高齢者雇用対策に関する行政評価・監視結果(要旨)


勧告日 平成14年3月8日
勧告先 厚生労働省
実施時期 平成12年8月〜14年3月


 
 [行政評価・監視の背景事情等]
   近年、我が国では、急速に高齢化が進行し、平成22年には、労働力人口(6,735万人)の約5人に1人が60歳以上の高齢者で占められると予想。また、厚生年金は、最終的には65歳(平成13年度61歳(老齢基礎年金))からの支給が決定
   このような状況の下、65歳まで働けるような雇用環境を早急に整備していくことが重要な課題
   このため、国は、高齢者雇用対策として、事業主に対して65歳までの定年の引上げ等の努力義務を課し、助成金を支給。公共職業安定所等は、その導入促進を実施
   また、公共職業安定所、雇用・能力開発機構等は、個々の高齢者の雇用を確保するため、高齢の求職者への職業相談・職業紹介や職業能力を開発する訓練等を実施
  調査対象機関:   厚生労働省、都道府県労働局(23)、公共職業安定所(24)、雇用・能力開発機構、関係団体等
  担当部局    :   行政評価局、管区行政評価局(7) 、四国行政評価支局、行政評価事務所(15)

 [調査結果]
  高齢者の雇用確保措置の促進
  (1)  定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善に係る公共職業安定所等における業務の適切な実施
    高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)では、65歳未満の定年(60歳未満定年を定めることは不可)を定めている事業主に対し、定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善等65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置を講ずるよう努力義務を課している。
  同法においては、都道府県労働局、公共職業安定所(以下「安定所」という。)及び高年齢者等雇用安定センター(以下「都道府県協会」という。)は、事業主に対し、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の促進に係る助言・指導を行うものとされており、また、高年齢者等職業安定対策基本方針(平成12年労働省告示第100号)では、その充実と積極的な取組が求められている。
     平成13年1月現在、希望者全員について65歳までの雇用を確保している企業の割合は、28%にとどまっている(厚生労働省の「雇用管理調査」(従業員30人以上規模の企業を抽出して調査)結果)。
     この一因として、定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る合理性・メリットや各種問題・懸念が解消可能であることが、事業主に十分理解されていないことが挙げられる。
     厚生労働省は、労働局に対し、安定所が行う定年の引上げ、継続雇用制度の導入等に係る指導・助言のための企業訪問に際しての高年齢者雇用アドバイザー(都道府県協会が社会保険労務士等を委嘱)を同行させるための年間利用計画を作成するよう指導。しかし、平成11年度において、23労働局のうち5労働局は計画を未作成。また、24安定所のうち3安定所は、同アドバイザーを管理している都道府県協会との連携を図っていないため、同アドバイザーの同行実績がなく、訪問企業(101社)において、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等を行った例は、皆無
 
《勧告要旨》
1.  希望者全員について65歳までの雇用を確保していない企業に対し、定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る合理性ないしメリットの浸透、各種問題・懸念の解消に重点をおいた啓発・広報活動を推進すること。
2.   都道府県労働局において、都道府県協会と協議した上での年間利用計画の作成の励行、安定所職員の企業訪問に際してのアドバイザーの同行等について徹底すること。

  (2)  各種助成金等の効果的支給
   各種助成金等の支給状況等
 高齢者の雇用の安定を図るための国の助成金等(13種類)は、平成12年度決算総額では2,183億
 
<事業主に対して支給されている助成金等の例>
  継続雇用制度奨励金 定年の引上げ、継続雇用制度の導入及び定着の促進
  多数継続雇用助成金 高齢者の多数雇用の促進
  特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分) 就職が特に困難な者の雇用機会の増大
  高齢者雇用に係る各種助成金等については、毎年度不用額が生じており(平成12年度は9助成金で133億円)、中には支給実績が無いものあり(在職求職高年齢者等受入給付金(予算額27億円)等)
  雇用保険財政が厳しい中で、継続雇用制度奨励金の支給額は年々増加し、財政圧迫の要因となることが懸念。また、同奨励金の1事業主当たりの支給額(単年度当たり最高300万円)の水準が、定年の引上げ、継続雇用制度導入のインセンティブとして適切であるか否かについて検討の余地あり
  特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)は、対象労働者を支給対象期間(雇入れ後1年間)経過後も引き続き相当期間雇用することが確実であると認められる事業主に支給されるものであり、その趣旨は、対象労働者の雇用を相当期間確保することにあるが、1年以内の離職が2割
    助成金等の支給申請手続の改善
 
  厚生労働省は、特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の申請書を提出する事業主に対して、出勤簿、賃金台帳及び労働者名簿の3種類の書類並びに管轄安定所の長が必要と認める書類等の添付を求めている。
  調査した18安定所が、特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の第1期申請(年2回の支給における最初の支給申請)に際して、管轄安定所の長が必要と認め、当初から添付させている書類は、15種類
  これら添付書類のうち、「雇用契約書」、「特定求職者の雇用に関する証明」等8種類は、審査に際して、他の添付書類では事実確認ができない場合にのみ添付を求めることで足り、当初から一律に添付させる必要性無し(12所)
  また、「雇用保険被保険者資格取得確認通知書及び標準報酬決定通知書」、「安定所からの特定求職者雇用開発助成金に係る通知文書」等3種類の情報は、安定所におけるコンピュータシステムに入力されており、これを活用することで添付不要(14所)
 
