医療事故に関する行政評価・監視の勧告に伴う改善措置状況(回答)の概要

【調査の実施時期等】
 1 実施時期
 2 調査対象機関

平成14年8月〜16年3月
厚生労働省、文部科学省、総務省、防衛庁、財務省、都道府県(25)、保健所設置市・特別区(24)、医療機関(217)、関係団体等
【勧告日及び勧告先】 平成16年3月12日 厚生労働省及び文部科学省に対し勧告
【回答年月日】 厚生労働省 平成17年8月5日
文部科学省 平成17年7月21日

 【行政評価・監視の背景事情等】

 近年、我が国の医療機関においては、医療の高度化・複雑化等を背景として、生命に危険を及ぼす医療事故が多数発生

 厚生労働省は、医療安全に関する会議等の開催、インシデント事例(ヒヤリ・ハット事例)の収集・分析及びその結果の提供を行う事業等を実施。さらに、「医療安全推進総合対策」(平成14年4月医療安全対策検討会議(厚生労働省医政局長及び医薬食品局長の検討会)策定)を取りまとめ、これを踏まえて、医療機関における安全管理体制の確保を義務付ける等の各種の医療安全対策を推進。しかし、最近においても医療事故は相次いで発生


主な勧告事項 関係府省が講じた改善措置状況
1 医療機関における医療事故防止対策の実施状況
【勧告】
 医療機関に対し、医療法施行規則に定める安全管理体制を確保することにより、組織的な安全対策の検討・実施を徹底させること。その際、 医療機関における院内報告については、報告を求めるべき医療事故事例及びインシデント事例の範囲を明示すること。
(厚生労働省)
(説明)
 医療機関において、院内で発生した医療事故等の情報を収集・分析し、その上で事故防止対策を立案し、組織全体として取り組むことが重要。このため、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)により、すべての病院・有床診療所に、医療事故等の院内報告や安全管理のための委員会の開催等の安全管理体制の確保を義務付け
  特定機能病院 : 平成12年4月から義務付け  
その他の病院・有床診療所 : 平成14年10月から義務付け(うち、国立病院・療養所:平成13年4月から厚生労働省指導により安全管理体制の確保の取組)

 同一の医療機関で、手術器具等の体内残置や点滴対象患者の取り違え等同種の医療事故が繰り返し発生している事例あり(17機関29類型91事例)
 一つのトレイに数人の患者の輸液・薬剤を載せて運び1人で投薬を実施する等医薬品管理や投薬等の業務において、医療事故につながるおそれのある事例あり(47機関60事例)
 医療機関が院内報告を求めることとしている医療事故事例及びインシデント事例の範囲は医療機関によって大きなばらつきあり
 中には医療事故を「医事紛争に至ったもの」や「障害が一生続くあるいは死亡したもの」に限っている例等あり

→:「回答」時に確認した改善措置状況

→○  勧告の趣旨を踏まえ、平成16年度に、本省及び各地方厚生局において、ワークショップ(研究集会)を開催し、医療安全に関する様々な取組の紹介や厚生労働科学研究の成果の発表を行い、最先端の医療安全対策に係る方法論を共有し、それぞれの医療機関における取組強化の支援を実施
区分 開催時期 対象者
本省 平成16年11月25日 特定機能病院の管理者及び安全管理担当者(734人)
各地方厚生局 平成16年10月〜12月 一般病院(原則として200床以上の病院)の管理者及び安全管理担当者(2,679人)

→○  院内報告制度における報告範囲については、医療安全対策ネットワーク整備事業(以下「ネットワーク事業」という。)の見直しを行い、インシデント(ヒヤリ・ハット)事例について、平成16年3月30日付けで「医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集事業)の実施について」(医政発第0330008号・薬食発第0330010号各都道府県知事あて厚生労働省医政局長・医薬食品局長連名通知)を発出し、すべての医療機関を対象として、以下のとおり明示
インシデント事例の範囲
1)  誤った医療行為が患者に実施される前に発見された事例
2)  誤った医療行為等が実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかった事例
3)  誤った医療行為が実施され、その結果、軽微な処置・治療を要した事例
 ネットワーク事業の収集件数は、平成15年度の5万6,786件から16年度は13万3,871件と7万7,085件増加

