経営管理の推進
(1)  経営改善の推進
 国立大学又はその医学部及び歯学部並びに附置研究所に附属する病院(以下「国立大学附属病院」という。)の管理運営に係る経費は、国立学校特別会計によって経理されており、国立大学附属病院関係の歳入歳出規模は、平成9年度決算で 7,405億円となっている。
 このうち、歳入 7,405億円の内訳をみると、病院収入が 5,077億円、一般会計からの受入れが 1,554億円、財政投融資からの借入金が 772億円、受託調査試験等収入が2億円であり、一般会計からの繰入率は21.0パーセントとなっている。
 また、借入金の残高は、年々増加傾向にあり、平成元年度に4,909億円であったものが、9年度では8,853億円となっており、3,944億円(80.3パーセント)の増加となっている。
 文部省は、現下の厳しい財政状況を踏まえ、平成6年9月の国立大学附属病院の運営改善に関する調査研究協力者会議(文部事務次官の諮問機関)の報告「国立大学附属病院の運営改善に向けて」等を受けて、教育・研究及び医療に支障を及ぼさないよう配慮しつつ、病院運営の改善を進めていくこととしている。
 今回、国立大学附属病院の経営改善への取組状況について、20医学部附属病院(大学に附属する病院を含む。以下同じ。)、4歯学部附属病院、3研究所附属病院の計27病院を調査した結果、以下のような状況がみられた。
1.  調査した国立大学附属病院について、病院経営管理上の基本的指標とされる収支率(病院収入を病院支出で除したもの。ただし、施設整備費及び医学部と病院を兼務している教授等の人件費を除く。)をみると、i)医学部附属病院では、収支率が101.2パーセントと収入が支出を上回っているものが1病院あるものの、20病院の平均は88.1パーセントとなっており、中には70.8パーセントと平均を大きく下回っているものもある、ii)歯学部附属病院では、いずれも50パーセントから53パーセントと医学部附属病院に比べて低率となっている、iii)研究所附属病院では、1病院を除き、他の2病院は59.9パーセント及び68.4パーセントと医学部附属病院に比べて低率となっている。
 一方、参考調査した私立大学及び公立大学の医学部附属病院9病院と私立大学歯学部附属病院2病院の収支率をみると、歯学部附属病院は、国立大学と同様に収支率が53.1パーセント及び64.4パーセントと低いものの、医学部附属病院は、収支率が97.6パーセントのものが1病院あるが、他の8病院はいずれも100パーセントを超えており、9病院の平均収支率は105.2パーセントとなっている。
 国立大学附属病院は、医師等の養成・提供、高度な医療技術の研究開発による地域の医療水準の向上及び我が国の医学の発展に貢献しているものの、国の財政事情の厳しい状況も踏まえて、収支の改善を積極的に推進していくことが求められている。
2.  国立大学附属病院の経営が以上のような状況にあるのに対し、i)文部省は、予算の執行状況の把握、病床利用率の向上、医療材料・医薬品の適正な在庫管理等を通じて経費の効率的執行を行うよう国立大学附属病院の運営改善について指導しているものの、各病院の具体的な経営実態について把握・分析しておらず、各病院に対する個別の経営改善指導を実施していない、また、ii)各国立大学附属病院は、収入目標の確保に努めるとともに、支出超過がないように予算の執行管理をしているものの、経営実態を的確に把握・分析しておらず、自らの病院の収支を改善するという経営意識は低いものとなっている。
 このようなことから、国立大学附属病院における経営改善の推進状況をみると、経営管理指標等の数値目標を基にした具体的な経営改善計画を策定している病院はみられない。
3.  経営改善を推進するためには、病院の財務状況や、経営管理の基礎となる外来・入院患者数、病床数、医師・看護婦・臨床検査技師・薬剤師数等の各種数値の推移等を基に、経営の現状やその問題点等の経営実態を的確に把握・分析する仕組みを整備する必要がある。
i  財務状況の把握状況についてみると、国立病院は、国立病院特別会計法(昭和24年法律第 190号)に基づき、損益計算書、貸借対照表、その他の財務計算に関する書類を作成しており、民間病院も、厚生省が定めた病院会計準則(昭和40年10月策定。58年8月改定)に基づき、損益計算書、貸借対照表、利益金処分計算書、損失金処理計算書、附属明細書を作成している。
 また、私立大学附属病院を設置している学校法人は、私立学校法(昭和24年法律第 270号)に基づき貸借対照表、収支計算書等を作成しており、また、私立大学における教育又は研究に係る経常的経費について国の補助を受ける学校法人は、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)に基づき、学校法人会計基準(昭和46年文部省令第18号)に従い貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類を作成している。
 これらの財務諸表により、国立病院等は、病院の財務状況を把握することが可能となっている。
