空港の整備等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告

 

 

 

 

 

 

平成13年5月

 

総務省

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前  書  き

  我が国の航空輸送は、高速交通ニーズの高まり等を背景として急速な発展を遂げ、平成11年度の航空旅客数が、国内航空で約 9,000万人、国際航空で約 5,000万人に達する等、国民生活に欠くことのできない交通手段となっている。
  国は、航空の発達に寄与するため、昭和31年に空港整備法(昭和31年法律第80号)を制定し、さらに、42年度からは空港整備五(七)箇年計画を策定し計画的な空港の整備等を行ってきており、平成8年度を初年度とする第7次空港整備七箇年計画(事業規模3兆 6,000億円)では、首都圏、近畿圏等の大都市圏拠点空港の整備を最優先課題として事業を推進している。このような空港整備の結果、平成11年度末現在で供用中の空港は、自衛隊設置の飛行場を民間航空の用に供しているもの等を含め94空港になっており、また、滑走路の長さ等の施設規模の面においても充実が図られてきている。
  一方、空港整備事業を含む公共事業については、国の財政事情の極めて厳しい中、重点的かつ効果的な投資を行うことが要請されており、事業採択時等において、その必要性、効率性等の観点からの評価を的確に実施することが一層必要な状況となっている。このため、空港整備事業の採択時の評価の基礎となる需要予測については、常にその予測方法の改善余地について検討し精度の向上に努めるとともに、空港整備事業の評価制度において評価の一要素とされている費用対効果についても、事業の実施による便益及び費用について実態を踏まえた的確な分析を行うことが求められている。
  また、近年、国民に対する行政の説明責任の徹底が求められており、このような観点から、空港整備事業に係る評価の具体的内容を国民に明らかにしていくことが必要な状況となっている。
  さらに、空港をめぐっては、航空機の運航の円滑化と安全性の向上を図る観点から、航空保安施設等の整備及び近代化が要請される一方で、これらの施設等の保守管理体制については、業務運営の効率化の観点から、技術革新に対応した見直しが必要となっている。
  この行政評価・監視は、このような状況を踏まえ、空港の整備等に関する行政運営の実態について調査し、関係行政の改善に資するために実施したものである。


目      次


 効率的かつ効果的な空港整備等
(1)  需要予測の精度の一層の向上及び透明性の確保
(2)  空港整備事業の評価の的確な実施
(3)  重点的かつ効果的な空港整備等
 航空保安無線施設の効果的整備
 保守管理業務の合理化・適正化
 契約事務の適正化等
 空港整備特別会計に属する未利用国有地の処分促進



1  効率的かつ効果的な空港整備等
(1)  需要予測の精度の一層の向上及び透明性の確保
  空港には、空港整備法(昭和31年法律第80号)に基づき、国土交通大臣が設置・管理するもの、国土交通大臣が設置し地方公共 団体に管理させるもの、特殊法人や国土交通大臣が指定する者(以下「指定会社」という。)が設置・管理するもの(以下「特殊法人等管理空港」という。)及び地方公共団体が設置・管理するもののほか、自衛隊や米軍が設置する飛行場を一般公衆の用に供しているもの(以下「共用飛行場」という。)等がある。これらの空港の新設、既存空港の滑走路の延長等の空港整備事業は、それぞれの空港の管理者が事業主体となって実施しており、また、共用飛行場のうち民間航空の用に供する施設については国土交通大臣が整備している。
  空港整備事業に要する事業費は、国土交通大臣が設置・管理する空港及び共用飛行場(これらを以下「大臣管理空港」という。)については空港整備特別会計から支出されており、特殊法人等管理空港については特殊法人及び指定会社に対して事業費の一部として同特別会計から出資金及び無利子貸付金が、国土交通大臣が設置し地方公共団体に管理させる空港及び地方公共団体が設置・管理する空港(これらを以下「地方公共団体管理空港」という。)については地方公共団体に対して負担金及び補助金が支出されている。
  空港整備事業の実施に当たっては、当該事業の実施の必要性、緊急性等について事前に評価を行うため、将来において当該空港を利用すると見込まれる航空旅客数等を予測すること(以下「需要予測」という。)が不可欠であり、また、当該空港において整備が必要な滑走路長等の空港施設の規模の検討のため、需要予測を行った航空旅客数等を基に就航が見込まれる航空機の機材等を想定する必要がある。このため、国土交通省は、国土交通大臣が事業主体である空港整備事業については自らが需要予測を実施し、地方公共団体が事業主体である空港整備事業については当該地方公共団体が実施した需要予測の結果等を提出させている。また、特殊法人又は指定会社が事業主体である空港整備事業については、各事業主体が、国土交通省が実施した需要予測を基礎にその空港の需要予測の数値を設定している。
  なお、空港整備事業の採択の判断の一要素として国土交通省が平成9年度から実施している費用対効果分析においては、予測される航空旅客数等を基に当該空港を整備することによる便益を計測することとされていることから、実態に即した的確な費用対効果分析の実施のため、適切な需要予測がなお一層求められる状況となっている。

  今回、全国の43空港(大臣管理空港18空港、特殊法人等管理空港3空港、地方公共団体管理空港22空港)について、需要予測の実施状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。
  需要予測の精度の一層の向上
  国土交通省では、需要予測の方法について、特に基準、マニュアル等は定めていないが、一般的に、いわゆる「4段階推定法」を用いているとしている。この4段階推定法は、交通量の予測に用いられる代表的方法であり、例えば、国内航空旅客数の予測の場合、次のように4段階に分けて予測する方法である。

(第1段階)
  国内の旅客流動量(鉄道旅客数と航空旅客数の合計を用いる方法が一般的)の総計(以下「国内旅客総流動量」という。)の実績値から将来の国内旅客総流動量を予測

