政策評価の手法等に関する研究会(第5回)議事概要
日時
平成11年12月13日(月) 13:05〜16:22
場所
中央合同庁舎第4号館共用第3特別会議室
出席者
(研究会)
村松岐夫座長、奥野正寛座長代理、金本良嗣、久保惠一、田辺国昭、星野芳昭、山谷清志の各研究協力者
(発表者)
石川久紀 北海道総合企画部政策室政策評価課長
(総務庁)
東田行政監察局長、塚本官房審議官、畠中官房審議官、鎌田企画調整課長、若生政策評価等推進準備室長その他関係官
議題
- 先行事例の発表
- 石川 北海道総合企画部政策室政策評価課長
「北海道における政策アセスメントについて」
- 政策評価の類型について
- その他
会議経過
先行事例の発表として、石川北海道総合企画部政策室政策評価課長から、北海道における政策アセスメントについて、以下のような説明が行われた。
- 北海道では、地方分権時代の到来及び官々接待問題を始めとした道庁不信を背景として、平成7年度から道政改革に取り組み。道政改革は政策重視の道政や効果的な予算編成システムなど9つの主な柱。
- 平成9年から始めた「時のアセスメント」は、事業の中止という結論が選択肢にあるものであり、担当者に責任を被せない形で、担当セクションではなかなか見直しが進まなかった10年以上停滞している事業や今後長期に停滞する見込みのある事業に時間というものさしを当て、該当する事業を機械的にリスト・アップして見直し作業に入るシステム。これまで対象にした9件のうち、休止又は廃止、凍結という結論が8件、事業の内容を変えて継続というものが1件。
- 平成10年度からは予算事業を単位として「政策アセスメント」の試行を行い、まず約2,800の事業について事業担当部が調書を作成し、自ら事業を評価し、各部局の施策の柱ごとに優先順位付け。こうした一次評価について、副知事をキャップとする検討チームが全庁的な視点で二次評価を行い、その情報を公開。公共事業については、補助事業、単独事業の全地区約3,400箇所について評価し、その結果をすべて公開。
- 政策アセスメントに関する情報は、行政情報センターと各支庁に備え付けるとともに、道庁のホームページでも公開。1万ページ程度の情報量。
- 北海道の政策評価システムは、中心となる施策評価と事業評価の二層の評価及び開発公共事業の地区別評価。財政当局の行う予算編成と人事当局の行う組織機構とも関係させ、政策評価を道政運営の基本システムにしたい考え。事業評価と施策評価の違いについては、予算事業は道全体で約3,000ある一方で、施策区分では総合計画の実施計画があり、10年間の基本計画及び5年間の実施計画という区分で約900の主な施策が盛り込まれている。この施策区分ごとに、施策の中身を構成している各事業の方向性を整理しようという狙いがある。いくつかの事業が集まって一つの施策が構成されるという関係。事業の担当課と施策の担当課が異なる場合は、施策担当課で責任を持って評価を行うことが基本。
- 時のアセスメントも政策アセスメントも職員自ら仕組みを作り、自分たちで評価作業をするという性格が強い。第三者的な外部の評価を取り入れる意見もあったが、行政自らの改革への取組を大切にし、個々の施策の結論は自ら出したいという思いが強くあった。ただし、ある事業を途中で廃止するためには大きなエネルギーが必要であり、単なる事務作業ではなく、トップの決断をシステムに組み込まないと難しい。
- 政策評価の一番大きな役割は、得られた評価結果や膨大な資料を、道庁のような縦割り組織の中で情報を共有することであり、また、担当職員が自分の仕事を自己点検する機会を得られるということ、更に評価結果を議会や住民に提供して議論を始めるための共通の土俵づくりを行うことにある。
- 予算と政策評価をリンクさせると、担当部局の方は予算を削られるのを避けようとするあまり、様々な思惑が絡んで政策評価自体が歪むという経験もしており、今後とも改善が必要。
- 政策評価には情報開示が不可欠であり、道庁の職員も行政の持つ情報を積極的に開示・提供していくことで行政に対する信頼が生まれることを肌で感じている。今までのような行政の独善的な面や閉鎖的な面がこのような作業を通じて修正され説明責任も果たすことで、職員の意識もかなり変わってくる。そのため、積極的に課長補佐又は係長クラスの職員研修で政策評価を取り上げている。
- また、政策評価システムに合わせて、他の基本システムや周辺システムの整備を考えており、外郭団体の評価システムや道に34ある試験研究機関が取り組む個々の試験研究テーマごとの評価などを考えている。
石川北海道総合企画部政策室政策評価課長の発表を踏まえ、以下のような意見交換が行われた。
(村松座長)
- 政策評価システムを作るに当たり、議会に対しては、どの段階でどのような説明を行っているのか。