 一方、文部省及び国立大学附属病院においては、i)これまで予算の適正な執行に重点を置き、病院を経営するといった意識が低かったこと、ii)法令等に損益計算書、貸借対照表等の財務諸表の作成が義務付けられていないことから、これらの財務諸表を作成しておらず、的確な財務状況の把握ができない状況にある。
ii  把握した財務状況や各種数値を基に経営実態を的確に分析するためには、経営管理指標を設定し、また、それを経営改善目標に活用し、病院経営を行っていくことが経営改善を進める上で有効な方策と考えられる。
 しかし、調査した国立大学附属病院においては、i)病院の経営を管理する上で必要な基礎的な数値等として、1日当たり外来・入院患者数、病床利用率、院外処方せん発行率、診療報酬に係る査定率を、ii)診療報酬の算定に必要な数値として、患者紹介率、平均在院日数等を把握しているが、職員1人1日当たり診療収益や医業収支率等については把握しておらず、また、把握している指標の中で病院経営の改善に当たっての数値目標に活用しているものは少ない。
 また、文部省では、経営管理指標の設定に向けて検討を開始しているものの、現在のところ統一的な経営管理指標及び具体的な経営改善目標を定めていない。
 一方、国立病院や調査した私立大学附属病院においては、経営を総合的に分析するための経営管理指標を広範囲に設定し経営管理に努めている。
4.  国立大学附属病院の管理運営に要する経費については、国立大学附属病院が教育・研究・医療という機能を一体的に果たしていることから、教育・研究・医療に係る経費が一体として処理されており、支出(人件費、運営費、施設整備費、借入金償還費等)と収入(病院収入、借入金、その他の収入等)との収支差が生じた場合には、経費の性格にかかわらず、一般会計から差額分を受け入れる仕組みとなっている。
 しかし、今後、国立大学附属病院においても、より一層の経営努力を図るとともに、各病院相互間の教育研究目的、診療内容等の条件の相違からくる経費の支出状況を明確にするためにも、国立大学附属病院の支出については、可能な限り支出内容の分析を行い、一般医療に係る支出については、他の一般病院と同様に診療収入の範囲で賄うという考え方に沿って経営改善に努めることが必要と認められる。
 なお、厚生省では、国立病院・療養所の経営の合理化、経営管理体制の改善等を図るため、平成5年度から、一般医療は診療収入により賄い、一般会計からの受入れについては、一定の経営努力を前提に政策医療、看護婦養成等に係る経費に限定するとした繰入基準の明確化を図っている。
5.  国立大学医学部附属病院の経営状況等を客観的に評価するための外部評価の実施状況をみると、調査した20医学部附属病院のうち第三者による外部評価を受けている病院は1病院のみとなっており、他の病院では、特に必要がない、文部省からの指示がない等として外部評価を実施していない。
 一方、地方公共団体の病院や民間病院等においては、経営面も含めた管理運営や患者サービス等についての外部評価が大規模な病院を中心に行われている状況がみられる。
 大学に対する第三者による外部評価については、「21世紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境の中で個性が輝く大学−」(平成10年10月26日大学審議会答申) において、大学の個性化と教育研究の不断の改善を図るため、第三者評価システムの導入が必要であると提言されている。
 国立大学附属病院の経営に対する外部評価の実施は、より一層客観的に経営状況等を評価することが可能となるとともに、改善すべき問題点の明確化等を通じて、国立大学附属病院の経営改善を推進する上で有効かつ必要な方策と考えられる。
 したがって、文部省は、国立大学附属病院の経営改善を推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.  国立大学附属病院に対して、経営改善計画を早急に策定するように指導するとともに、病院の経営実態の把握・分析を行い個別病院の経営改善指導を行うこと。
2.  国立大学附属病院の財務状況の的確な把握を行う上で必要な損益計算書、貸借対照表等の財務諸表並びに国立大学附属病院の経営実態の的確な分析及び経営改善を行う上で必要な経営管理指標を早急に設定するとともに、国立大学附属病院に対して、これらの的確な作成に努めるよう指導すること。
3.  国立大学附属病院の支出については、経営効率の観点からの分析に努め、教育・研究・診療という機能を一体的に果たす機関であることを踏まえつつ、一般医療に係る支出については、診療収入の範囲で賄うという考え方に沿って一層の経営改善に努めること。
4.  国立大学附属病院に対して、経営面を十分考慮した病院の管理運営等についての外部評価を行うよう指導すること。
(2)  経営管理体制の整備
 国立大学附属病院は、病院長が病院全体の管理運営等を行っており、その下に、経営改善対策の策定とその具体的な実行策の検討、経営に関しての分析評価等を行う経営改善委員会等を設けている。
 国立大学附属病院の経営管理体制については、文部省の21世紀医学・医療懇談会等から、国立大学附属病院の管理運営体制が十分でないとして、教育・研修、管理等の機能ごとに分担した副病院長や病院長補佐を置き、多様な人材を登用することなどにより運営体制を充実すること、病院経営の専門的職員の養成方策を検討すること等が提言されている。