(第2段階)
  国内旅客総流動量の予測値及び地域(都道府県単位に区分。北海道は4区分。)ごとの旅客流動量(以下「地域別旅客流動量」という。)の実績値から将来の地域別旅客流動量を予測
(第3段階)
i)地域別旅客流動量の予測値及び地域相互間の旅客流動量(以下「地域間旅客流動量」という。)の現況の実績値から将来の地域間旅客流動量を予測
ii)次に、需要予測の対象空港(以下「自空港」という。)及び航空路線の相手方となる空港(以下「相手空港」という。)について、これらの空港への需要が発生する可能性のある区域(以下「空港勢力圏」という。)を設定し、地域間旅客流動量のうち空港勢力圏間の旅客流動量を推計
(第4段階)
i)空港勢力圏間の旅客流動量のうち自空港を利用する旅客と競合する他の交通手段(近隣の他空港を利用した航空及び鉄道)を利用する旅客の割合(航空分担率)を予測
ii)上記で推計した空港勢力圏間の旅客流動量に航空分担率を乗じ、路線別の航空旅客流動量を算出
  また、この4段階推定法を用いずに需要予測する場合であっても、その予測の過程では、4段階推定法の第3段階及び第4段階で行われる自空港及び相手空港の空港勢力圏の設定、航空分担率の予測等の手法は用いられている。
  今回調査した43空港のうち、空港を新設し、あるいは滑走路延長事業を実施し、平成元年度以降10年度までに供用開始した空港で、需要予測値と実績値との対比が可能な15空港(大臣管理空港5空港、地方公共団体管理空港10空港)についてみると、9空港(大臣管理空港3空港、地方公共団体管理空港6空港)は、航空旅客数の実績値が事業採択時に予測した数値を下回っており、このうち4空港(大臣管理空港2空港、地方公共団体管理空港2空港)では、予測した数値の半分以下となっている。
  このように実績値が需要予測値を下回ることとなった背景には、近年の景気低迷による航空輸送需要の伸び悩みが影響しているとも考えられる。このように、需要予測は精緻な想定を行うためには困難な要素があるものの、空港整備事業の事前の評価を的確に実施するためには、常に需要予測の方法の改善余地について検討し、その精度の一層の向上に努めることが必要と考えられる。
  このような観点から、空港整備事業の採択時の評価の基となる航空旅客数に係る需要予測の実施状況を調査したところ、大臣管理空港及び特殊法人等管理空港については、需要予測に適用した手法(4段階推定法)、経済成長率等を記述した記録が保存されているのみで、使用した予測モデルの具体的内容、基礎データの採り方等の需要予測の方法が妥当なものであるか否かを検証するに足る記録が保存されていないため、需要予測の内容を分析し評価することはできなかった。しかしながら、これを検証するに足る記録が保存されている地方公共団体管理空港19空港(空港を新設し、あるいは滑走路延長事業を実施し、平成元年度以降に供用開始した空港及び平成11年度現在これらの事業を実施中の空港)の需要予測の方法等の状況についてみると、次のとおり、需要予測の際に使用する仮定等の前提条件、予測手法、基礎データの採り方等について、改善を要すると認められる例がみられた。
(ア)地域間旅客流動量
  地域間旅客流動量は、国内旅客総流動量や地域間旅客流動量の実績値等から予測するもので、航空旅客数に係る需要予測の前提となるものであるが、この予測については、次のような状況がみられた。
1)  地域間旅客流動量の予測の対象は、都道府県を単位(北海道は4区分。)とした地域相互間の旅客流動量であり、この予測を行うに当たり使用される旅客流動量の統計データ等の基礎データは各空港で共通のものである。
  このため、予測の前提や手法に多少の相違はあっても、予測の実施時期が同一であれば、同一の地域間旅客流動量の予測値は、どの空港について予測する場合でも、本来、大きな差異が生ずるものではない。
  地域間旅客流動量の予測に必要な基礎データの把握に当たり、地域間の鉄道旅客流動量については年間統計データがありこれを利用できるが、地域間の航空旅客流動量については年間統計データがない。このため、地域間の航空旅客流動量については、国土交通省が隔年実施する航空旅客動態調査(特定日を抽出して国内線航空旅客の流動パターン等を調査するもの)の結果を用いて年間の実績値(推計値)を算出することになるが、その算出方法が需要予測を実施した空港によって異なっている例がある。また、地域間の航空旅客流動量及び鉄道旅客流動量の年間の実績値を基に分析する地域間旅客流動量の将来の伸びの予測方法も、空港によって異なっている例がある。このため、同一時期にほぼ同一の前提で予測したにもかかわらず、同一の地域間旅客流動量の予測値が空港によって大きく異なる結果となっている例がみられた。
2)  地域間旅客流動量の実績値と経済指標(国民総生産)を基礎データとし、両データの相関関係を表すモデル式を構築して地域間旅客流動量を予測する手法を用いている空港の中には、地域間旅客流動量の実績値の採用に際して、特定の年度の実績値を特異値として除外すべきか否かの判断根拠が明確とはいえず、かつ、両データ相互間の相関が低いものが含まれている例がみられた。
(イ)  地域内における自空港勢力圏の占める割合
  自空港を利用すると見込まれる航空旅客数は、一般的に、自空港勢力圏を細分した地区別に予測される航空分担率とその地区の旅客流動量とを乗じた数値を合計することにより求められる。このため、自空港勢力圏を設定した後は、自空港勢力圏の各地区別の旅客流動量の推計が必要となる。
  この自空港勢力圏の地区別の旅客流動量を推計する方法としては、地域間旅客流動量に地域に占める各地区の割合を乗ずることによって配分する方法が用いられており、この割合は、地域に占める各地区の人口比率、卸売販売額比率等の各種指標を用いて設定されている。
  一方、地域間旅客流動量は、商工業等の業務旅客、観光旅客等から構成されており、これらの旅客の構成割合は地域の特性によって異なっていると考えられる。このため、地域間旅客流動量を地域内の各地区へ配分する割合を定めるに当たっては、当該地域の旅客構成の特性を反映すると考えられる指標を適切に選定し、同時に、当該指標を用いることを妥当とした根拠を明らかにすることが必要である。
  しかし、具体的な配分割合の設定において、指標としての選定根拠を明らかにしていない例がみられた。
(ウ)  航空分担率
  自空港勢力圏と相手空港勢力圏との間の旅客流動量のうち自空港を利用する航空旅客流動量の割合(航空分担率)を的確に予測するためには、自空港を利用した航空以外に将来旅客が選択する可能性のある他の交通手段(近隣の他空港を利用した航空及び鉄道)を適切に設定し、自空港を利用した航空と他の交通手段について、相手地域までの運賃、所要時間等の競合条件を比較・分析することが必要であるが、この予測については、次のような状況がみられた。
1)  現在、隣県において、自空港と競合することとなる空港を整備中であるが、当該空港との競合を想定することなく自空港の航空分担率を予測している例がみられた。
2)  同一空港勢力圏内でも地区によって交通手段を利用する上での利便性が異なる場合には、航空分担率は、空港勢力圏を細分した地区別に予測する必要がある。しかし、このような細分を行わず空港勢力圏の中心都市のみで予測し、当該都市が空港近接地であるために、結果的に、地区別に予測した場合に比較して高い航空分担率が適用されているとみられる例がみられた。
3)  自空港の航空分担率を予測するに当たり、東京国際空港等における路線別の航空分担率の実績値を基に導き出したモデル式等を適用する手法を採っている場合において、路線別の航空分担率の実績値を算出する際の前提となる航空旅客数と鉄道旅客数との把握範囲の整合が十分でない例がみられた。
  また、このような予測手法を用いている空港の中には、予測モデルの精度の信頼性を検証しないまま予測している例がみられた。
4)  自空港からの直行路線がない地域へ旅行する需要については、自空港が直行路線を設定している相手空港で乗り継いで当該地域へ旅行する需要が有り得るが、近隣空港に当該地域への直行路線がある場合には、自空港勢力圏内の旅客にとっても近隣空港の方が利便性が高い場合がある。このような場合、航空分担率の予測段階で、自空港から相手空港を経由して目的地へ旅行する場合と近隣空港の直行路線を利用して目的地へ旅行する場合との所要時間及び所要費用を比較・分析する手法を用いれば妥当な予測結果が得られると考えられる。
  しかし、近隣空港との競合を分析する航空分担率の予測手法を用いず、自空港からの直行路線がない地域への航空旅客はすべて相手空港での乗り継ぎにより目的地の空港まで旅行すると想定して需要予測しているが、実際には、目的地の空港への直行路線を有する近隣空港を利用する旅客が多いとみられ、自空港及び相手空港を利用した乗り継ぎ旅客は少ない例がみられた。
(エ)  独自の手法の適用
  自空港の航空旅客数を予測するに当たって、一般的に用いられている4段階推定法ではなく、近隣空港の航空旅客数の伸び率を自空港の航空旅客数の伸び率として適用する独自の手法を用いているが、このような手法を用いることの妥当性の検証が十分でない例がみられた。
(オ)  空港勢力圏が相当程度重複すると考えられる複数の空港が整備される場合の需要予測
  整備される空港の中には、他の空港と空港勢力圏が相当程度重複すると考えられるものがある。こうした場合、空港整備の必要性の評価においては、地域全体の今後の需要の見通し及びその需要の既存空港での受入れの余地、一つの空港を整備することによる他の空港の需要への影響が勘案されることが必要であり、そのためには、当該空港の需要のみならず、地域内の他空港及び地域全体の需要の見込みが明らかである必要がある。
  しかしながら、一般的に需要予測は、自空港に係る結果を明らかにするものとして行われてきたことから、予測結果として明らかにされているのは自空港に係る需要の見込みのみであり、他空港及び地域全体の需要の見込みについては明らかにされていない。
  需要予測の透明性の確保
  中央省庁等改革基本法(平成10年法律第 103号)は、政府の政策評価機能の充実強化を図るため、政策評価の情報の公開を進めることとしている。
  需要予測の結果は、空港整備事業の採択の必要性等を評価する上での重要な指標の一つであり、評価の客観性・透明性を確保するためには、その結果に至った需要予測の方法が公開される必要がある。
  また、需要予測の方法の公開に当たっては、部外からの予測方法の検証が可能となるようにすることが必要であり、そのためには、予測の過程を含めて予測方法を具体的に記述した記録を整備し、これを保存することが不可欠である。
  しかし、今回、現在空港整備事業を実施中の空港について、需要予測の方法の記録の保存状況及びその記述内容を調査したところ、国土交通省においては、事業採択時の予測方法を検証するに足る内容を記述した記録が保存されていない。また、地方公共団体においては、予測方法の記録が保存されているものの、予測方法の概要の記載のみで、使用した予測手法や基礎データあるいは予測結果について詳細な記載がないもの等、予測方法を部外から検証するには記述内容が不十分な例がみられた。

