登記印紙等を誤って購入した場合の救済制度の導入(概要)

《行政苦情救済推進会議の検討結果を踏まえたあっせん》

あっせん日:平成11年9月3日
あっせん先:大蔵省、郵政省、法務省及び特許庁




 総務庁行政監察局は、下記の行政相談を受け、行政苦情救済推進会議(座長:茂串 俊)に諮り、その意見(別添要旨参照)を踏まえて、平成11年(9月3日)、大蔵省、郵政省、法務省及び特許庁に対し、改善を図るようあっせん。
 
 行政相談の申出要旨
  1. 登記印紙に係る事案
     「私の勤める不動産会社の社員が、分譲地の所有権移転登記の際の登録免許税を納付するため、収入印紙を購入すべきところ、誤って登記印紙(大部分が1枚5,000円のもの)を購入してしまった。誤って登記印紙を購入した非は当方にあるが、購入額が相当額(約 190万円)に上ることから、収入印紙と交換できないものか購入窓口に問い合わせたところ、交換できないとのことであった。これが困難であれば、少なくとも、使い勝手の悪い1枚5,000円の登記印紙を通常使用する1枚1,000円のものと交換できるようにしてほしい。」(商業登記について同様の申出事案あり。)
  1. 特許印紙に係る事案
     「特許申請を行うためあらかじめ特許庁に問い合わせたところ、特許料は5万5,800円との説明であったことから、郵便局で5万円のものを1枚等計5万5,800円分の特許印紙を購入した。しかし、申請前に再度特許庁に確認したところ、本件の特許申請で必要な特許料は4万5,800円であるとのことであった(額の違いは、申出人が正確に申請内容を伝えていなかったことが原因と後に判明)。このため、特許印紙を購入した郵便局において、5万円の特許印紙を小額な特許印紙に交換してほしいと申し出たところ、交換はできないと断られた。収入印紙は手数料を支払えば小額なものに交換できるので、特許印紙についても交換できるようにしてほしい。」
 
 当庁のあっせん内容
   以下の理由等から、関係省庁において、登記印紙及び特許印紙を誤って購入した場合の救済方策を幅広く検討するための協議を行い、成案を得た上で、所要の措置を講じるよう求めるもの。
 
  1.  印紙による歳入金納付の制度は、主に行政事務の合理化の面から設けられたものであること、印紙の種類が増加し、申請の内容に応じて納付額が多岐にわたるなど国民にとって錯誤等が生ずるおそれがあること等にかんがみると、これに起因する不利益のすべてを国民の負担に帰することとなっている現状は改善の余地がある。
  2.  収入印紙においては、既に額面の異なる印紙との交換が認められており、特段の支障は生じていない。
  3.  買戻しや交換の手続に要する経費は、収入印紙の交換制度と同様、申請者から手数料を徴収することでこれを賄うことが可能である。


資 料


1 制度の概要
 (1)  歳入の徴収及び収納に関する事務
   大蔵省は、歳入の徴収及び収納に関する事務の一般を管理し、各省庁は、その所掌の歳入の徴収及び収納に関する事務を管理することとされている。
 
 (2)  印紙をもって納付する歳入
   国に納付する租税、手数料等の歳入の中には、印紙をもって納付することができるものがある。現在、印紙には、次表のとおり、収入印紙、登記印紙及び特許印紙等9種類があり、印紙の種類に応じて郵便局、郵便切手類販売所、印紙売りさばき所等において販売されている。


表  歳入金等を納付する場合に使用する各種の印紙
   
印紙種類 適   用 販 売 所 発行額面
収入印紙 国に納付する手数料、罰金、訴訟費用、不動産登記に係る登録免許税等 郵便局、郵政大臣が委託した郵便切手類販売所及び印紙売りさばき所 額面1円から10万円までの31種類
登記印紙 登記簿謄本の交付請求、登記簿の閲覧等の手数料 郵政大臣が指定した郵便局、郵政大臣が委託した郵便切手類販売所及び印紙売りさばき所 額面100円から5,000円までの9種類
特許印紙 特許料、登録料、特許証の再交付、承継の届出、証明等の請求の手数料等 同上 額面10円から10万円までの11種類
自動車重量税印紙 自動車の車体検査の際納付する自動車重量税 同上 額面100円から5万6,700円までの20種類
健康保険印紙 日雇特別被保険者に関する保険料 郵政大臣が指定した郵便局 額面140円から2,750円までの13種類
雇用保険印紙 日雇労働被保険者に関する保険料 郵政大臣が指定した郵便局 額面96円から176円までの3種類
自動車検査登録印紙 新規登録、変更登録、移転登録等の手数料 地方運輸局、陸運支局、自動車検査登録事務所又は、運輸大臣が委託した自動車検査登録印紙売りさばき所 額面50円から5万円までの20種類
農産物検査印紙 もみ、玄米、大麦等の検査手数料 食糧事務所、農林水産大臣が委託した農産物検査印紙売りさばき所 額面1円から1万円までの10種類
国民年金印紙 保険料 都道府県、市町村又は厚生大臣が委託した国民年金印紙売りさばきあり 額面10円から200万円までの10種類
   


(3)  印紙の売りさばき代金
   郵政省が郵便局、郵便切手類販売所又は印紙売りさばき所において販売している印紙の売りさばき代金は、郵政事業特別会計法第40条に基づき、この会計の歳入とし、印紙の売りさばき事務に要する経費を控除した上で、収入印紙(昭和24年法律第109号)に係るものは一般会計に、特許印紙に係るものは特許特別会計に、登記印紙に係るものは登記特別会計に、健康保険印紙に係るものは厚生保険特別会計(健康勘定)に、雇用保険印紙に係るものは労働保険特別会計(徴収勘定)に、自動車重量税印紙に係るものは国税収納金整理資金に、それぞれ繰り入れるものとされている。
 その他の印紙の売りさばき代金については、各特別会計の歳入とされている。
 