 今回、27国立大学附属病院の経営管理体制の整備状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。

1.i  病院長の業務を補佐する病院長補佐等を選任している国立大学附属病院は、27病院中6病院と少なく、他の21病院では、病院長の業務が過重になっていることを認識しながらも、病院長補佐等の選任が法令上規定されていない等として、事務部長等を中心とした従来どおりの体制で業務を行っており、補佐体制の整備を図っていない。
 また、病院長補佐等を選任している病院においても、病院長補佐等は、病院運営全般について病院長の相談役としての補佐機能を果たしているものの、病院経営に係る特定の事項をその職務として分担しているわけではないこと等から、経営管理面での機能強化に必ずしもつながっていない状況がみられる。

ii

 文部省は、経営状況等を的確に把握・分析し、国立大学附属病院の管理運営等を適切に行っていくために、病院経営分析専門(職)員を19病院に配置しているが、その活動状況をみると、これらの専門(職)員は病院経営分析業務に従事しておらず、他の業務に従事している等、配置目的からみて適切でないものが12病院みられる。
 また、文部省は、病院経営分析専門(職)員に対して、経営分析に関する研修を実施していない。
2.  国立大学附属病院の経営に関する病院内部での専門的な検討組織である経営改善委員会等の設置状況をみると、経営改善委員会等を設置しているものが19病院みられるが、他の8病院は設置していない。
 また、経営改善委員会等を設置している国立大学附属病院における経営改善委員会等の活動状況をみると、収支率が低迷しているものの、経営改善委員会等を開催していないなど形骸(がい)化しているものが2病院みられる。
 したがって、文部省は、経営管理体制の整備を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.  国立大学附属病院に対して、経営管理面で病院長を補佐する機能の充実方策を検討するよう指導すること。
2.  国立大学附属病院に対して、病院経営分析専門(職)員が本来の業務に従事するよう指導するとともに、病院経営分析専門(職)員に対する経営分析に関する研修を実施すること。
3.  経営改善を推進するための委員会を設置していない国立大学附属病院に対しては、委員会を設置するよう、また、既に委員会を設置している国立大学附属病院に対しては、その活性化を図るよう指導すること。
(3)  分院の見直し
 国立大学附属病院には、国立学校設置法施行規則(昭和39年文部省令第11号)に基づき3分院が設置されている。分院においては、医学部附属病院の教育研究施設として、医学における温泉治療の研究・開発等及び本院と連携した教育・研究・医療を行っている。

 今回、3分院の運営状況等を調査した結果、2分院(病床数は40床及び70床)は、温泉治療を中心に運営されているが、i)講義科目としての温泉医学の廃止等教育研究環境の変化、ii)民間病院の充実が図られてきたことによる地域医療における分院の役割の減少等により、設置当初の目的、意義が薄れてきている。また、2分院とも最盛期は内科、外科、産科婦人科の3診療科が設置されていたが、1分院は昭和56年4月から内科及び外科の2診療科体制となっており、また、他の1分院では、平成9年9月から内科のみの診療科体制となっている。
 また、両分院の経営状況をみると、収支率は約60パーセント及び約70パーセントと低く、1分院においては、経年的にみても悪化の傾向にある。
 なお、残る1分院(診療科13科、病床数 245床)について、文部省は、本院及び分院の意向も踏まえて、平成12年度に本院において新病棟が完成する予定であることから、新病棟の完成後、本院と分院の統合を行いたいとしている。

 したがって、文部省は、国立大学附属病院のより一層の整理合理化を図る観点から、国立大学医学部附属病院の分院については、早急に廃止する必要がある。

 
 経営の合理化・効率化の推進
(1)  医療従事者の適正配置
 国立大学附属病院には、医療従事者として医師、看護職員、臨床検査技師、薬剤師等が配置されている。これらの医療従事者の平成6年度から9年度における常勤職員数の推移をみると、全体として増加傾向にある。
 今回、20医学部附属病院における医師、看護職員、臨床検査技師及び薬剤師の配置状況等を調査した結果、以下のような状況がみられた。
1.  医師の配置状況
   国立大学附属病院には、常勤医師以外に、主として診療に従事する非常勤医師(日給制、通常週40時間勤務)として、医員(卒後臨床研修を終了した医師免許取得後3年目以上の者)が配置されている。
 調査した医学部附属病院における医員の配置状況をみると、各病院とも、医員の雇用人数は各診療科からの配置希望人数と従来の予算枠等を考慮して決定しており、診療に必要な医員数について、具体的に患者数等を基礎にした診療に必要な医師数と常勤医師の診療可能時間とを考慮して決めたものとはなっておらず、中には、医員の定数が削減されてきているにもかかわらず、ほぼ従前どおりの配置数を維持してきている病院もみられる。
 なお、近時プライマリーケア(初期医療)や救急医療等基本的な幅広い診療能力を身に付けた医師の育成が社会的に要請されており、今後はこれらにも配慮した医師の配置も求められている。
2.  看護職員の配置状況
 