  したがって、国土交通省は、空港整備事業に係る需要予測の精度の一層の向上及び透明性の確保を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  空港の需要予測の方法について、次の事項を検討の上、留意すべき事項を取りまとめ、これを事業主体に示すこと。
i)地域間旅客流動量について、需要予測を実施する空港によって予測結果が大きく異なることがないようにするための予測方法に係る基本的事項
ii)  地域内における自空港勢力圏への地域間旅客流動量の配分や航空分担率の算定等、地域の特性を考慮した指標、基礎データ及び前提条件を選定して予測が行われる事項について、当該指標等の選定根拠の明確化、予測手法の信頼性の検証等のために必要な事項
  また、空港勢力圏が相当程度重複すると考えられる複数の空港が整備される場合においては、地域内の他空港及び地域全体の需要の見込みを明らかにすることとし、この点についても事業主体に示すこと。
2)  国土交通省が実施する需要予測について、使用した予測手法、基礎データ等のうち部外からの予測方法の検証に必要なものの記録を整備・保存し、これを公開すること。
  また、地方公共団体に対し、同様の措置を講ずるよう要請すること。
(2)  空港整備事業の評価の的確な実施
  国土交通省は、新規空港整備事業の採択時評価に当たっては、従来から考慮している空港整備五箇年計画等の政策目標、需要動向、地元の調整状況等に加え、平成9年度から評価の一要素として費用対効果分析を実施し、その結果を公表している。さらに、平成11年4月に、「航空局関係公共事業の新規事業採択時評価実施細目」(平成11年4月14日付け空総第2007号・空経第 263号運輸省航空局制定)を定め、空港整備事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図ることとしている。
  また、同省は、平成9年12月の「物流効率化による経済構造改革特別枠」に関する関係閣僚会合における内閣総理大臣の指示を受け、10年4月に「航空局関係公共事業再評価実施細目」(平成10年4月1日付け空経第 288号運輸省航空局制定。平成11年4月14日改正)を定め、事業採択後一定期間を経過して継続中の事業等について再評価を実施することとしている。
  これら空港整備事業の評価制度において評価の一要素とされている費用対効果分析について、同省は、平成11年度に「空港整備事業の費用対効果分析マニュアル」(以下「費用対効果分析マニュアル」という。)を策定し評価を実施している。
  さらに、同省は、事業実施による効果の確認等のため、事業の事後評価制度の導入に向けて検討を進めているところである。

