政策評価制度の在り方に関する最終報告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成12年(2000年)12月

政策評価の手法等に関する研究会

 

 

 はじめに 

 

 政策評価は、今次中央省庁等改革の重要な柱の一つとして位置付けられており、平成13年1月からの導入を目前に控え、政府を挙げて検討・準備が進められている。
 「政策評価の手法等に関する研究会」は、総務庁行政監察局の研究会として、平成11年8月に初会合を開催して以来、その検討・準備を促進すべく、研究協力者や有識者による発表を行い、国内における評価をめぐる状況や諸外国の関係制度も参考としつつ、政策評価に関する基本的な考え方の整理や、政策評価の手法等の研究などを幅広く行ってきた。
 この間、本年2月には、「政策評価の導入に向けた意見・論点の中間整理」として、それまでの検討の中で出された意見やさらに検討を深めるべき論点を中間的に整理した。また、これらの論点について検討を深めた結果を「政策評価の導入に向けた中間まとめ」として、6月に公表した。
 政府においては、この中間まとめ内容を基本として、各府省における政策評価の実施の指針となる「政策評価に関する標準的ガイドラインの案」(平成12年7月31日各省庁政策評価準備連絡会議了承)を策定・公表した。同案は、9月から約1か月間行われた国民からの意見の募集を経て、来年1月に決定される予定である。各府省は、このガイドラインを踏まえ、政策評価に関する実施要領を速やかに策定することとされており、これにより、全政府的に政策評価を導入・実施する政策が整うことになる。
 一方、政策評価制度の法制化については、本来9月、総務庁長官の下に「政策評価制度の法制化に関する研究会」が発足し、ガイドラインの案を前提しつつ、検討を行っている。また、「行政改革大綱」(平成12年12月1日閣議決定)においては、同研究会における検討を踏まえながら、できる限り早期に成案を得て、所要の法律案を次期通常国会に提出することが盛り込まれたところであり、法律案の策定作業が鋭意進められている。
 本研究会における検討の成果は、以上のような政策評価の導入をめぐる経緯の中で、その議論を牽引してきたものと考えている。
 今般公表する「政策評価制度の在り方に関する最終報告」は、政策評価の基本的な在り方、並びに政策評価の標準的な方式の導入及び実施の在り方について明らかにしたものである。すなわち、具体的な事例研究の成果を採り入れるとともに政策評価の定着・発展に向けた課題の提示を行うなど、中間まとめの内容についてさらに検討を深めたものであり、研究会が1年5か月にわたり21回の会合を重ねて行ってきた議論の集大成である。
 この最終報告が、来年1月から導入・実施される政策評価制度の適正かつ厳格な運営の礎となり、行政の説明責任の徹底、効率的で質の高い行政の実現、成果重視の行政への転換という政策評価制度が目指した目的が実現されることを強く期待する。

 

 

―目 次―

I 政策評価の基本的な在り方

政策評価の導入の背景
         
政策評価導入の目的
  (1) 国民に対する行政の説明責任(アカウンタビリティ)の徹底
  (2) 国民本位の効率的で質の高い行政の実現
  (3) 国民的視点に立った成果重視の行政への転換
         
政策評価の基本的な枠組み
  (1) 政策評価の概念
  (2) 政策評価の対象範囲
  (3) 政策評価の実施主体
    各府省
      (ア) 各府省が自ら評価を行うことの意義
      (イ) 府省内部における評価の在り方
      (ウ) 第三者等の活用
    総務省
      (ア) 総務省による評価の意義
      (イ) 評価に関する企画立案及び的確な運用の確保
      (ウ) 政策評価・独立行政法人評価委員会の役割
  (4) 政策評価の時点
    基本的な考え方
    各時点における評価の意義
  (5) 政策評価の観点等
    基本的な考え方
      (ア) 評価の観点
      (イ) 評価基準
    各観点及び一般基準の内容
      (ア) 「必要性」
      (イ) 「効率性」
      (ウ) 「有効性」
      (エ) 「公平性」
      (オ) 「優先性」
         
政策評価の結果の反映
         
政策評価の結果等の公表
  (1) 公表の意義
  (2) 公表の在り方
    公表の考え方
    公表の具体的内容
    公表の方法
    公表後の対応
         
政策評価の方式
  (1) 評価方式の考え方
  (2) 標準的な評価方式
         
政策評価における評価手法
  (1) 評価手法に関する考え方
  (2) 評価手法の選択に当たっての留意点
  (3) 評価手法の調査研究
         
政策評価制度の定着・発展に向けた課題


II 政策評価の標準的な方式の導入及び実施の在り方

事業評価の導入及び実施の在り方
  (1) 導入の意義
  (2) 評価の対象
  (3) 評価の時点・内容
    事前の時点における評価の内容
    途中や事後の時点における検証の内容
  (4) 評価の実施にあたっての留意点
  (5) 各行政分野等における評価の導入及び実施の在り方
    公共事業
      (ア) 公共事業の評価の現状
      (イ) 公共事業の評価に対する考え方
    研究開発事業
      (ア) 研究開発事業の評価の現状
      (イ) 研究開発事業の評価に対する考え方
    ODA(政府開発援助)事業
      (ア) ODA事業の評価の現状
      (イ) ODA事業の評価に対する考え方
    規制
      (ア) 規制の評価の必要性
      (イ) 諸外国における規制の評価の現状
      (ウ) 我が国における規制の評価をめぐる状況
      (エ) 規制の評価に対する考え方
    その他の行政分野等
         
実績評価の導入及び実施の在り方
  (1) 導入の意義
  (2) 評価の対象
  (3) 目標及び指標についての考え方
    目標及び指標の概念
      (ア) 目標と指標の関係
      (イ) 基本目標
      (ウ) 達成目標
    基本目標及び達成目標の設定の具体的な考え方
  (4) 達成目標の実績測定及び基本目標の実績評価の考え方
  (5) 評価の実施手順
  (6) 導入スケジュールの考え方
  (7) 評価の実施に当たっての留意点
         
総合評価の導入及び実施の在り方
  (1) 導入の意義
  (2) 評価の対象
  (3) 評価の時点
  (4) 評価の内容
  (5) 評価テーマの設定
  (6) 評価の実施の流れ
  (7) 評価の実施にあたっての留意点
  (8) 総務省が実施する総合評価

 

I 政策評価の基本的な在り方

 1 政策評価の導入の背景
   我が国の行政においては、従来、企画偏重と言われるように、法律の制定や予算の確保などに重点がおかれ、政策の効果やその後の社会経済情勢の変化に基づき、政策を積極的に見直すという活動は軽視されがちであった。このため、政策の実施によりどのような効果が上がったかという情報が、十分に把握されていたとは言えなかった。また、しばしば行政の非効率に対する批判を招き、政策の実施効果に対する疑問も表明されてきた。
 また、所掌する政策について、特に、なぜそのような政策が必要か、それがどのような効果を生み出し、どれだけの負担を必要とするか、ということの説明も不十分であったという指摘もある。
  さらに、厳しい財政事情の下で、行政が利用する資源とその効果に対する国民の関心も高まってきている。そして、政策については、より少ない資源でより多くの効果を上げるようなものが求められている。
 以上のような状況の下で、政策は適時的確にその効果が把握され、不断の見直しや改善が行われていくことが求められる。このため、政策の効果に関し、事前、事後に、厳正かつ客観的な評価を行い、それを企画立案やそれに基づく実施に反映させることにより、効率的で、かつ、成果重視の政策運営を実現することが必要になっている。また、国民に対して政策の効果や問題点などを具体的に明らかにすることにより、政策の在り方についての国民的議論を喚起することが期待される。
 世界の主要諸国においても、このような観点から、膨大な行政活動に対する評価の重要性が認識され、様々な取組が行われてきている。
 このため、平成13年1月の中央省庁等の改革に伴い、政策評価制度が全政府的に導入されることとなり、その的確な実施が要請されているところである。
 この政策評価制度において、各府省は、その所掌する政策について自ら評価を行うことが基本とされており、その所掌する政策のうち、(1)新規に開始しようとするもの、(2)一定期間を経過して事業等が未着手又は未了のもの、(3)新規に開始した制度等で一定期間を経過したもの、(4)社会的状況の急激な変化等により見直しが必要とされるものなどについて評価を行うこととされている。また、総務省は、各府省の政策について、統一的若しくは総合的な評価又は政策評価の客観的かつ厳格な実施を担保するための評価を行うこととされている。

 

 2 政策評価導入の目的
   今般政策評価を導入する目的は、「国民に対する行政の説明責任(アカウンタビリティ)の徹底」、「国民本位の効率的で質の高い行政の実現」及び「国民的視点に立った成果重視の行政への転換」という三つの柱に集約することができる。
 それぞれの目的ごとにその具体的な内容を記述すると、次のとおりである。
 (1) 国民に対する行政の説明責任(アカウンタビリティ)の徹底
 
 政策評価を導入し、国民に対する行政の説明責任を徹底することによって、行政と国民との間に見られる行政活動に関する情報の偏在(いわゆる「情報の非対称性」)が改善されるとともに、行政の透明性が確保されることとなる。また、このような状況が実現されることによって、行政に対する国民の信頼性の向上が図られる。
 
 行政機関が自ら政策評価を行い、その結果等を公表することにより、政策運営の状況が国民の目にさらされることになり、効率化の誘因(インセンティブ)が働くようになる。
 
 政策評価の過程を通じ、政策の内容、実施状況、改善の必要性の有無などを明らかにすることによって、政策の在り方について国民的な議論が幅広く喚起されるとともに、国民の政策への理解や共通認識が深まる。
 
 国民に対する行政の説明責任については、法令や手続を遵守しているかという手続的な側面についての説明責任に加え、一定の資源の中で効果的・効率的に成果を上げているかという結果についての説明責任を果たすことも重要となってきており、政策評価を通じてその実現が図られる。
 (2) 国民本位の効率的で質の高い行政の実現
 
 政策評価を通じ、民間でできるものは民間に委ね、政府の行政活動の範囲について行政が関与する必要性がある分野に重点化・適正化が図られる。また、いわば「行政サービスの利用者」としての国民が求める質の高い行政サービスを必要最小限の費用で提供する効果的・効率的な政策運営が実現される。
 
 政策評価の継続的な実施を通じて得られる知識・経験を行政組織が学習・蓄積していくことにより、行政の政策形成能力が向上し、社会経済情勢の変化に的確に対処し得るようになる。
 
 政策評価の導入は、これまでの企画立案への偏重を是正するものであり、政策評価の結果を企画立案やそれに基づく実施に適時的確に反映させる仕組みを確立することにより、政策の質の向上が図られる。
 (3) 国民的視点に立った成果重視の行政への転換
 
 政策の実施のためにどれだけの資源を投入したか(インプット)、あるいは、政策の実施によりどれだけのサービス等を提供したか(アウトプット)ということだけでなく、サービス等を提供した結果として国民に対して実際どのような成果がもたらされたか(アウトカム)ということの重視によって、政策の有効性が高まる。
 
 政策評価を通じて職員の意識改革が進み、手続の遵守を重視する行政運営から、国民的視点に立って成果を上げることを一層重視する行政運営に重点が移ることによって、国民にとって満足度の高い行政が実現される。

 


 3 政策評価の基本的な枠組み
  (1) 政策評価の概念
 
 一般に、「政策評価」という言葉は様々な内容で用いられており、必ずしもその概念が一義的に確定されているものではない。また、「政策」や「評価」という言葉も極めて多義的に使われている。ここでは、今般導入される「政策評価」の概念について検討する。
  (「政策評価」の概念)
   まず、今般導入される政策評価制度は、国の行政機関における仕組みであり、国家行政組織法(昭和23年法律第120号)、内閣府設置法(平成11年法律第89号)及び総務省設置法(平成11年法律第91号)に関連する規定が置かれている。また、「中央省庁等改革の推進に関する方針」(平成11年4月27日中央省庁等改革推進本部決定)において、国の行政機関が行う政策評価制度の基本的な方針が示されている。
 次に、政策評価における「政策」とは、(1)国の行政課題に対応するための特定の目的や目標を持ち、(2)これらを実現するための手段として、予算、人員、権限等の行政資源が組み合わされた行政活動が目的に照らしてある程度のまとまりになっており、(3)行政活動の実施を通じて、一定の効果を国民生活や社会経済に及ぼすものとしてとらえることができる。なお、行政活動には、活動の案であるものも含まれる。
 「2 政策評価導入の目的」で示した政策評価導入の目的を踏まえると、このような「政策」を「評価する」には、(1)政策の効果に関する情報・データを収集し、合理的な手法を用いて測定又は分析すること、(2)測定又は分析された結果について、政策の目的や目標などの一定の尺度に照らして検討し、客観的な判断を行うこと、(3)政策の企画立案やそれに基づく実施を的確に行うことに資する情報を提供すること、また、その情報を国民に対しても公表するといったことが必要になる。
 以上の趣旨から、今般導入される「政策評価」とは、「国の行政機関が主体となり、政策の効果に関し、測定又は分析し、一定の尺度に照らして客観的な判断を行うことにより、政策の企画立案やそれに基づく実施を的確に行うことに資する情報を提供すること。」と考えられる。
 このような「政策評価」については、提供した情報を的確に企画立案やそれに基づく実施に反映させ、政策の質の向上につなげていくことが求められている。このため、政策評価は、「企画立案(plan)」、「実施(do)」、「評価(see)」を主要な要素とする政策の大きなマネジメント・サイクルの中にあって制度化されたシステムとして組み込まれ、実施される必要がある。
 また、「政策評価」を上記のようにとらえると、政策評価自体は、政策の決定そのものとは異なるものであり、評価結果を政策立案部門の企画立案作業に提供し、反映させることによって政策の決定につなげていくものであるということができる。このようなことから、政治的判断に基づくような政策であっても、事前にその判断を行うことに資する情報や、事後にその効果が上がっているかどうかの評価情報などを政策決定権者に提供するための評価を行うことは、政策評価の機能ととらえることができる。
  (「政策評価」と「行政評価等」との関係)
   総務省設置法においては、政策評価を含めた各行政機関の業務の実施状況の評価及び監視を表す用語として、「行政評価等」が用いられている。これは、「政策評価」と「政策評価を除く行政評価・監視」の両者を併せた概念である。「政策評価を除く行政評価・監視」機能は、各行政機関の業務の実施状況について、主として合規性、適正性、効率性(能率性)等の観点から総務省が独自に評価・監視し、業務運営の改善を図るものとされている。
 (2) 政策評価の対象範囲
  (政策評価の対象のとらえ方)
   政策評価は、政策を対象とするものであるが、この政策の範囲については、一般に、「政策」、「施策」及び「事務事業」と言われる区分に着目すると理解しやすい。このような三つの区分について整理すると、以下のとおりである。
 
