1 経営管理の徹底
   国立病院・療養所は、「国立病院・療養所の再編成・合理化の基本指針」(昭和60年3月策定、平成8年11月改定)において、地域における医療供給体制の中で、基本的・一般的医療の提供は私的医療機関及び地方公共団体等が設置する公的医療機関にゆだねるものとし、国の医療政策として特に推進すべき医療(政策医療)、政策医療に直接必要な臨床研究、看護婦等医療専門職の養成・教育研修等の機能を果たしながら、その有する能力の範囲内で、地域にとって必要な医療を行うものとされた。
 国立病院・療養所が、こうした国立医療機関としてふさわしい役割を積極的に果たしていくためには、限られた経営資源を集中・集約し、その機能強化を図っていく必要があることから、厚生省は、前述の基本指針に基づき、昭和61年1月に「国立病院・療養所の再編成計画」を策定し、その推進に努めているところであり、近年、再編成は加速化しつつある状況がみられる。
 また、厚生省は、平成8年11月の基本指針の改定、近年の行政改革における議論等を踏まえ、前述の再編成計画を見直し、国立病院・療養所が担うべき政策医療の範囲の純化、存続施設が担うべき政策医療機能の付与、統廃合対象施設の統合地の明確化、政策医療分野ごとの国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)等を頂点とする診療、臨床研究、教育研修、情報発信の政策医療ネットワークの計画的な構築、新たに再編成計画の対象となる施設の追加等を内容とする再編成計画を11年3月に公表した。
 一方、国立病院・療養所の経営状況は、平成5年度以降改善してきているが、国立病院特別会計の歳入総額1兆871億円(平成9年度予算)のうち診療収入は7,548億円(69.4パーセント)であり、その他は、一般会計からの繰入れ1,802億円(16.6パーセント)、借入金775億円(7.1パーセント)、繰越金・雑収入746億円(6.9パーセント)となっている。また、施設整備等のための累積借入金額も年々増加し、平成9年度には8,256億円となっており、国立病院・療養所は、今後とも経営の合理化・効率化を一層推進していくことが求められている。
 厚生省は、国立病院・療養所に対し、各施設が事業体としての経営意識を持って施設を運営していくため、事業計画(収支計算書、経営改善計画等)を毎年策定するよう指示している。さらに、事業計画に基づき経営改善に努めた結果、一定の改善効果が上がった施設に対し、経営改善推進費を配分するとともに、配分された旨を職員に周知し、一層の経営改善意識の向上を図るよう指示している。
 また、厚生省は、国立病院・療養所に対し、毎年度、前年度実績に基づく経営管理指標を算定し、その結果を「病院運営等に関する基本台帳」として厚生省に提出するよう指示するとともに、全施設のデータをまとめ、「国立病院・療養所経営管理指標」(以下「全国経営管理指標」という。)として各施設に送付し、自己経営診断の判断基準として活用するよう指示している。
       
   今回、国立病院・療養所における経営改善計画の策定・達成状況、全国経営管理指標の活用状況等の経営管理の状況を調査した結果、以下の状況がみられた。
  ア 経営改善計画の策定状況
    1.  国立病院・療養所の平成8年度の経常収支率は、全国立病院89施設の平均で102.4パーセント、全国立療養所131施設の平均で92.6パーセントとなっている。このうち、調査した施設の経常収支率をみると、国立病院24施設の平均は104.2パーセント、国立療養所28施設の平均は92.3パーセントであり、これら52施設のうち国立病院4施設及び国立療養所21施設の計25施設が100パーセント未満となっている。これら25施設の中には、経営管理指標等からみた経営上の課題や改善方策を経営改善計画に十分盛り込んでいないものがみられる。
    2.  厚生省では、中長期的な経営上の課題も経営改善計画に掲載するよう国立病院・療養所を指導しているが、調査した施設の中には、経営上の課題と考えられる事項であっても、その改善による具体的な経費節減額等が見込めないなどとして、経営改善計画への掲載に消極的な施設がみられる。
  イ 経営改善計画の達成状況
     調査した施設における経営改善計画の達成状況をみると、平成7年度に約3割の施設、8年度に約2割の施設が未達成となっており、この中には、計画策定時におけるその内容の検討が不十分な施設や計画達成への努力が不足している施設がみられる。また、経営改善計画の年度内の達成状況を的確に把握していない施設もみられる。
  ウ 経営改善委員会の活動状況
     各施設では、経営改善計画の検討や経営管理指標の分析を行う経営改善委員会を設置しているが、同委員会における活動状況をみると、事務部門の策定した経営改善計画の事後報告を受けるにとどまり、経営改善に係る実質的な検討が行われていないものなど、同委員会が形骸化している施設がみられる。
  エ 経営改善推進費の配分に係る職員への周知状況
     平成6年度から8年度にかけて経営改善推進費が配分された調査した施設の中には、配分の事実を職員に周知していないものがみられる。
  オ 全国経営管理指標の活用状況
     全国経営管理指標の各施設への送付時期は、データ収録年度の翌々年度の半ばとなるため、経営管理に十分活用できないとして、独自に他の施設の最新データを入手し、経営管理に利用している施設がみられる。また、主要な経営管理指標について、速報の実施を希望する施設もみられる。
       