  今回、空港整備事業に係る事業評価制度及びその運用状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
  費用対効果分析マニュアルにおける供給者便益の計測方法の見直し等
  空港整備事業の費用対効果分析は、空港を整備することにより利用者が受ける時間短縮等の便益(以下「利用者便益」という。)及び空港管理者等の供給者が受ける増収等の便益(以下「供給者便益」という。)と費用(建設費、維持改良費等)とを比較考量する方法である。
  このうち、供給者便益の計測方法については、以下のような問題がみられた。
1)  費用対効果分析マニュアルにおいては、便益及び費用の計測方法を定めており、供給者便益については、空港整備事業の実施による空港管理者等の収入の増加額から空港の維持運営に要する費用の増加額を控除して算出することとされている。
  実際の空港の維持運営に要する費用としては、滑走路等の施設の維持補修を行う空港管理業務に係る費用、航空管制業務及び当該業務に必要な諸施設の維持補修業務(以下「管制等業務」という。)に係る費用、航空気象業務及び当該業務に必要な諸施設の維持補修業務(以下「気象等業務」という。)に係る費用等がある。
  しかしながら、費用対効果分析マニュアルにおける供給者便益の計測方法をみると、空港管理業務については、着陸料等の収入の増加額から空港施設の維持補修費の増加額を差し引いて便益を計測するとしている一方、管制等業務については、航行援助施設利用料の収入の増加額と航空路管制及び飛行場管制等の費用の増加額とは相殺されるものと仮定して費用、便益とも計上しないこととしている。また、気象等業務に係る費用については、費用対効果分析マニュアルにおいて計測項目として考慮されていない。しかし、以下の状況から判断して、供給者便益を的確に計測するためには、管制等業務及び気象等業務に係る収入及び費用の増加額についても算入する必要があると認められる。
i)管制等業務に要する費用の大半を占める職員費の基礎となる要員数が同規模の空港であっても、航行援助施設利用料収入が相違しており、管制等業務に係る収入の増加額と費用の増加額が一律に相殺される状況にはないこと。
ii)気象等業務は空港を運営する上で必要不可欠な業務であり相当程度の費用を要し、少なくとも空港の新設時には費用増が発生すること。
  ちなみに、国土交通省が実施した費用対効果分析においても、空港整備事業の実施により飛行場管制の運用変更に伴う費用増が発生するとして、供給者便益の計測に当たり航行援助施設利用料の収入の増加額と飛行場管制業務に係る費用の増加額を算入している例がみられた。
2)  費用対効果分析の対象空港における供給者便益の計測に必要となる費用の増加額を的確に推計するためには、その基礎データとして、当該空港の空港管理業務、管制等業務及び気象等業務に係る費用を把握することが不可欠である。このため、費用対効果分析の対象空港について、空港整備特別会計で一括経理されているこれらの業務に係る費用の増加が見込まれる場合には、当該費用を整理・集計することが必要である。
  なお、現状では、空港ごとに特定可能な費用がある一方で、複数空港分をまとめて支出しているなど空港ごとに特定されない費用があるが、この費用については、その性格に着目して、例えば、航空機の着陸回数や従事職員数の比率等一定割合により当該空港分として配分することが可能とみられる。
  一方、地方公共団体管理空港については、地方公共団体が実施する空港管理業務に係る費用は一定程度の把握が可能であり、国土交通省が実施している管制等業務及び気象等業務に係る費用を整理・集計することにより、費用対効果分析の対象空港における供給者便益の計測に必要な費用の増加額を把握することが可能とみられる。
  適切な旅行経路の設定に基づく費用対効果分析の実施
  空港整備事業の費用対効果分析については、平成9年度以降、新規事業採択時評価7件、再評価2件の計9件(国土交通省が実施したもの3件、地方公共団体等が実施し国土交通省に提出したもの6件)が実施されている。しかし、これらの中には、利用者便益の計測に当たり、当該空港が整備されない場合における旅客の負担量の算出において、より負担の少ない旅行経路を選択する余地があったと認められる例がみられた。
  新規事業採択時評価における評価基準の明確化
  国土交通省では、新規事業採択時評価は費用対効果分析を含め総合的に実施することとしている。しかしながら、航空局関係公共事業の新規事業採択時評価実施細目等では、費用対効果以外の評価項目及びその指標について具体的に明定されておらず、平成12年度予算に係る新規事業の採択時評価の実施状況をみると、国土交通省では、費用対効果に加えて地域開発効果、安全性の向上、地元の調整状況等の評価項目も含めて総合的に評価したとしているものの、費用対効果以外の評価項目に係る評価内容については明らかでなく、総合的な評価が具体的にどのように実施されたかが明確となっていない。