(1)
 「政策」は、特定の行政課題に対応するための行政活動の基本的な方針を示すものであり、この基本的な方針の実現という共通の目的を持った行政活動の大きなまとまりととらえることもできる。
 
(2)
 「施策」は、上記の「基本的な方針」を実現するための具体的な方針であり、この具体的な方針の実現という共通の目的を持った行政活動のまとまりととらえることもできる。
 
(3)
 「事務事業」は、上記の「具体的な方針」を具現化するための個々の行政手段としての事務又は事業である。このような事務や事業は、行政活動の基礎的な単位となるものである。
 これらの「政策」、「施策」及び「事務事業」は、一般に、相互に目的と手段の関係を保ちながら、全体として一つの体系を形成しているものととらえることができる。
 しかしながら、このような区分は相対的な性格を有するものである。また、現実の政策の態様は多様であり、施策が複数の階層から成る場合や事務事業に相当するものが存在しない場合、一つの施策や事務事業が複数の政策体系に属する場合など、必ずしも三つの区分に明確に分かれない場合もある。したがって、このような区分による政策のとらえ方は、政策評価の対象を理解するための一つの「理念型」ということができる。
 さらに、政策は社会経済情勢の変化などに応じて変動し得るものであり、その区分について固定的にとらえるべきものではないと考えられる。
  (評価対象の位置付けの明確化)
   政策が全体として目的と手段の関係による体系を形成していることを考えると、評価の対象となる政策がどのような目的の下に、どのような手段を用いて実施されるかを常に念頭に置くことにより、評価対象の位置付けが明らかになり、的確な評価を行うことが可能となる。このため、政策評価を実施する際には、評価対象に関する目的と手段の関係を明らかにする必要がある。
 なお、政策の中で特にどの部分を具体的な評価対象としてとらえるかは、いかなる情報を得るために、どのような内容の評価を行うのかによって異なってくるものと考えられる。
 (3) 政策評価の実施主体
   今般導入される政策評価制度においては、各府省が所掌する政策について自ら評価を行うことが基本であり、その上で評価の総合性及び厳格な客観性を担保するため、総務省がさらに評価を行うこととされている。そして、このような役割を各々が適切に果たすことにより、政府全体の評価機能の充実強化を図ることが求められている。
 
(注)
  「総務省」という場合には、「評価の総合性及び厳格な客観性を担保するための評価を行う、評価の専担組織としての総務省」と、「一府省として自らその所掌する政策について評価を行う総務省」という両者の立場が含まれる。ここでは前者の意味で用いており、以下、「総務省」という場合には、同様の意味で用いることとする。
 ア 各府省
 (ア) 各府省が自ら評価を行うことの意義
   各府省がその所掌する政策について自ら評価を行うことについては、国家行政組織法において、「国の行政機関は、内閣の統轄の下に、その政策について、自ら評価し、企画及び立案を行」うと規定されており(第2条第2項)、内閣府についても内閣府設置法に同様の規定が置かれている(第5条第2項)。
 このように各府省が自ら評価を行うことについては、次のような意義があるものと考えられる。
 
(1)
 政策評価は、政策の企画立案を的確に行うために欠くことのできない機能であり、各府省の政策の大きなマネジメント・サイクルを構成する重要な要素として位置付けられる。対応すべき行政課題を最も把握しやすい立場にある各府省が自ら評価を行い、その結果を自ら企画立案やそれに基づく実施に反映させることで、実効ある改善・見直しが行われ、政策の質の向上が図られる。
 
(2)
 各府省は、所掌する政策について最も詳しい情報・データを入手し得る立場にあり、各府省が自ら評価を行うことによって、これらが整理されて公表されることになる。国民はこれらの情報を利用して行政活動の実態を把握することが可能となり、また、政策に対する理解や行政課題に対する共通認識を深めることにもつながる。
 
(3)
 各府省がその所掌する政策の性質等に応じて政策評価に柔軟に取り組み、それを通じて得られる知識・経験を学習・蓄積し、今後の政策の企画立案にいかしていくという過程を確立することによって、自らの政策形成能力が高まる。
 (イ) 府省内部における評価の在り方
   政策評価は、府省を挙げて取り組むべきものである。各府省に新たに設置される政策評価担当組織と、政策を直接所管する部局等(政策所管部局等)は、連携協力し、府省全体として評価の実施を推進するとともに、その質を向上させていくことが求められる。一方、評価の客観性の確保という観点から、両者の間に相互牽制と補完が働くような適切な役割分担の下で評価を実施することも重要である。
 各府省においては、以上のようなことを踏まえつつ、各々の実情に応じて適切な評価体制を整備する必要がある。
  (政策評価担当組織の役割)
   政策評価担当組織は、当該府省の個別の政策の評価を行うほか、府省内の政策の横断的な評価や複数の部局にまたがる政策の評価を行うなど政策所管部局等では行い得ないような評価を行うことが期待される。
 また、府省全体における評価への取組を推進する立場から、府省全体の取組を見据え、評価の実施計画を立て、評価対象の重点化等の方向付けを行ったり、評価状況を取りまとめてそれを公表するなど府省内部の政策評価を総括する役割が求められる。
 さらに、評価手法等に関する研究・開発を進め、評価に関する知識や技能を政策所管部局等に提供するなど、評価の実施を支援することも重要である。
 このような役割を十全に果たすためには、必要な組織体制を整備するとともに、このような政策評価を担い得る人材を養成・確保することが必要である。
  (政策所管部局等の役割)
   政策所管部局等は、政策評価担当組織の総括の下に、所管する政策の評価を行うこととなる。また、政策評価担当組織が評価を行う場合に、政策所管部局等は、関連する情報・データを提供するなど、積極的に協力することが求められる。
  (評価の客観性及び公正性の確保)
    各府省が自ら行う評価は、客観的かつ公正なものでなければならない。このため、
 
(1)
 評価の結論のみならず、用いたデータや前提条件を含む評価過程等に関する情報の公表の徹底を図り、評価の透明性を高めること、
 
(2)
 できる限り客観的な情報・データを用い、また、主観的要素が入る余地が小さい評価手法を選択すること、
 
(3)
 必要に応じ、行政外部の第三者を評価に参画させたり、その意見を聴取すること などが求められる。
 (ウ) 第三者等の活用
   各府省が政策評価を行うに当たり、高度の専門性や実践的な知識・経験が必要な場合、客観性の確保や多様な意見の反映が強く求められる場合などにおいては、学識経験者、民間等の第三者を活用することが有益なことも多い。
 第三者の活用は、評価の対象とする政策の性質、評価の内容等に応じ、
 
(1)
 学識経験者等からの意見聴取
 
(2)
 学識経験者等により構成される研究会等の開催
 
(3)
 審議会等における専門的検討
  などから適切な方法を選択して用いることが重要である。
 その際、専門知識の活用を期待するのか、チェック機能を期待するのか、また、どの程度の役割を期待するかなど、第三者の活用についての基本的な考え方をあらかじめ明確にしておくことが必要である。また、第三者の活用は、ある程度のコストや時間を要するものであり、このようなコスト等についても十分勘案した上で、その活用を図っていくことが重要である。
  (シンクタンク等を活用する際の留意点)
   各府省においては、以上のような第三者以外にも、民間のシンクタンク、コンサルタント等を活用する場合も増えていくものと考えられる。その際には、すべてを任せ切りにすることは適当でなく、委託者である各府省には、評価に用いる情報・データや前提条件、得られる結果などについて説明責任を果たすことが求められる。
 なお、各府省は、シンクタンク等の専門的調査研究機関としての地位を尊重し、委託の範囲を超えて過度に介入することがないよう留意する必要がある。
 イ 総務省
   総務省には、(1)各府省の政策について、統一的又は総合的な評価や政策評価の客観的かつ厳格な実施を担保するための評価を行い、その結果が各府省の政策に適時的確に反映されるようにする評価実施組織としての役割と、(2)政策評価に関する基本的事項の企画立案及び政策評価に関する各府省の事務の総括を行う組織としての役割とがある。
 (ア) 総務省による評価の意義
   評価実施組織としての総務省は、「中央省庁等改革の推進に関する方針」において、政策評価の総合性及び厳格な客観性を担保するため、
 
(1)
 全政府的見地から府省横断的に評価を行う必要があるもの
 
(2)
 複数の府省にまたがる政策で総合的に推進するために評価する必要があるもの
 
(3)
 府省の評価状況を踏まえ、厳格な客観性を担保するために評価する必要があるもの
 
(4)
 その他、政策を所掌する府省からの要請に基づき、当該府省と連携して評価を行う必要があるもの
  について評価を行うこととされている。
 このような評価において、総務省は、各府省が評価した結果等について、政策を所掌する各府省とは一定の距離を置いた立場から評価の質と厳格な客観性を確保するための評価を行い、政府の国民に対する説明責任の徹底を促す役割を果たす必要がある。
 また、各府省が行った評価の過程や公表の在り方について評価を行うとともに、各府省の評価について、その客観性や正確性を比較して評価を行うことにより、政府全体の評価の質を高める役割を果たすことも重要であり、その評価手法等の向上や信頼性の確保が求められる。
 その際、評価を専担する組織の立場から、政策の効果が発現している実態を直接調査し、把握し得るという機能をいかして評価を行うことが求められる。
 なお、以上のような役割を適切に果たすためには、政策の内容や評価の実施に関し、専門的・実務的な知識や経験を持った人材の養成・確保を図ることが必要である。
 (イ) 評価に関する企画立案及び的確な運用の確保
  (標準的ガイドラインの策定及び運用)
   政策評価に関する基本的事項の企画立案等を行う組織としての総務省の役割は、各府省との連携の下、政策評価の実施に関する標準的ガイドラインを策定し、必要に応じて改定することが基本となる。この標準的ガイドラインは、政策評価制度に関する基本的事項について規定するもので、各府省が実施要領等を策定する際の標準的な指針を示すことが主眼である。
 なお、評価の実施に係る詳細な手順等については、各府省が別途実施要領等において定めることとなるが、その上で、総務省としては標準的ガイドラインに沿った各府省の評価への取組を促進していくことが求められる。
  また、各府省における政策評価の仕組みが適正なものであり、有効に機能しているか、必要な情報が公表されるものになっているかについて、定期的に検証がなされることも重要である。総務省が各府省の評価の客観的かつ厳格な実施を担保するために評価を行うことや、総務省が行う政策評価について政策評価・独立行政法人評価委員会が調査審議し、意見を述べる仕組みを通じてこうした機能が遂行されることも求められる。
  (円滑な実施のための支援)
   さらに、総務省には、各府省が評価を行う際に参考となる手引きを示すなど、各府省による政策評価の円滑な実施を支援する役割を担うことが求められる。その際、各府省が実施した評価のうち、評価手法の適用等に関する優良事例など今後の参考となるような事例を紹介したり、地方公共団体における評価への取組を紹介することが有益である。また、諸外国における評価制度やその実施状況などについて実地の調査研究を行い、その結果を提供することも期待される。
  (政策評価各府省連絡会議の開催)
   政策評価に対する取組を促進し、評価の質の向上を図るためには、各府省における取組状況についての情報交換が行われ、評価に関する知識や技能の共有化を図ることが求められる。このため、総務省が中心となり、政策評価関係機関が一堂に会する場である政策評価各府省連絡会議を適時に開催し、この場を積極的に活用することが必要である。
  (人材の養成・確保)
   評価担当職員の評価能力の向上を図るためには、各府省において独自に人材の養成・確保の努力が払われることはもとより、その上で、これらの職員に評価に関するより幅広い知識や技能を体得させるようにし、また、行政内外からの有能な人材を養成・確保する仕組みを整備することが求められる。
 このため、広い視野に立った人材の養成の観点から行われる府省間の人事交流の仕組みや、柔軟な発想力、コスト意識、機動的な対応能力等を高めていくことを目的として行われる官民交流の仕組みを活用することが重要である。また、各府省及び総務省の評価の厳格な客観性を担保する観点も踏まえつつ、定年退職等によりいったん退職した公務員を再任用することを内容とする再任用制度や、専門的な知識・経験や優れた識見を有する者を一定期間採用する任期付採用制度を活用することなども有効である。
  さらに、評価に関する知識や技能の共有化を図る観点から、総務省が各府省の研修を様々な形で支援することや、各府省と連携して研修を実施することが求められる。
  (評価情報の検索機能の構築)
   各府省の評価に関する情報は膨大で、かつ、各々独自に管理されている。このため、総務省には、これらの所在情報について、国民が容易に、かつ、一元的に検索できる機能(例えば、「クリアリング・ハウス」としての機能)を構築することが求められる。また、評価情報に関するデータベースを各府省が構築するための共通的な仕様を作ることも期待される。
 (ウ) 政策評価・独立行政法人評価委員会の役割
   総務省に設置される政策評価・独立行政法人評価委員会は、民間有識者により構成される第三者機関である。同委員会は、次のような機能を的確に果たすことにより、総務省が行う政策評価の中立性及び公正性を確保するとともに、政府全体の政策評価制度に対する国民の期待にこたえていくことが求められている。
 
