断を実施するとともに、県農業改良普及センター、県畜産会等他機関との連携を図り、効果的な経営指導を行うこと。

2   農業担い手への農用地の集積の促進

   農林水産省は、新政策において、農業を職業として選択し得る魅力あるものとするため、効率的・安定的に農業経営を行う者に農用地を集積する等により、主たる従業者が他産業並みの年間労働時間で他産業並みの所得が確保できるような農業経営の実現に向けて施策の集中化・重点化を図り、このような農業経営が農業生産の相当部分を担うような農業構造を確立するため、平成5年に農用地利用増進法(昭和55年法律第65号)を農業経営基盤強化促進法(以下「基盤強化法」という。)に改正する等、農業経営基盤の強化のための関係法令の整備を行っている。
   基盤強化法では、都道府県は農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとされ、また、市町村は農業経営基盤の強化の促進に関する基本的な構想(以下「基本構想」という。)を定めることができることとされており、この基本方針及び基本構想の中で育成すべき効率的かつ安定的な農業経営の目標を明らかにするとともに、その目標に向けて農業経営の改善を計画的に進めようとする農業者(以下、市町村から農業経営改善計画の認定を受けた農業経営者を「認定農業者」という。)に対する農用地の利用の集積、これらの農業者の経営管理の合理化その他の農業経営基盤の強化を促進するための措置を総合的に講ずることとされている。

   8年勧告においては、農業経営基盤強化促進事業及び農地保有合理化事業の効果的実施について、次のとおり指摘している。

1.   農業委員会が「農地移動適正化あっせん事業実施要領の制定について」(昭和45年1月12日付け44農地B第3712号農林事務次官通達)による農地移動適正化あっせん事業実施要領(以下「事業実施要領」という。)に基づき定める農地移動適正化あっせん基準(以下「あっせん基準」という。)について、i)あっせんによる農用地の権利取得後の経営面積の基準として農業委員会が定める面積(以下「あっせん基準面積」という。)が当該市町村の平均経営規模を下回っている場合の見直しを図ること、ii)あっせん順位を決める場合の基準として農業委員会が定める経営規模拡大の目標面積(以下「あっせん目標面積」という。)を基本構想を勘案したものとするよう農業委員会を指導するとともに、農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)に基づき市町村が定める農業振興地域整備計画(以下「市町村農振計画」という。)の経営目標と基本構想に定める経営規模との整合を図るよう市町村を指導すること。 
2.    農地売買等事業については、売渡し等の相手方として認定農業者等を優先するよう農地保有合理化法人に徹底させること。また、農地保有合理化法人が定める目標経営面積について、その設定方針を明確にし、都道府県に対し農地保有合理化法人が基本構想に示された農業経営の指標を踏まえた見直しを行うよう指導すること。

この指摘に対し、農林水産省は、次の措置を講じている。 

1.    あっせん基準の見直しについては、農業委員会に対し、「農地移動適正化あっせん事業及び農地保有合理化事業の効果的実施について」(平成8年5月10日付け8−22農林水産省構造改善局農政課長通知。以下「平成8年農政課長通知」という。)によりあっせん基準の見直し等を行うよう指導するとともに、平成8年10月に開催した地方農政局農地保有合理化事業担当者会議等を通じて指導している。 
2.     農地保有合理化事業の効果的実施については、平成8年農政課長通知、平成8年6月に開催した都道府県農業公社の事業担当者を対象とした農地保有合理化事業等推進会議等を通じて、都道府県農業公社等を指導している。
 
  8年勧告以降、農地保有合理化事業、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策に基づく事業等による農用地流動化の推進、農業担い手層への農用地の集積を中心とした事業が展開されてきていることもあって、全国における農業担い手への農用地の集積面積は、平成8年3月末現在の 180万ヘクタールから12年3月末現在の 210万ヘクタールへと30万ヘクタール(16.7パーセント)増加している。
  しかしながら、農業担い手への農用地の集積を図るための各種事業の実施状況をみると、以下のとおり、なお適正かつ効果的な実施を図る余地がみられる。

