[調査結果要旨]
1 国の日本国有鉄道改革と日本国有鉄道清算事業団の位置付け
   国は、日本国有鉄道の抜本的改革(分割・民営化)に伴い、国鉄長期債務等の処理を行わせるため、日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)を設立した(注)。
 これを受け、清算事業団は、1)国鉄長期債務(国鉄の長期借入金及び鉄道債券に係る債務)その他の債務の償還及び利子の支払、2)債務の償還等のため清算事業団に帰属することとされた資産(土地、株式等)の処分等の業務を行ってきた。
 なお、国鉄長期債務等の償還には、土地及び株式の売却収入のほか、国庫補助金、事業団債による調達資金、民間からの長期借入金等が充てられてきた。
  (注)  日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律(平成10年法律第136号)に基づき、清算事業団は平成10年10月22日をもって解散し、日本鉄道建設公団(以下「鉄道公団」という。)内に国鉄清算事業本部が設けられ、上記1)のうち年金等負担金の支払業務及び上記2)の資産(土地、株式等)の処分業務が鉄道公団に承継された。
2 国鉄長期債務等の処理
  (1) 国鉄改革時における国鉄長期債務等
     昭和62年4月1日の国鉄改革実施時における国鉄の債務等の額は、総額37.1兆円(長期債務31.5兆円、年金等負担など将来費用5.7兆円)に達した。このうち、各旅客鉄道株式会社等(JR各社)が承継する債務は、事業の健全かつ円滑な運営を阻害しない範囲に限ることとされ、残る債務(19.9兆円)を清算事業団が承継し、同様の趣旨から年金等負担など将来費用(5.7兆円)については、すべて清算事業団が負担することとされた。これにより、清算事業団が承継した債務等は総額25.5兆円に上る。
 これらの債務等は、土地及び株式の売却収入、新幹線鉄道保有機構(現運輸施設整備事業団)からの収入等によって償還していくこととされたが、なお残る債務については、最終的に国において処理することとされ、その額は13.8兆円と見込まれた。
  (2) 国鉄長期債務等の処理
    ア 土地の処分
       清算事業団は、発足時に国鉄及び鉄道公団から計8,808ヘクタール(国鉄用地8,184ヘクタール、鉄道公団用地624ヘクタール)の土地(売却収入見込額約7.7兆円)を承継した(注)。
      (注)  昭和62年4月1日以降についても、鉄道公団から累計で480ヘクタールの土地を承継しており、また、土地の実測等により累計で36ヘクタールの土地が減少している。
       清算事業団における土地の処分は、都心部に端を発した急激な地価高騰が進んだ時期と重なり、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月16日閣議決定)等により様々な制約が課せられた中で、公開競争入札や地方公共団体等を対象とした随意契約による処分及び地価を顕在化させない方法による処分を進めた結果、平成10年10月21日までの売却面積は7,978ヘクタール、売却金額は6兆5,126億円となった。
 平成9年度までに、汐留地区、品川地区や旧国鉄本社等の大型物件の売却が終わったことにより、清算事業団用地の実質的な処分はほぼ終了し、10年度期首において保有していた土地は約1,469ヘクタール(資産推計額約0.5兆円)であり、10年10月21日現在、残された土地は約1,273ヘクタールとなった。
    イ JR株式の処分
       清算事業団は、債務償還の原資として、JR各社の株式(発行済株式数:7社計919万株)も保有することとされ、その処分については、累次の閣議決定により、経営の動向、市場の動向等を見極めながら、債務の円滑な償還等に配慮し、できる限り早期に、適時、適切な処分を行うよう努め、遅くとも平成3年度には処分を開始する方向で検討、準備を行うこととされた。
 JR各社のうち本州3社の経営基盤の確立は順調に進展し、JR東日本及びJR東海は平成2年度決算、JR西日本は3年度決算において上場審査基準を達成した。このような状況を踏まえ、清算事業団は、まず、JR東日本の株式について、平成5年度に250万株の売却(1兆759億円の収入)を行い、次いで8年度にJR西日本の株式約137万株(4,878億円)、9年度にJR東海の株式約135万株(4,859億円)の売却を行った。