i  医学部附属病院は、特定機能病院(高度の医療を提供する能力を有し、10以上の特定の診療科、 500以上の病床を保有するなど、医療法(昭和23年法律第 205号)第4条の2第1項における要件を満たす病院)として、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第22条の2に定める最低基準により、入院患者 2.5人及び外来患者30人に対して看護婦1人を配置することとされており、調査した医学部附属病院では、いずれもこの配置基準を満たしている。また、病床数等からみて、看護婦の配置数は病院間で大きな差異はみられない。
ii  一方、調査した医学部附属病院における看護助手の配置数をみると、全体で平成6年度の 714人から9年度は 657人と57人減少(非常勤職員を含む。)しており、9年度の各病院の配置数は、平均で33人となっている。しかし、中には、多数の看護助手が配置されている病院があり、病床数がほぼ同程度であるにもかかわらず、病院間で看護助手の配置数に21倍(5人に対し105人)の格差がある。
 また、看護助手は、新看護等の基準(平成6年厚生省告示第63号)等に基づき、看護婦等の指導の下に、原則として療養生活上の世話のほか、病室内の環境整備、ベッドメーキング、看護用品及び消耗品の整理整頓等の業務を行うこととされているが、多数の看護助手が配置されている病院においては、ベッドメーキング、給食の配膳・下膳、院内搬送・連絡業務等外部委託になじむ業務を看護助手が実施している状況がみられる。
3.  臨床検査技師の配置状況
 
i  調査した医学部附属病院における臨床検査技師による検査件数を平成6年度と8年度で比較すると、 5,737万件から 5,977万件(4.2パーセント増) と増加傾向にあり、これに合わせて、臨床検査技師の配置数は、6年度の849人から9年度の883人と34人増加(非常勤職員を含む。)している。また、各病院とも、近年の医療技術の進歩に伴う病理組織検査、遺伝子検査等の新たな検査需要の発生、検査業務の高度化・複雑化に対応するため、検査業務の外部委託、検査業務の機械化により、検査業務の効率化に努めているとしている。
 しかし、調査した医学部附属病院における平成8年度の臨床検査技師の配置数は平均で43人となっているが、中には70人以上配置している病院が2病院ある。
 また、多数の臨床検査技師が配置されている病院の中には、検査件数がほぼ同程度であるにもかかわらず、病院間で臨床検査技師配置数に1.8倍(41人に対し74人)、1.6倍(39人に対し61人)の格差がみられる。
ii  臨床検査技師を検査部等の中央診療部門に集中配置することにより検査業務の効率化が図られるが、多数の臨床検査技師が配置されている病院の中には、診療科特有の検査・研究のためとして各診療科等に個別に配置している病院があり、中には、10診療科に14人も配置している病院がある。
 なお、血液検査や尿検査等の生化学検査に検査機器を導入した結果、省力化が図られたとしている病院もみられる。
4.  薬剤師の配置状況
 
i  調査した医学部附属病院における薬剤師による処方件数は、平成6年度の1,338万件から8年度は1,534万件(14.6パーセント増)と増加傾向にある。また、国立大学附属病院における薬剤師の業務については、i)医薬品情報の収集・評価と提供、病棟における薬剤管理指導業務(服薬指導)等の新たな業務が重要視されてきていること、ii)臨床現場における薬剤業務の実務実習・実務研修の充実を図ることが要請されていることもあり、薬剤師の配置数は、6年度の533人から9年度の601人と68人増加(非常勤職員を含む。)している。
ii  しかし、薬剤師の調剤業務については、i)国立大学附属病院では医薬分業を積極的に進めることとされており、院外処方せんの発行率を高めることにより外来患者に対する調剤業務の負担が大幅に軽減されること、ii)従来の薬袋印字機、自動錠剤分包機、自動散剤分包機に加え、調剤支援システム(調剤オーダリングシステムと自動錠剤分包機、調剤監査機器等とが連動している最新システム)が導入されており、機械化の進展により調剤の確認業務等の負担軽減が期待できる状況にある。このため、更なる医薬分業の推進や機械化により、薬剤師の合理化を図っていく必要性が認められる。
 
 したがって、文部省は、医師、看護職員、臨床検査技師及び薬剤師の適正かつ効率的な配置を図る観点から、国立大学附属病院に対して次の措置を講ずるよう指導する必要がある。
1.  診療における医員の配置について、患者数等を基にしたものとなるよう見直しを図ること。
2.  看護業務の見直しを更に推進し、看護助手が行っている業務を外部委託することなどにより、看護助手の採用を抑制し、合理化を図ること。
3.  臨床検査技師の中央診療部門への集中配置や生化学検査業務に係る機械化の推進等により臨床検査技師の配置の見直しを行うなど、その合理化を図ること。
4.  院外処方せんの発行の推進や機械化の推進により、外来患者に対する調剤業務等に係る薬剤師の合理化を図ること。
(2)  業務の外部委託の推進とその適正化

 国立大学附属病院では、その業務の効率化を図るため外部委託を進めてきており、洗濯、清掃についてはほとんどの病院で外部委託が実施されており、その他の外部委託が可能な業務についても、業務の特性等を総合的に検討した上で、順次外部委託化が図られつつある。