  したがって、国土交通省は、空港整備事業の評価の的確な実施及び透明性の一層の向上を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  供給者便益の計測において、管制等業務及び気象等業務に係る収入及び費用の増加額を算入するよう、費用対効果分析マニュアルを見直すこと。
  併せて、空港管理業務、管制等業務及び気象等業務について、費用対効果分析の対象空港ごとに供給者便益の計測に必要な費用を整理・集計し、把握すること。
2)  国土交通省が費用対効果分析を実施する場合には、利用者便益の計測に当たりより適切な旅行経路を設定すること。また、地方公共団体等から提出される費用対効果分析の結果についても同様の観点から審査を行うこと。
3)  新規事業採択時評価における費用対効果以外の評価項目及びその指標を具体的に定め、公表すること。
(3)  重点的かつ効果的な空港整備等
  重点的かつ効果的な空港整備
  我が国の航空輸送量は、国内線及び国際線の旅客数の合計が昭和40年度には約 630万人にすぎなかったが、平成10年度には約1億3,400万人に達する等、著しく増加している。
  国は、航空輸送需要の増大に対応し、昭和42年度以降、空港整備五箇年計画を策定するとともに、45年度に空港整備特別会計を創設し、空港利用者が負担する着陸料、航行援助施設利用料などの収入を主要な原資として、空港整備事業等を推進している。
  第7次空港整備七箇年計画(平成8年12月13日閣議決定。平成9年12月12日改定)策定時の航空審議会答申(平成8年12月11日)等は、国際及び国内の航空ネットワークの拠点となる大都市圏における拠点空港の整備が喫緊の課題であること、2大都市圏と結ぶネットワークを形成するジェット化空港(ジェット機の就航が可能な空港をいう。)の配置及び大型機の就航を図るための滑走路の延長は概成しつつあること等から、空港を大都市圏拠点空港、地域拠点空港及び地方空港に区分し、以下のような整備方針を示している。
i)大都市圏拠点空港の整備を最優先課題とする。
ii)地域拠点空港については、国際及び国内の航空ネットワークの形成及び強化を図るため、所要の整備を推進する。
iii)地方空港については、継続事業を中心とする。また、需要への対応を基本としつつ、既存空港の高質化等を進める。
  一方、空港整備特別会計については、着陸料等の空港使用料収入(平成12年度当初予算:約 2,200億円)で賄うことのできる経費は、空港等維持運営費及び借入金償還(計約 2,000億円)が限度で、空港整備事業費(約 2,300億円)は一般会計からの受入れ及び借入金(計約 2,100億円)によらざるを得ず、近年、一般会計からの受入れの額が増加している状況にあり、国の厳しい財政事情を勘案すれば、なお一層事業の重点化・効率化を図ることが求められる状況となっている。

  今回、空港整備事業の実施状況等について調査した結果、次のとおり、当該空港の需要予測を行った当時には予測方法が確立されていなかったこと等から勘案できなかった要素が、実績に照らして検証してみると、当該空港の需要に影響を与えた要因の一つとなっているとみられる等の例があり、今後、より一層重点的かつ効果的な空港整備を実施するためには、このような要素にも十分配意する必要があると認められる。
(ア)空港の新設及びジェット化
  空港の新設及びジェット化に当たっては、近隣の既設空港との競合等を十分勘案することが必要である。
  従来の空港整備に当たっての近隣空港との競合の検討では、整備しようとする空港と近隣空港を利用して目的地とする空港に至るまでの時間、費用等に基づき、旅客がいずれか一つの空港を選択する割合が分析されているが、旅客がある空港を選択する場合の利便性は、このような要素のほか、当該空港における航空機の運航便数及び近隣空港との運航便数差も影響すると考えられる。
  現に、近年新設又はジェット化された空港においては、首都圏及び近畿圏と結ぶ路線への需要を主体として整備されているものが多いが、中には、発着枠の制約から東京国際空港等への便数を当初想定したとおりに確保することができず、さらに、近隣の空港の運航便数が当該空港の運航便数を大きく上回っており、このような要素が当該空港の需要に影響を与える要因の一つとなって、利用実績が需要予測を下回ることとなったと考えられる例がみられた。その背景には、当該事例に係る空港整備の検討当時において、東京国際空港の沖合展開事業が実施中であったこと等から将来の発着枠の制約を想定することが困難であり、また、近隣空港との運航便数差による需要への影響についても具体的予測方法がなかったという事情があると考えられる。
  しかしながら、現在では、東京国際空港の沖合展開事業はほぼ終了し、当面、首都圏では大幅な発着枠の拡大は見込まれないこと、また、国土交通省においては近年運航便数も分析要素とした予測方法を取り入れているとしていることから、これらの要素に十分配意して今後の空港整備を行う必要があると認められる。
(イ)国際航空需要に対応するための滑走路の延長
  大型機就航のための滑走路の延長が概成しつつある状況にある中、近年、長距離国際路線の航空機の就航可能な滑走路長( 3,000メートル以上)への延長が実施又は計画されてきており、地方空港においても、平成9年度に創設された地方空港整備特別事業(地方公共団体管理空港において、国際交流の促進や冬季における航空機の発着制約の緩和のために、輸送需要に対応した長さを超えて滑走路を延長することができる事業)により、長距離国際路線に対応することを主眼とした滑走路延長事業が実施されている。
  一方、国際航空需要に関しては大都市圏拠点空港の勢力圏が広範囲に及んでおり、現在、大都市圏拠点空港の整備が最優先に実施されていることから、今後、その旅客等の取扱能力が拡大し、他空港の国際航空需要に影響することが考えられる。
  長距離国際路線の需要に対応するための滑走路の延長を現在実施している地方空港では、空港所在県の周辺地域からの利用の可能性があることも考慮して、自県内の国際航空旅客がすべて自空港を利用するのと同程度の需要があるとの想定の下、長距離国際路線が成立するとの判断が行われている。
  しかし、その判断時において、当該地方空港の近隣には多数の長距離国際路線が開設されている大都市圏拠点空港があるのに加え、隣県の地域拠点空港においても同時期に長距離国際路線の需要に対応するための滑走路延長事業を実施しており、これらが当該空港の長距離国際路線の需要に影響を与えることが想定され得る状況にあったが、このような要素を需要予測に取り込んだ検討は行われていない。
  このような背景には、大都市圏拠点空港等では、国土交通省がその整備に当たり国際航空需要の予測を行っているものの、地方空港では、国際航空需要への対応を目的とした空港整備は当該地方空港が初めてであり、地方空港に適した国際航空需要の予測方法が十分確立されていないという事情があったとみられるが、今後の同様の空港整備に当たっては、大都市圏拠点空港等に開設されている長距離国際路線等の要素に配意して行う必要があると認められる。
基本計画の策定・改定に当たっての特殊法人又は指定会社からの意見の聴取
  最優先に整備が進められている大都市圏拠点空港のうち、新東京国際空港、関西国際空港及び中部国際空港は、特殊法人等管理空港である。これらの空港の場合、その新設又は滑走路の増設等の整備に当たっては、国土交通大臣が、施設の規模、工事完成の予定期限等の事項を内容とする基本計画を策定又は改定し、各特殊法人又は指定会社がこの基本計画に適合するように当該空港を設置・管理するものとされている。
  これらの空港の整備は巨額の投資を要するものであるが、その設置・管理は、独立した経営体としての各特殊法人又は指定会社が行うもので、特に、関西国際空港及び中部国際空港は、地方公共団体や民間も出資して設立された株式会社が設置・管理するものであることから、これらの空港の整備及び運営を将来にわたり円滑に行うためには、採算性の確保が重要である。このため、基本計画に適合するように設置・管理するために必要な資金の調達計画等の事業手法の検討に当たっては、各特殊法人又は指定会社から経営の観点からの意見を聴取する仕組みを設けることが必要である。

