[総合評価]
1 国の交通運輸政策と運輸施設整備事業団の位置付け
   国は、総合的な交通運輸政策の一環として、低公害で効率的な大量輸送機関(鉄道、船舶)の整備を推進している。
 運輸施設整備事業団(以下「運輸事業団」という。)は、このような施策の中核的実施機関として、鉄道事業者、海上運送事業者等による運輸施設の整備を推進するため、整備新幹線の建設を行う日本鉄道建設公団に対し新幹線鉄道整備事業交付金を交付するなどの鉄道助成事業、海上運送事業者と費用を分担して共同で船舶を建造する共有建造業務などの事業を実施している。
 また、運輸事業団は、鉄道整備基金の承継法人として、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR本州3社」という。)から支払われる既設新幹線鉄道施設(東海道、山陽、東北及び上越)の譲渡代金を財源に、日本国有鉄道の長期債務等の償還業務を行っている。
     
2 共有建造業務
   運輸事業団の行う共有建造業務は、海上運送事業者と費用を分担して船舶建造を行い、竣工後は当該船舶を当該海上運送事業者との共有とし、当該海上運送事業者に使用・管理させることを内容としている。運輸事業団は、分担した費用について、当該船舶の共有期間(原則として耐用年数)内に海上運送事業者から船舶使用料(減価償却費相当額及び利息相当額)として回収するとともに、共有期間満了時にその時点で残っている共有船舶持分を当該海上運送事業者に譲渡することにより、全額回収することとなっている。
 共有建造業務は、財政投融資資金を主な財源としており、その事業資産(共有船舶持分)は平成9年度末現在で約5,500億円に達している。
  (1)  損益の状況
     共有建造業務の損益の状況をみると、毎年度の収支は均衡している。これは、船舶使用料未収金の貸倒れ等に備えるための引当金について、前年度に費用計上した引当額をいったん収益として戻し入れた後、当年度に発生した収支差相当分をそのまま費用として繰り入れるためである。この繰入・戻入差額が実質的な損益状況を表すものとなっている。
 そこで、昭和62年度以降の実質的な損益状況をみると、平成2年度に悪化したが、その後好転し、4年度からは利益が生じていた。しかし、平成6年度以降再び悪化し、8年度以降は損失が生じている。このような状況は、近年の金利低下局面の下、事業金利(平成9年度利回り5.28パーセント)と調達金利(平成9年度利回り4.85パーセント)との差(順ざや)の縮小や景気低迷の影響を受け新規建造実績が落ち込んでいることなどにより利息収支差等が減少し、一般管理費等を賄えなくなっていることが要因である。
 このため、運輸事業団では、平成7年9月26日以降、新規に共有建造を行うものについては、事業金利と資金運用部金利(調達金利)との利差が最低0.2パーセントとなるよう事業金利を設定する措置を導入し、利息収支差の確保を図った。
  (2)  船舶使用料未収金の増加
     近年の景気低迷の下、平成5年度以降、船舶使用料未収金残高は再び増加傾向にある。
 未収金残高は、将来貸し倒れるリスクがあることから、これに備えるため引当金が計上されている。ところで、運輸事業団の引当金は、当年度の収支差相当分が計上されており、リスクに連動したものとはなっていない。このため、引当金の現状がリスクに見合った引当状況となっているか否かについて、昭和62年度以降の回収・貸倒状況を基に、平成9年度末現在の未収金残高97.9億円の貸倒リスクを当庁が推計したところ、16.6億円程度と見込まれ、現状では、引当金16.2億円とほぼ均衡している状況がみられる。
 しかし、未収金残高が増加傾向にある一方、近年の実質的な損益の悪化により引当金の計上額が下がらざるを得ない状況となっている。
 引当金は、将来発生が予測されるリスクに備えるべきものであることから、今後もリスクに見合った引当金の計上が必要である。
     
3 債務償還業務
   昭和62年4月の国鉄の分割・民営化に伴い、運輸事業団の前身である新幹線鉄道保有機構が既設新幹線鉄道施設を保有する一方、国鉄から同施設の簿価に相当する債務(5兆6,541億円。以下「旧国鉄等債務」という。)を承継した。また、昭和62年度時点の当該施設の時価(再調達価額)と簿価との差額(2兆8,867億円)を日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)に対して支払うこととされ(以下「対清算事業団債務」という。)、これら債務の合計額は8兆5,409億円であった。
 その後、JR各社の株式上場に向けた環境整備のため、既設新幹線鉄道施設は、平成3年10月、JR本州3社に譲渡され、新幹線鉄道保有機構の権利・義務の一切は鉄道整備基金に承継された。
 鉄道整備基金が承継した債務は、旧国鉄等債務等が6兆2,081億円、対清算事業団債務が1兆8,858億円であり、その合計額は8兆940億円であるが、同時に、債務を承継した時点での既設新幹線鉄道施設の再調達価額9兆1,767億円と承継債務との差額1兆826億円を、JR本州3社からの譲渡代金として得ることとなった。
 この承継債務との差額1兆826億円は、新たな鉄道整備財源と位置付けられ、平成29年度上期までは整備新幹線の建設に、29年度下期以降は対清算事業団債務の償還に充てられることとされた。
 なお、平成9年10月、これらの権利・義務の一切は運輸事業団に引き継がれている。
  (1)  旧国鉄等債務等の償還
     旧国鉄等債務等6兆2,081億円の償還及び利払いの財源は、JR本州3社から支払われる新幹線割賦譲渡収入である。実際の償還については、毎年度借換資金の調達が必要となっているが、平成3年10月に策定された新幹線鉄道施設譲渡計画において、旧国鉄等債務等の償還財源として受け取る各年の新幹線割賦譲渡収入額について、前年度までの借換債務を元本に含めて毎年度再計算することとしている。
 したがって、現行のスキームを維持すれば、償還は順調に完了することとなる。
  (2)  対清算事業団債務の償還
     平成3年10月のJR本州3社への既設新幹線鉄道施設の譲渡に当たっては、対清算事業団債務の償還財源として鉄道整備基金が受け取る新幹線割賦譲渡収入の受取期間は従来どおり25.5年間とされたが、一方、対清算事業団債務の償還期間は12年間から60年間に延長され、この結果として、償還ペースは緩やかになった(毎年の清算事業団への償還額は、清算事業団の債務の償還及び当該債務に係る利子の支払が滞らないよう配慮して、運輸大臣が定めることとされている。)。
 運輸事業団では、この償還期間が延長されたことから生じる手元資金を活用して、スキーム上の償還期限である平成63年度上期末までに対清算事業団債務の償還が可能であることを前提に、常磐新線等の整備を行う日本鉄道建設公団等に対して、鉄道整備費を無利子で貸し付ける等の事業を実施している。
 運輸省及び運輸事業団は、対清算事業団債務の償還確実性について、対清算事業団債務の償還財源である新幹線割賦譲渡収入、無利子貸付等回収金のほか、平成29年度下期以降、承継債務との差額部分の新幹線割賦譲渡収入が順次債務償還に充てられることから、63年度上期末までの債務の円滑な償還に支障がないことを毎年度予算作成時に検証している。例えば、平成10年度の検証結果では、当年度の新規貸付けを行ったとしても、37年度上期には債務が償還されることとなっている。
 この鉄道整備費無利子貸付等事業については、平成11年度以降も常磐新線等の整備への無利子貸付けが予定されていることから、今後とも対清算事業団債務の確実な償還を進めるためには、現行のスキームによる債務償還のための収支バランスが失われないよう留意する必要がある。