これは、事例3の配付資料になります。

パソコンが持つ起業チャンスと落とし穴、失敗から学んだ2つのポイント

コミニショップLet’s 代表 清野 一博

起業のテーマ
 私が起業を発起するに至ったテーマは、重度障害者がどうにかして無理をせずにお金を稼げないものか、ということにあります。これは「レッツの紹介ページ(創業理念)」にも記しています。
http://cs-lets.com/rinen.shtml

<その部分の抜粋>
 また、レッツは障害者の就労や適切な賃金を得られる場になることを目標に開業いたしました。 障害者の就職難は今に始まったことではありません。 重度の障害者においてはそのチャンスすら無いのが現状であり、その受け皿的な作業所などでは月に数千円という低賃金で働いている障害者が大勢います。一般就労の意義や作業所が果たしている役割などは別にして、障害を持ちながらも適切な介助を受けながら働き、相応な賃金を得られるような仕事ができないものか? どうしたら重度障害者の労働生産性を上げられるのか? 簡単なことではないことは明白ですが、このテーマに挑戦し確立することも、レッツは目標にしています。
<抜粋ここまで>

このテーマを持つきっかけ
同じリハビリセンターで一緒にリハビリをしていた友人は、親元に預けていた自分の子供を引き取ることを目的に、熱海の遊園地に就職しました。「生活を安定させて子供を迎えに行く」と話していましたが、職場の同僚に難病の障害を理解してもらえず、ついには脳梗塞を再発し、寝たきりのまま数年後に亡くなってしまいました。
 友人はなぜ命を落とさなければならなかったのだろうかと言うことを考えると、どうしたら命を削らずに、障害を持ちながらも働くことができるのか、考えずにはいられませんでした。就労チャンスがあっても、その仕事をすることで、体を壊していたのでは意味がありません。重度の障害者がどうしたら就労チャンスを得られるのか、更には、適当な賃金を得るにはどうしたら良いのか、このことは常に頭にあります。
 自分には視覚障害と肢体不自由の重複の障害があり、身体障害の程度から言え
ば、かなり重度の障害と言えるはずです。その私がこのテーマを実践して、誰もが結果を残せるような実績を作れたらと思って取り組んでいます。
パソコンがもたらす恩恵
私はパソコンがもたらす様々な恩恵を受けてきました。パソコンを「道具」として使うことで、情報の収集、情報の発信、コミュニケーションや人とのつながりなどは、インターネットの普及と共に飛躍的に伸びました。妻との出会いもパソコン通信でしたし、起業チャンスをもたらしたのもパソコンです。
 パソコンがもたらす恩恵の内、情報の発信は、自分が起業するためにも特に大きなものだったと思います。それは別にセールスや宣伝に便利だったと言うわけではありません。「まずは人の役に立てた」ということが大きかったのです。
 自分自身がパソコンの導入時期に苦労した経験上、パソコンボランティアにずーっと関わっていました。以下は私の活動が紹介されたページです。
障害者パソコンリーダー・清野 一博

 このパソコンボランティアの活動に関しては、仕事上のパソコンサポートとの兼ね合いもあって、数年前に団体からは退会したのですが、自分もわからないことは教えてもらえましたし、一方で、自分がわかるものは、人に教えてあげることもできた。パソコンの使い方だけに留まらず、人に有益と思われる情報を発信すること、「まずは自分がどれだけのものを与えられるのか」ということは、特にWebショップで起業に取り組んだ私には大きな経験でした。
 個人が起業する場合、まずはお金にならないようなことで、どれだけ人の役に立てるかと言うことが重要と思います。「お金は後からついてくる」という言葉もありますが、人の役に立ち、人から期待してもらえることは、それだけで自分のやりがいにもなり、自然とモチベーションも上がります。

パソコンが持つ起業チャンス
 パソコンはアイディアと工夫次第で、様々な起業チャンスを秘めている道具だと思います。ソフト開発や何かのデザイナーのような専門知識を研かなくとも、気軽にできるものも見つかるはずです。
 私の起業ケースを例にすると、立ち上げ経緯は以下のような感じです。
 視覚障害者でも使いやすいHP作成ソフトが発売された→販売の仕事をしてみよう→やはり実店舗は経済的に不可能→通勤も困難→在宅でオンラインショップ経営→何を販売する→自分も使っているパソコンをもっと広めたい→視覚障害者向けの福祉機器や便利グッズを扱おう→既存業者に不満もあった→パソコンボランティアでのサポート経験もある→自分も使っている物、欲しい物なら具体的に始められそうだ

※パソコンが秘めている起業チャンスで、すぐに思いつく参考例・・・
・オンラインショップ経営
実際の物販店・・・仕入れや在庫管理のリスクはあるが、利益も損益もすべて自分のもの。
アフィリエイトショップ・・・提携広告販売。販売店の商品やサービスを宣伝し、売り上げがあったときに利益の一部を報酬として受け取れる。在庫を持つ必要もなく、ほとんど無料でも始められるので、経済的リスク0でも始められる。
オークション・・・購買意欲のある参加者が閲覧しているオークションは、それだけで魅力的な市場と言える。