  国土交通省では、特殊法人等管理空港の基本計画に係る上記のような資金の調達計画等の事業手法の検討に当たって、基本計画の策定時に当該特殊法人又は指定会社が設立されていない場合においては関係地方公共団体及び地元経済界の意見を、また、特殊法人が設置・管理する空港の基本計画の改定時には当該特殊法人の意見を事実上聴取しているとしている。しかし、当該意見聴取はその実施が仕組みとして担保されているものではなく、事業手法についての設置・管理主体の意向の明確化を図る観点から必ずしも十分なものとはいえない。
  したがって、国土交通省は、前述1)の需要予測の精度の一層の向上及び2)の空港整備事業の評価の的確な実施を図りつつ、より一層の重点的かつ効果的な空港整備を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  今後、計画又は検討されている空港整備事業の採択に当たり、
i)空港の新設等については、首都圏の空港の発着枠の拡大見込み及び近隣空港の運航便数に十分配意して行うこと、
ii)地方空港における長距離国際路線の需要に対応するための滑走路の延長については、大都市圏拠点空港等の整備状況及び整備計画、これらの空港に開設されている長距離国際路線等に配意して、長距離国際路線の就航可能性を十分検討した上で行うこと。
2)特殊法人等管理空港の基本計画の策定・改定に当たり、基本計画に係る事業手法について、当該特殊法人又は指定会社から経営の観点からの意見を聴取する仕組みを設けること。

2  航空保安無線施設の効果的整備
  国土交通省は、近年における航空需要の増大に対応して、航空機の安全かつ効率的な運航を確保するため、各種の航空保安無線施設の整備を推進してきている。
  当該無線施設のうち、飛行する航空機に対し方位情報を提供するNDB(無指向性無線標識施設)及びVOR(超短波全方向式無線標識施設)については、平成12年6月現在、空港及び航空路の要所にそれぞれ67施設、 116施設が整備されており、空港への着陸方式、出発・到着経路(航空路と空港間の飛行経路)、航空路及び直行経路(航空路を補完するために設定される無線標識を結ぶ飛行経路)の設定等に利用されている。
  また、着陸する航空機に対して電波により進入コースを提供するILS(計器着陸装置)については、平成12年6月現在、供用中の全国94空港のうち58空港に整備されており、特に着陸機数が多く航空機の円滑な運航の確保が必要な国際空港等には滑走路の双方向に設置されている。

  今回、空港に設置されている航空保安無線施設の整備状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
1)  NDBとVORは、方位標識として同種の機能を有するものであるが、中長波帯電波を使用するNDBは、超短波帯電波を使用するVORに比べ測定精度が低い。このため、国土交通省は、近年新設された空港においてはVORのみを整備してきており、また、既設の空港においても、VORの整備を進め、航行の安全上必要のないNDBを廃止してきている。
  しかし、今回調査した31空港中20空港において、NDBを存置しつつVORを設置している。これらの空港でVORと併設されているNDB24施設の用途をみると、当該NDBが単独で出発・到着経路又は航空路の設定に使用されているものが9施設みられるが、残りの15施設については、併設されているVORと同様に空港への着陸方式、直行経路等の設定に使用されており、これらの空港用NDBについては、以下の理由から、航空機の航行上、特に存置しておく必要性は乏しいものとみられる。
i)  通常、VORを使用した着陸方式や直行経路が利用され、NDBを使用したものは利用されていないこと。
ii)  NDBはVORの障害等による停波時の代替施設として位置付けられてきたものであるが、VORは技術革新及び機器の二重化により故障による停波はほとんど発生しておらず、また、点検時等にVORを停波させる場合にも、NDBでの代替以外に種々の対応が可能であること。
2)  就航航空機数が多く、かつ、ILSが設置されていない滑走路の方向からの進入割合が高い空港において、ILSを滑走路の双方向に設置することにより、気象に起因して相当数発生している欠航あるいは離発着の遅れの解消が図られると認められる例がみられる。

  したがって、国土交通省は、空港における航空保安無線施設の効率的かつ効果的な整備を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  VORと併設されている空港用NDBについては、航行の安全に支障がない場合には廃止すること。
2)  滑走路の双方向にILSを設置することにより運航の円滑化及び安全性の向上に効果が見込まれる空港については、ILSの増設を検討すること。


3  保守管理業務の合理化・適正化
(1)  管制技術業務に係る要員の合理化
  国土交通省は、空港及びその周辺に設置される航空保安無線施設、管制施設及び管制通信施設の運用・保守並びにこれらの施設に関する工事の設計・施工を行う管制技術業務を実施するため、平成11年度末現在、全国94空港のうち53空港の空港事務所(28)、空港出張所(23)及び空港・航空路監視レーダー事務所(2)に航空管制技術官 1,180人を配置している。この航空管制技術官の配置について、国土交通省では、運用・保守の対象施設(以下「保守対象施設」という。)の種類、数及び運用時間を基礎に要員数を算定し、保守対象施設の数(特定の保守対象施設が整備された場合を含む。)及び運用時間の変更等に応じて増員又は減員を行うとの考え方を採っている。
  また、国土交通省は、管制技術業務について、近年における航空保安無線施設等の性能・信頼性の向上を踏まえ、遠隔監視制御装置の導入等を図ることにより、離島空港等を対象に航空管制技術官の常駐による保守方式の見直しを行い同業務を近隣の空港事務所等に集約してきているほか、保守業務の委託化等に取り組んできている。