2 医療事故事例を収集・分析等する仕組みの導入
【勧告】
 すべての病院及び有床診療所に重大な医療事故事例の報告を義務付け、それらを分析し、有効な再発防止策を医療機関等に対し情報提供する仕組みの導入を推進すること。
(厚生労働省)
(説明)
 厚生労働省は、インシデント事例については、これを収集・分析し、その改善方策等を情報提供する「医療安全対策ネットワーク整備事業」(ネットワーク事業)を平成13年10月から実施
   
 一方、医療事故事例については、このような仕組みなし

 厚生労働省は、医療事故事例を収集・分析し、その改善方策等を情報提供する仕組みの導入の検討を進めているが、当面は国立病院・療養所や大学病院等一部の大規模医療機関のみに重大な事故事例の報告を義務付ける予定
 しかし、中小規模の医療機関における事故事例の分析を本格的に進めなければ、十分な医療事故防止策を導き出せない可能性あり

 217医療機関のうち178機関(82%)が、医療内容の透明性を高め医療事故を未然に防ぐ上で、すべての医療機関を対象とする医療事故事例を収集・分析等する仕組みの導入が必要との意見



→○  医療事故事例の報告制度については、医療法施行規則の一部を改正する省令(平成16年厚生労働省令第133号。平成16年9月21日公布、同10月1日施行)により、以下のとおり、医療事故に関する報告書の提出を義務付け
区分 内容
義務付けされた医療機関  事故の分析体制が確立されている国立高度専門医療センター、国立ハンセン病療養所、独立行政法人国立病院機構の開設する病院、学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学の附属施設である病院(病院分院を除く。)の計276の医療機関
報告制度の概要  上記の対象医療機関の管理者は、当該医療機関において事故事案が発生した場合には、当該事案が発生した日から原則として2週間以内に、厚生労働大臣の登録を受けた分析機関(財団法人日本医療機能評価機構。以下「登録分析機関」という。)に報告

→○  上記省令により義務付けられた以外の医療機関については、「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」(平成16年9月21日付け医政発第0921001号各都道府県知事・政令市市長・特別区区長あて厚生労働省医政局長通知)により、あらかじめ登録分析機関に申し出ることにより、上記と同様の報告を行うことが可能(17年3月末現在、257機関が登録)。
 報告が義務付けられた276機関と任意登録の257機関の計533機関は、全国の病院・有床診療所約2万5,365機関の2.1%。

→○  平成17年4月15日、第1回目の公表。平成16年10月から17年3月末までの間、533件報告受理。うち83件が死亡事故。

3 医薬品・医療用具に係る医療事故防止対策の推進
【勧告】
 ネットワーク事業等において、取り違え・誤使用等が発生しやすい医薬品・医療用具の情報や同様の取り違え・誤使用等により発生した重大な医療事故に係る情報等、医療機関等において活用しやすい情報の提供を推進すること。
 また、医薬品・医療用具の製造企業に対して、個別の医薬品・医療用具の改善の要請を的確に行うこと。
(厚生労働省)
(説明)
 名称や外観が類似した医薬品の取り違え、医療用具の誤使用等に起因する医療事故が多数あり
   ネットワーク事業により、収集・分析した医薬品・医療用具に係るインシデント事例情報を医療機関等に提供するとともに、必要に応じて個別企業等に対して製品改良等を要請することとしている。  