- 知事が作る第三者機関の設置要綱はどのくらいの分量か。
(石川課長)
- 議会に対しては、政策評価の基本的な仕組みをつくった段階、中間の結果をまとめた段階、最終的な結論が出た段階で、常任委員会に報告。また、定例会ごとに複数の議員から質問。
- 第三者機関の設置要綱自体は非常に簡単なもので、政策評価の実施状況と政策評価のシステムの在り方について意見を述べるという二つの目的が柱であり、知事の私的諮問機関という位置づけ。
(久保研究協力者)
- 警察本部の施策が評価対象に入っていないが、理由は何か。
(石川課長)
- 北海道の場合、政策アセスメントと情報公開がリンクしており、調書はすべて公開するという前提で作業に入るが、警察は今のところ情報公開条例の実施機関から外れているため、結果として政策アセスメントの作業からも外れている。
(山谷研究協力者)
- 事業評価と開発公共事業評価を分けた最大の理由は何か。
(石川課長)
- 公共事業の場合、単に予算の事業区分に基づいた事業評価だけでは不十分であり、その中の内訳を個々の地区別に評価する必要があるからである。
(田辺研究協力者)
- 政策評価担当課と予算担当課は原則的には別だと思うが、評価結果が予算担当課に渡されると当然査定の材料としても活用。しかし、重点施策の方を先に決めた場合、査定の自由度が減ることになるが、調整は行っているのか。
- 事業評価表を中期計画や長期計画にリンクさせるためのメカニズムはあるのか。
(石川課長)
- 組織的には総務部財政課と総合企画部政策評価課とに分かれている。政策評価で作成した資料はそのまま予算担当課に渡しているが、政策評価課には来年度の重点施策を検討するという仕事があり、道庁では前年度にスクラップした財源を重点枠として翌年度に政策評価課が中心になって決めるという仕組みをとっている。これについてはシーリングの対象外としており、トップの政策会議で事前に重点施策を決めた後、予算編成に入ることになっている。
- 総合計画とのリンクは難しい問題。ただ、今年は総合計画がスタートして2年目で点検の年に当たり、政策評価課の行った施策評価の調書と、同じ総合企画部の計画推進室が別途持っている点検のための資料を合わせてみることで、総合計画の推進管理に役立つように事前に調整し、各部局に作業してもらっている。
(星野研究協力者)
- 施策評価と事務事業評価の関係付けが重要。施策評価の対象は各課が実施する事業を単に括ったものを施策として扱っているのか、それとも総合計画から演繹的に落としていったものを施策として評価するのか。
(石川課長)
- 政策評価の仕組みは総合計画を作成した後に導入したもの。現在の総合計画の施策区分は各課の事業を括ったという性格が強い。政策評価システムを充実させることは、最終的には総合計画や組織機構、予算の面を含めた見直しという段階まで行くのではないかと考えている。
引き続き事務局から政策評価の類型に関する討議テーマについて説明があった後、以下のような意見交換がなされた。(討議の基になった三類型については別紙を参照。)
(久保研究協力者)
- 国の行政機関で政策評価を行う際には、「業績評価」、「プロジェクト評価」、「プログラム評価」という三類型の全てを実施するのか。業績評価を行うのが重要であり、それ以外にプロジェクト評価やプログラム評価を行う必要があるのか。
(若生室長)
- 業績評価は、政策を体系化した上で、目標値を掲げてその達成度を見るもので、行政全体を広くカバーする一覧性のある評価。プロジェクト評価は、個々の事業を対象として、事前にその事業を実施するかしないかという観点から費用便益分析等を行い、採択に必要な情報を得るもの。規制であれば規制インパクト分析などにより個々の規制を新設する場合にその分析を行う。プログラム評価は、単に目標達成度ということではなく、施策の効果を多面的にいろいろな手法を用いて実証的・総合的に評価。この三つの評価は、それぞれ目的や評価の結果として出てくる情報の性格が異なるため、政策評価としてはこれらを適切に組み合わせてはどうか。
(星野研究協力者)
- 業績評価は、政策を体系化する中で評価を行っていくものであり、他の2つの評価は、業績評価の補完的な手法であると位置付けられるのではないか。業績評価がまずあり、その次にその評価のやり方として従来型のプログラム評価やプロジェクト評価が、分野や対象領域によって組み合わせられるのではないか。
- 業績評価は、目標達成度評価という側面とともに、狙っていること自体が税金を使って行うべきものなのか、効率性や有効性以前に目的そのものが妥当かどうか、また、地方との分担の中でその事業を国が行う必要があるかということを、常に評価するもの。また、三重県のように事前評価もあり得る。
(田辺研究協力者)