  今回、空港事務所及び空港出張所における管制技術業務の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
1)  航空管制技術官の配置基準では、保守対象施設数が一定数を超えた場合あるいは特定の保守対象施設が整備された場合には、その施設規模に応じた要員(施設規模要員)を一律に増員するとの考え方を採っている。しかし、増員要件を満たすとして増員が行われた空港事務所及び空港出張所における管制技術業務の実施状況等をみると、次のとおり、業務実施方法及び業務量からみて、当該考え方を採用することが合理的でないものがみられる。
i) 24時間運用空港の空港事務所では、4クルーによる交替制勤務を行うための要員に加え、保守対象施設数が一定数を超えているため、それに見合う増員が配置基準に基づき行われている。また、交替制勤務における各勤務時間帯の要員数については、各勤務時間帯とも差はなく同数の要員が配置されている。しかし、これらの空港事務所の中には、深夜帯(0時から9時まで)のうち0時から7時までは保守対象施設を利用する離着陸航空機がなく、かつ、保守対象施設の点検及び障害復旧の実績が昼夜間帯(9時から24時まで)に比べ著しく少ないものがみられた。点検業務は昼夜の区別なく実施可能であることから、このような空港事務所については、昼夜間帯に集中実施している点検業務を深夜帯にも実施することにより、配置基準どおりに増員を行わなくとも業務の遂行が可能と認められる。
ii)APID(航空機位置情報表示装置)が整備されたことにより航空管制技術官の増員が行われている空港事務所又は空港出張所の中には、当該施設を含めた保守対象施設全体の業務量からみて配置基準に基づく増員を行わなくとも業務の遂行が可能と認められる例がみられた。
2)  国土交通省がこれまで実施してきた空港の管制技術業務の近隣の空港事務所又は航空路監視レーダー事務所への集約化は、離島空港に限られている。しかし、離島以外で航空管制技術官が常駐している空港の中には、既に管制技術業務が集約化されている空港と同様、最寄りの空港の空港事務所又は空港出張所からの移動所要時間が短いものがみられ、これらの空港の管制技術業務についても集約化の余地が認められる。
(2)空港土木施設の維持管理業務の適正化
  国土交通省は、大臣管理空港について、滑走路面等の日常点検とは別に、1年に3回以上、滑走路、誘導路等の空港土木施設の維持管理のための点検(以下「巡回点検」という。)を自ら実施するとともに、3年に1回程度、民間委託により定期点検(舗装面のひび割れ、わだち掘れ、平坦性等の点検)を実施し補修の要否を評価している。
  今回、大臣管理空港における空港土木施設の維持管理業務の実施状況を調査した結果、国土交通省では、定期点検により不具合が発見された場合の対応については、その方法を通達等文書で明定し指示しておらず、各空港事務所等の判断によっているため、次のような状況がみられた。
1)  平成9年度及び10年度に実施した定期点検の結果、「できるだけ早急に補修の必要がある」とされた箇所が平成11年7月の当省の調査時点では補修されないままとなっている例がみられた。
2)  定期点検の結果「近いうちに補修が望ましい」とされた箇所について、その後滑走路の舗装面がはく離する障害が発生した例があり、定期点検の結果で補修の必要性が指摘された箇所については、補修に至るまでその状態の変化を確認するため、当該箇所に留意し的確な点検を行う必要がある。しかし、巡回点検の実施方法をみると、定期点検の結果を踏まえ舗装面の状態の悪化を的確に把握することが可能とみられる徒歩による点検を実施している空港がある一方、車上からの目視のみにより点検を実施している空港がみられた。

  したがって、国土交通省は、航空保安施設の保守管理業務の合理化及び空港土木施設の維持管理の適正化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  管制技術業務については、次の措置を講じ、要員の合理化を図ること。
i)保守対象施設数が一定数を超えた場合あるいは特定の保守対象施設が整備された場合には一律に増員することとしている施設規模要員の配置基準の考え方を業務実施方法及び業務量を勘案したものとなるよう見直し、適正な要員配置を図ること。
ii)空港の管制技術業務の集約化については、航空機の安全運航及び円滑な運航の確保を見極めつつ、既に集約化されている離島空港における管制技術業務の実施状況を踏まえ離島以外の空港への拡大を図ること。
2)空港土木施設の維持管理業務については、定期点検の結果、補修の必要性が指摘された場合に講ずべき措置の手順を明定し、これに基づいた運用を徹底すること。

4  契約事務の適正化等
(1)  適切な発注ロットの設定によるコスト縮減の徹底
  公共工事については、現下の厳しい財政事情の下、限られた財源を有効に活用し社会資本整備を着実に進めるため、全閣僚を構成員とする公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議において、平成 9年4月4日、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(以下「行動指針」という。)が決定された。各省庁は、行動指針に基づき、公共工事のコスト縮減に資する諸施策を速やかに実施するとともに、遅くとも平成11年度末までに完了し、その効果が可及的速やかに得られるよう最大限の努力をすることとされた。
  国土交通省は、平成9年4月、「運輸関係公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」(平成9年4月4日付け運技第87−2号運輸事務次官通達。以下「運輸行動計画」という。)を策定し、公共工事のコスト縮減に取り組んできている。
  行動指針及び運輸行動計画においては、経常建設共同企業体(以下「経常JV」という。)の活用を図る等により、中小建設業者の受注機会の確保を図りつつ適切な発注ロット(一つの契約として発注する工事の規模)の設定を進めることを公共工事のコスト縮減対策の一つとして位置付けている。
  なお、毎年度閣議決定されている「中小企業者に関する国等の契約の方針」においては、中小企業者の受注機会の増大のため、物品等(工事及び役務を含む。)の発注に当たっては可能な限り分離・分割して発注を行うよう努めるものとされているが、公共工事については、コスト縮減を図る観点から適切な発注ロットの設定が要請されており、平成9年度からは、この要請の範囲内で分離・分割して発注することとされている。

  今回、国土交通省地方整備局、港湾空港工事事務所等における空港整備に係る工事の発注状況を調査した結果、指名競争において、中小建設業者の受注機会の確保対策である経常JVの活用が図られておらず、同一時期かつ同一内容の工事であって一括発注することも可能であったとみられる工事を分割発注しており、適切な発注ロットの設定によるコスト縮減が十分図られていない例がみられた。
(2)  契約事務の適正化
  国が行う契約は、機会の均等及び公正性の保持を図る観点から、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3に基づき、一般競争に付することが原則とされ、指名競争又は随意契約は、限定された場合においてのみ認められることとされている。
  具体的には、会計法第29条の3第3項において、契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合及び一般競争に付することが不利と認められる場合には、指名競争に付することとされている。また、同条第4項において、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合には、随意契約によることとされている。このほか、会計法第29条の3第5項において、契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合においても、指名競争に付し又は随意契約によることができることとされており、予算 決算及び会計令(昭和22年勅令第 165号。以下「予決令」という。)第94条及び第99条において、予定価格が一定金額を超えない場合等指名競争あるいは随意契約によることができる場合を規定している。
  さらに、指名競争については、予決令第97条第1項において、競争に参加する者をなるべく10人以上指名しなければならないこととされている。