   したがって、厚生省は、国立病院・療養所の経営管理の徹底を図るため、次の措置を講じる必要がある。
  1.  国立病院・療養所に対し、経営管理指標等からみた経営上の課題や改善方策を反映した事項を、中長期的な取組が必要な事項も含め、経営改善計画に積極的に盛り込ませること。
  2.  国立病院・療養所に対し、経営改善計画の策定時に、経営改善委員会等を活用して、計画内容の妥当性等について十分協議・検討させるとともに、計画達成状況についても定期的に把握・分析させること。
  3.  国立病院・療養所に対し、経営改善推進費が配分された場合の職員へのその旨の周知を徹底させること。
  4.  全国経営管理指標について、各施設の主要な経営管理指標の速報システムを導入すること等により、その活用を促進すること。
       
2 病院運営の効率化
  (1) 職員配置の見直しと業務委託の推進
     国立病院・療養所は、平成5年度以降、経営改善計画を策定し、経費節減を推進することなどにより経営の合理化・効率化を進めてきているが、一般会計からの繰入額が9年度に1,802億円に達しているなど、一層の経営の合理化・効率化が求められている。また、国立病院特別会計予算の歳出総額(平成9年度1兆871億円)に占める人件費が38.5パーセント(4,189億円)と高い割合を占めていることから、定員・定数の見直しや業務量に応じた職員の適正配置、業務委託による新規採用の抑制等により、人件費の一層の削減、合理化を図ることが必要となっている。
 ナショナルセンター及び国立ハンセン病療養所を除く国立病院・療養所の定員は、平成9年度に4万6,516人となっている。しかし、これに対する現員が4万6,680人に上り、技能・労務職員(行政職俸給表(二)適用職員)を中心に164人の過員が発生していることから、技能・労務職員の採用抑制及び削減を一層推進することが必要となっている。
 また、厚生省は、「臨時行政調査会の最終答申後における行政改革の具体化方策について」(昭和58年5月24日閣議決定)に基づき、「技能・労務職員の採用抑制について」(昭和59年3月13日付け管第7号厚生省医務局管理課長通知。以下「採用抑制通知」という。)により、国立病院・療養所に対し、昭和59年度以降、技能・労務職員の採用を公務遂行上真に必要な場合を除き行わないものとし、これらの事務・事業は、原則として民間委託で対応するよう指示している。
       
     今回、国立病院・療養所における職員の配置状況及び業務委託の実施状況を調査した結果、以下の状況がみられた。
    ア 職員の配置状況
     
1.  医師、看護婦、薬剤部門職員、放射線部門職員、臨床検査部門職員、調理部門職員、理学療法部門職員等の配置状況を施設別にみると、例えば、内科医師1人1日当たりの患者数(4.2人)が、医師数がおおむね同じ施設のそれ(14.0人)の3分の1にとどまっているなど、職員1人1日当たり業務量(患者数、診療額、調剤数、検査件数、調理食数等)が、他の施設に比較して極めて少ない施設がみられる。
2.  医師、看護婦、薬剤部門職員、放射線部門職員、臨床検査部門職員、調理部門職員、理学療法部門職員等の配置状況と各部門における年度別の業務量の推移とをみると、例えば、臨床検査部門職員1人1日当たりの検査件数は、平成2年度の86.5件から8年度の48.0件へと大幅に減少しているものの、従前と変わらない職員数となっている。このように、患者数や病床数の減少に伴い、業務量が経年的に減少しているにもかかわらず、職員配置の見直しや定員・定数の削減を適切に行っていない施設がみられる。一方、業務量の減少等がみられる部門の職員数を適切に見直している施設もみられる。
    イ 業務委託の実施状況
     