 今回、27国立大学附属病院における業務の外部委託の実施状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。
1.  患者給食の調理の外部委託の実施状況をみると、17病院で外部委託を実施しているものの(うち13病院は一般食、特別食とも委託)、患者給食をすべて直営で実施している病院が10病院、また、一般食のみ外部委託を実施し、特別食については直営で実施している病院が4病院ある。中には、平成5年度から9年度の間に、原則、退職者不補充とされている行政職俸給表(二)適用職員である調理師を補充採用している病院が6病院(補充人員計14人)ある。
2.  医事事務(レセプトの作成に伴うデータ入力及び点検業務)及び窓口事務(外来における受付等)の外部委託の実施状況をみると、医事事務については23病院、窓口事務については16病院が外部委託の実施により業務の効率化を図っているが、医事事務については4病院が、窓口事務については11病院が外部委託を実施していない。
3.  外部委託の実施に当たっての契約の態様をみると、次のとおり一般競争入札になじむ業務について随意契約としている病院がある。
 
i  洗濯業務はすべての病院において外部委託を実施しているが、6病院が随意契約としている。この中には、受託可能業者が多数存在することや、隣県の国立大学附属病院ではほぼ同一の内容の業務を競争入札により外部委託を実施していることから一般競争入札への切り替えが可能な病院がある。
ii  駐車場の管理業務については外部委託を実施している22病院のうち20病院、医事事務については外部委託を実施している23病院のうち8病院、窓口事務については外部委託を実施している16病院のうち4病院が随意契約としている。
   
 したがって、文部省は、業務の外部委託の推進とその適正化を図る観点から、国立大学附属病院に対して、更に外部委託を推進するとともに、外部委託の実施に当たって随意契約としている業務について、一般競争入札の適用の拡大を推進するよう指導する必要がある。
(3)  病院運営の改善による収入確保
 国立大学附属病院の運営に当たっては、経営の合理化・効率化の観点からの見直しを進め、可能な限り収入の確保に努めることが重要である。

 今回、20国立大学医学部附属病院における病床の利用状況、診療報酬の請求状況及び診療報酬上の紹介率の状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。

 病床利用率の向上
 
1.  調査した国立大学医学部附属病院における病床利用率((1日平均入院患者数/病床数)×100)は年々改善が図られてきており、平成8年度では平均85.7パーセントとなっている。しかし、参考調査した6私立大学附属病院の同年度の病床利用率の平均は91.1パーセントとなっており、私立大学附属病院と比べ、国立大学医学部附属病院は効率的な病床管理を行っていない実態にある。
2.  調査した国立大学医学部附属病院の入院待機者は、平均で641人と多数存在しており(最高 1,190人、最低244人)、入院に対する需要は高いものとなっている。しかし、病床利用率が平均を下回っている病院の中には、各診療科間の病床の共通利用を図っていない病院や、病床利用率が低い診療科があるにもかかわらず、病床配置の見直しを行っていない病院がみられる。
3.  病床利用率が高い国立大学医学部附属病院の中には、病床利用率を向上させるため、病床管理に電算システムを導入し、空き病床や入退院の状況をリアルタイムで把握している病院があり、この中には、病床利用率が90パーセントを超えているものもみられる。
 また、共通利用病床の活用、病床配置の見直しによる病床利用の平準化などにより、病床利用率の向上に効果を上げている病院がみられる。
 診療報酬の適切な請求
   保険医療機関が請求した診療報酬額に対する社会保険診療報酬支払基金等における査定減点額の割合を「査定率」((保険診療減額査定額/実保険診療額)×100)といい、この比率が低いほど担当医、医事課職員の診療報酬請求事務が適切に行われていることを示している。一般的に査定率の目標値は救急部門以外では0.4パーセント以下が望ましいと言われており、査定率が高い場合は、過剰診療となっていないか等の診療内容の見直し、診療報酬請求事務の適切な実施等に努めていくことが重要となっている。
 
1.  調査した国立大学医学部附属病院の平成8年度の査定率をみると、平均で0.92パーセントとなっており、この中には1パーセントを超える病院が7病院あり、2.32パーセントと高い病院もみられる。
 一方、参考調査した私立大学附属病院における査定率の状況をみると、平均で0.53パーセントとなっており、個別にみても査定率が最も高いもので 0.8パーセントであるなど、国立大学医学部附属病院と比較して、診療報酬請求事務の適切な実施に努め、それにより経営改善に取り組んでいる状況がうかがわれる。
2.  調査した国立大学医学部附属病院は、薬剤の過剰使用や過剰検査による減額査定が多いことについて、i)国立大学附属病院は、新しい治療法の研究・開発が求められており、診療報酬請求が認められた範囲を超えて治療を行う場合もあること、ii)重症患者が多く、治療効果を高めるため濃厚診療が多くなりがちであり、過剰診療として減点の対象とされることが多いこと等を挙げている。
 しかし、査定率が高い7病院の中には、i)レセプトに病名の記載がないことや細かい症状についての注記がないことにより減額査定されているものが見受けられること、ii)医師への査定減に対する注意喚起が不十分となっており、また、再審査請求に当たり医師に対して特段の指導が行われていない病院がみられることから、更に診療報酬請求事務の適切な実施を図る必要が認められる。
3.  診療報酬制度の医師への周知徹底状況をみると、診療報酬制度は2年に1回改定されているにもかかわらず、医師に対して、診療報酬請求のためのマニュアルを作成・配布していない病院が1病院ある。また、医師に対する診療報酬制度に関する研修が、新任の医員等に対するものにとどまっており、医師全体に対し継続的に行われていない病院が14病院ある。
 診療報酬上の紹介率の向上
   健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法(平成6年厚生省告示第54号)に基づく厚生大臣の定める施設基準(平成6年厚生省告示第61号)により、平成6年4月から診療報酬上の紹介率((他の保険医療機関等から紹介された患者の数+救急用自動車によって搬入された初診患者の数)/初診患者の数×100)が設けられており、特定機能病院では、当該紹介率の高さに応じて診療報酬を加算して請求を行うことができることとされている。
 