(1)
 政策評価に関する基本的事項の調査審議
 
(2)
 総務省が各府省の政策について行う統一的若しくは総合的な評価又は政策評価の客観的かつ厳格な実施を担保するための評価に関する重要事項の調査審議
 
(3)
 (1)、(2)に関連した総務大臣に対する意見具申
   このような機能を発揮するため、同委員会は政府全体の政策評価を見渡すのにふさわしい広い視野と高い識見を備えることが求められるとともに、それに基づく積極的かつ能動的な意見の表明が期待される。
 また、総務省を通じた調査により、各府省における政策評価の取組状況や評価対象となった政策に関する具体的な情報を的確に把握する必要がある。
 さらに、国民からの意見や要望などに対し開かれたものであることが重要であり、総務省が実施する評価に時々の国民のニーズや社会経済情勢が適切に反映されるようにする役割を果たすことも期待される。
  なお、その果たすべき役割にかんがみ、議事の透明性を十分確保するなど、その運営につき国民から十分な信頼と理解を得ることが重要である。
 (4) 政策評価の時点
  ア 基本的な考え方
   政策評価は、政策の選択、実施、実施の終了やその効果の発現などの一連の流れの中で、評価を行う時点によって、基本的には事前及び事後の評価があり、政策の性質によっては途中(中間)の評価がある。また、事前、途中又は事後の時点の評価は、それぞれ意義を異にするものと考えられる。
 なお、実際の政策運営の中で、具体的にどの段階がそれぞれ事前、途中、事後の時点に当たるかについては、政策の性質によって明確に区分しがたい面がある。
 したがって、実際に評価を行うタイミングについては、評価の目的、評価対象の性質等に応じて、また、評価目的に関連しどのような評価方式を採用するかによって具体的に判断する必要がある。
  イ 各時点における評価の意義
  (事前の時点における評価の意義)
   政策の実施前の時点における評価については、政策の採択や実施の可否を検討したり、複数の政策代替案の中から適切な政策を選択する上で有用な情報を提供するという意義が考えられる。また、ある政策の実施に当たり、あらかじめ予想される問題点や他の政策との関係等を整理し、必要な対応策等を検討するという意義が認められる。
 事前の時点における評価については、その結果を政策の実施前に企画立案に反映させやすいというメリットがある。
 ただし、その場合には、政策の実施前であるため、将来予測の不確実性を伴うことが避けられず、情報・データの入手とその信頼性の確保が困難なものとなったり、政策の実施に必要な限られた時間内に評価結果を出すことが求められるという制約もある。
  (事後の時点における評価の意義)
   政策を一定期間実施した後や政策の実施の終了後の時点においては、政策によってもたらされた、あるいはもたらされつつある効果に関し、実際の情報・データなどを用いて実証的に評価を行うことが可能である。また、事前の時点で将来予測に基づく評価を行った場合に、その将来予測が妥当なものであったかが検証されなければならない。
 このような実証的な情報・データに基づく評価結果を適時的確にフィードバックすることにより、当該政策の改善・見直し、あるいは、新たな政策の企画立案及びそれらに基づく実施に反映させることができる。
  (途中の時点における評価の意義)
   ある程度継続する政策の実施途上における評価については、計画等に沿って着実に進められているかという進捗状況や、当初の目的、目標を達成しているかという達成状況を定期的に把握することが可能である。このような進捗状況や達成状況を把握することによって、今後何をどうすべきかという道筋を示す情報を得ることができ、政策の的確・着実な実施の推進に資することとなる。
 また、政策によっては、実施途上で社会経済情勢の変化を踏まえた改善・見直しのための判断情報を得ることが要請される場合もある。
 (5) 政策評価の観点等
  ア 基本的な考え方
   政策評価は、政策の効果に関し、一定の尺度に照らして検討し、客観的な判断を行うことにより、政策の企画立案やそれに基づく実施を的確に行うための情報を提供するものである。この尺度に当たるものとして、政策の目的や目標があるほか、評価の観点や評価基準などを設定して用いるのが通常である。
 政策評価を行う際には、あらかじめ、政策の目的や目標とともに、どのような観点から評価するか、どのような基準に基づいて検討し、判断するかについても明らかにしておくことが求められる。
  (ア) 評価の観点
     政策評価の観点については、「中央省庁等改革の推進に関する方針」において、各府省及び総務省は、主として「必要性」、「優先性」、「有効性」等の観点から評価を行うこととされている。また、同方針で明示されたこれら三つの観点に加え、諸外国の評価においても用いられている「効率性」及び「公平性」の観点から評価を行うことも重要である。
 これらの観点については、「必要性」、「効率性」、「有効性」、政策の性質によっては「公平性」等の一次的な観点と、主としてはこれらの観点からの評価を踏まえた二次的な観点である「優先性」とに分けることが可能である。政策評価においては、これらの観点から、評価の目的、評価対象の性質等に応じて適切なものを選択し、総合的に評価を行うことが重要である。
  (イ) 評価基準
     政策評価の基準は、「必要性」、「効率性」、「有効性」、「公平性」、「優先性」等の観点から評価を行うにあたり、どのような点に着目するかを表すものである。
 評価基準は、評価の目的、評価対象の性質等に応じて設定されるものであり、具体的な評価基準を統一的に設定することは困難である。このため、ここでは、評価基準を設定する上で基本となるもので、上記の各観点を敷衍したもの(以下、「一般基準」という。)を示すにとどめ、各府省及び総務省が政策評価を実施するにあたっては、これらを踏まえ、評価基準のさらなる具体化・詳細化を図っていく必要がある。

  イ 各観点及び一般基準の内容

  (ア) 「必要性」
     政策評価を行うにあたっては、対象となる政策の目的の妥当性について検討する必要がある。その際、そもそも政策が実現しようとするものを国民や社会が必要としているといえるのか、上位の目的に照らして当該政策の目的が妥当かという点に着目する必要がある。また、国民や社会のニーズに合致している場合でも、民間でできるものは民間に委ね、行政活動を必要最小限にとどめることが基本である。このため、行政が関与する必要があるか、民間に委ねることができないかについても検討することが求められる。
 このような「必要性」の観点からの評価を通じて、真に実施しなければならない政策への重点化・適正化が図られることが重要である。
     「必要性」の観点から評価を行う際の一般基準としては、「政策の目的が、国民や社会のニーズに照らして妥当か、上位の目的に照らして妥当か」及び「行政の関与の在り方から見て行政が担う必要があるか」を挙げることができる。
  (イ) 「効率性」
     政策を実施するためには、予算、人員等の行政資源を投入する必要があり、これが組み合わされた行政活動を通じて一定の効果が生み出される。一方、行政資源は有限であり、また、そもそも国民の負担に係るものであることから、行政資源を適切に利用し、より効率的で質の高い行政を展開することが求められる。
 「効率性」は、このような有限な行政資源を前提に、投入される資源量とそれから生み出される効果の関係が適切であるかを見る観点であり、端的には、より少ない資源でより多くの効果を得るということが基本となる。
 このような「効率性」の観点は、国際的にも広くその重要性が認められている。
 「効率性」の観点から評価を行う際の一般基準としては、「投入された資源量に見合った効果が得られるか、又は実際に得られているか」、「必要な効果がより少ない資源量で得られるものが他にないか」及び「同一の資源量でより大きな効果が得られるものが他にないか」を挙げることができる。
  (「政策評価を除く行政評価・監視」における「効率性」との関係)
     「中央省庁等改革の推進に関する方針」は、「政策評価を除く行政評価・監視」の観点の一つとして「効率性」を挙げている。これは、政策の執行面における効率性、すなわち、政策を所与のものとして必要な事業量等をより少ない予算、人員等で実施することはできないか、無駄な支出をやめることができないかといった、国家公務員法等に見られる「能率」の概念に近いものと考えられる。このように、「政策評価を除く行政評価・監視」における「効率性」(能率性)が政策の執行面の効率に着目するのに対し、政策評価における「効率性」は、政策の費用と効果との関係からとらえた政策そのものの効率、すなわち、社会経済全体の資源配分から見た効率に着目するものである。
  (ウ) 「有効性」
     政策の効果を評価することは、政策を実施することで、本来の目的や目標に照らして予想される効果が得られるか、あるいは実際に得られているかを的確に把握することにほかならない。
 「有効性」は、政策によって生み出された効果が政策の目的や目標を達成しているかを表す観点であり、政策の効果の達成状況を目的や目標に照らして見るものである。
 このような情報を得ることにより、これまでの取組が本来の目的を実現するのにどの程度貢献したか、又は、今後どのような取組が必要かを明らかにすることができる。
 「有効性」の観点から評価を行う際の一般基準としては、「政策の実施により、期待される効果が得られるか、又は実際に得られているか」を挙げることができる。
  (エ) 「公平性」
     政策によっては、その効果の受益や費用の負担を社会における様々な集団等に対して公平に分配することを本来の意図とするものがある。これは、政策の目的から見て、効果の受益や費用の負担について、集団等の間で有利不利が生じないような取扱いが必要な場合である。このような場合には、「公平性」の観点から評価を行うことが求められる。
 具体的には、政策の目的に照らした政策の効果の受益や費用の負担の帰属先の設定を行い、これが公平に分配されるものとなっているか、又は、実際に設定どおりの帰属先に分配されているかといった点について評価を行うことが必要である。
 「公平性」の観点から評価を行う際の一般基準としては、「政策の目的に照らして、政策の効果の受益や費用の負担が公平に分配されるか、又は実際に分配されているか」を挙げることができる。
  (オ) 「優先性」
     政策の実施に必要な行政資源には限りがあるため、「必要性」、「効率性」、「有効性」、「公平性」等の観点からは実施することが認められる政策でも、必ずしもすべてを同時に実施することはできない。そこで、これら一次的な観点からの評価の結果を踏まえた上で、当該政策が他より優先的に実施されるべきかを検討する「優先性」の観点からの評価を行うことが求められる。
 「優先性」の観点から評価を行う際の一般基準としては、「他の政策よりも優先的に実施すべきか」を挙げることができる。

 

 4 政策評価の結果の反映
   政策評価は、政策の大きなマネジメント・サイクルの中で主として政策の企画立案に必要な情報を提供するために実施されるものである。したがって、評価結果が政策の企画立案に適時的確に反映されることによってその本来の機能が発揮されることとなる。また、評価結果を企画立案に基づく政策の実施において適切に活用することも重要である。
  (政策評価担当組織の役割等)
   政策の大きなマネジメント・サイクルを円滑に機能させるためには、評価結果が当該政策の企画立案部門や実施部門に伝わり、それが適時的確にいかされるような仕組みが求められる。このため、政策評価担当組織は、府省における政策評価を総括する立場から、例えば次のような役割を果たすことが重要である。
 
(1)
 府省の評価結果を取りまとめ、企画立案等へ反映すべき情報を整理する。
 
(2)
 政策評価担当組織が評価を行った場合、評価結果を速やかに企画立案部門等に通知するとともに、その結果を踏まえた検討を促す。
 
(3)
 評価結果が企画立案等にどのように反映されたかについて企画立案部門等から報告を求め、評価結果の反映状況をフォローアップする。
  (評価結果の反映方法等)
   評価結果を政策の企画立案に反映させる方法としては、
 
(1)
予算(定員を含む。)への反映、
 
(2)
法令等による制度の新設・改廃等への反映、
 
(3)
各種中長期計画の策定等への反映
  などがあり、評価対象の性質等に応じた適切な方法を用いて反映させていくことが重要である。
 なお、企画立案部門等は、評価結果をどのように政策に反映させたかなどについての説明責任を果たすことが求められる。
  (予算への反映)
   このうち、予算への反映について、具体的には、まず、政策を所掌する各府省において、評価結果に基づき、政策の改善・見直しに関して検討を行い、その結果を予算要求の段階で適切に反映させることが求められる。次に、予算編成の過程においても、評価情報が財政当局で適切に活用され、予算に反映されることが期待される。
  (評価結果の反映状況の公表)
   評価結果の政策の企画立案等への適時的確な反映を進めるためには、関連する情報の公表が求められる。具体的には、各府省が、自ら評価した結果をどのように企画立案等に反映させたかを随時公表したり、総務省が各府省における評価結果の反映状況を白書等で広く国民に分かりやすい形で示すことが考えられる。

 

 5 政策評価の結果等の公表
  (1) 公表の意義
   政策評価の実施により、国民に対する説明責任を徹底し、行政の透明性を確保するためには、各府省及び総務省による評価結果等の積極的な公表が不可欠である。すなわち、政策評価を通じ、政策に関して行政が保有する膨大な情報・データが整理され、これが分かりやすい形にまとめられ、公表されることにより、行政の透明性が高まり、政策に対する国民の理解が深まることとなる。
 また、公表した評価の内容に関して、各界各層から様々な意見が寄せられることにより、評価の質の向上が促されるとともに、政策評価制度自体の信頼性が向上することが期待される。さらに、公表された評価結果等を基に、政策に関する国民的な議論が喚起されることも期待される。
  (2) 公表の在り方
  ア 公表の考え方
   政策評価制度やその運営に係る基本的な事項は、原則として公表する必要がある。また、各府省がどのように政策評価を実施するかを定めた実施要領、具体的な評価の実施に関する計画や運営方針なども策定後速やかに公表することが求められる。
 次に、政策評価全般に関する国民の一層の理解を得るためには、上記のような制度やその運営に関する情報の公表のほか、政策評価制度をテーマとした広報活動を積極的に展開する必要がある。
 さらに、評価の際に用いた情報・データや仮定を含む評価過程等に関する情報もできるだけ具体的に公表し、評価結果に至るまでの過程を外部からも検証できるようにすることが重要である。
 

イ 公表の具体的内容

  (公表事項)
   評価に関する情報について公表すべき事項としては、評価の結論のほか、次のようなものが重要である。
 
(1)
 評価実施主体
 
(2)
 評価の対象とした政策の目的・目標、具体的な内容、当該政策の実現手段(関連する予算など)、成果・実績等
 
(3)
 評価の際に使用した仮定等の前提条件、評価手法・指標、データ、及びそれらを使用した理由
 
(4)
 評価の過程で聴取した学識経験者及び民間等の第三者の意見、評価内容に関する各方面からの意見等
 
(5)
 評価結果の政策の企画立案等への反映状況(具体的措置が講じられた場合にはその内容と時期等、具体的な措置が講じられていない場合にはその理由と今後の予定等)
  (秘匿を要する情報の取扱い)
   政策評価については、公表することにより国及び公共の安全を害する情報や個人のプライバシー、企業の営業秘密に関する情報などを含む場合もあり得る。このような情報の取扱いについては、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成11年法律第42号)の考え方に基づき適切に対応する必要がある。
 ただし、このような情報を含む評価であっても、そのような情報を含むという理由で当該評価全体を公表の対象から外すことは適当でない。このような場合でも、公表の仕方を工夫したり、公表の範囲を限定するなど必要な措置を行った上で公表するよう努めることが求められる。
 また、総務省には、このように公表の際に特段の工夫等を要する評価も含め、各府省の評価の公表状況を把握し、適切な公表を促進する役割が期待される。
  ウ 公表の方法
  (公表の形式)
   政策評価に関する情報の公表にあたっては、国民に対する分かりやすさを確保し、国民の理解を得ることが重要である。このため、評価結果等の概要を作成し、簡潔で、かつ、分かりやすい形で公表することが求められる。一方で、外部の有識者等が専門的な視点から評価内容等のチェックをすることを可能とすることも重要であり、評価の際に用いた情報・データ等も盛り込んだ詳細な内容の公表も求められる。
  また、分かりやすく公表するという観点からは、評価対象の性質の多様性等も勘案しつつ、評価方式ごとの公表様式の標準化を図っていくことも期待される。その際、各府省の評価結果等について国民が比較参照することが可能となるように、最低限公表することが必要な項目を明らかにすることが求められる。
  (インターネット等の活用)
   情報化が進展し、膨大かつ多様な情報が流通し利用される中で、国民が特定の政策について関心を持ったときに、その政策に関連した評価情報に速やかにアクセスできる状態になっていることが求められる。このため、インターネット等の活用による公表を推進し、国民が情報を迅速かつ容易に入手できるようにすることが必要である。また、その際、評価結果等の所在情報を容易に得られるようにすることも重要である。
  エ 公表後の対応
  (情報・データの追加的提供)
   評価情報を公表した後、外部の専門家等が評価内容等の検証を行うため、公表されたもののほかに関連した情報・データの提供を求めることも考えられる。その場合、各府省は、可能な範囲で、関連する情報・データを追加的に提供するよう努めることが重要である。そのためには、関連情報を適切に保存することも重要である。
  (意見・要望の受付)
   評価結果等に対する国民からの意見・要望を受けることも、政策評価の実効性や客観性を高める上で必要なことである。このため、公表された評価結果等に対して、国民から出される意見・要望を受け付ける仕組みを各府省及び総務省において整備することも重要である。
 特に、総務省に設置される政策評価・独立行政法人評価委員会は、政策評価に関する国民からの意見・要望に対し開かれたものであることが重要である。その上で、総務省が実施する評価が国民の声を適切に反映したものとすることが必要である。