1.  調査した国立病院・療養所(52施設)と公立・民間病院等(47施設)の業務委託の実施状況をみると、主要な委託業務である清掃業務及び洗濯業務について、いずれも公立・民間病院等の委託率が高くなっている。
 なお、業務委託を実施した国立病院・療養所では、職員数の減少による経費節減効果を上げている。
2.  調査した国立病院・療養所(52施設)では、採用抑制通知が出された昭和59年度以降も採用抑制対象職種である洗濯婦、食器消毒手等を採用している施設(平成6年度以降で延べ18施設28人)があり、これらの施設の中には、近隣の民間病院等が既に業務委託を実施している職種について、業務委託の可能性を十分検討しないまま採用しているものがみられる。また、公務遂行上採用を抑制することが困難な特別の事情があるとして地方医務局の承認を得て採用した看護助手を、清掃業務や洗濯業務等他の採用抑制対象職種の業務に従事させている施設もみられる。
       
     したがって、厚生省は、職員配置の適正化と業務委託の推進を図るため、次の措置を講じる必要がある。
    1.  国立病院・療養所における各部門別の業務量を的確に把握し、業務量に応じた職員配置とするとともに、他の施設に比較して業務量が少ない、又は経年的に減少傾向にある施設については、当該部門の定員・定数を削減すること。
    2.  国立病院・療養所に対し、採用抑制対象職種の欠員補充の抑制を徹底し、業務委託を積極的に行わせるとともに、看護助手を他の採用抑制対象職種の業務に従事させないこと。
       
  (2) 病床利用の効率化
     厚生省は、病床管理について、国立病院・療養所に対し、病床管理委員会を設置し病床の利用状況の把握、病床配分等を行うこと、具体的な病床管理については医事部門等において一元的に扱うこと等により病床の効率的な運営を図るよう指示している。
 厚生省は、病床の利用度を評価する指標の一つである病床利用率について、全国経営管理指標において、急性疾患が中心の施設(主として国立病院)では少なくとも85パーセントを、慢性疾患が中心の施設(主として国立療養所)では少なくとも90パーセントをそれぞれ確保することが望ましいとしており、病床種別(一般病床、精神病床、感染症病床、結核病床)ごとの病床利用率が恒常的に80パーセント以下の場合は、病棟運営の見直しが必要であるとしている。
       
     今回、国立病院・療養所52施設(国立病院24施設、国立療養所28施設)における病床の利用状況について調査した結果によると、平成8年度の一般病床の病床利用率は、国立病院が平均88.7パーセント、国立療養所が平均89.3パーセントと、おおむね厚生省が定めた目標値に近い数値となっている。しかし、施設別にみると、13施設(国立病院6施設、国立療養所7施設)は病床利用率が85パーセント未満となっており、このうち、6施設(国立病院2施設、国立療養所4施設)については、平成6年度から8年度までの病床利用率がいずれも80パーセントを下回る低率となっている。
       
     したがって、厚生省は、病床利用率が低い病棟を有する国立病院・療養所に対し、病棟の統廃合等により病床利用の効率化を行わせる必要がある。
       
  (3) 政策医療に係る病棟運営の効率化
     国立病院・療養所は、その円滑な運営と経理の適正を図るため、特別会計を設置し、一般会計と区分して経理している(国立ハンセン病療養所を除く。)。
 国立病院特別会計法(昭和24年法律第190号)において、政府は、看護婦養成の経費に充てるため必要な金額を、予算の定めるところにより、一般会計から繰り入れることができるほか、歳出の財源に充てるため必要があるときは、予算の範囲内において、一般会計から繰り入れることができるとされている。
 平成4年度までは、国立病院・療養所の財政状況は悪化の一途をたどり、一般会計からの繰入額は増加していたが、その後、4年6月の「国立病院・療養所経営改善懇談会報告書」や5年4月の「国立病院・療養所に関する行政監察の結果に基づく勧告」等を受け、厚生省は、1)いわゆる一般医療は診療報酬により賄い、国の医療政策として国立病院・療養所が担うべき医療(政策医療)は、一定の経営努力を前提に一般会計から繰り入れることとするなど経費負担区分の明確化、2)借入金の償還金等を含めた総収入・総支出を基本とした施設ごとの事業計画方式の導入、3)経営管理指標の設定・活用による評価などに取り組み、経営改善を図ってきた。その結果、経常収支率は大幅に向上するとともに、一般会計からの繰入額も、平成4年度には2,406億円(繰入率25.5パーセント)であったものが、9年度では1,802億円(繰入率16.6パーセント)と大幅に減少してきている。
 しかしながら、昨今の厳しい国の財政状況もあり、また、「行政改革プログラム」(平成8年12月25日閣議決定)において、国立病院・療養所については、引き続き経営の合理化・効率化を進め、国立病院・療養所に対する一般会計からの繰入れについても、引き続き政策医療等その対象とすべき経費についての基準に基づいて行うこととし、その縮減を図ることとされている。
       