- この類型は、現在行われている様々な政策評価を概ねカバーできる。ただ、全ての事務事業に目標値を設定すると、PPBSのように機能しなくなるおそれがあるので、プログラム評価やプロジェクト評価は業績評価とは別個に行った方がよい。これらの評価と業績評価とは、全く種類の異なるものである。
(奥野研究協力者)
- 業績評価を目標達成度評価と位置付けるのではなく、目標値が作れないものについては、もう少し柔軟な形で業績評価を行い、その情報公開により透明度を高める。その中でできるものについては、プロジェクト評価とプログラム評価を行い、それができないのであればその理由をきちんと説明するという形の方がわかりやすい。
(金本研究協力者)
- 今回の三類型による整理は、評価対象や手法の問題が組み合わさってしまっているため、混乱を招きやすいのではないか。現状では使えない手法でも将来的には使えるようになるという場合もあるので、手法に着目して分類するのは適当ではないのではないか。
- 政策評価は、その目的である「計画の企画立案能力を高める」ということを果たせないと意味がない。過去の政策を評価する場合も、将来の政策を良いものにすることが目的。
- 年金のように個別プロジェクトという形では捉えられず、プログラム評価的なものしかあり得ないものもある。その場合の手法としては、費用便益分析を用いることが必要。年金について目標達成度評価をしたり、中途半端な比較分析をすることは逆効果な場合もある。
- 政策評価を「目標達成度の評価」と考えることはかなり危険。目標達成の多くは獲得した予算の大小や民間の行動にかかっており、この考えを進めれば、予算獲得のためのみの政策評価しか行わないということになる。評価対象から漏れる範囲が大きくなることも問題。
- したがって、業績評価にプロジェクト評価のコンセプトを反映することが重要。業績評価でほぼ全部を評価することにしても、具体的にどのような評価をすればよいのかについて各府省に意見を聞いた方がよい。例外を作らず、何らかの形で国民の目に触れさせるという観点が重要。
- また、目標達成度のような評価は、住民に近いサービス提供のような事業についてはある程度有効だが、国の政策に関しては意味がないケースがかなり多いのではないか。
(久保研究協力者)
- 成果指標で評価できそうもないものまで無理やりやるのではなく、柔軟に評価を行うという部分があってもよいのではないか。ただ、体系的・網羅的に実施することも必要なので、補完的な手法も使っていくことだと思う。
- 政策評価の導入に当たって留意すべき事項は、1.最小の努力で最大の成果が得られるようにすること、2.法制化する場合も細部について画一的に規定してしまうと政策評価自体がやりにくくなってしまうこと、3.作業量が多すぎると評価ができなくなってしまうこと。政策評価自体にコストをかけ過ぎることはそれ自体が無駄だと言われかねず、業績評価の対象としては、施策レベルを中心に捉えるのが現実的。
(星野研究協力者)
- 施策と事務事業といったレベルの具体的なモデルが必要。
- 政策評価になじむなじまないという議論は、最初から安易になじまないものと考えて評価をしない、避けることになりがちなので、目的を明確にして成果指標の原則を示してそれをチェックすることが必要。
(村松座長)
- 業績評価においては、数量化できない場合でも、できるだけ明確に目標を述べてもらうということでよいか。
- 評価方法について、中期的な目標と毎年度の達成度を測定するための指標を設定すると考えることについてはどうか。また、定量的なアウトカム指標が設定困難な場合は、定性的な指標やアウトプットを認めてよいか。
(星野研究協力者)
- 目標については、なぜその目標値にしたのかといった根拠や前提条件までの報告を義務づけないと、一般国民には十分に伝わらない。そもそも目標値の設定は、指標の設定、現状値の把握、将来の成り行き予測、そして次年度や計画年度までの目標設定の段階を確実に踏むことが重要。
- アウトプットのほうが「一生懸命やった」ということが示しやすいが、目的達成度を測るという意味ではアウトカム指標が必要。指標はきちんと作っておき、現状値の把握の手立てとそれができない場合はその理由の明記を義務づけるという条件付きで認めることにすべき。さもないと、アウトプット指標だけで済ませられると言う風潮を生む。
(金本研究協力者)
- 指標自体にこだわることは意味がない。むしろ、政策を訴える際にどのようなフレームで説明するかを考えることが重要。業績評価を行うにしても、国民に対してコストを説明できるようなフォーマットをきちんと作成すべきである。
- 国の場合、上から押し付けで基準を作ってやっていくのではなく、基本的には評価を行う担当者の創意工夫が必要。英国のように、よい評価について表彰するという仕掛けがないと動かないような気がする。