 

 6 政策評価の方式
 (1) 評価方式の考え方
   各府省や総務省において政策評価を実施するに当たり、その評価方式については、画一的なものとする必要はないものの、ある程度標準的なものとすることにより、政策評価制度の全政府的な運用を確保することが必要である。
 評価方式については、政策評価に対して何が要請されているかということを踏まえ、そのような要請にこたえるためには、いつの時点において、どのような内容の評価を行うことが適切かを検討し、以下の三つを標準的なものとして挙げた。各府省及び総務省は、所掌する政策の性質や各々の分野における政策評価に対する要請などに応じて適切な評価方式を採用し、実施することが期待される。
 我が国の政策評価制度においては、三つの標準的な評価方式の長所や特性などを十分に認識した上で、これらを合目的的に組み合わせて導入することにより、政府全体として、政策評価に期待される役割が十分に果たされるとともに、評価の効率的な実施が確保されるものと考えられる。
  (2) 標準的な評価方式
   政策評価制度の全政府的な運用を確保するという観点から、標準的な評価方式として導入し、実施されることが適切であると考えられるものとしては、「総合評価」、「実績評価」及び「事業評価」の三つの方式を挙げることができる。
  (総合評価)
   これからの行政においては、政策が時々の課題に適切に対応し、国民が期待するような効果を上げているか、あるいは効果が上がるものとなっているかについて明らかにすることが求められている。また、政策が効果を十分に上げるためには、行政として対応を求められる問題点やその原因は何かという情報が適切に提供され、政策の的確な改善・見直しにつながることも重要である。政策評価には、まず政策の効果に関し、このような具体的で詳細な情報を提供することが要請されている。
 このような要請にこたえる評価方式としては、「時々の課題に対応するために特定のテーマを設定し、様々な角度から掘り下げて総合的に評価を行い、政策の効果を明らかにしたり、問題点の解決に資する多様な情報を提供することを主眼とした方式」(「総合評価」)を標準的なものとして挙げることができる。
 こうした詳細な分析を行う評価については、評価対象に関し、ある程度の信頼性が確保された各種の情報・データを必要とすることから、そのような条件が整った時点で実施することになる。また、こうした評価は、その実施に要する期間が長く、また、コストも大きくなることが予想される。このため、評価の実際の実施は選択的かつ重点的なものとならざるを得ず、この評価方式は、継続的に幅広い行政分野を常時カバーするものではない。
  (実績評価)
   行政が国民から幅広く求められる説明責任を徹底していくためには、行政分野を幅広くカバーし、定期的・継続的に政策の効果に関して測定・評価し、それらの情報を国民に対して提供することも要請されている。
 このような要請にこたえるものとしては、「行政の幅広い分野において、あらかじめ達成すべき目標を設定し、それに対する実績を測定し評価することにより、政策の達成状況についての情報を提供することを主眼とした方式」(「実績評価」)を標準的なものとして挙げることができる。米国や英国などにおいても、ほぼ同様の方式による評価の導入が進められている。
 この評価方式は、行政の幅広い分野において、政策の効果に関し定期的・継続的に重要な情報を提供するものであるが、それらについて様々な角度から掘り下げた詳細な分析情報まで提供するものではない。
  (事業評価)
   政策の企画立案や実施にあたっては、幾つかの選択肢の中から選ぶことが求められることがあり、特に、事務事業や場合により施策(以下、「事業等」という。)については、個々の具体的な選択が必要となる場合が多い。その際、国民生活や社会経済に与える影響が大きいものや多額の財政支出を伴うものなどについては、事前の時点で、あらかじめ期待される効果やそれらに要する費用などを分析・検討することにより、選択を合理的なものとすることが求められる。
 このような要請にこたえるものとしては、「事前の時点で評価を行い、途中や事後の時点での検証を行うことにより、事業等の採否や選択等に資する情報を提供することを主眼とした方式」(「事業評価」)を標準的なものとして挙げることができる。我が国においても、公共事業、研究開発事業等の分野で、事業等について評価の取組が進められている。
 こうした評価は、できる限り広範に行われることが望まれるものであるが、一方、その具体的な導入や実施については、将来予測の不確実性を伴うことが避けられず、また、事業等の採否や選択の前の限られた時間内に評価結果を出すことが求められるという現実的な制約の下で行わざるを得ない点にも留意する必要がある。さらに、こうした制約から途中・事後の時点での検証を行うことが求められる。
  (三つの方式の相互関係)
   上記の三つの評価方式の相互の関係等については、例えば次のようなことが挙げられる。
 
(1)

 事業評価においては、事業等を対象として、費用と効果の関係等について分析が行われる。これに対して、総合評価においては、政策の効果に関し、発現の因果関係等も含めて様々な角度からより掘り下げた分析が行われることになる。
 このことから、総合評価の実施に当たり、事業評価における事前の時点の評価結果、途中や事後の時点の検証結果を活用することも考えられる。また、事業評価における事前の時点の評価、又は途中や事後の時点の検証を、総合評価の中で実施することも考えられる。

 
(2)
 実績評価は、測定可能な指標を用いることにより、あらかじめ設定した目標の達成状況に関する情報を定期的・継続的に提供するものである。これに対して、総合評価は、目標が達成されていない場合の原因も含めて政策の効果を様々な角度から掘り下げて詳細に分析を行い、多様な情報として提供するものである。
 このことから、総合評価については、実績評価の評価結果に関して、目標の達成状況等を踏まえ、掘り下げた評価が必要であると判断される場合に実施することも考えられる。
   なお、これら三つの標準的な評価方式以外にも、政策評価に対する個々の要請等に応じて、これらとは異なる方式が考えられないわけではない。その場合には、上記(1)の三つの評価方式を標準的とした考え方を踏まえ、これら以外の評価方式を採用することも考えられる。
 三つの標準的な評価方式の導入及び実施の在り方については、「II 政策評価の標準的な方式の導入及び実施の在り方」において具体的に記述する。
 また、本研究会においては、平成12年6月に「中間まとめ」を公表して以降、標準的な評価方式の下での評価の実施の在り方に関し、事務局が行った事例研究等を基にさらに検討を深めてきたところであるが、各府省が実際に評価を実施する場合の参考としてそれらの結果を整理し、付属資料として併せ公表することとした。

 

 7 政策評価における評価手法
  (1) 評価手法に関する考え方
   政策評価において評価手法とは、個々の評価対象の性質や求める情報の内容等に応じて用いられる評価ツールとしての調査手法や分析手法のことである。
 政策評価には、具体的で、かつ、国民にとって分かりやすい結果を導き出す評価手法が求められる。このため、一般的には、できる限り定量的な手法が望ましいと考えられる。
 ただし、定量的な手法であっても、使用する情報・データの信頼性や得られる測定・分析結果の精度などの問題から、常に客観的で信頼性が高い結果を導き出すとは限らない。また、定量的な評価手法の適用になじまない評価対象もあり、そのようなものにまで無理に定量化を行うことは、かえって評価結果を分かりにくいものとしたり、その信頼性を低下させることになり、評価の形骸化を招くおそれがある。
 このような場合には、むしろ定性的な評価手法を適用することが適当である。その際には、可能な限り客観的な事実に依拠して説明したり、評価において第三者を活用することなどにより、評価の客観性の確保に十分配慮することが重要である。
  (2) 評価手法の選択にあたっての留意点
   評価手法を選択する際には、以下のような点について留意する必要がある。
 
 評価手法を選択するにあたっては、得られる結果の信頼性が高い手法であるか、評価の目的に対応した具体的な結果を導き出し得るか、導き出した結果が国民にとって分かりやすいものとなるかなどを勘案する必要がある。その際、評価手法には適用可能な範囲や結果の信頼性などの限界もあることを認識し、評価の目的、評価対象の性質等に応じ、適用可能で合理的な評価手法を選択することが重要である。
 
 評価手法の中には、情報・データの収集、評価の実施に膨大なコストや事務負担を要するものがある。政策評価の実施のためには一定のコスト等の負担を覚悟する必要がある一方、分析精度は高いが、コスト等の負担も大きいような評価手法を画一的に適用することは効率的とは言えない。このため、(1)評価を実施した結果として、どのような情報が求められているか、(2)どの程度の分析精度が必要か、(3)評価のためにどの程度の時間やコストなどをかけるか、(4)想定される評価手法については、必要な情報・データを入手することが可能であるとの条件が満たされるものとなっているか、などについても事前に検討した上で、適切な評価手法を選択することが必要である。
  また、評価に関する情報・データの収集・整備を効率的・効果的に行うため、適切なデータベースを構築したり、一定期間保存されるような仕組みを整えることが求められる。
 
 どのような評価手法を適用するかについて、十分な知識・技能の蓄積がない段階において、高度かつ厳密な評価手法を画一的に適用することには弊害が大きい。したがって、簡易な評価手法であっても、その有用性が認められ信頼性の高いものをまず定着させ、徐々に評価手法の高度化を図ることによって評価の質を高めていくという取組が重要である。
 
 評価手法を選択する際には、外部からも事後的に評価結果を検証できることや、情報・データの選択や仮定の設定などにおいて恣意性の入る余地が小さいことなどに留意し、信頼性の高い評価手法を採用することも重要である。
  (3) 評価手法の調査研究
   政策評価の質を高めるためには、評価手法の開発が求められるが、全く新たな評価手法の開発は容易でなく、当面は、既存の評価手法をいかに適切に適用するかという工夫を行うことなどが中心となる。現在は、評価手法を用いた結果の誤差の程度など評価手法の信頼性や精度についての情報が不足している。このような課題について、各府省及び総務省は、外国における実施例も含めて調査研究を行い、その情報の提供・交換に努めることが必要である。

 

  8 政策評価制度の定着・発展に向けた課題
   政策評価制度は平成13年1月から導入されることとなっており、制度導入に必要な事項については、平成12年6月に公表した「政策評価の導入に向けた中間まとめ」において提言したところである。しかしながら、本制度は、我が国において新たに導入されるものであることから、その導入後においても、本制度が目指した目的の実現を図るため、制度の定着・発展に向けた取組が必要となり、以下の課題について、政府が積極的に取り組むことを強く求めるものである。その際、政策評価制度の運用の基本を担う総務省がそのような取組における要として的確に役割を果たすことが重要である。
  (職員の意識改革)
   政策評価制度が各府省の政策のマネジメント・サイクルの中で定着・発展していくためには、個々の職員が政策評価制度導入の目的等を十分理解して取り組むことが重要であり、職員に対する啓発活動等を通じて導入の目的等を組織全体に浸透させ、職員の意識を改革していくことが求められる。特に、幹部職員においては、自ら率先して質の高い政策を企画立案するために、政策評価を積極的に活用していくことについてリーダーシップを発揮していくことも求められる。
  (成果重視の徹底とインセンティブの付与)
   政策評価制度の一層の発展を図るためには、成果に対する組織としての責任を問うような仕組みを導入するとともに、その一方で、給与、予算執行、組織管理等に関するルールの柔軟な適用を認めるなどのインセンティブを付与することについての検討も重要な課題となる。
  (人事管理との関係)
   政策評価の導入の目的の一つである成果重視の考え方を浸透させていくためには、人事管理においても同様の考え方を重視していくことが重要となる。一方、政策についての責任は、第一に職員個人ではなく組織に帰するものであり、また、政策の効果は、外的な要因に左右される面も大きいことなどから、政策評価の結果を人事評価に直結させることについては慎重な配慮を要するとの指摘もなされている。このようなことから、政策評価と実績主義に基づく人事管理との関係については、政策評価制度の定着と発展の動向を踏まえつつ、それらをどのように関連付けていくかについて検討することが必要である。
  (情報・データの整備)
   政策評価を実施し、国民に対する説明責任を果たすためには、信頼性が高く、かつ、多種多用で膨大な情報・データが必要になる。政策評価を円滑に実施するとともに、そのような情報・データの提供を求められる者などの負担の軽減を図るためには、評価に必要な情報・データが政府全体として効率的・効果的に収集され、これが外部の者も含めて容易に利用される仕組みを整備していくことが必要である。このためには、統計等データなどのデータベースの整備やそれを政府全体で相互利用するための条件整備、情報・データの外部利用などについて、制度的な問題点も含めた速やかな検討が求められる。 
   (予算との関係)
   政策評価制度の実効性を高めていく観点からは、政策評価の結果の予算への反映が重要であると考えられ、この点については、「4 政策評価の結果の反映」において述べたところである。
 政策評価と予算編成との関係については、予算は、財政面の制約や国民世論など様々な要素を踏まえて総合的に判断されるものであることから、個々の評価結果を機械的に予算の配分額に結び付けることは困難であるが、評価結果をできる限り予算編成の過程においても活用する必要があると考えられる。このため、政策評価の実施の定着や評価によって得られる情報の精緻化・高度化を図るとともに、予算編成作業の実態、予算編成の制度的特徴に応じた政策評価と予算との適切な関係付けの在り方、また、そのために必要となる評価手法等につき、さらに検討を深めることも求められる。
  (行政活動に伴うコストの把握)
   政策評価制度の実効性を一層高めるためには、評価に関連した周辺の環境の整備を進めることも重要な課題である。このため、政策評価制度の導入に関連して、公会計の在り方も含め、各行政活動に伴うコストの総額を把握するための仕組みの整備についても検討されることが期待される。
  (研究開発の推進、教育研究の展開)
   政策評価を実施する中で、評価の目的や、政策の性質等に応じ、評価の質の一層の向上を図るためには、評価手法に関する高度化や開発が求められる状況もあると考えられる。こうした場合を含め、総務省及び各府省は、相互の連携の下で、大学、非営利研究機関、諸外国の政府機関等の協力も得ながら評価手法に関する研究開発を進めることが重要である。これにあたっては、各府省、総務省、民間団体、専門家等による政策評価の研究開発に関するネットワークの形成や、中核となる研究開発組織の支援なども視野に入れる必要がある。
 また、既に、大学、研究機関等において、政策評価に関連する科目が開設されたり、研究テーマが採り上げられるなどの状況が見られるが、政策評価に関連する教育研究の展開のための環境がさらに整備されていくことも重要である。
  (多元的な評価)
   政策評価制度が発展していくためには、各府省や総務省において評価が的確に実施されるだけではなく、国会や会計検査院はもとより、外部の各種機関・団体や専門家なども含め、多元的な主体による評価が行われるようになることが重要である。また、各府省や総務省において、政策やその評価に関する情報を積極的に提供し、これらの活動が行われるような環境の醸成に努めることも求められる。こうしたことを通じ、政策評価の内容が外部からチェックされるとともに、国の行政機関とは異なった目による多様な評価情報が提示されることによって、各府省や総務省が行う政策評価の改善を促進することにもつながる。
 この点に関し、国会は政策を審議する立場にあるが、特に関係委員会の審議において、多様な評価情報を積極的に活用したり、行政機関の活動を監視するにあたって利用することが期待される。
 会計検査院については、会計経理を監督し、その適正を期し、かつ是正を図る立場から事務事業の評価を行っているが、これは、会計検査の一環として実施されるものであり、各府省及び総務省による政策評価とは目的を異にする面がある。これらが、それぞれの目的から適切に評価を行うことによって、より適切な評価情報の提供と評価の質の向上につながることが期待される。
 外部の各種機関や民間団体、専門家については、各府省や総務省による政策評価の結果やその取組に関し問題点を指摘する、代替案を提示する、分かりやすく解説する、あるいは新たな評価手法を開発・提案するなどの役割を果たすことが期待される。
 地方公共団体については、既に様々な評価制度の導入やそのための検討が進められているところも多い。地方公共団体が、それぞれの地域の実情に応じた評価制度の導入に努め、その発展を図ることが望まれる。