(4)  収入印紙等の使用形態等
  1. 収入印紙
     収入印紙は、諸種の手数料、罰金、過料、訴訟費用、印紙税(契約書、約束手形、為替手形、株券、預貯金証書等の課税文書の作成者が納税)等極めて広範な国の歳入金の納付に使用することができるという汎用性があり、かつ、一般的に国民は、この広範多岐にわたる歳入金を納付するため収入印紙を使用する機会があることが予想される。
  1. 登記印紙
     登記印紙は、登記簿謄本の交付請求、登記簿の閲覧等の手数料を納付する際に使用されるものであり、従前は収入印紙によって納付されていたが、登記事務のコンピュータ化を推進するため昭和60年に登記特別会計が創設され、同年以降は登記印紙により納付することになっている。
 なお、不動産の所有権の保存登記及び移転登記等については、登録免許税法(昭和42年法律第35号)に基づき、収入印紙で登録免許税を納付することになっている。
  1. 特許印紙
     特許印紙は、特許庁に出願する特許、実用新案、意匠及び商標について、出願料、審査請求料、特許料、登録料等を納付する際に使用されるものであり、出願件数の増大などに伴い工業所有権行政を抜本的に強化するため、特許庁の総合コンピュータ化の構築及びその財政基盤の整備を図る目的で昭和59年に創設されている。
 
(5)  印紙の交換
   収入印紙については、前述のとおり、使用形態が多岐にわたり、使用量も他の印紙に比べて多く交換制度を設けることへの要望があったため、利用者の利便性の向上を図る観点から昭和55年に印紙をもってする歳入金納付に関する法律(昭和23年法律第142号。以下「印紙納付法」という。)を改正し、汚染し、又はき損されていないものについては、一定の交換手数料(5円)を納付して額面の異なるものと交換できる仕組みが設けられた。
 しかし、収入印紙の交換制度ができた後に創設された特許印紙(昭和59年)及び登記印紙(昭和60年)については、交換制度は設けられていない。
 
(6)  過誤納手数料等に係る還付制度
   印紙をもって納付した手数料等が過大であったなどの場合に、これを還付する制度の有無は次表のとおりであり、過誤納の可能性がないとされている2印紙を除き、ほとんどの印紙で還付制度を有している。


  表 還付制度の有無
   
区   分 有 り  無 し  備    考
法令に規定 運用による
収入印紙 登録免許税     登録免許税法、国税通則法
印紙税     印紙税法、国税通則法
民事訴訟手数料     民事訴訟費用等に関する法律
登記印紙      
特許印紙     特許法
自動車重量税印紙     自動車重量税法、国税通則法
健康保険印紙     健康保険法施行規則
雇用保険印紙     労働保険の保険料徴収等に関する法律施行規則
自動車検査登録印紙     (過誤納の可能性なし)
農産物検査印紙     (過誤納の可能性なし)
国民年金印紙    

 

2 関係省庁の見解
  (1)  関係省庁は、登記印紙及び特許印紙の買戻し制度及び他の種類の印紙や同一種類の印紙における額面の異なる印紙との交換制度を導入することについては、次のような意見を有している。
    (買戻し制度)
   
  1.  印紙の買戻しを認めると印紙収入を計上している各会計の安定性が損なわれ、換金のための偽造等を誘発しかねないなどの心配がある(大蔵省、郵政省、法務省、特許庁)。
     印紙販売窓口で買戻しを行う際、返戻された印紙が本物であるかどうかの確認などの事務処理が増加し、その対応が必要となる(郵政省)。
   
  1.  印紙の買戻しについては、i)誤納手数料等の還付制度を設けていること、ii)印紙販売窓口等において誤購入防止のための周知を図っており、印紙の誤購入例は極めて少ないと考えられること、iii)上記 1のような課題がありその効果的な対応策を見出せないことから、制度を新たに設けてまで救済しなければならない状況にあるか疑問である(郵政省、法務省、特許庁)。
    (交換制度)
   
  1.  財政法(昭和22年法律第34号)第9条に基づき、法律に基づく場合を除くほか、国の財産を交換することが禁止されているので、新たに印紙の交換制度を導入するためには、収入印紙の場合のように印紙納付法を改正する等何らかの立法措置が必要である(大蔵省)。
   
  1.  印紙の交換制度を導入した場合、印紙販売窓口において交換手続のための事務処理が増加し、その対応が必要となる(郵政省)。
  (2)  登記印紙及び特許印紙の買戻し制度や交換制度の導入について検討するためには、 1)郵政省は、印紙納付法を所管している大蔵省の協力が必要であるとしており、また、 2)大蔵省は、登記特別会計及び特許特別会計を所管している法務省、特許庁、これらの印紙を販売している郵政省との協議や他の種類の印紙の所管省庁との調整が必要であるとしている。

 

参 考

行政苦情救済推進会議における意見要旨

 国は、特別会計ごとに特別の印紙を設けることにより、行政事務の合理化を図っている。しかし、個々の印紙を購入した国民はそれなりの経済的負担をしているのであるから、行政事務の合理化により生じる不便をすべて国民の責任に帰することは不合理と考える。
   
 登記印紙や特許印紙等について買戻しや交換のニーズが多ければこれを認めるべきだと考える。しかし、収入印紙以外の印紙について交換を認める仕組みとなっていない現状において、そのニーズを把握することは困難と考えられるので、少なくとも同種の印紙間の交換については、特段の支障がないのであれば、これを認めるべきと考える。
   
 印紙制度一般を所管する大蔵省が主となって関係省庁と改善方策を検討する必要があると考える。