1.  調査した国立大学医学部附属病院における平成8年度の診療報酬上の紹介率をみると、平均で38.2パーセントとなっており、この中には、52.6パーセントと高い病院もあるが、19.7パーセントと低い病院もみられる。
2.  調査した国立大学医学部附属病院のうち、診療報酬上の紹介率が高い病院では、その理由として、逆紹介(特定機能病院から他の病院への患者紹介)に努力しており、これが開業医からの紹介率の向上につながっていることなどを挙げており、他の国立大学附属病院においても、特定機能病院としての機能を更に発揮するためにも、同様に診療報酬上の紹介率の向上に努めることが望まれる。
 
 したがって、文部省は、収入の確保を図ることにより経営改善を推進する観点から、国立大学附属病院に対して、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。
1.  共通利用病床の活用、病床配置の見直し、電算システムを活用した入退院管理等により、病床の効率的な利用を図ること。
2.  診療報酬請求事務について、i)診療報酬請求前の点検の充実を図るとともに、査定内容の周知を徹底し、必要な場合の再審査請求の励行等を行うこと、ii)医師に対して、診療報酬制度についてのマニュアルの配布や継続的な研修の実施により、同制度に関する最新知識の習得を促すことなどにより、より一層適切な実施に努めること。
3.  地域の医師会や医療機関との一層の連携などにより診療報酬上の紹介率の向上に努めること。
 
 医療関係業務運営の改善
(1)  医薬分業の推進
 医薬分業の推進は、掛かり付け薬局が患者の服薬管理を行い、重複投薬や医薬品の相互作用による薬害の発生防止を図るとともに、病院における医薬品の購入・保管・管理業務や調剤を行うための体制をスリム化できる等経営改善にも大きく貢献することが期待されている。
 文部省及び国立大学附属病院は、医薬分業を推進するため、院外処方せん発行のための体制作りや、患者への趣旨の周知について特段の配慮を行うこととしている。
 今回、20医学部附属病院における医薬分業の実施状況を調査した結果、これらの病院の中には、地元薬剤師会との協力体制を整備し、原則として院外処方とするなど医薬分業に積極的に取り組み、平成8年度における院外処方せんの発行率が83.2パ−セントと高い病院がみられる。
 一方、院外処方せんの発行率が50パ−セント未満の病院が8病院ある。この中には、i)患者が担当医師に個別に申し出ないと院外処方とならない取扱いとしている病院、ii)患者に対する医薬分業に関する普及・啓発等を十分に行っていない病院があり、これらの病院では、平成8年度における院外処方せんの発行率が2.5パ−セント、23.8パ−セントと極端に低い状況がみられる。
 したがって、文部省は、医薬品の適正使用、医薬品の購入・保管・管理業務の効率化等に資する観点から、院外処方せんの発行率の低い国立大学附属病院に対し医薬分業を積極的に行うよう指導する必要がある。
(2)  契約事務担当職員の配置の適正化

 国の契約事務担当職員については、不正防止の観点等から、同一の職に長期間(3年以上)にわたり在職することがないよう配置換えを行うこととされている。
 文部省では、国立学校に対し、人事関係の会議や研修等の場において、契約事務担当職員の配置の適正化を期するよう指導している。

 今回、27国立大学附属病院における契約事務担当職員の在職期間の状況を調査した結果、契約事務を所掌する特定の職に3年以上在職している者が13人(7病院)おり、この中には、8年以上の長期在職者が3人(1病院)みられる。
 一方、調査した国立大学附属病院の中には、大学内の各学部間等の異動を意識的に実施している病院や近隣都道府県に所在する他の国立大学と人事交流を行う等の工夫を行っている病院があり、これらの病院では、契約事務担当職員が長期にわたり同一の職に在職している例はみられない。

 したがって、文部省は、契約事務のより一層の公正性の確保を図る観点から、国立大学附属病院間等における契約事務担当職員の人事交流を積極的に行うことなどにより、契約事務担当として長期在職する職員の配置の適正化を一層推進するよう国立大学附属病院を指導する必要がある。
(3)  病院経営に係る事務手続の簡素化等
 国立大学附属病院の運営に当たっては、経営的視点が求められる一方、国の機関として会計制度等に基づく種々の制約があり、国立大学附属病院の経営改善をより推進していくためには、国立大学附属病院が経営を行いやすい環境を整えることが重要となっている。