 

 II 政策評価の標準的な方式の導入及び実施の在り方

 1 事業評価の導入及び実施の在り方
 (1) 導入の意義
   事業評価は、事前の時点で評価を行い、途中や事後の時点での検証を行うことにより、事業等の採否、選択等に資する情報を提供することを主眼とした方式である。
  (事業評価の導入の意義)
   事業等には、国民生活や社会経済に与える影響が大きいもの、多額の財政支出を伴うものがある。このような事業等については、いったん開始してから見直しを行ったのでは、著しく効果を損ない、あるいは非効率になる場合もあるため、事業等の採択の段階で不要・不急のものを排除したり、想定される選択肢の中から国民にとって真に必要なものに限定する、あるいは効率的で質の高いものを優先して選択することなどにより、行政資源の非効率・不適切な配分を未然に回避することが求められる。
  また、事業等の中には、その内容が高度な専門性を有するものもあり、その採否、選択等にあたって、高度な専門性に基づいた情報が強く求められる場合もある。
  事業評価は、このような事業等の採否、選択等に有用な情報を提供することを主眼とするものであり、それらの決定を合理的に行うことに資するものである。
  (政策評価導入の目的との関係)
   次に、事業評価の導入の意義について、政策評価導入の目的に照らして整理すると、以下のとおりである。
  (1) 「国民本位の効率的で質の高い行政の実現」
 
 事業等の採否、選択の段階で、行政の関与の在り方から見て行政が担う必要がある事業等への重点化・適正化が図られる。
 
 効果や費用などを分析し、費用に見合った効果が得られるかを評価することにより、事業等が必要最小限のコストで効率的に実施される。
 
 事前の時点で評価を行い、途中や事後の時点での検証を行うことを通じて、事業等の質の向上や改善・見直しが図られる。また、このような過程で得られる知見を行政組織に学習・蓄積させることにより、行政の政策形成能力が向上する。
  (2) 「国民に対する行政の説明責任の徹底」
     事業評価の結果やその評価の実施過程の情報を公表することにより、事業等の採否や選択、その実施の透明性が確保され、国民が事業等の実態を把握することが可能となる。
  (3) 「国民的視点に立った成果重視の行政への転換」
     事業等について、国民にもたらされる効果を重視し、国民が期待する効果が生み出されるかなどについて評価を行うことにより、事業等の有効性を高めていくことが可能となる。
 (2) 評価の対象
 

 事業評価は、事前の時点で評価を行い、行政活動の採否、選択等に資する情報を提供するものであるが、このような具体的な採否、選択等は取り分け事務事業において必要となることが多い。
  また、このような評価においては、事前の時点で、費用に見合った効果が得られるかを検討するため、費用や効果の予測・分析、それらの関係の検討等が求められる場合も多い。この点、事務事業は、その目的や内容が具体的であるため、その実施のために必要なインプット、実施することによるアウトプットやアウトカムなどの推計が可能である場合が比較的多く、現実に評価を実施しやすい条件が整っているものと考えられる。
  このようなことから、事業評価の評価対象としては、事務事業が中心となるものと考えられる。
  また、こうした評価を行うことの必要性があり、かつ、その条件が整っている場合には、おおむね施策としてとらえられる行政活動のまとまりについてもその対象となる場合があると考えられる。

 (3) 評価の時点・内容

   事業評価は、事前の時点で評価を行い、途中や事後の時点で検証を行うことにより、事業等の採否、選択等に資する情報を提供することを主眼とするものであり、各時点における評価や検証の内容は、主として以下のようなものになる。ただし、評価の目的、評価対象の性質等によっては該当しない内容もある。
 ア 事前の時点における評価の内容
   事前の時点における評価の内容は、主として次のとおりである。
 
(1)  事業等の目的が国民や社会のニーズに照らして妥当か、上位の目的に照らして妥当かについて検討する。また、行政の関与の在り方から見て行政が担う必要があるかなどについて検討する。
(2)  事業等の実施により、費用に見合った効果が得られるかについて検討する。このため、可能な限り、予測される効果やそのために必要となる費用を推計・測定し、それらを比較する。その際、効果については、受益の帰属する範囲や対象などを極力特定し、可能であれば定量化する。また、費用については、事業等に係る直接的な支出のみならず、例えば、事業等により発生する民間等の負担や環境等の社会費用など、それ以外の費用についても検討する。
(3)  必要に応じて、より効率的で質の高い代替案がないかなどについて検討する。
(4)  上位の目的の実現のために必要な効果が得られるかについて検討する。
(5)  必要に応じて、事業等の目的に照らし、その効果の受益や費用の負担が公平に分配されるかについて検討する。
(6)  必要に応じて、(1)〜(5)などの検討結果を踏まえた上で、他の事業等よりも優先的に実施する必要があるかについて検討する。
   なお、事前の時点で評価を行う際に、途中や事後の時点における検証について、具体的にいつの時点で、どのような内容の検証を行うか、あるいはどのような場合に事業等の見直しの検討を行うかなどを定めておくことも重要である。
 イ 途中や事後の時点における検証の内容
   途中や事後の時点における検証の内容は、主として次のとおりである。
 
(1)  途中の時点で、事業等の実施予定に対する進捗状況、目的、目標等の実現状況について把握する。
(2)  事後の時点で、事業等の目的、目標等の実現状況について把握する。
(3)  途中や事後の時点で、事前の時点で行った評価内容について検証する。
 

 なお、既に実施されている事業等について、今後継続して実施すべきか否か、改善・見直しが必要かなどの情報を得ることを主眼として、途中の時点において、事前の時点における評価と同様の内容の評価を行うことも考えられる。
 また、事後の時点における検証の結果、効果や費用などの状況が事前の時点における予測・分析と大きく異なるような場合には、その原因等を分析・把握し、以後の評価の質の向上にいかしていくことも求められる。

 (4) 評価の実施にあたっての留意点
  (評価実施の支援)
 

 事業評価については、その評価対象が、行政活動の基礎的単位である事務事業を中心とするものであるため、他の評価方式に比べ、評価が実施される数が著しく多くなり、実際に評価に携わる者も相当程度広範に及ぶことが想定される。このため、実際に評価を行う際に参考となる評価の手引きを作成するなど評価の実施を支援していくことが重要である。

  (評価手法等に関する調査研究)
 

 また、ある程度一定の評価手法が確立しつつある分野においては、事前の時点における効果や費用の推計・測定など評価の精度をさらに高めるため、類似する事業等の間で評価手法や評価指標などについて府省横断的に標準化・共通化を図るための調査研究を行うことが必要である。評価手法等に関する研究・開発が十分に進んでいない分野においても、適用可能な評価手法等に関する調査研究を進めることが重要である。

  (地方公共団体や民間企業等に対する協力要請)
 

 さらに、事業等の実施主体が国以外である場合には、その効果等について、国が直接、事前の時点で予測をしたり、途中・事後の時点での検証を行うことが困難なことも多いものと考えられる。このような場合においては、あらかじめ評価の目的や内容、手続などを明らかにし、事業等の実施主体である地方公共団体や民間企業などの理解を求めるとともに、適切な協力を要請し、的確な評価が行われるよう努める必要がある。

  (事業等のコストの把握)
 

 なお、事業等のコストを的確に把握するため、事業評価の対象の単位とこれに帰属すべき予算との関係が明確になるよう、これらの関係の在り方について検討していくことが求められる。また、公会計の在り方も含め、将来的なものも踏まえたコストの的確な把握のための仕組みの整備についても検討することが期待される。

  (総務省の役割)
 

 総務省は、各府省の事業評価の実施状況を把握するとともに、各府省が評価した結果等について、厳格な客観性を担保するために評価を行ったり、その正確性や客観性を比較して評価を行うことにより、評価の質の向上を図る役割を果たす必要がある。

 (5) 各行政分野等における評価の導入及び実施の在り方
 

 事業等は、個々具体的でその性質や態様などが大きく異なっており、また、既に評価に関する一定の取組が行われている分野もあることから、事業評価の導入及び実施の具体的な在り方を検討するにあたり、以下においては、行政分野等ごとに事業等の評価の現状を記述するとともに、これらに対する考え方等を示すこととする。

 ア 公共事業
 (ア) 公共事業の評価の現状
  (公共事業の評価の仕組みの導入)
 

 公共事業については、その効率的な執行及び透明性の確保を図る観点から、平成9年12月の内閣総理大臣指示に基づき、公共事業関係6省庁(北海道開発庁、沖縄開発庁、国土庁、農林水産省、運輸省及び建設省)において、平成10年度から、事業採択後一定期間経過後で未着工の事業や長期にわたる事業などを対象とする再評価を行い、その結果に基づき必要な見直しを行うほか、継続が適当と認められない場合は休止又は中止とする新たな公共事業の再評価システムを公共事業全体に導入することとされた。また、併せて、新規事業の採択段階において、基本的に全事業について費用対効果分析を活用することとされた。

  (公共事業の新規採択時の評価)
 

 新規採択時の評価については、国からの出資、補助等が行われるもので、新たに事業費を予算化しようとする全公共事業を対象として、費用対効果分析を活用した事前評価を実施することとされている。平成11年度予算における実績をみると、新規に採択したすべての事業について評価が行われており、そのうち9割を超える新規採択箇所で費用対効果分析が行われている。

  (公共事業の再評価)
 

 公共事業の再評価については、国からの出資、補助等が行われる全公共事業を対象として、(1)事業採択後5年間を経過した時点で未着工の事業、(2)事業採択後一定期間(事業特性に応じて5年間から10年間)を経過した時点で継続中の事業、(3)社会情勢の急激な変化等によって見直しの必要が生じた事業について実施されている。
  その際、(1)事業の進捗状況、(2)事業採択時の費用対効果分析の要因の変化や地元の意向の変化など事業をめぐる社会経済情勢等の変化、(3)コスト縮減の可能性や代替案立案の可能性の検討という三つの視点から評価が行われている。

 (イ) 公共事業の評価に対する考え方
   公共事業の評価については、以上のような評価の現状を踏まえつつ、事業評価の枠組みに整合的に位置付けた上で、次のような評価の取組の一層の改善・充実を図ることが求められる。
  (事後の時点での検証の仕組みの構築)
   すなわち、公共事業においても事後の時点で、事業の目的、目標等の実現状況や事前評価の結果などの検証を行い、それによって得られた情報をそれ以後の事業の企画立案やそれに基づく実施、事前の時点での評価に活用していくことは有益である。また、これらの情報を広く公表することによって、国民に対する説明責任の徹底に資することにもなる。なお、関係省庁においては、平成11年度から一部の公共事業を対象として事後評価が試行的に実施されている。
  公共事業については、評価手法等に関する研究・開発を進めつつ、事後の時点での検証を行うための適切な仕組みを構築することが求められる。
  (評価の透明性及び質の向上)
   また、評価の透明性の一層の向上を図るため、評価に関する情報の適切な公表を進めることが求められる。さらに、類似事業間における評価指標や手法の共通化を促進するなど、費用対効果分析に対する信頼性を高め、評価の質の向上を図っていくことも重要である。

 イ 研究開発事業

 (ア) 研究開発事業の評価の現状
  (研究開発事業の評価の仕組みの導入)
   研究開発事業については、研究開発活動の効率化・活性化を図り、より優れた研究成果を上げるという観点から、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月内閣総理大臣決定。以下、「大綱的指針」という。)において、関係省庁等は、評価のための具体的な仕組みを整備し、国費によって実施されるすべての研究開発課題を対象として評価を実施することとされている。なお、大学等については、自主性の尊重など、その特性に十分配慮することが必要であるとされている。
  (研究開発課題の評価)
   研究開発事業等の研究開発の課題については、大綱的指針において、原則として事前・事後の各時点で評価を行うこととされている。また、5年以上の研究開発期間を有するものや研究開発期間の定めがないものについては、各評価実施主体が3年程度を目安として定期的に中間評価を実施することとされている。さらに、研究開発課題の内容・種類に応じた評価の考え方が示されている。平成10年10月現在、国の研究機関の9割において研究開発課題の評価が実施されている。
  評価手法については、ピア・レビュー(評価対象の分野に関する専門的な知識を有する研究者による評価)が主として用いられている。また、メガサイエンス等の大規模かつ重要なプロジェクトの評価については、費用対効果を含めた特に厳正な事前評価を行うこととされている。
  なお、現在、科学技術会議において、科学技術基本計画の改定に向けた検討が進められており、これを受けて大綱的指針も改定される予定である。
 (イ) 研究開発事業の評価に対する考え方
   研究開発事業の評価については、以上のような評価の現状を踏まえつつ、事業評価の枠組みに整合的に位置付けた上で、次のような評価の取組の一層の改善・充実を図ることが求められる。
  (評価の質及び公正さや透明性の確保)
   すなわち、研究開発事業の評価においてピア・レビューを行うにあたっては、国際的水準に照らした研究開発の質に着目した評価を徹底することなどが重要である。
  また、評価の公正さや透明性を確保するため、客観性の高い評価指標や第三者等による評価を活用したり、どのような基準で、どのような段階を経て評価がなされるかという評価の実施過程をあらかじめ明確にしておくなど評価に関する情報の適切な公表を進めることも求められる。

