[総合評価]
 国の鉄道政策と日本鉄道建設公団の位置付け
   鉄道事業は、一時に多額の建設資金の投入を必要とし、その工期も長期にわたることから、国は、鉄道交通網の整備の推進のため、財政投融資資金等を活用し、新幹線を始めとする幹線鉄道や大都市圏における都市鉄道等の整備を推進している。日本鉄道建設公団(以下「鉄道公団」という。)は、このような政策の下、鉄道施設の「建設・貸付け・譲渡事業」を行う法人と位置付けられている。
 鉄道公団は、新幹線整備計画に基づき整備新幹線の建設を行うほか、整備新幹線以外の鉄道について、運輸大臣が鉄道事業者等からの申出を受けて定める工事実施計画に基づき鉄道施設等の建設を行っている。これらは、いずれも運輸大臣からの指示に基づいて実施することとされており、鉄道施設等の完成後は、運輸大臣の認可を受けて、貸付け又は譲渡を行うこととされている。
 鉄道公団の事業の資金は、公団債(平成8年度末現在の発行残高は約2兆円)を発行することなどにより調達されるが、調達資金のうち財政投融資資金の投入量は約30パーセントとなっている。また、鉄道建設に必要な多額かつ長期間の資金供給をするため、平成8年度末現在、国から756億円に及ぶ出資金が投入されているほか、国及び地方公共団体から建設事業の補助のために4,383億円に達する補助金が投入されている。
     
 建設・貸付け・譲渡事業
  (1)  償還のシステム
     事業に要した資金は、鉄道施設等の完成後、鉄道事業者等へ貸付けあるいは譲渡することによって回収されることとなる。貸付料及び譲渡価額は、政令で定める基準に基づき決定(運輸大臣の認可)されるが、基本的には建設投下資金及び回収期間中の費用(借換資金に係る利息等)などの全投下資金を完全回収する仕組みとなっており、償還は順調になされている。
  (2)  整備新幹線
     整備新幹線(5線が整備予定)は、平成9年度末現在、北陸新幹線の高崎・長野間(いわゆる「長野新幹線」。以下「N線」という。)が完成し、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に貸し付けられているほか、3線7区間が建設中となっている。
 整備新幹線の建設に係る財源は、平成9年度から、関係JR各社からの貸付料収入等を除いた残りの建設費について、国が3分の2、地方公共団体が3分の1を負担する公的資金投入型のスキームとなっている。
 整備新幹線の完成後の貸付料は、政令に基づき運輸大臣が定める方法により算定した額等を基準とすることとされ、営業主体である関係JR各社が新幹線営業から受ける利益(整備した場合の利益から未整備の場合の利益を差し引いたもの)を30年間にわたり鉄道公団が受け取ることとされている。このように、貸付料は、そもそも建設投下額とは連動せず、投下資金を貸付料から回収するスキームとはなっていない。
 N線は、平成10年2月の冬季オリンピック開催時期に間に合わせるべく、例外として有利子負債2,775億円(総事業費8,424億円(工事実施計画認可額))が投入された。一方、JR東日本への貸付料は、上記算定方法により決められた175億円(年間)であるが、元々有利子負債の償還を前提として算出されるものではないため、この貸付料の水準は有利子負債の借入期間内の償還に連動していない。
 そこで、現在、N線については貸付料収入額が確定していることから、仮にN線の貸付料のみで現状の有利子負債を償還した場合を試算すると、借換資金の金利を3パーセントと仮定した場合には貸付期間内の償還は可能であるが、金利を5パーセントと仮定すると負債が残ることとなる。
 しかしながら、この有利子負債の償還には、整備新幹線全体の貸付料収入を充てることとされており、他線の貸付料収入が見込まれることから償還は可能であるが、今後、他線に例外措置(有利子負債による資金調達)が波及することがあれば、その規模や金利の動向によっては、貸付料による確実な償還に影響を及ぼすおそれがある。
  (3)  青函トンネル貸付事業(津軽海峡線)
     青函トンネルは昭和63年に完成し、現在は、北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)に貸し付けられている。青函トンネルの貸付けについては、JR北海道に負担能力がないとの日本国有鉄道再建監理委員会意見(昭和60年7月)の趣旨を踏まえ、政府出資金に見合う資産の減価償却費相当分(395億円)については回収しないことを前提に、政令においてその貸付料が定められている。
 この結果、鉄道公団の財務においては、会計処理上、毎年度当該減価償却費に相当する損失が計上されることとなり(平成8年度末までの累積損失額は75億円)、青函トンネルの減価償却満了時(平成59年度)までこの状態が続くこととなる。