 今回、8道県、34市町、34農業委員会及び22農地保有合理化法人(8道県農業公社、2市町農業公社及び12農業協同組合)について、農業担い手への農用地の集積を図るための各種補助事業の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア    市町村における育成すべき農業経営体の目標
  都道府県及び市町村は、基盤強化法に基づき、基本方針及び基本構想において、主な営農類型ごとに農業経営の規模(部門別作付面積及び飼養規模等)等の基本的指標及び育成すべき農業経営者に対する農用地の利用の集積目標を10年間につき定め、これをおおむね5年ごとに見直すものとされている。
  しかし、調査した8道県及び34市町のうち2道県14市町では、基本方針及び基本構想を策定後既に5年以上が経過し、中には農用地の利用集積目標が既に達成されていて、新たな目標の設定が必要とみられるものがあるが、その目標の見直しが行われていない。
 
  農用地の売買等のあっせんによる集積
  農業委員会等に関する法律(昭和26年法律第88号)により農業委員会は農用地等の利用関係についてのあっせんに関する事務を行うことができることとされ、このあっせんに関する事務は農業委員会の任意の業務とされている。農業委員会が農業経営の規模拡大、農地の集団化等農地保有の合理化を図るため、農用地等の売買、貸借又は交換のあっせんの事業(以下「あっせん事業」という。)を行おうとするときは、事業実施要領に基づき、あっせん基準を定めて、あっせんを行うこととされている。
  しかし、調査した34農業委員会について、あっせん事業の実施状況をみると、1.農業委員会は、効率的・安定的に農業経営を行う者に農地を集積することが農業政策の基本的方向であり、あっせん事業について任意の業務といえども各種の事情を踏まえつつ実施すべきであるにもかかわらず、中には、平成10年度及び11年度の2年間において、あっせんによる農用地等の権利移動の実績が全くないもの(14農業委員会)がある、2.あっせん事業においては、あっせんによる農用地等の売渡し等の相手方として認定農業者を優先する取扱方針が事業実施要領等に示されていない、このため、農業委員会の平成10年度及び11年度のあっせん事業実績における認定農業者への農用地等の集積状況をみると、売買又は賃貸借のあっせん実績がある20農業委員会の中には、あっせんに際し認定農業者への農用地等の集積の促進を行っているものが5農業委員会(売買又は賃貸借のあっせんにおいて認定農業者への集積面積の割合が80パーセント以上のもの)ある一方で、認定農業者への農用地等の集積が低調であるものが10農業委員会(同10パーセント未満のもの)あるなど、認定農業者に対して、なお農用地等の集積を促進する余地がみられる。
  また、1.農業委員会が定めるあっせん基準においては、i)あっせん基準面積は当該地域における農家の平均経営面積以上とされているが、これを下回るものとなっているもの(2農業委員会)、ii)あっせん目標面積は、平成8年農政課長通知により市町村農振計画の経営目標面積と基本構想に定める経営規模との整合を図るべきものとされているが、あっせん目標面積が基本構想目標面積の半分以下の水準となっているもの等(4農業委員会)があり、また、2.農業委員会は、あっせん基準に適合し、かつ、農業生産の中核的担い手になると見込まれる農業者を登録したあっせん譲受け等候補者名簿を作成した上で当該名簿に登録されている者の中から売渡し等の相手方を選定することとされているが、当該名簿を作成していないもの又は作成していても全農業者を登録しているもの等事業実施要領に則した名簿を作成していないもの(4農業委員会)があるなど、事業を進めるための適切な取組を行っていないものがある。
  農用地の売買等による集積