  今回、内閣府及び国土交通省における空港整備に係る工事、設計等並びに国土交通省における大臣管理空港の警務業務に係る契約事務の実態を調査した結果、次のような状況がみられた。
1)  内閣府及び国土交通省において、平成9年度及び10年度に指名競争に付した工事、設計等に係る契約の中から 352件(工事155件、設計等197件)を抽出し、指名業者の選定状況をみたところ、指名競争への参加資格者名簿の登録業者数や同種の他の契約に係る指名状況等からみて、予決令に基づく10社以上の指名が可能であるにもかかわらず、これを励行していない例がみられた。
2)  国土交通省では、大臣管理空港27空港における警務業務についてはすべて委託により実施している。当該業務に係る委託契約の契約方式をみると、このうち23空港においては、警務業務単独で委託するには要員規模が小さく緊急時等における特別警戒のための要員の確保が弾力的に行うことができないことから、警務業務と関連性があり専門技術が要求される消防・救急業務と併せて一括して委託する必要があるとして、随意契約としている。一方、他の4空港(東京国際空港、大阪国際空港、福岡空港及び那覇空港)においては、緊急時等に委託事業者自らが即応できる弾力的な要員の配置が可能となるだけの要員規模が確保されているとして、警務業務単独で競争契約により委託を行っている。
  しかし、随意契約により委託が行われている空港の中には、既に競争契約により委託が行われている4空港と要員規模が同程度の空港があるほか、要員規模が小さいとして現在随意契約により委託が行われている空港についても、緊急時等の即応体制の確立等に配意しつつ、競争契約への移行について検討する必要があるとみられる。

  したがって、内閣府及び国土交通省は、空港の整備及び管理に関する契約事務の適正化等を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  空港整備に係る工事の発注に当たっては、コスト縮減を図る観点から、経常JVの活用等により、中小建設業者の受注機会の確保にも配慮しつつ、適切な発注ロットの設定を推進すること。(国土交通省)
2)  指名競争の実施に当たっては、指名業者以外にも契約履行が可能な業者が存在する場合は、予決令に定める業者数の指名を励行すること。(内閣府、国土交通省)
3)  大臣管理空港における警務業務の委託については、既に競争契約で委託が行われている4空港と同程度の要員規模を有する空港では競争契約に付すとともに、その他の空港でも、緊急時等の即応体制の確立等に配意しつつ、競争契約に付すことを検討すること。(国土交通省)

5  空港整備特別会計に属する未利用国有地の処分促進
  国土交通省は、空港整備特別会計に属する用地を、平成11年度末現在、約 6,100ヘクタール(国有財産台帳価格で約1兆 3,000億円)保有している。
  国土交通省は、この用地のうち事業用地として使用しなくなったもの(未利用国有地)については、「空港整備特別会計所属未利用国有地管理処分方針」(昭和60年7月25日付け空経第 500号運輸省航空局監理部経理補給課長通達。平成7年12月11日改正)により、行政財産の用途を廃止して普通財産として管理し、その処分等に当たっては、公用又は公共用への利用に充てることを最優先とし、有効利活用の方策を勘案の上、利用方針を策定し留保財産と処分等対象財産に区分することとしている。平成11年度末現在、留保財産は15口座53.3ヘクタール、処分等対象財産は35口座 4.7ヘクタールとなっている。
  また、普通財産として管理されている用地の中には、上記のほか、平成元年3月に実施された大阪国際空港周辺の騒音対策区域の縮小に伴い用途が廃止され普通財産となった移転跡地(平成11年度末現在、約35ヘクタール)があり、国土交通省は、騒音対策として国が買い上げたという取得経緯等を理由に、当該土地を他の未利用国有地とは別に管理している。

  今回、空港整備特別会計所属の国有地について、その活用・処分状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
1)  行政財産として管理している宿舎等用地の中には、その供用を廃止した後、事業用地としての利用が見込まれないにもかかわらず用途を廃止しないまま長期にわたって保有している例がみられた。また、用途が廃止され普通財産(処分等対象財産)となった土地の中には、地方公共団体への照会の結果取得希望のないことが判明したにもかかわらず、一般競争入札を行っていない例がみられた。
2)  大阪国際空港周辺の騒音対策区域の縮小に伴い用途が廃止され普通財産となった移転跡地の約7割(約25ヘクタール)が更地となっている。
  国土交通省では、この更地の過半(約14ヘクタール)を、国と騒音対策区域を持つ地方公共団体とが共同で実施する都市計画緑地事業の用地買収に伴う移転者への代替地として確保している。この代替地の面積は、当該事業の事業区域内で移転対象となる地権者の代替地の取得希望の有無を把握した上で決定したものではなく、その地権者がすべて代替地を希望する可能性があるとの前提で確保しているものである。
  しかしながら、平成11年度の時点で移転者に対する代替地の売払い実績をみると、代替地として売り払われた面積は、当該事業の実施により実際に用地買収された面積の3割程度となっており、当該事業の事業区域内の地権者がすべて代替地を希望する可能性があるとの前提で用地を確保する必要はないと認められる。

  したがって、国土交通省は、国有財産の有効活用を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1)  行政財産としての使用目的がなくなった土地については、速やかに用途を廃止すること。また、普通財産のうち処分等の対象とする土地については、地方公共団体等への処分が見込めないものは速やかに一般競争入札に付す等、処分の促進を図ること。
2)  大阪国際空港周辺区域において都市計画緑地事業の用地買収に伴う移転者への代替地として確保している国有地については、当該事業の進ちょくに応じ、移転者の意向を確認しつつその規模を縮小する方向で検討すること。また、その結果、代替地としての用途を失うこととなる国有地については、処分又はその有効活用を図ること。