 ウ ODA(政府開発援助)事業

 (ア) ODA事業の評価の現状
   ODA事業については、その透明性・効率性の向上の観点から、「ODAの透明性、効率性の向上について」(平成10年11月対外経済協力関係閣僚会議幹事会申合せ。以下、「幹事会申合せ」という。)において、関係省庁等は、ODA事業の評価システムの充実に努めることとされた。
 幹事会申合せにおいては、ODA事業の評価について、事前調査を適切に実施するとともに、可能な限り事後評価や実施段階でのモニタリングを充実させ、その結果をその後実施する事業に的確に活用するように努めることとされている。また、事業の性格に応じた効果的な評価方法の開発・導入に努めることとされている。
  ODA事業については、幹事会申合せに基づき、関係省庁等において事後の時点での事業の評価を中心とした評価の取組が行われている。
 (イ) ODA事業の評価に対する考え方
   ODA事業の評価については、以上のような評価の取組を踏まえつつ、次のような評価の取組の一層の改善・充実を図ることが求められる。
  (事前の時点での評価、途中の時点での検証の仕組みの構築)
   すなわち、ODA事業についても、事前の時点で事業の必要性、費用と効果の関係等を評価して、事業の採否や選択に活用したり、途中の時点で事業の進捗状況や事前評価の結果などを検証して、事業の着実な実施や必要な改善・見直しなどに活用していくことが必要である。
  ODA事業の評価を事業評価の枠組みに整合的に位置付けるにあたっては、これまでの事後の時点での評価に加えて、事前の時点での評価や途中の時点での検証の仕組みを構築し、事前から事後の時点までの一貫した評価の確立を図っていくことが求められる。
  (評価の取組の拡充)
   また、現在は評価が十分に行われていないとの指摘がなされている技術協力事業の一部などのODA事業についても、その評価の在り方について検討していくことが求められる。

 エ 規制

 (ア) 規制の評価の必要性
   規制は、国や地方公共団体が国民の活動に対して特定の政策目的の実現のために関与・介入するものであり、行政の広範な分野における重要な政策手段の一つとなっている。しかし、規制は一度設けられると、国民の権利が制限され、義務が課されるなど国民生活や社会経済に大きな影響を与えることになるものである。また、多額の財政支出を伴わない場合にも、規制を受ける者の活動を過度に制約したり、国民にとって潜在的に大きな負担を発生させる可能性を持つものもあると指摘されている。
  このため、規制の新設・見直しにあたっては、どのような目的の実現のために実施され、いかなる効果をもたらし、そのためにどの程度の負担が生じるかなどについて事前の時点で評価を行い、これを国民に対して明らかにすることが必要である。
  我が国の「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月閣議決定。以下、「3か年計画」という。)においても、「各省庁は所管行政の規制について、新設する場合も含め、その効果と負担についての国民への説明責任を果たすことができるシステムの確立に向けて、政策評価機能の充実・強化という観点を踏まえ、検討を進める」こととされている。
  このように、政策評価の導入に当たり、規制の評価への取組が緊要の課題となっている。
 (イ) 諸外国における規制の評価の現状
   諸外国の状況を見てみると、米国、英国、オーストラリア、カナダ等においては、規制の新設・見直しに当たり、事前の時点で評価を行うこととされている。その際、一定の仕組みの下で、規制の影響に関する分析が行われている。
 規制の影響に関する分析の具体的な内容や対象、手続などの仕組みは国によって様々であるが、基本的には、規制の必要性の説明、規制の新設・見直しに伴って発生する社会における便益や費用の推計、便益が費用を上回っていることの説明、他の代替案との比較、適正な手続が踏まれていることの説明などが行われている。
  ただし、諸外国の事例によれば、必ずしも全般的に定量的な分析が行われているわけではないが、規制の影響のうち、特に規制遵守費用(compliance cost)については、定量的に示されている例も多い。
  このような規制の影響に関する分析の取組については、米国においては、特に安全、健康、環境の分野で進んでいるが、分析の対象については、年間1億ドル以上の影響をもたらす重要度の高いものに範囲を限定している。
 (ウ) 我が国における規制の評価をめぐる状況
   我が国では、規制緩和を進める一環として、規制の新設を抑制する観点から、3か年計画に基づいて次のような規制の新設審査が実施されている。
 
(1)  各省庁は、規制の新設について、これを必要最小限にするとの基本的な方針の下に、i)規制の必要性、ii)規制により期待される効果、iii)規制により予想される国民の負担等について検討し、検討結果を毎通常国会終了後速やかに国民に分かりやすく公表する。
(2)  内閣法制局、総務庁行政管理局及び大蔵省主計局は、規制の新設についてそれぞれの所掌事務に基づき厳格な審査を行う。
   政策評価の視点から、このような仕組みにおける検討の取組を見ると、必要な情報・データの収集や評価手法等に関する研究・開発などが進んでいないため、規制の影響に関し十分な分析が行われているとはいえない現状にある。例えば、規制の影響に関する分析の基礎的な項目である規制遵守費用を把握するための情報・データの収集も十分に行われていないのが実情である。また、評価手法やその適用に関する知識や技能の蓄積が不足していることも否めず、具体性や掘り下げの面で不十分であるとの指摘もある。
 (エ) 規制の評価に対する考え方
   以上のことから、我が国において規制の評価への早急な取組が必要な時期に来ているものと考えられ、各府省においては、評価に必要な情報・データの収集を進め、可能なものから順次評価に取り組んでいくことが重要である。
  その際、規制遵守費用を可能な限り定量的に推計したり、規制の便益や費用の帰属先を把握することなどから取り組み、規制の評価に関する知識や技能を蓄積していくことによって、評価の質の向上を図ることが求められる。また、規制の評価手法等に関するケース・スタディ等を行いながら調査研究を進めたり、試行的に評価を行っていくことも重要である。
  このような取組においては、新規の規制で、国民生活や社会経済に与える影響が大きいものや諸外国で実施の蓄積があるものなどを優先的に採り上げていくことが考えられる。
 以上のような取組と並行して、規制の評価の仕組みの具体的な在り方について早急に検討し、その具体化を図ることも重要である。
  さらに、こうした規制の評価の進展を踏まえつつ、規制の新設審査における検討内容等の充実を図ることも求められる。

 オ その他の行政分野等

  (補助事業)
   まず、国から補助金を交付する対象となる補助事業は、行政の広範な分野において実施されており、その内容や態様なども様々であるなど一括りにして取り扱うことが難しい面もあるが、その中には、国民生活や社会経済に与える影響が大きいもの、多額の財政支出を伴うものなど評価の必要性が指摘されているものが多く含まれている。また、補助事業の効果等を可能な限り客観的に明らかにすることは、行政の透明性を確保し、国民の理解を得る観点からも必要である。
  したがって、公共事業、研究開発及びODA以外の事業分野における補助事業に関する評価の実施について検討することが必要である。その検討にあたっては、補助事業の分野ごとに適用可能な評価手法等に関する研究・開発を進めていくことが重要である。また、評価に必要な情報・データの収集を進め、可能なものから試行的に評価を行い、評価の仕組みを順次構築していくことも求められる。その際には、例えば、新規の補助事業で金額が大きいものなどを優先的に採り上げていくことも考えられる。
  (新規に開始しようとする事業等)
   また、これまで採り上げてきた行政分野等以外においても新規に開始しようとする事業等については、上記の補助事業と同様に評価に関する取組の検討を行うことが求められる。その際には、評価にかかるコストや時間的制約等も踏まえ、評価を行う対象を工夫して実施することなども考えられる。
  (その他)
   これまでに触れた行政分野等以外についても、事業評価により必要な情報が提供されることが望まれる。事業評価の枠組みをどこまで広げるかということに関しては、国民生活や社会経済に与える影響が大きいものや多額の財政支出を伴うものなど、評価の必要性が高いものを優先した積極的な取組が求められる。その際、具体的にどこまで実施するかについては、評価にかかるコスト等も勘案して検討することが重要である。

 

 2 実績評価の導入及び実施の在り方

 (1) 導入の意義
   実績評価は、行政の幅広い分野において、あらかじめ達成すべき目標を設定し、それに対する実績を測定し評価することにより、政策の達成状況についての情報を提供することを主眼とした方式である。
  (実績評価の導入の意義)
   行政は、自らの活動の現状や将来の展望を国民に積極的に明らかにし、説明責任を徹底していくことが求められる。そのためには、行政が政策の実施を通じて実現しようとしていることをあらかじめ国民に対して説明するとともに、その達成状況を定期的・継続的に把握し、実現された成果を具体的かつ分かりやすく示していくことが重要である。
  また、行政活動の効果を常に点検し、不断の見直しや改善を行うことにより、政策の質の向上を図っていくことが求められている。そのためには、政策の達成状況に関する情報を適時的確に把握し、達成状況が思わしくない分野については早い段階で必要な措置を講ずるなど、政策運営に適切に反映させていくことが重要である。
  実績評価は、以上のような要請にこたえるものであり、行政の幅広い分野をカバーして、達成すべき目標を設定し、それに対する実績を評価することにより、各府省の活動の目標や実績に関する全体像が国民に対して示されることとなる。さらに、このような評価の仕組みの構築は、各府省の政策運営の面で改善をもたらすとともに、職員の意識を成果重視に大きく変え、真に国民的視点に立った行政の実現に貢献する。
  (諸外国の動向)
   諸外国の動向を見ても、中央政府において、このような評価の仕組みを導入している国が見られる。
 例えば、1990年代以降、米国のGPRA(Government Performance and Results Act:政府業績成果法)や英国の行財政改革の枠組みであるCSR(Comprehensive Spending Review:包括的歳出見直し)/PSA(Public Service Agreements:公共サービス協定)において、行政機関の活動の目標を事前に設定し、その実績を定期的に測定する評価方式の導入が進められている。
  また、オーストラリアやニュージーランドでは、アウトプットやアウトカムに着目した予算制度の一環として業績目標に基づく評価が実施されている。さらに、カナダでは、議会や国民への情報提供、政策運営の改善等に焦点を当てた取組として業績目標に基づく評価が実施されている。
  (米国のGPRA)
   米国のGPRAにおいては、まず各省庁ごとに、任務(mission)や主要な機能に関する全般的な目標(generalgoals)等を明記した中期的な「戦略計画(strategic plan)」を策定する。次に、客観的、定量的かつ測定可能な「業績目標(performancegoals)」を明記した「年次業績計画(annual performanceplan)」を策定する。その上で、業績目標に対する達成状況を測定し、「年次業績報告書(annualperformance report)」として公表する、という仕組みを採っている。
  なお、GPRAは、1993年に法律が成立した後、様々なパイロット・プロジェクトによる試行を経て段階的に実施され、2000年3月に最初の業績報告書が提出されている。
  (英国のCSR/PSA等)
   英国のCSR/PSA及びSDA(ServiceDeliveryAgreements:公共サービス提供協定)の枠組みにおいては、まず政府全体の目的を設定し、それを実現するための「ねらい(aims)」や「目的(objectives)」を各省庁ごとに設定する。各省庁ごとの目的は、業績達成目標(performance targets)やより詳細なアウトプット目標などによりさらに具体化され、その達成度が測られることとなっており、全体として階層構造を形成している。この目標の設定に関しては、SMART(Specific:特定性・具体性、Measurable:測定可能性、Achievable:達成可能性、Relevant:関連性、Timed:目標達成期間の明示)であることが求められている。
  また、各省庁における目標達成度の測定結果は、各省庁ごとに業績報告書として公表することとされている。
  (地方公共団体の動向)
 

 三重県の「事務事業評価システム」や北海道の「政策アセスメント」を始めとして、我が国の幾つかの地方公共団体においても、目標を設定してその達成状況を把握し、それを基に業績を評価するという方法が採り入れられている。これらの評価制度については、全体の仕組みや目標達成度評価の位置付け等は様々であるが、行政の透明性の確保や成果重視の行政運営の実現手段としてとらえられている場合が多い。
 我が国の政策評価制度において、実績評価の導入及び実施の在り方を検討するにあたっては、行政の組織・制度や政策評価制度の運営の趣旨が異なる場合があることを踏まえつつ、以上のような国内外の事例を参考にすることが重要である。

  (政策評価導入の目的との関係)
   次に、実績評価の導入の意義について、政策評価導入の目的に照らして整理すると、以下のとおりである。
 
(1)「国民に対する行政の説明責任の徹底」
  実績評価の導入により、各府省が具体的に何を実現するか、実際にどのような成果を上げているか、その実現が何に貢献するかなどの情報が積極的に公表されることとなる。これにより、行政の透明性が一層高まり、国民の側から行政活動の実態を把握することが可能となる。
(2)「国民本位の効率的で質の高い行政の実現」
 達成すべき目標に対する実績を継続的に測定することにより、成果の上がらない分野が早期に発見され、行政活動の改善・見直しにつながる。
 府省として達成すべき目標を設定することを通じ、戦略的な視点から企画立案を行うことが促される。
(3)「国民的視点に立った成果重視の行政への転換」
 国民に対して実際に成果として何を実現するかという目標を掲げ、それを達成することを通じて行政活動の有効性が高まる。
 成果ベースの目標を設定し、それに対する実績を測定する過程で国民的視点に立った成果重視の行政に向けて職員の意識改革が進む。
  (2) 評価の対象
   実績評価は、各府省が具体的に何を実現するかという目標と、実際にどのような成果を上げているかという実績の全体像を国民に対して明確に示すものである。その評価の対象については、ある程度の具体性と継続性を持ち、かつ、量的にも全体像の把握ができるような行政活動のまとまりであり、国民に分かりやすいものであることが必要である。また、各府省の政策に関する戦略的な政策運営に資するという視点を考慮すると、広範にわたる行政活動の中でも主要な課題への対応を目的とするものを中心に設定することが重要である。
  さらに、諸外国の中央政府や我が国の地方公共団体における取組事例を見ると、目標の設定や実績の評価の対象となる単位は様々であるが、米国や英国の中央政府の例では、共通の目的を有する行政活動の一定のまとまりを対象としているものと考えられる。
  以上を考慮すると、実績評価において目標の設定と実績の評価を行うにあたっては、「共通の目的を有する行政活動の一定のまとまり」を対象とすることが適当であると考えられ、実際にはおおむね施策程度のまとまり(以下、「施策等」という。)に相当する場合が多くなるものと考えられる。また、その際には、各府省の主要な課題を幅広くカバーし、国民にとって重要な課題が含まれることを確保することが求められる。なお、行政活動の性質によっては、事務事業についても対象とすることが考えられる。

  (3) 目標及び指標についての考え方

 ア 目標及び指標の概念
   (ア) 目標と指標の関係
  (基本目標と達成目標)
 