  農業経営の規模の拡大、農地の集団化その他農地保有の合理化を促進し、認定農業者等農業担い手に対する農地の利用の集積を図るため、都道府県農業公社、農業協同組合(以下「農協」という。)等の農地保有合理化法人は、農用地等の売渡し、貸付け等の農地保有合理化事業を行おうとするときは、基盤強化法に基づき、農地保有合理化事業の実施に関する規程(以下「事業規程」という。)を定め、都道府県知事の承認を受けなければならないこととされており、平成11年度末現在、 667法人(47都道府県農業公社、 123市町村農業公社、 487農協及び10市町村)が承認を受けている。事業規程においては、農用地等の売渡し及び貸付けに関する事項等を定めることとされており、農用地等の売渡し等の相手方については、「農地保有合理化法人制度の運用について」(平成5年8月2日付け5構改B第 856号農林水産省構造改善局長通達。以下「運用通達」という。)により認定農業者を優先することとされ、農用地等の権利取得後の経営面積が原則として当該地域における営農類型ごとの農家の平均経営面積以上であって、農地保有合理化法人が市町村及び農業委員会の意見を聴いて定める面積(以下「農地保有合理化基準面積」という。)を超える等の要件を満たす農業者等に売り渡すこととされている。
  また、農用地等の売渡し等の相手方については、認定農業者の中から選定することが困難な場合には、平成8年農政課長通知により、「農用地利用集積の加速的推進について」(平成7年9月14日付け7構改B 941号農林水産省構造改善局長通達。以下「加速通達」という。)における農用地の利用集積対象者で認定農業者以外の者への売渡し又は貸付けを推進することとされている。
  しかし、調査した22農地保有合理化法人(8道県農業公社、2市町農業公社及び12農協)について、平成10年度及び11年度の2年間における農地保有合理化事業の実施状況をみると、売渡し又は貸付けの実績がある21法人の中には、認定農業者への農用地等の集積の促進を図っているものが5法人(売渡し又は貸付けにおける認定農業者への集積面積の割合が80パーセント以上のもの)ある一方で、農用地等の集積が低調となっているものが10法人(同40パーセント未満のもの)あるなど、認定農業者への農用地等の集積の側面において、農地保有合理化事業をなお効果的に実施する余地がみられる。
  また、事業規程において定められている農地保有合理化基準面積が当該地域の農家の平均経営面積を下回るものとなっているもの(1道県農業公社)があるほか、農地保有合理化事業の実施に当たって売渡し等の相手方の権利取得後の経営面積が農地保有合理化基準面積を下回るものとなっているもの(1道県農業公社及び1農協)、認定農業者の中から農用地等の売渡し等の相手方を選定することが困難な場合に加速通達における農用地等の利用集積対象者で認定農業者以外の者への農用地等の売渡し等の推進が図られていないもの(4道県農業公社及び3農協)があるなど、農地保有合理化事業を進めるための適切な取組が行われていないものがある。 
  農用地の集積のための支援活動
  認定農業者等への農用地の利用の集積を促進するため、市町村では、平成7年度から、「農用地利用調整特別事業実施要綱の制定について」(平成7年4月1日付け7構改B第 450号農林水産事務次官通達)等に基づき、農地流動化推進員(以下「推進員」という。)を委嘱し、推進員に対し農用地の出し手と受け手の掘り起こしのための利用調整活動を行わせ、この活動状況の報告を求めるとともに、農地流動化情報台帳の整備、農業者の営農実態・意向調査の実施などにより、農用地の利用権等に関する情報の一元的な収集・管理を行っている。
   しかし、調査した34市町について、平成9年度以降の農用地利用調整特別事業の実施状況をみると、市町は、推進員を委嘱(農業委員を中心に14人ないし 239人)し利用調整活動を行わせたとしているが、推進員から活動実績報告書を提出させていないため、推進員の活動の実態が不明となっているもの(17市町)や、みるべき実績を上げていないにもかかわらず、道県に対する事業実績報告には農業者の営農実態・意向調査等を実施したこととするなど、農用地利用調整特別事業による活動実績が不透明なもの(3市町)がある。
 