     今回、国立病院・療養所の人的・物的資源を一層効果的、効率的に活用していくという観点から、その果たすべき役割である政策医療に係る病棟の平成8年度の収支状況を調査した結果、以下の状況がみられた。
    1.  がん病棟の収支状況は、国立病院では11施設中10施設が黒字、国立療養所では5施設すべてが赤字となっており、全16施設の収支率(収入の支出に対する比率)の平均は102.1パーセントとなっている。がん病棟は一般に材料費率(材料費の収益に対する比率)が高い状況がみられるほか、赤字となっている病棟においては、平均在院日数が比較的長く、患者1人1日当たり診療額が低い状況がみられる。これらが結果として収支に影響しているものと考えられる。
    2.  循環器病は、心・血管障害と脳血管障害に大別できる。心・血管障害の病棟については、国立病院8施設中7施設が黒字であり、8施設の収支率の平均は108.7パーセントとなっている。脳血管障害の病棟については、国立病院では4施設中2施設が赤字、国立療養所では6施設すべてが赤字となっており、全10施設の収支率の平均は92.9パーセントとなっている。
 脳血管障害の病棟の経営管理指標と心・血管障害の病棟の経営管理指標とを比較してみると、脳血管障害の病棟の平均在院日数は心・血管障害の病棟の倍以上、同じく患者1人1日当たり診療額は半分以下となっている。また、心・血管障害の病棟に比べ脳血管障害の病棟の材料費率は低いものの、人件費率(人件費の収益に対する比率)は高い状況がみられる。これらは、両疾病の性格の違いによるものと考えられる。また、人件費率は、健全な病院運営を維持するには、慢性疾患中心の施設でも60パーセントまでが許容範囲であるといわれているが、赤字となっている脳血管障害の病棟の大部分では、人件費率が70パーセント以上となっており、これらが結果として収支に影響しているものと考えられる。
    3.  母子医療病棟の収支状況は、国立病院では4施設中3施設が黒字、国立療養所では2施設中1施設が黒字となっており、全6施設の収支率の平均は100.1パーセントとなっている。
 赤字となっている2施設では、人件費率が高い病棟や、患者の多くが小児慢性疾患であり、平均在院日数が長く患者1人1日当たり診療額が低い病棟がみられ、これらが結果として収支に影響しているものと考えられる。
    4.  結核病棟の収支状況は、国立病院では2施設中1施設が赤字、国立療養所では22施設中20施設が赤字となっている。
 結核は、疾病の性格上、治療にある程度の期間が必要であるため、平均在院日数が長く、患者1人1日当たり診療額が低く、これらのことにより人件費率が高いといった状況がみられる。また、一般病棟と区分する必要があることから、病棟集約が進めにくいこともあり、病床利用率が低く、これらが結果として収支に影響しているものと考えられる。特に、病床利用率は、慢性疾患中心の施設では90パーセントを確保することが望ましいとされているが、24施設の平均病床利用率は77.8パーセントであり、中には33.1パーセントの例もみられる。平成8年度においては、我が国の結核患者数の発生件数が減少傾向であったことを考えると、非効率な病棟運営となっていたと判断せざるを得ない。
 なお、結核については、厚生省は平成11年3月に国立病院・療養所の再編成計画の見直しを行い、結核医療を行う施設を原則都道府県ごとに1か所とすることとしている。以上のように、赤字となっている政策医療に係る病棟では、平均在院日数が長いこと、人件費率が高いこと、病床利用率が低いことなどの要因がみられる。これらの要因には政策医療の対象となる疾病の特性に起因するものも多いが、職員や病床の配置の適正化など適切な病棟運営を行うことにより、その改善が可能とみられる病棟もある。
       
     したがって、厚生省は、国立病院・療養所の人的・物的資源を効果的、効率的に活用しつつ、経営改善を一層推進していくため、政策医療に係る病棟について、病床利用の効率化、職員配置の適正化等を推進する必要がある。
       