 実績評価における「目標」は、各府省の主要な施策等に関し、「いつまでに、何について、どのようなことを実現するか」を示すものとなる。
 以下、このような目標を「基本目標」と称することとするが、基本目標は、行政活動の一定のまとまりを対象として設定されるものであり、様々な要素を包含することとなる。このため、その具体的な達成水準を一義的に示すことは一般に困難であり、その方向性を示すにとどまることが多いと考えられる。
 このような場合には、基本目標に関連した測定可能な指標を別途用いて、それぞれの指標ごとに達成水準を示す具体的な目標(以下、「達成目標」という。)を設定し、その実績を測定することによって、基本目標に対する実績の測定に代えることが必要になる。
 なお、具体的な指標により達成水準等が示し得る基本目標については、その実績を直接測定することが可能であるため、達成目標を別途設定する必要はない。
 以上で示した基本目標及び達成目標のイメージを示すと、図1のとおりである。

  <図1:基本目標及び達成目標のイメージ>
 

 (イ) 基本目標
  (成果ベースの目標設定)
   基本目標は、「いつまでに、何について、どのようなことを実現するか」を国民に対して明らかにするものであり、国民に対して何をもたらそうとしているかを示す成果(アウトカム)に着目した目標を設定することが基本となる。
  このような成果に着目した目標は、一般に、行政機関が必ずしも統制できない外部要因の影響を受ける場合が多く、行政機関が実績に関するすべての責任を負うことは難しい。このような場合は、影響し得る外部要因の説明と併せて、成果ベースの分かりやすい目標を国民に示すことが重要である。
  (目標の設定対象の考え方)
   基本目標の設定対象については、年間支出額の多寡等の一定の基準で形式的に判断するのではなく、国民の側から見た重要度や優先度を考慮し、幅広くとらえていく必要がある。また、主要な施策等に関する目標としてふさわしいものが示される必要があり、その判断に当たって数値化しやすい指標を用いることが可能であることや、短時間で数値に反映されやすいという側面への考慮が優先されることのないようにする必要がある。
  (目標期間の考え方)
   基本目標の達成期間については、施策等の成果の発現までには一定の期間が必要であることから、中期的な期間、一般的には5年程度とすることが基本となるものと考えられる。一方、施策等の性質によっては、成果が短期間で現れるものや、長期間を要するものもあり、具体的な目標期間の設定にあたっては、施策等の性質に応じて適切な期間を設定することが適当である。なお、中期的な期間以外の期間を設定する場合には、その理由を明らかにすることが求められる。
   (ウ) 達成目標
   達成目標は、基本目標に関連した測定可能な指標の達成水準を示すものであり、可能な限り客観的に達成状況を測定できる指標を用いて示すことが重要である。達成度合いを明確かつ具体的に示すためには、可能な限り定量的な指標を用いることが望ましい。その際、施策等の性質に応じて、アウトカムに着目した指標やどれだけの財やサービスを生み出すかというアウトプットに着目した指標などを適切に用いることが必要である。
 また、施策等の性質によっては、指標の定量化が困難であったり、適切でないため、定性的な指標を用いる場合も多いと考えられる。そのような場合には、府省が何をどの程度実現するかについて、具体的な事実に基づき判定することが可能な指標を用いることが重要である。

 

 イ 基本目標及び達成目標の設定の具体的な考え方
   実績評価においては、どのような基本目標や達成目標を設定するかに加え、どのような過程を経てそれらを設定するかが重要なポイントになる。
  (目標設定の具体的な考え方)
   基本目標及び達成目標の設定にあたっては、各府省内において、現在取り組んでいる課題や今後の課題は何か、これらに対する取組によってどのようなことを実現するか、また、それは何に貢献するか、さらには、それをいつまでに達成するかなどについて十分な議論を重ね、府省として目標を設定することが必要である。
 基本目標及び達成目標は、国民の間の幅広い意見・要望や専門的意見等が適切に反映されたものであることが重要である。
 また、各府省ごとに目標相互間の整合性を図ることも重要である。
 さらに、基本目標及び達成目標は、時々の社会経済情勢や財政状況等を踏まえ、安易ないしは過大な目標とならないようにすることも重要である。
 なお、複数の府省に関連する行政活動のまとまりに関する目標については、今般の中央省庁等改革の一環として政策調整システムや内閣府による総合調整など各府省間の調整を行うための仕組みが導入されたところであり、必要に応じて、これらを活用して適切に調整を行い、目標を設定することが求められる。
 基本目標及び達成目標の設定にあたっては、その達成状況を測定するための信頼性の高い情報・データを定期的に入手することが可能であること、また、それら情報・データは公表の対象となることに十分留意する必要がある。このため、目標設定と並行し、達成状況の測定に必要な情報・データの種類やその信頼性、それらの収集の方法や時期、それに要する費用などについても検討することが必要である。
  (目標の設定過程等に関する情報の公表)
   基本目標及び達成目標の設定過程や目標設定の前提に関する情報などについては、可能な範囲で国民に対してこれを積極的に公表し、その妥当性や合理性を説明することが重要である。このような外部による実態把握と行政機関へのフィードバックのプロセスを通じて、目標設定の改善が図られる。
 その際、目標が適切なものとなるよう、なぜその目標を実現するのかという目標設定の考え方や、基本目標と達成目標との関係、基本目標の実績を測定する指標が適切かなどについて明らかにすることが必要である。
 また、目標を達成するためにどのような手段を用いるか、どの程度の費用を要するか、その場合、限られた資源との関係で適切な目標となっているかなどの事項についても可能な限り明らかにすることが重要である。
 さらに、成果ベースの目標の場合には、目標達成に影響を及ぼす可能性がある外部要因についても、可能な限りあらかじめ説明しておくことも求められる。

  (4) 達成目標の実績測定及び基本目標の実績評価の考え方

  (達成目標に対する実績の測定)
   達成目標に対する実績の測定とその結果の公表は、原則として1年間を基本的なサイクルとすることが合理的である。しかしながら、施策等の性質等によっては、情報・データの収集に係る問題から毎年の実績測定が困難なものや意義が乏しいものなどもあると考えられ、実績測定と公表のタイミングについては、ある程度の柔軟性を持たせることが必要である。ただし、そのような場合であっても、少なくとも毎年、目標達成のためにどのような活動を行ったかなどについて説明することが必要である。
 達成目標に対する実績の定期的な測定結果を点検情報として活用し、必要に応じて、随時、関係する施策等の改善・見直しを行う。また、このような改善・見直しの結果、目標水準の設定等に問題がある場合には、目標自体の見直しを行うこともある。その際には、目標の見直しを行う理由を明示することが必要である。
 なお、具体的な指標により達成水準等を示し得るため、達成目標が別途設定されない基本目標についても、上記に準じて実績の測定を行う必要がある。
  (基本目標に対する実績の評価)
   基本目標の目標期間が終了した時点で、目標期間全体における取組や、達成目標に対する最終的な実績等を総括し、目標期間中における実績の測定結果の経年的推移を示すとともに、基本目標がどの程度達成されたかについて評価する。その際、必要に応じて、施策等や次の目標期間の目標設定の在り方について見直しを行う。また、目標設定時に前提とした考え方が妥当であったかについても併せて検証を行い、その結果を公表する。最終的な実績が著しく目標を下回った場合には、可能な限り主な要因について説明することが求められる。
  なお、基本目標に対して具体的な達成目標の設定がなし得なかった場合においては、基本目標を達成するためにどのような活動をどの程度実施したかという実績を具体的に説明するといった代替的な措置を講ずることが必要である。

  (5) 評価の実施手順

   達成目標の実績測定及び基本目標の実績評価の考え方を踏まえ、評価を実施する手順や各段階における取組の内容を要約して示すと、次のとおりである。
 
(1) 基本目標及び達成目標等の設定
   まず、府省としていつまでに何についてどのようなことを実現するか、また、それにより何に貢献するかについて検討を行い、基本目標及び達成目標を設定し、公表する。
(2)達成目標に対する実績の定期的・継続的な測定
   達成目標に対する実績を定期的・継続的に測定し、公表する。
(3)次期の基本目標及び達成目標等の設定準備
   基本目標の目標期間の終了が近づいた段階で、達成目標に対する実績を測定する作業と並行して、次期の基本目標及び達成目標等を暫定的に設定する。
(4)基本目標に対する実績の評価
   達成目標に対する最終年の実績を測定するとともに、目標期間全体における達成目標に対する実績を総括し、基本目標の達成状況について評価を行い、公表する。
(5)次期の基本目標及び達成目標等の設定
   (3)で暫定的に設定した次期の基本目標及び達成目標等について、(4)の目標期間全体における実績等を踏まえ、必要に応じて、目標水準等の修正を行い、次期の目標等を正式に設定し、公表する。
 

このような評価実施手順のイメージを示すと、図2のとおりである。

  <図2: 実績評価の実施手順のイメージ>
 
   

 (6) 導入スケジュールの考え方

  (段階的導入の必要性)
   実績評価については、各府省が達成すべき目標とその実績の全体像を把握できることが重要であり、本来、当初から各府省が時期をそろえて主要な施策等について一斉に実施することが望ましい。
 しかしながら、あらかじめ目標を設定し、それに対する実績を測定し評価するという評価方式は、各府省にとってこれまで経験のない新しい取組であり、その適用に関する知識・情報の蓄積も少ないことから、目標設定や実績測定の方法などについて試行を重ね、改善を加えながら取り組むというプロセスを経ることが必要である。また、これまでの仕事の進め方を大きく変える要素を持っており、研修等による職員の意識啓発も行わなければならない。さらに、新たな業務量の増加にもつながる面があり、特に導入当初において評価にかかるコストや事務負担が大きくなることが想定されることから、こうしたコストや事務負担も勘案しつつ導入を進めることが重要である。
 諸外国の取組事例においても、一定の試行期間や準備期間が設けられている。例えば、米国のGPRAでは、1993年に法律が制定されてから2000年に最初の業績報告書が出されるまで6年余りの準備期間を確保しており、その間、様々な試行的実施を行い、その結果を踏まえながら制度の改善を図っている。
 以上を考慮すると、実績評価については、試行を含めた段階的な導入を図り、数年を経て本格的な実施に移行できるようにすることが適当である。なお、段階的な導入を図る場合には、計画の策定等により導入のスケジュールや手順をあらかじめ明らかにすることが求められる。
  (段階的導入の具体例)
   実績評価を段階的に導入する方法としては、例えば、次のような手順が考えられる。
 
 各府省における主要な分野の行政活動のうち、まず優先的に評価を実施すべきものから取り組む。このような分野の選択にあたっては、例えば、以下のようなものを中心に検討することが重要である。
 
(1)  これから新規に開始しようとするもの
(2)  開始後一定の期間が経過し、効果を把握する必要があるもの
(3)  社会的状況の急激な変化の影響を大きく受けることが想定され、改善・見直しを行うための点検情報を早期に得る必要があるもの
 優先的に実施する分野を選択した後、まず試行的実施として、基本目標に対する実績を測定するための指標を選定して暫定的に達成目標を設定する。そして、必要な情報・データを整備し、当該指標により有効な実績測定が可能かどうかについて検証する。このような試行的段階を踏んだ上で、達成目標を正式に設定し、実績測定を本格的に実施する。
 その際、まず各府省が実現する目標についての基本的な方向性や考え方等を整理した上で、当該府省における目標の全体像をある程度念頭に置きながら作業を進めることも重要である。

 以上のような分野以外の主要分野は、基本的に、達成目標の設定が困難な分野であると考えられる。そこで、まずは目標や指標に関する調査研究を進め、必要に応じて、上記と同様の試行的段階を踏んだ上で本格的に実施するという手順が考えられる。
  以上で示した段階的導入のイメージを示すと、図3のとおりである。

 

<図3:実績評価の段階的導入のイメージ>

 
優先的に実施する分野 その他の分野
   

 (7) 評価の実施にあたっての留意点

   実績評価は、目標とそれに対する実績について指標を用いて測定・評価し、その達成状況を把握するものであり、行政活動の成果についての重要な情報を提供するものである。各府省においては、実績測定や実績の評価の結果を、施策等の改善・見直しや資源の効率的な配分を含め、企画立案及びそれに基づく実施に適切に反映させることが求められる。
 しかし、評価の対象となる行政活動は多くの要素を含み、かつ、様々な要因の影響を受けるため、施策等の有効性、効率性等を判断する際の万能な尺度とはなり得ない。このため、施策等の改善・見直しなどを行う際には、実績評価から得られた情報だけではなく、他の要素を考慮し、総合的に判断することが必要となる場合もある。
 また、実績評価は、施策等の達成状況の全体像を示すことを主眼とした枠組みであり、目標が達成できなかった場合でも、組織としての説明責任は別として、そのことのみをもって関係する職員個人の責任を問うことは必ずしも適当でない。
 さらに、実績評価を実施するにあたっては、目標が一人歩きし、その達成に過度に拘泥するといった弊害が生じないように留意すべきである。
  (総務省の役割)
   実績評価を円滑かつ適切に実施するため、総務省は以下のような役割を果たす必要がある。
 
 各府省の協力の下、目標や指標の設定、実績の測定・評価、公表等を支援するための手引き等の作成や、優良事例の紹介を行う。
 政府全体における実績評価の取組状況について把握し、目標の設定や実績の測定・評価の客観性を確保する。その際、総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会には、国民的視点に立った積極的な役割を担うことが求められる。
 白書等により政府全体の取組状況を総括し、これを公表する。

 

 3 総合評価の導入及び実施の在り方

 (1) 導入の意義
   総合評価は、時々の課題に対応するために特定のテーマを設定し、様々な角度から掘り下げて総合的に評価を行い、おおむね政策や施策ととらえられる行政活動のまとまり(以下、「政策・施策」という。)の効果を明らかにしたり、問題点の解決に資する多様な情報を提供することを主眼とした方式である。
  (総合評価の導入の意義)
   行政が国民のニーズや社会経済情勢に的確に対応するためには、政策・施策の効果を具体的に明らかにするとともに、行政として対応を求められる問題点やその原因などを分析し、その解決に資する情報を提供することにより、的確な改善・見直しにつなげていくことが必要である。特に、これまでの取組を見直し、新たな政策展開を行おうとする際には、このような評価が求められる。
 総合評価は、このような要請にこたえるために必要な情報を提供するものであり、政策・施策の効果を明らかにしたり、問題点を解決することに資するものである。
 なお、諸外国においても、米国、英国、カナダ、オーストラリア等の各省庁や会計検査機関などにおいて、いわゆるプログラム評価(programevaluation)が実施されており、おおむね施策等の行政活動のまとまりについて直接的・間接的な効果等を明らかにするため、体系的な分析を用いて総合的に評価が行われているところである。
  (政策評価導入の目的との関係)
   次に、総合評価の導入の意義について、政策評価導入の目的に照らして整理すると、以下のとおりである。
 