 今回、27国立大学附属病院において病院経営に係る事務手続の簡素化要望の強い事項を中心に調査した結果、以下のような状況がみられた。

 診療等に関する諸料金規程の改正手続の簡素化
   国立大学附属病院が徴収する診療等に関する料金の額及びその徴収方法については、文部省が国立大学附属病院諸料金規程準則(昭和37年6月2日付け文大病第286号文部省大学学術局長通知) を定めている。しかし、地域的な差異等もあることから、各病院の事情により独自に特別室使用料、文書料等の諸料金について諸料金規程を定めることができるとされており、当該規程を制定又は改正する場合には、国立学校における授業料その他の費用に関する省令(昭和36年文部省令第9号)に基づき、文部大臣の承認を得ることとされている。
 
1.  諸料金規程の改正に係る承認申請の状況をみると、各国立大学附属病院は、諸料金の改定に当たって、近隣の公的病院等の料金について実態調査を行った上、地域の実情も加味した料金として文部省に承認申請しており、地域の病院の料金と掛け離れた料金設定は行っていない状況がみられる。
 なお、諸料金規程に規定されている料金については、一般の民間病院では自由に設定できるものである。
2.  諸料金規程の改正手続の状況をみると、国立大学附属病院が改正案を大学事務局に提出してから、文部省が大学事務局に承認通知するまでの改正手続に、特段の理由もなく約7か月間と長期間を要している例がみられる。このことは、国立大学附属病院にとって、増収の機会を遅らせることになり、ひいては経営改善への意欲をそぐものとなっている。このため、承認制度を届出制度とすること等による事務手続の簡素化を要望している病院もある。
 過誤納金の還付処理の迅速化・簡素化
   国立大学附属病院が患者から誤って納付義務のない診療費等を徴収してしまった場合、歳入徴収官事務規程(昭和27年大蔵省令第141号)等に基づき還付の手続をとらなければならないとされている。
 調査した国立大学附属病院における過誤納金の還付処理の実施状況をみると、i)還付処理を月ごとにまとめて実施している、ii)配分された予算で足りない場合は、ある程度の額をまとめた上、予算要求している、iii)予算要求は、いずれの病院も年度途中に大学事務局を通じて文部省に行っており、中には年6回追加配分を要求している例がみられる。
 このようなことから、これらの還付処理に長期間を要している状況がみられ、調査した国立大学附属病院の中には、i)平成6年度から8年度の間において194件(495万円)の過誤納金が発生しており、患者からの返還申出を受け付けてから還付までに平均約2か月を要するとしている病院、ii)患者から過誤納金の返還申出を受け付けてから還付までに約9か月を要しているものがある病院などがみられる。
 また、過誤納金の還付に時間が掛かることから、患者からの苦情が多く対応に苦慮している病院がある。
 収納業務の合理化
   国立大学附属病院における患者からの診療費の収納は、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、出納官吏又は出納員が領収証書を交付して行うこととされており、また、この領収証書の印影は印刷できないこととされている。
 現行の会計法令において、自動料金収納機による収納が想定されていないこと等から、国立大学附属病院においては、現在、機械による診療費の収納は行われておらず、複数の医事課職員を外来患者の診療費の収納業務に専従させている実態にある。
 このようなことから、自動料金収納機による診療費の収納が可能になれば、現在の出納員を削減する、また、例えば診療報酬請求関係事務担当等手薄となっている部署に配置換えするなど、業務の合理化を図ることができ、患者の待ち時間の短縮にもつながると認められる。
 なお、国家公務員共済組合連合会が運営している病院や公立病院等においては、自動料金収納機が導入されている。
 したがって、文部省は、国立大学附属病院の経営に係る事務手続の簡素化等を図る観点から、次の措置を講じる必要がある。
1.  国立大学附属病院の自主的な運営を推進するため、国立大学附属病院の諸料金規程について、地域における他の病院の料金を踏まえた適正な料金設定とすることを条件として文部大臣の承認制度を廃止し、報告制度に変更すること。
2.  事務手続の簡素化及び患者サービスを推進するため、過誤納金の還付処理の簡素化方策について検討するとともに、国立大学附属病院に対して、還付処理の迅速化を図るよう指導すること。
3.  収納業務の合理化及び患者サービスを推進するため、自動料金収納機の導入方策について検討すること。
 