   したがって、農林水産省は、農地保有の合理化を図るための補助事業の効果を確保し、認定農業者等農業担い手への農用地の集積を促進する観点から、以下の事項について、都道府県を通じて徹底させるための措置を講ずるとともに、あっせん事業について、中核的担い手である認定農業者を優先する取扱方針を明確に示す必要がある。 
1.     都道府県及び市町村は、策定後5年を経過し見直されていない基本方針又は基本構想について、営農類型別の農業経営の規模等を勘案した上で見直し、新たな目標年次と目標値を設定すること。 
2.     農業委員会は、i)農用地等の売買等のあっせんを積極的に実施し、あっせん事業の活性化を図るなど、農業担い手への農用地等の利用集積の促進を図ること、ii)あっせん基準面積について、当該地域における農家の平均経営面積を踏まえて的確に見直すとともに、あっせん目標面積については、市町村農振計画の経営目標面積と基本構想に定める経営規模との整合を図ること、iii)あっせん事業を行うに際して、あっせん譲受け等候補者名簿の作成及びあっせんの相手方の選定を適切に行うこと。 
3.     農地保有合理化法人は、i)当該法人が担う役割等を踏まえ、売渡し又は貸付けの相手方の選定の的確な実施を通じて、認定農業者等中核的担い手への農用地等の利用集積の促進を図り、農地保有合理化事業をより効果的に実施すること、ii)事業規程における農地保有合理化基準面積について、当該地域における農家の平均経営面積を踏まえて的確に見直すこと。 
4.     市町村は、農地流動化を促進するための推進員を活用した事業を実施するに当たって、推進員の活動内容の的確な把握・確認等の推進員による活動の実効を上げるために必要な措置を講ずること。 

3 農用地の集積等に係る補助事業費の取扱いの明確化

   国の補助金については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第 179号)において、「各省各庁の長は、その所掌の補助金等に係る予算の執行に当たっては、(中略)補助金等が法令及び予算で定めるところに従って公正かつ効率的に使用されるように努めなければならない」とされている。
   今回、農用地の集積等に係る補助事業費のうち、3事業(農地保有合理化促進事業、農用地利用集積特別対策事業及び農地流動化促進事業)を対象に、農林水産省における補助金に係る予算の執行状況及びこれに基づく都道府県段階における補助事業費の取扱状況について抽出調査した結果、次のような状況がみられた。 
1.     農地流動化促進事業費補助金(土地利用調整推進事業費。農村振興局所管)について、農林水産省は、地方農政局等に対し、平成12年2月に示した「農業生産集積促進費の取扱いについて」において、当該事業の施行に伴い必要となる給料・賃金、報償費、旅費、需用費等の費目別に、補助対象費用及び補助対象外費用の事例を、初めて明らかにするとともに、これに沿って事業費の適正な執行等が図られるよう指導を行っている。
   しかし、当該文書においては、一部の費目について、補助の対象とならない費用が明示されていない部分があること、また、当該文書に基づく指導が十分浸透していないことから、抽出調査した土地利用調整推進事業費の執行状況の中には、補助事業者における補助対象費用に関する理解が区々となっている実態がみられた。 
2.    農地保有合理化促進対策費補助金(農地保有合理化促進事業費及び農用地利用集積特別対策事業費。経営局所管)について、農林水産省は、当該事業の施行に伴い必要となる各費目ごとの使途の範囲を明確に示した文書を発出していない。
  このため、抽出調査した事業推進体制整備費及び農用地利用調整特別事業費の執行状況の中には、補助事業者における補助対象費用に関する理解が区々となっている実態がみられた。
  
  したがって、農林水産省は、補助事業費の取扱いの明確化を図ることにより、その適正な執行を確保する観点から、補助事業費の取扱いについて、補助金交付要綱等に基づく具体的な取扱方針を補助事業者に明確に示すとともに、その方針に基づく指導の徹底を図るなど、必要な措置を講じること。