・メールマガジンや書籍発行
電子書籍(e-Book)のダウンロード販売なら、印刷などの出版コストもなく、気軽に本の出版や販売ができる。

パソコンが持つ落とし穴
これは誰もが想像できる、デスクワークが故の運動不足です。そこに穴があることはわかっているのですから、本来は落とし穴とは呼べないのかもしれません。しかし、私は見事に落とし穴に落ちてしまいました。就労して命を落とした友人をきっかけに、重度障害者が無理をせずにお金を稼げないものかということを頭に置いていたのにもかかわらず、著しく身体機能を低下させる結果になってしまいました。
 自分の得意分野でもあり、やりたいところで起業し、人の役に立てること、人から期待されることには、非常にやりがいを感じます。それだけに、つい無理をしてしまうことも当然ありました。しかし、それ以上に、仕事に拘束される時間が長くなることを、どうにもできなかったことに課題が残ります。
 特に起業したての頃は、ほとんど0から作り始めるようなものですから、必然的にやることは多くなります。それに対して自分の処理能力や生産性は低いですので、パートを雇用して手伝ってもらっても、気がついたら一歩も外に出ないまま一週間経ってしまった・・・というような日々の繰り返しでした。
 土曜も日曜も、意識して休みを取らないと、無休で働き続けることになります。その上、仕事が立て込んで深夜にまで及ぶこともあり、朝9時から深夜1時や2時まで仕事に拘束される日が何日も続くと、さすがに危機感さえも感じます。
 在宅ワークで自己管理が重要なことは、別に障害者に限ったことではないと思いますが、継続的なリハビリが必要な肢体不自由者にとっては、「動かないでいること」自体が障害の重度化につながる可能性があることは間違いありません。

※この他に、トラブルストレスも障害を進める要因にもなり、この落とし穴にもどっぷりはまらない注意が必要です。

失敗から学んだ2つのポイント
 2006年〜2007年、おかげさまでお店としては順調に注文も増え、自分としては結構忙しく仕事をこなしていたのですが、収益としては思ったほど伸びませんでした。売り上げとして1000万円前後販売できても、元々利益率のそれほど良くない商品が多いため、これだけ頑張ってもこの程度、という印象です。
 自分が仕事に費やしている時間の対価としては、とても満足のいくものではありません。しかし、単純に今の利益を倍にするために倍の仕事量をこなせるかと言うと、そうでなくても身体機能の低下を招いているわけですので、これはもう不可能なことで、今の働き方では駄目だという結論に達します。
 「やりがいを保ち、仕事時間と収益のバランスを向上させること」が、キーワードとして浮かびましたが、この失敗経験から学んだこと、思い知らされたことが2つあります。

1.自分の生産性は上がらない。
2.もっと楽に稼げることをしないと駄目。

 「生産性が上がらない」ということを、ネガティブに捉える必要はないと思います。むしろ、そこからスタートしなかったことが、自分の失敗の原因と感じます。仕事時間と収益のバランスを向上させるには、もっと楽に稼げることをしないと駄目だと感じます。「楽に稼ぐ」というと語弊があるかもしれませんが、就労時間を短く、尚且つある程度収益の上がることも、もっと取り入れていかないと、ここのバランスは向上してこないように感じます。

<具体的にはどうするのか>
 これは私にとっては今後の課題です。これから何年かかかって、仮定と実践と検証を繰り返したいと思っています。
 生産性を求められる仕事は外注してしまうとか、自動化できる仕事の自動化を進めるとか、あるいは収益確保だけを目的にした全く別の方法を組み入れるとか、いくつか思いつく課題解決法はあります。
 どの課題解決法にも可能性は感じますが、現在、全く別の方法で収益確保する方法を探っています。昨年11月から、FXという外国為替証拠金取り引きというものを、収益確保に使えないかと思い、試し始めています。
 これは投資です。少ない資金でも大きな取り引きができる一方、リスクも大きいですので、あっ!という間に失敗する可能性もありますが、数をこなすような生産性も求められず、短時間で収益を上げることもできると言う点では、課題解決にはピッタリと思います。現時点では成功するかは全くわかりませんが、これから数年かけて、一つずつ課題を解決する方法を確認していくつもりです。

まとめ
事例というのはほんの一例にすぎません。障害の種類や程度によっても異なった課題が出てくるものと思いますが、私のケースの場合、パソコンを活用しての起業というものは、それまでまともな就労のチャンスすらなかった重度の障害者にも、その可能性を開くものであり、延いては社会への参加が、生活にやりがいと活気を与えてくれるものでした。その一方で、ストレスや、ここに挙げてきたような課題も実在します。また、開業に必要な届出や毎年の税金の申告など、起業するためにクリアしなければならないこともあります。
 私が起業しようと考えたとき、障害者がパソコンで起業することに対して、助言してくれる処は見つかりませんでした。たまたま起業経験のある障害当事者と知り合い、その方からアドバイスをもらったり、経営に関する本を音訳してもらって読んだりしましたが、ある福祉財団主催の障害者の作業所向け経営セミナーにも参加を断れる始末で、独学で起業するほか道はありませんでした。
 障害者の情報通信技術の活用が進めば、それを活用しての起業も、障害者の就労スタイルの選択肢の一つになることも考えられます。これに対する支援態勢も必要になってくるかもしれませんし、そのような道が開ける日が来ることを望んでいます。

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