  (4) 医療機器の整備・利用の効率化
     国立病院・療養所は、毎年度、施設運営の基本方針である事業計画の一部として医療機械整備計画表を作成し、厚生省の承認を得ており、医療機器の整備は、当該計画表に基づき行われている。
 厚生省は、医療機械整備計画表の作成に当たっては、緊急度、老朽度、必要度等を十分精査すること、特に、財政投融資資金による医療機器整備(おおむね購入価格1,000万円以上)については、診療体制、付与されている特殊診療機能、診療実績、機器導入後の経営効果についても考慮することを指示しており、詳細な医療機械整備計画表の作成を求めている。
       
     今回、国立病院・療養所(52施設)における医療機器の整備・利用状況等を調査した結果、以下の状況がみられた。
 購入価格が1,000万円以上の機器で医療機械整備計画表における稼働見込み及び稼働実績が明らかな323機器について、平成8年度の稼働状況をみると、実績が見込みを上回っているものが182機器(56.3パーセント)、実績が見込みを下回っているものが141機器(43.7パーセント)となっている。このうち、29機器(9.0パーセント)については、実績が見込みの70パーセント未満となっている。
 稼働見込みに比べ稼働実績が低調な機器についてその原因をみると、患者数を過大に見積もっていたこと、他の機器を代用しているため利用が少なくなっていることなどがみられる。
       
     したがって、厚生省は、医療機器の整備・利用の効率化を図るため、国立病院・療養所に対し、次の措置を採らせる必要がある。
    1.  医療機器の整備に当たり、的確な需要動向の把握を行うこと。
    2.  稼働実績の低い医療機器については、その原因を分析した上、稼働実績が上がる見込みがない場合は、他の施設への管理換えを行うなど有効利用を図ること。
       
3 会計・契約事務の適正化
  ア 診療報酬請求事務の適正化
     厚生省は、国立病院・療養所に対し、診療報酬請求事務の適正化を図るため、請求時の診療報酬明細書の点検、担当医による事前審査の厳正実施、診療内容に対する査定減の再発防止の徹底等を指示している。
       
     今回、国立病院・療養所(52施設)における診療報酬請求事務の実施状況を調査した結果、以下の状況がみられた。
 厚生省は、全国経営管理指標において、査定率(保険診療減額査定額の実保険診療額に対する比率)の目標値を0.4パーセント以下としている。調査した施設における平成8年度の査定率をみると、52施設の平均は0.37パーセントと目標を達成しているが、21施設(40.4パーセント)は目標に達していない。このうち12施設では0.6パーセント以上の高率となっており、これらの施設の中には、原因分析等の査定減対策が十分でない施設がみられる。一方、レセプト査定減対策委員会を設置し、査定減等の原因分析を行ったことにより査定率を低下させている施設もみられる。
       
  イ 収納未済金の適正な管理・回収
     厚生省は、国立病院・療養所に対し、収納未済金の発生防止についての十分な検討を、また、発生した収納未済金については、債権管理簿や督促整理簿の整備による適正な管理、督促による早期収納、時効中断措置の適切な実施等を指示している。
       
     今回、国立病院・療養所(52施設)における収納未済金の管理状況、収納状況等を調査した結果、以下の状況がみられた。
 調査した施設における平成8年度末現在の収納未済累積額の合計は、約10億8,000万円(1施設当たり約2,000万円)となっている。
 収納未済累積額が52施設の平均額よりも多い施設について、収納未済金の管理状況、督促状況をみると、督促整理簿が未整備な例、督促が不十分なために収納未済金の回収が遅れている例、債権の時効中断措置が適切に行われていない例がみられる。
       
  ウ 契約事務の適正化
     会計法(昭和22年法律第35号)では、国の契約方式の原則は一般競争契約であり、契約の性質又は目的から一般競争契約により難い場合は、指名競争契約又は随意契約によることができるとされている。また、契約の予定価格が予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)に定める一定額を超えない場合に、指名競争契約又は随意契約を行うことができることとされている。
 厚生省は、国立病院・療養所に対し、契約事務の適正化を図るため、i )会計法令等を遵守し、競争契約方式の活用を積極的に図ること、ii )随意契約については、その理由を明確に整理し、一層厳正な事務の執行に努めること、iii)予定価格の決定に当たっては、過去の納入実績、近隣施設の購入状況、物価資料等の情報収集を行い、経済情勢を十分踏まえた適正な価格とすること、iv)一定の工事規模以上の契約については厚生省本省又は地方医務局に入札方法等の事前協議を行うこと等を指示している。
       