 患者サービス等の充実
(1)  診療待ち時間の短縮化
 従来から外来診療に係る患者の待ち時間が長いことが問題点として指摘されており、国立大学附属病院においても外来診療の予約制が導入されつつあるが、患者サービスの充実を図るため、更に待ち時間の短縮化に取り組むことが求められている。
 今回、20医学部附属病院における外来診療の予約制の導入状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。
1.  調査した医学部附属病院における外来診療の再診患者についての予約制の導入状況をみると、すべての病院で予約制が導入されているものの、全診療科で予約制を実施している病院は14病院であり、一部診療科のみの実施となっている病院が6病院となっている。
 また、予約制の内容をみると、予約制を実施しているすべての診療科において時間を指定した予約制を実施している病院は16病院であり、4病院については、予約制を実施している診療科のうち一部診療科のみ時間を指定した予約制等となっており、この4病院は、いずれもコンピュータの活用による予約管理システムが導入されていない。
2.  調査した医学部附属病院における外来診療の初診患者についての予約制の導入状況をみると、4病院では、全診療科又は一部の診療科で予約制をとっているが、他の16病院では初診患者について予約制がとられていない。
 したがって、文部省は、診療待ち時間の短縮化の観点から、国立大学附属病院に対して、次の措置を講ずるよう指導する必要がある。
1.  再診患者について、コンピュータを活用した予約管理システムの導入等により、全診療科において時間を指定した予約制を導入すること。
2.  初診患者に対する予約制の導入について検討すること。
(2)  ボランティアの受入れの推進

 近年、国民の間でボランティア活動に対する関心が高まってきていることを背景に、国立大学附属病院では、患者サービスの向上の一環として、ボランティア団体等を積極的に受け入れることとしている。

 今回、20医学部附属病院におけるボランティアの受入状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。

1.  調査した医学部附属病院のうち18病院がボランティアを受け入れており、その活動内容をみると、i)外来患者に対する総合案内、ii)車いす使用患者等の介助、iii)小児科病棟プレイルームにおける小児患者の保育援助、iv)自動再来受付操作機の案内、v)診療申込書の作成補助等多岐にわたっているが、ボランティアを受け入れていない病院が2病院みられる。
2.  ボランティア活動中の事故防止や院内感染防止のための活動上の注意事項の周知徹底状況をみると、院内感染についての懇談会や研修を実施している病院や、マニュアル、しおり等を作成してボランティアに対して注意事項を周知している病院もあるが、マニュアル、しおり等を作成しておらず注意事項の周知がボランティア登録時の口頭説明にとどまっている病院が3病院ある。
3.  ボランティアから患者への感染防止対策の実施状況をみると、16医学部附属病院ではボランティアの登録時及び年1回の健康診断を実施しているが、健康診断を実施していない病院が2病院ある。
 したがって、文部省は、患者サービスの充実を図る観点から、国立大学附属病院に対して、ボランティアを更に積極的に受け入れるとともに、ボランティア活動上の安全対策等を徹底するよう指導する必要がある。
(3)  インフォームド・コンセントの充実

 近年、患者の自己決定及び医療従事者と患者が共同して疾病を克服する視点が重視され、インフォームド・コンセント(患者が十分な情報を得た上での患者による選択、拒否、同意)の理念に基づく医療の重要性が強調されてきている。このことから、平成9年12月の医療法の改正により、インフォームド・コンセントの確保が法律に明文化された。また、これに伴い、厚生省では、患者の求めがあったときは、医療従事者は、治療効果に悪影響があることが明らかな場合を除き、診療記録又はこれに代わる文書を開示すべきことを医療法等に規定することなどについて検討している。

 今回、20医学部附属病院におけるインフォームド・コンセントの実施状況を調査した結果、以下のような状況がみられた。

1.  調査した医学部附属病院では、従来から、がん、臓器移植、生体肝移植などの高度医療に関しては、個々の状況に応じたインフォームド・コンセントに関する対応方針を決定しているほか、入退院、手術、検査、麻酔、治験等の場で同意書を徴する際にインフォームド・コンセントを励行してきている。
 しかし、インフォームド・コンセントの普及のためには、医療施設全体としての取組が重要であり、これが個々の医療従事者の取組を支援することにもなるが、一般外来の患者を含めたインフォームド・コンセントについては、一般的な方針を定めることが困難であることなどを理由として、病院全体としての対応方針を定めている病院はみられない。
 また、医療従事者のインフォームド・コンセントに対する認識を深めるための医師を始めとした全医療従事者に対する研修を実施している病院は4病院のみであり、他の16病院のほとんどが、医員(研修医を含む。)の採用時の研修の実施にとどまっている。
2.  インフォームド・コンセントの一環である診療情報(カルテ、看護記録、処方せん、検査記録等)の提供について、調査した医学部附属病院におけるカルテの開示状況をみると、患者からカルテの開示請求があった場合は、治療等に悪影響を及ぼすなど特別の事情がない限り開示するとしている病院は2病院のみであり、他の18病院では原則不開示としており、カルテの患者への開示は進んでいない。
3.  インフォームド・コンセントについては、国立大学附属病院長会議が「国立大学附属病院における診療情報の提供に関する指針(ガイドライン)」(提供する診療情報の範囲・対象者、診療情報の提供に向けた環境整備等について提言)を取りまとめ、平成11年2月17日に各国立大学附属病院に通知しており、今後はガイドラインに基づく適切なインフォームド・コンセントの実施が求められている。
 したがって、文部省は、インフォームド・コンセントの充実の観点から、国立大学附属病院に対して、病院全体としての取組方針の策定や医療従事者全体に対する研修の実施等により、インフォームド・コンセントに積極的に取り組むとともに、カルテの開示を推進するための条件整備を進めるよう指導する必要がある。