《勧告要旨》
1.  各種助成金等の効果的な活用を図る観点から、不用額の発生要因や支給の実態について分析・評価し、予算規模、支給要件、支給額の見直し等助成金の在り方を検討すること。
2.   特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の申請書添付書類の簡素化を図ること。

  高齢者の再就職の促進及び就業機会の確保
  (1)    公共職業安定所における求人開拓業務の適正な実施
   厚生労働省は、一般職業紹介業務取扱要領(平成6年7月1日付け職業安定局長通知)により、安定所に対し次の事項を指示
1.   求職者のニーズを十分把握し、その内容を分析する等して求人開拓計画を作成すること
2.   求職と結合しないまま求人の有効期間が満了に至った等の「未充足求人」については、充足に至らなかった原因について十分に検討を加え、事業主に対して充足のための相談・援助を行うこと
    調査した24安定所のうち4安定所は、求人開拓計画を未作成で、開拓実績も低調
  過去に安定所を経由した求人実績が多く、最近においても求人ニーズがあると思われる事業所を優先的に訪問する等、求人開拓方法に工夫を凝らしているのは1安定所(相当な開拓成果あり)
  未充足求人の原因の分析・検討を行っているのは24安定所のうち10安定所
 
《勧告要旨》
  安定所において、求職者のニーズや開拓した求人に係る分析、その結果を踏まえた適切な求人開拓計画の作成及び未充足求人の原因の分析・検討など一般職業紹介業務取扱要領で定める業務について、その確実な実施を指導徹底すること。

  (2)   シルバー人材センターにおける就業機会の公平の確保
    厚生労働省は、都道府県に対し、「シルバー人材センターは、仕事を、会員の能力と希望に応じて公平に提供するよう配慮する」(昭和55年4月26日付け職業安定局長通知)、及び「特定の会員を特定の業務に長期間、継続して就業させることなく、できるだけ多くの会員が、就業の機会が得られるようローテーションを組むなど十分な考慮が払われることが必要」(昭和56年9月1日付け失業対策部企画課長通知)と指導
    シルバー人材センターによる仕事の提供において、同一の会員が同一の仕事に長期間就業しているため、同センターに登録している者が就業できなかった例等あり
 
《勧告要旨》
  シルバー人材センターの会員が雇用関係を有しない就業を通して自己の労働能力を活用するという本来の趣旨に沿って、会員の能力と希望に応じて公平な就業が実現するよう都道府県に対し助言・指導すること。

  高齢者の職業能力開発の効果的実施
    国(雇用・能力開発機構)は、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)に基づき、職業能力開発校等を設置等して、労働者に対する職業訓練を実施
  その一つとして、55歳以上の離転職者等を対象者として含む就職支援コースを設定。同コースは、事業主団体等への委託により行われており、訓練生の募集や委託に係る業務は、雇用・能力開発機構の地方機関である都道府県センター(以下「機構センター」という。)が実施
  就職支援コースにおける訓練科には、機構センターが訓練委託先を開拓した上で訓練希望者を募って開設する、いわゆる常設科と機構センターが独自に訓練希望者の希望職種を確認した上で訓練委託先を開拓し開設する、いわゆる随時科の2つの形態がある。
     常設科について、その訓練修了者の就職状況をみると、調査した17機構センターが平成11年度に開設した74訓練科のうち、就職者が皆無となっているものが13訓練科(17.6%)あり、また、そのうち5訓練科は、12年度も引き続き開設したが、4訓練科の就職率は低調
   一方、厚生労働省は、常設科に関して、改廃等見直しを行う際の指針を未作成
   平成11年度における訓練修了者の就職率は、常設科(74訓練科)では、41.4%(修了者570人中就職者236人)であるのに対し、随時科(95訓練科)では、66.9%(修了者178人中就職者119人)と高い。一方、機構センターの中には、随時科を全く開設していないものあり(6センター)
 
《勧告要旨》
1.  就職支援コースの常設科について、就職に結び付く訓練科の設定を確保するための改廃等の見直しを行う際の指針を作成した上、雇用・能力開発機構に対し、これに基づいて訓練科の見直しを行うよう指導すること。
2.   雇用・能力開発機構に対し、就職支援コースの実施に当たっては、随時科の開設に積極的に取り組むよう指導すること。

  その他の勧告事項
     高年齢者雇用アドバイザーによる企画立案サービス等の適切な実施
   高齢期雇用就業支援センター等の運営の見直し
   シルバー人材センターにおける就業機会の開拓事業及びシニアワークプログラムの見直し