     今回、国立病院・療養所(52施設)における契約事務の実施状況等を調査した結果、以下の状況がみられた。
    1.  調査した施設における平成8年度の契約のうち、予定価格が競争契約とすべき金額以上の契約は、契約件数2,862件、契約金額約348億円となっているが、このうち、契約件数で43.0パーセント、契約金額で42.7パーセントが随意契約となっている。また、予定価格が一般競争契約とすべき金額以上の契約のうち契約件数で90.1パーセント、契約金額で79.6パーセントが指名競争契約又は随意契約となっている。
 一般競争契約とすべき契約を指名競争契約又は随意契約としているもの、指名競争契約とすべき契約を随意契約としているものについてその理由をみると、工事や納入の実績がある業者であることなど業者の信頼性を理由とするものが多くみられるが、その中には、必ずしも工事実績を理由に業者を特定する必要がないなど一般競争契約の余地があるものがみられる。また、指名競争契約において、不正確な名簿に基づいて業者を選定しており、業者の選定が適切に行われていない例がみられる。
    2.  予定価格の算定状況をみると、近隣施設の契約状況の把握や物価資料等の情報収集が不十分で、i )指名業者の見積額を予定価格の積算の単価の一部としている例、ii )前年の予定価格をそのまま予定価格としている例などがみられる。
       
   したがって、厚生省は、国立病院・療養所における会計・契約事務の適正化を図るため、次の措置について、厚生省本省及び地方医務局による監査指導、契約の事前協議等を通じて、国立病院・療養所に徹底させる必要がある。
  1.  診療報酬請求の査定減の原因分析を行い、査定減の発生防止に努めること。
  2.  収納未済金は、督促整理簿の整備など管理を徹底するとともに、計画的な督促の励行を図ること。
  3.  指名競争契約及び随意契約を行う場合は、その理由及び業者選定理由を十分に精査して合理的なものに限定することにより競争契約の拡大を図ること。
 また、予定価格の算定に当たっては、近隣施設の契約状況の把握、物価資料等の情報収集を行うこと。
       
4 経営・監査指導等の実効の確保
   厚生省本省及び地方医務局は、「国立病院、国立療養所等経営・監査指導及び特別調査指導規程」(平成4年7月1日厚生省保健医療局国立病院部長決定)に基づき、国立病院・療養所に対して、経営管理に関する指導を中心とする経営指導、会計経理の適正化の指導を中心とする監査指導及び業務運営の改善を重点的に指導する特別調査指導を実施しており、これらの指導の結果、必要があると認めた場合には、文書による通知や改善計画書の提出指示を行うこととしている。
       
   また、厚生省本省は、前述の指導規程に基づき、毎年度、経営指導及び監査指導の対象となる国立病院・療養所の選定基準、重点指導事項等を定めた実施方針を策定するとともに、これを各地方医務局に示達しており、各地方医務局では、この実施方針を勘案し、管内の指導対象施設を選定している。
 厚生省本省及び地方医務局は、経営指導、監査指導及び特別調査指導を合わせて、平成7年度に86施設、8年度に90施設と、毎年度約4割の施設に対し指導を実施している。
       
   今回、厚生省本省及び地方医務局における経営指導、監査指導及び特別調査指導の実施状況を調査した結果、以下の状況がみられた。
  1.  調査した52施設において、平成6年度から8年度にかけて、厚生省本省及び地方医務局の経営指導、監査指導及び特別調査指導により改善を指示された事項(指摘事項)は1,078事項であるが、このうち当庁の調査時において未改善となっているものが76事項(7.1パーセント)となっている。その中には、病床管理規程の未作成、契約方式の未改善など施設の取組姿勢が消極的なものがみられる。
  2.  厚生省本省及び地方医務局における指摘事項をみると、i )文書で指摘した事項について、その内容の解釈にそごが生じ、施設が指摘事項の趣旨を理解していないこと、ii )口頭で指摘した事項について、施設がその内容を十分記録しておらず、地方医務局も改善状況の確認措置を採っていないことから、改善が不十分なものがみられる。
       
   したがって、厚生省は、国立病院・療養所に対する経営指導、監査指導及び特別調査指導の実効を確保するため、施設が指導による指摘事項を的確に把握し、速やかに改善措置を講じるよう施設からの改善計画、改善状況報告の徴収を徹底するなど、指導実施後の措置を的確に行うとともに、地方医務局に対し同様の措置を講じさせる必要がある。