[総合評価]
 国の道路政策と本州四国連絡橋公団の位置付け
   国は、全国道路交通網の整備のため、直轄事業として国道の整備を行う一方、限られた財政資源の下で、全国道路交通網の整備を円滑に進め、かつ整備効果を早期に発現させるため、財政投融資資金等を活用し、有料道路事業を推進している。有料道路事業は、社会資本の整備を行うものであり、その公共的性格を踏まえ、国や地方公共団体は、関係各公団の資金コストを軽減し、利用者負担の軽減も図っている。
 本州四国連絡橋公団(以下「本四公団」という。)は、このような政策の下、有料道路事業としての「本州四国連絡道路事業」を行う法人として昭和45年に設立された。
 本四公団の整備すべき道路は、本州と四国の連絡橋をその中核とするものであるが、そのルートは、新全国総合開発計画(昭和44年5月閣議決定)により定められている。国は、それらについて、事業の指示(3ルート計185.7キロメートル)を発し、本四公団は、これに基づいて事業を実施することとなる。
 このように、個々のルートの整備の具体的な選択は、国の責任において決定されており、このような枠組みの中での本四公団の経営状況が、今回の調査の対象である本四公団の財務内容として表れてくるものとなっている。
 このほか、本四公団は、連絡橋の下部に鉄道を敷設・賃貸する「本州四国連絡鉄道事業」も実施しているが、道路と同様、国による事業の指示(総延長35.9キロメートル)に基づき実施するものとなっている。
 本四公団の道路事業の資金は、公団債を発行することなどにより調達されるが、このうち財政投融資資金の投入量は約50パーセントを占めるほか、地方公共団体のあっせんによる債券の引受けもなされている。平成8年度末現在の公団債発行残高は約3兆1,000億円に達しており、その円滑な償還が、本四公団の基本的な任務である。
     
 本州四国連絡道路事業
(1)  償還のシステム
     本州四国連絡道路は、平成10年4月現在155.6キロメートルが供用されており、来る平成11年度には全ルートが概成する運びとなっている。これらの建設資金は、全ルートの収益により償還が行われる(いわゆる「プール制」。償還期間は50年)こととされている。
 償還の姿を具体的に明らかにする「償還計画」は、本四公団の行う交通量推計を基にした収入見通しと費用見通しにより策定されているが、経済情勢の変化等の中で、収入見通しは実績との乖離が生じることが避けられない。実際、平成8年度の瀬戸大橋の交通量の実績は、推計値の6割程度にとどまるものであった。
 さらに、「償還計画」は、まず収入を見積り、利息等を返済した剰余の部分を未償還残高(平成9年改定の計画では、ピーク時に約4兆7,000億円)の返済に充てる、いわば収入見通しを出発点としたスキームである。このような仕組みの下では、収入が見込みを下廻った場合、未償還残高が増嵩せざるを得ず、収入の不足を管理費の抑制等の経営改善努力のみによって補うことは相当困難でもあり、計画自体もそれを想定してはいない。
 また、「償還計画」における支払額は、交通量需要の伸び等により料金収入が経年的に増加することを見込み、後年度ほど多くなるよう設定されている。このため、経年的に交通量見通しとその実績との乖離が進み収入が見込みを下回った場合、計画自体が達成できないリスクも高い。
  (2)  財務の状況
     本四公団の財務の状況をみると、負債総額が資産総額を上回り、7,000億円を超える債務超過となっている。本四公団の事業の特殊性として、全ルートが完成するまでは本格的な収益獲得に至らず、それに先立ってかなりの建設資金を投下する必要があり、債務超過はこのようないわゆる創業赤字によるところも大きい。このような中、毎年相当の利払い費が発生し、これを料金収入で賄えず、毎年度、多額の欠損金が発生している状況にある。
 このような状況は、本州四国連絡道路事業の収支率にも端的に表れており、100円の収入を得るのに211円の経費を要し(収支率211(平成8年度))、大幅な赤字となっている。したがって、償還を取り巻く環境は厳しい状況にあり、その打開は大きな課題である。
  (3)  将来の収支見通し
     「償還計画」では、一定の金利条件の下に、国と地方公共団体からの1兆1,850億円(平成9年度から23年度の合計)の追加出資を前提としており(その額は平成8年度までの出資累計額4,396億円の2.7倍)、平成18年度から収支差がプラスに転じ、平成57年度には投下資金の償還が完了する見通しとなっている。この見通しによれば、平成56年度には神戸・鳴門ルートの収支率が現状の354から11に、児島・坂出ルートのそれが170から19になるなど各ルートの収支率が大幅に改善され、東名高速道路の収支率14や中央・名神高速道路の収支率16に匹敵するものとなるとされている。このような収支の見通しが、実際にどのように推移していくのか長期的に見守る必要がある。
 いずれにしても、債務超過からの脱却がまず必要であり、「償還計画」の基礎となっている交通量見通しの不確実性を踏まえつつ、償還が確実なものとなるよう、計画と実績とを絶えず見直すことが必要である。
     
 本州四国連絡鉄道事業
   本州四国連絡鉄道事業のうち、明石海峡大橋が道路単独橋とされたため(昭和60年8月)、本四淡路線の鉄道事業は凍結状態となっている。このため、これと一体をなすものとして先行して建設された大鳴門橋の鉄道部分(資産価額331億円)が未利用のままとなっている。
 この大鳴門橋の鉄道部分の維持管理費については、負担分を賄う収入の途がないため(本来は、鉄道開通の際に旧国鉄から得られる予定であった。)、一般会計からの補助金(昭和62年度から平成8年度の累計額1億9,100万円)により賄っている。今後、大鳴門橋が鉄道施設として利用される可能性は低いものとなっており、このままでは、公的資金の投入が累増することとなる。