(村松座長)
- 予算との関係は重要だが、あまり直接に関わるのは問題がある。とりあえずは予算の問題とは独立的に考える方がよいのではないか。
(田辺研究協力者)
- 基本的には別のものだとは思うが、業績評価の際に、ある指標の達成にコストがどれだけかかっているかを評価する場合には、予算とリンクしていないとかえって面倒なことになる。
(久保研究協力者)
- GPRAでは予算とのリンクもある程度見ており、基本的に予算の項目との対応関係はあってしかるべきではないか。
(金本研究協力者)
- 政策評価を毎年実施するなら、予算や定員管理にリンクしていないと評価担当職員のやる気がおきない。政策評価に合わせて予算のプロセスを改善していく必要がある。
- 予算とは直接リンクしない政策については別途考える必要がある。例えば、規制インパクト分析を毎年行うことは非現実的であり、法令改正や省令改正等のタイミングに合わせるのが普通だ。
(星野研究協力者)
- 予算要求にこだわりすぎると具合が悪いかもしれないが、決算報告を行う際に政策評価を使うことを義務付けてはどうか。
(村松座長)
- 決算については会計検査院でやっているが、これは1年遅れで出てくる。これと評価の関係をどのように考えるか。
(村松座長)
- 時々の重要問題を取り上げて評価をするというプログラム評価のようなタイプは十分あり得る。こうした大きなものは、評価の手法も多面的で、一つのテーマについて毎年実施するものでもない。
(久保研究協力者)
- 「時々の重要課題」は各府省で判断するとなると、場合によっては故意に重要課題を取り上げないことも考えられないか。
(村松座長)
- 制度的には自己評価なので、まず各府省で判断するということだろう。しかし、今御指摘があったようなことが起こった場合には、総務省で取り上げられるのか。
(畠中審議官)
- 重要課題の取り上げ方については、基本的に各府省の判断。しかし、例えば国会で議論になったような政策が各府省で取り上げられなかった場合には、総務省で補完的に取り上げるようなこともありうる。
(村松座長)
- 研究開発の評価はしっかりやるべきだが、計画や目標を上から下ろしていくというやり方は適当でないのではないか。その意味で、評価方法は他の分野と違ってくるのではないか。
(若生監察官)
- 研究開発については、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」の中でそれぞれ検討が行われており、今後の議論を踏まえることが必要。
(村松座長)
- 業績評価、プロジェクト評価、プログラム評価の位置づけについては議論があるようだが、対象、時期、方法でその位置付けにについて検討するにしても、一応、三類型が考えられるということで、引き続き検討してまいりたい。
以上
(文責:総務庁行政監察局政策評価等推進準備室)
別紙 政策評価の三類型
| 業績評価 (目標達成度評価) | プロジェクト評価 (事務事業評価) | プログラム評価 (施策評価) |
主な目的 | ・国民の視点に立った成果重視の行政の実現 ・アカウンタビリティの徹底 <わかりやすさ、一覧性、継続性> | ・行政の質の向上 <効率性・必要性> ・アカウンタビリティの徹底 <意思決定過程の透明性> | ・行政の質の向上 <有効性> ・アカウンタビリティの徹底 <総合性> |
特徴 | 政策を体系化し、施策に目標を設定してその達成度を指標により測定。 | 現行の施策を前提として、事業や規制等を評価。採否の決定等が中心。 | 施策そのものを評価の対象とし、意思決定権者に対して政策改善のための情報を提供。 |
評価対象 | 特になじまない分野を除いて実施 | 原則として新規の事務事業を対象として実施 | 全分野を対象とするが、重点的に実施 |
実施時期 | 事後・定期的に評価 | 事前評価が基本(途中・事後のフォローアップ評価を含む。) | 事後評価が基本 |
評価方法 | 政策の体系化と目標の指標化 (可能な限り定量化) | 評価対象の性格に応じた評価方法 (例:公共事業−費用便益分析(費用対効果分析)、規制−規制インパクト分析、研究開発−ピア・レビュー(専門家による評価)等) | コスト分析、比較分析、統計解析、サンプル調査、事例分析など様々な手法による実証的・総合的な評価 |
産出情報の 主な性格 | 成績点検情報 | 判断情報 | 問題解決情報 |
具体例 | ・三重県の事務事業評価システム ・東京都のベンチマーク・システム ・米国のGPRA(政府業績成果法) ・英国のCSR/PSA(業績評価制度) | ・公共事業、規制、研究開発、ODA、補助事業などの評価 | ・GAO(米国会計検査院)のプログラム評価 |
ページトップへ戻る