 この結果、JR株式の処分については、これまでに本州3社の株式約522万株を売却し、総額2兆496億円の収入を得ている。
    ウ 損益の状況
       清算事業団の昭和62年度以降の損益の状況をみると、62年度約2.3兆円、63年度約1.8兆円の当期損失を計上したのを始め、平成2年度、5年度を除き(注1)、毎年度多額の当期損失を計上した。その要因として、発足当初は、鉄道公団等の債務を承継(雑損として計上)したことや職員の再就職のための雇用対策費などの費用が必要であったという面もあるが、基本的には、毎年度、一般管理費が約0.5兆円、長期債務の利息の支払が約1兆円に上ったこと、国鉄時代の保険料負担の不足分として鉄道共済年金への特別負担(約0.7兆円)が加わったことなどに対し、主な収入源である土地及び株式の売却収入(固定資産売却収入)が低迷せざるを得ない状況にあったことが挙げられる。このように、毎年度、資金計画どおりの収入が得られず、償還財源とされた固定資産売却収入及び新幹線鉄道保有機構からの収入で利息支払額にも満たない状況が続いたことが、結果として、このような損益状況に表れている。
 また、平成9年4月の公的年金一元化の一環で、鉄道共済年金が厚生年金に統合されることとなり、それに伴ういわゆる厚生年金移換金(0.8兆円)が新たな負担として加わり、債務等の額は更に増加することとなった(注2)。
      (注1)  平成2年度は「雑益」として帝都高速度交通営団出資証券の譲渡益(9,127億円)、5年度は「固定資産売却収入」としてJR東日本の株式の売却収入(250万株、1兆759億円)があることから、当期利益を計上している。
      (注2)  平成10年度(10月21日まで)の当期損益は、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律に基づく無利子貸付金の免除に伴う特別利益(債務免除益約8.1兆円)を計上したため、約7.5兆円の当期利益を計上している。
  (3) 清算事業団解散時の長期債務等
     平成10年10月22日の清算事業団解散時における長期債務等の額は28.3兆円(長期債務24.2兆円、年金等負担4.1兆円)に達している。
 清算事業団は、様々な制約の中で発足時に承継した長期債務等の処理に努めたものの、収益が費用を賄い切れなかったことから、債務元本の処理が進まず、処理スキームが破綻し、国民負担は、ほぼ倍増する結果となった。
 日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律に基づき、清算事業団は解散し、長期債務は一般会計が、年金等負担については鉄道公団が特例業務として承継(同時に土地、株式等の資産も承継)することとされ、また、JR各社が、年金等負担のうち厚生年金移換金の一部(約0.2兆円)を負担することとされた。
 今後、これら債務の償還等については、毎年度、一般会計が1兆600億円程度(そのうち、利払いが6,600億円程度、債務元本が4,000億円程度)を負担し、また、鉄道公団が3,880億円程度(そのうち、年金等負担が3,400億円程度、厚生年金移換金が480億円程度)を、JR各社が厚生年金移換金120億円程度(注)をそれぞれ負担することとされている。
    (注) 実際には、JR各社はいずれも平成10年度末に一括支払済みである。
     なお、これらの財源措置としては、一般会計が負担する利払いについては、財政投融資資金(資金運用部、簡易生命保険)からの借入金等の繰上償還を行うことにより金利負担を2,500億円程度軽減するとともに、郵便貯金特別会計からの特別繰入れ2,000億円程度及びたばこ特別税2,200億円程度を充て、債務元本については、たばこ特別税の一部を充てるほか、当面は、一般会計の歳出・歳入両面にわたる努力により対応することとされている。また、鉄道公団が負担する年金等負担については、土地、株式等の資産処分収入及び国庫補助金により対応することが予定されている。