(1)「国民本位の効率的で質の高い行政の実現」
 政策・施策の効果を明らかにするとともに、問題点やその原因を分析し、その解決に資する情報を提供して改善・見直しにつなげることにより、その効率と質の向上が図られる。
 政策・施策の効果が発現する因果関係のプロセスや、外部要因の影響に関する情報を蓄積することにより、行政の政策形成能力の向上が図られる。
(2)「国民に対する行政の説明責任の徹底」
 政策・施策に関する詳細な情報が整理されて外部に提供されることにより、政策・施策の在り方についての国民的な議論が幅広く喚起される。
 時々の国民のニーズや社会経済情勢に照らして政策・施策が適切なものとなっているか、政策・施策の具体的な効果は何か、対応が求められる問題点やその原因は何か、などについて国民に説明することにより、国民の政策・施策への理解や行政課題に対する共通認識が深まる。
(3)「国民的視点に立った成果重視の行政への転換」
 政策・施策について、様々な角度から掘り下げて総合的に評価を行い、国民が期待するような成果を上げているかを具体的に分析・把握する。
 (2) 評価の対象
   事業等の効果に関する事前の予測・分析を中心とする事業評価により提供される情報は、事業等の採否、選択等に資する情報である。また、実績評価により提供される情報は、あらかじめ設定された施策等の目標とそれに対する実績を点検しその達成状況を示す目標達成度に関する情報である。これに対して、政策・施策の効果に関する事後の測定・分析を中心とする総合評価により提供される情報は、他の評価方式では必ずしも得ることができない、効果が発現する因果関係や外部要因の影響などを含んだ多様な情報である。
 総合評価は、様々な角度から掘り下げて総合的に分析を行うことによって、多様な情報を得ることが必要となる場合を中心として実施されるものであり、政策・施策を対象とすることが多くなると考えられる。
  実際に評価を行う際の具体的な対象範囲は、設定した評価のテーマによって変わってくるものであり、柔軟にとらえられるべきものである。例えば、政策自体の在り方にもかかわるテーマを設定して評価する場合には、政策から施策、必要に応じて事務事業までを評価することとなる。また、政策を実現する具体的手段である施策に焦点を当てたテーマを設定して評価を実施する場合には、施策を中心として必要に応じて事務事業までを評価することとなる。なお、分野横断的なテーマを設定して複数の施策を対象として評価する場合も考えられる。
 (3) 評価の時点
   総合評価は、既存の各種の評価手法を用いて様々な角度から掘り下げた総合的な評価を行うこととなる。このため、評価にあたっては、実績に基づく各種の詳細な情報・データが必要となり、そのような条件が整った時点において実施するのが最も有効である。
 したがって、政策・施策が実施された後で、その効果がある程度発現し、実際の効果等に関する情報・データの収集が可能となった時点、すなわち、政策・施策の導入から一定期間が経過した時点において実施することが適当である。
 また、政策・施策の実施前の時点においても、類似の総合評価や他の評価方式の評価により蓄積された情報・データを用いることなどにより、評価を行うことが必要な場合もある。特に、いったん実施されると国民生活や社会経済に与える影響が大きい政策・施策で、他の評価方式によって十分な情報を得ることが期待できない場合などには、その実施前に評価を行うことが考えられる。
 (4) 評価の内容
   総合評価は、政策・施策の効果を具体的に明らかにするとともに、問題点やその原因などを分析し、その解決に資する情報を提供するものである。このため、主として以下のような内容の評価を行うこととなる。なお、これらの評価の内容は、評価テーマや評価対象の性質等に応じて選択すべきものであり、必ずしもすべての内容について実施することとなるものではない。
 
(1)  当初と比べ、国民のニーズや社会経済情勢が変化した場合に、政策・施策の目的が依然として妥当性を有しているか、あるいは施策等がその目的に照らして妥当な手段となっているかについて検討する。また、必要に応じて、行政の関与の在り方から見て行政が担う必要があるかについても検討する。なお、行政が担う必要性が認められる政策・施策であっても、場合によっては、行政の関与の仕方が適切であるかなどについても検討を要するものがある。
(2)  政策・施策の効果が発現する状況を様々な角度から具体的に明らかにする。その際、政策・施策の直接的な効果の発現状況を把握するとともに、当該政策・施策が効果の発現にどの程度寄与したか、どのような因果関係の下に効果が発現したか、場合によっては、外部要因の影響はどの程度かについても掘り下げた分析を行う。さらに、波及効果の発生状況や副次的効果の発生のプロセスなどについても分析する。
(3)  政策・施策の枠組みやその実施過程においてどのような問題が発生しているかを明らかにするとともに、その原因を分析する。
(4)  必要に応じて、政策・施策の効果とそのために必要な費用(マイナスの効果や間接費用を含む。)を比較・検討する。また、「行政サービスの利用者」である国民にとってより効率的で質の高い代替案がないかについて検討する。
(5)  関連する政策・施策との間で相互の整合性が確保されているか、あるいは、複数の目的が競合的な関係にある場合に相互のバランスが適切なものとなっているかなど、それら相互の関係について検討する。
(6)  場合によっては、(1)〜(5)などの評価内容を踏まえた上で、他の政策・施策よりも優先的に実施する必要があるかについても検討する。
 (5) 評価テーマの設定
   総合評価については、その計画、情報・データの収集の準備を含めると、1テーマ当たりの評価に要する期間が長く、コストもある程度大きくなることが予想され、毎年実施できる評価の件数には限りがある。
 したがって、時々の課題に対応して、評価の実施体制、業務量、緊急性等を勘案しつつ、選択的かつ重点的に実施することとなるものと考えられる。
 一方で、総合評価は、特定の評価手法によらず、個々の評価対象の性質等に応じて各種の定量的、定性的な評価手法を用いて評価するものであることから、おおむねあらゆる行政分野において評価テーマを設定することが可能である。
 このため、総合評価を実施するにあたっては、評価によって何を明らかにするか、どのような課題に対応した情報を得ようとするか、その情報を以後の政策・施策の改善・見直しの在り方にどのように反映させていくかなど、評価の目的や評価を行うにあたっての問題意識を明確にした上でテーマを設定することが必要である。
  (評価テーマの設定の考え方)
   各府省や総務省において、総合評価のテーマとして重点的に採り上げるものとしては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
 
(1)  社会経済情勢の変化により改善・見直しが必要とされるもの
(2)  国民からの評価に対するニーズが高く、緊急に採り上げて実施することが要請されるもの
(3)  社会経済や国民生活に与える影響が大きいもので、開始から一定期間が経過したもの
(4)  従来の政策・施策を見直して、新たな政策展開を図ろうとするもの
(5)  評価を実施してから長期間が経過したもの
  (評価テーマを設定する機会)
   総合評価によって提供される評価結果を政策・施策の企画立案とそれに基づく実施に適切に反映することが期待できるという点からは、各府省は、次のような機会をとらえて評価を実施できるよう、そのテーマを設定することが重要である。
 
(1)  実績評価において、目標の妥当性の検討や目標に対する実績の評価が行われるに際して、掘り下げた総合的な評価が必要であると判断される場合
(2)  法律の見直し条項による制度の見直しや、期限が到来した時限法のその後の対応の検討を行う場合
(3)  各種中長期計画の策定や改定を行う場合
   また、審議会等において政策・施策の改善・見直しに係る審議を行い、企画立案への適切な反映が図られる場合も想定されるが、その際、専門的な見地から必要な調査・分析を行い、評価結果を別途まとめて公表するなどの手続を踏むことを前提として、総合評価と位置付けることも考えられる。
 (6) 評価の実施の流れ
   総合評価については、その準備や実施等に要する期間が長く、コストもある程度大きくなることが予想されるため、例えば、次のような流れに沿って重点的・計画的に取り組むなど、効果的・効率的に実施していくことが求められる。
 
(1) 評価テーマの設定
 情報・データの収集など評価に必要な事前準備等に時間的な余裕を持って取り組むことができるよう、評価の実施に関する中期的な計画を策定するなど、あらかじめ評価テーマを設定し、公表する。また、必要に応じこれを見直す。
 評価テーマが適切な分野において設定され、各府省の重要な課題が採り上げられるよう計画的に行う。
 評価テーマの設定、見直しに際し、国民からの意見・要望等も参考にする。
(2) 評価の実施に係る計画の策定、事前準備
   評価の実施に先立って、中期的な計画に基づき、その実施のための具体的な計画を策定するとともに、並行して評価の事前準備を進める。評価の質を高めるためには、この段階において十分な検討を行うことが重要である。   
 実施に係る計画においては、評価の目的・背景事情や評価テーマなどに基づき、評価対象や評価項目、評価実施の時期、評価期間、評価手順・スケジュールなどについて具体的に定める。また、評価主体や実施体制、評価実施の制約条件(使用可能なコスト、要員の数・能力、時間等)、第三者等の活用の考え方などについてもあらかじめ考慮することが重要である。   
 事前準備においては、評価対象の概況の把握、特に目的と手段の関係の確認、過去の評価結果や類似の評価結果等の確認、基礎的な情報・データの収集などを進める。また、必要に応じてヒアリング調査等を実施する。
(3) 情報・データの収集、測定・分析の実施
   実施に係る計画に沿って、評価対象に関する情報・データを収集するとともに、各種の定量的、定性的な評価手法を用いて測定・分析し、総合的な評価を行う。また、必要に応じて、ヒアリング調査や、シンクタンク等の外部機関に対する調査委託を行う。
(4) 評価結果の取りまとめ、公表
   上記の測定・分析の結果を報告書に取りまとめた上で公表する。
 評価結果の取りまとめにあたっては、関係者間で十分な検証を行い、必要に応じて、外部の意見の聴取や補足調査等を実施する。
 また、評価結果の報告書には、例えば以下のような事項等について、評価の目的等に応じ、適切に選択し記載することとなる。
 
 評価の目的・背景事情
 評価テーマ
 評価実施主体、実施体制
 評価実施の時期、評価期間、評価の実施手順・スケジュール
 評価対象とした政策・施策の位置付けや目的・目標、具体的な内容、及びその実現手段
 評価項目
 情報・データの収集や測定・分析の具体的な対象、及びその選定の考え方
 評価の際に使用した評価手法・指標、データや仮定等の前提条件、及びそれらを使用した理由
 測定・分析の結果
 評価の結論(勧告等を行う場合はその内容を含む。)
 考慮すべき外部要因
 評価の過程で聴取した学識経験者、関係行政機関、民間団体等の意見
 その他参考となる情報
 

 さらに、報告書と併せて、評価結果の内容の理解を容易にするための簡潔で分かりやすい要約も作成する。
 以上示した評価の実施の流れを示すと、図4のとおりであり、評価の結果については、 政策・施策の企画立案及びそれに基づく実施に的確に反映するものとする。

 

<図4:総合評価の実施の流れ>

 
   
 (7) 評価の実施にあたっての留意点
   総合評価は、各種の評価手法を用いて様々な角度から掘り下げて総合的に評価を行うものである。これを的確に実施するためには、専門的な知識や能力が必要になるが、我が国の行政においては、行政学、経済学、社会学、心理学、工学等についての専門的な知識や技能の蓄積が必ずしも十分とはいえない。また、経営分析や財務分析などの実務的な知識や経験も必ずしも十分ではない。このため、総合評価を実施するにあたっては、当初、精緻な分析結果を得ることは困難を伴うことも予想される。
 したがって、総合評価については、評価を円滑に実施し、評価の質の向上を図っていくため、特に、次のような方策を積極的に講ずることが必要である。
 
(1)  評価手法の選択や適用の在り方に関する研究の実施とその成果の普及、評価の実施に当たって手引きとなる各府省や諸外国の優良事例の紹介と解説などを行うことにより、各府省間で評価手法や評価の実施手順などに関する知識や技能の共有化を図ること。
(2)  詳細な分析を行うために必要な各種の情報・データの収集や整備を着実に進めることが重要であり、特に、評価を実施することが見込まれる政策・施策については、当該政策・施策の立案段階や実施の初期段階から、収集すべき情報・データの種類や収集の方法、時期、頻度などについて検討し、あらかじめ評価に必要な情報・データの収集に取り組むものとすること。
(3)  評価に従事する職員の研修制度の整備や、府省間における政策評価担当職員の人事交流の促進等により、行政内部の専門家の養成・確保を着実に進めること。
(4)  必要に応じ学識経験者やシンクタンク等の専門的な知識・技能を活用するとともに、評価の分野における官民交流等を促進すること。
   また、米国会計検査院(GAO:General Accounting Office)によるプログラム評価においては、行政活動の問題点について指摘する場合、評価のための限られた情報・データや資源の下で、比較的簡易な評価手法を用いて評価を行っている例や因果関係の分析にまで至らない例なども多いと指摘されている。
  このようなことから、総合評価については、評価の目的、評価対象の性質等に応じ、適用可能で合理的な評価手法を選択し、組み合わせるとともに、信頼できる情報・データに基づいて評価を行うことが重要であり、必ずしも高度かつ厳密な評価手法を適用することを求めるものではない。また、性急に精緻な評価結果を求めるのではなく、上記のような方策を講じつつ、具体的な評価の実践の中で徐々にその質の向上を図っていくことが重要である。

 (8) 総務省が実施する総合評価

   総務省が実施する政策評価については、「中央省庁等改革の推進に関する方針」において、政策評価の総合性及び厳格な客観性を担保するため、府省の実施状況に留意し、また、評価の実施体制、業務量、緊急性等を勘案しつつ、各年度ごとに、次のようなものの中から、重点的・計画的に実施するものとされている。
 
(1)  全政府的見地から府省横断的に評価を行う必要があるもの
(2)  複数の府省にまたがる政策で総合的に推進するために評価する必要があるもの
(3)  府省の評価状況を踏まえ、厳格な客観性を担保するために評価する必要があるもの
(4)  その他、政策を所掌する府省からの要請に基づき、当該府省と連携して評価を行う必要があるもの
   このうち、特に、(1)や(2)については、包括性や総合性が求められることから、総合評価として実施するものが多く含まれることになるものと考えられる。
 その際、評価専担組織として、政策の目的や、目的と手段の関係の把握に取り組むとともに、政策の効果発現の実態について全国的に直接調査し、国民に対してどのような効果がもたらされているかについてより的確に把握し得るという機能をいかして、特定の政策に直接関与していないという独自の立場から各府省とは異なった視点で掘り下げた評価を行うことが特に重要である。
  (政策評価・独立行政法人評価委員会の役割)
   総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会は、国民的視点に立ち、総務省が実施する評価テーマに、時々の国民のニーズや社会経済情勢が適切に反映されるようにすることが求められる。また、各府省において総合評価を早急に実施することが求められるテーマであるにもかかわらず実施されないような場合には、総務省に対し、その実施を要請することも重要である。