 ネットワーク事業では、医薬品・医療用具に係るインシデント事例情報を、個別事例の整理表等にして、ホームページに掲載
 しかし、取り違え・誤使用等が発生しやすい医薬品・医療用具の情報や同じような取り違え・誤使用等により発生した重大な医療事故に係る情報等、医療機関等においてより活用しやすい情報が十分に提供されず
 厚生労働省は、製品の改善について、個別企業に対しヒアリングを実施。ヒアリングを契機として、企業が自主的な措置を講じているが、医薬品についてみると、34品目のうち、容器の形状変更を行ったものは1品目のみ。残りの33品目は外箱やラベル等の表示変更
 このような措置について、名称類似のために投薬ミスが発生しているものについては名称変更を、外観類似の容器については容易に識別できる形状への変更を求める意見あり


→○  厚生労働省は、平成15年度に設置した「医薬品類似性検討ワーキンググループ」(医療安全対策検討会議医薬品・医療用具対策部会の下部組織)の議論も踏まえ、「取り違えることによるリスクの高い医薬品に対する安全対策」について、「医薬品・医療用具等安全性情報No.202(平成16年6月)」において、個別の医薬品に関する安全対策等を紹介するとともに、医療機関における安全対策の徹底について指導
(具体例)
薬剤名等 安全対策例
アマリール(血糖降下剤)とアルマール(血圧降下財)
 アマリールを高血圧患者に投与すると死亡に至る
アマリールのPTP包装(シートに錠剤を閉じ込めた包装)に「糖尿病薬」という薬効を「より明確に」表示
ウテメリン(切迫流産治療薬)とメテナリン(子宮収縮刺激剤)
 逆の作用をもたらす薬剤
これまで以上に「薬効及び薬剤名を大きく」表示

 なお、厚生労働省は、「医薬品・医療用具等安全性情報」を各自治体、各学会、日本医師会等関係団体等に送付するほか、「月刊薬事」、「診療と新薬」等の月刊誌に執筆・掲載。また、同情報は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページにおいても掲載。
 また、ネットワーク事業において収集した医薬・医療用具によるヒヤリ・ハット事例を医療機関等で活用しやすいようにするため、平成17年7月に検索等が可能な形で同機構のホームページにおいて提供開始。

→○  「医薬品類似性検討ワーキンググループ」の報告書(平成16年3月)に基づき、「医薬品関連医療事故防止対策の強化・徹底について」(平成16年6月2日付け厚生労働省医薬食品局長通知)において、医薬品・医療用具について必要な安全対策をとるよう製造企業に対して通知。今後も必要な改善要請を行う予定
 (通知の具体例)
事項 具体的内容
i1 )注射薬の表示の視認性向上

 アンプル、バイアル(管瓶)に直接印字しているものを、見間違え等による取り違え事故を防ぐため、不透明ラベル等の見やすい表示にすること。

ii2 )医療用医薬品の販売名の取扱い
 販売名について、類似製品の有無を事前に可能な限り調査し、既存の医薬品の販売名に類似したものとならないようにすること。
iii3 )規格に係る誤りを防止するための表示の取扱い
 今後承認されるものについて、規格に関する情報を含んだ販売名の表示に加え、必要な情報を容器、包装へ表示すること。
4 医療の安全に関する教育の推進
【勧告】
 大学医学部の医療の安全に関する教育について、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」を踏まえたものとなるよう、その促進を図ること。
(文部科学省)
(説明)
大学医学部がカリキュラムを設定する際のガイドラインとして取りまとめられた「医学教育モデル・コア・カリキュラム」においては、医療における安全性への配慮と危機管理について2項目を設定し、それぞれの到達目標等を提示
   

 19大学のうち3大学のカリキュラムが、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に掲げる医療安全に係る到達目標の一部に未対応
・到達目標の例 :  学生が「医療の安全性に関する情報(成功事例や失敗事例)を共有し、事後に役立てる必要性を説明できる」ようにすること


→○  各大学医学部に対して、平成16年5月に開催した「国立大学医学部長会議」及び「全国医学部長病院長会議」、同6月に開催した「医学系出身国立大学長懇談会」及び「国立大学医学部附属病院長会議」において、医療の安全に関する教育について、モデル・コア・カリキュラムを踏まえたものとなるよう促進を図ったところ。