はじめに

 優先接続は、電話サービスを利用する場合に、あらかじめ事業者を選択して東日
本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社(以下「地域NTT」という。)
に登録しておけば、当該事業者の事業者識別番号のダイヤリングを省略して通話を
可能とする仕組みであり、利用者利便を確保するための手段である。また、この優
先接続は、電気通信分野における公正競争条件整備の観点から、NTT再編成時に
利用者利便の維持のため事業者識別番号のダイヤルを不要とした地域NTT及びエ
ヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「長距離NTT」という。)
と事業者識別番号のダイヤルが必要な他の新規参入事業者(以下「NCC」という。)
との間でダイヤル方法の公平を図るものである。

 優先接続については、平成10年度に開催された「優先接続に関する研究会」報
告書(以下「前研究会報告書」という。)で、2000年度中を目途に導入するこ
ととされている。本研究会では、優先接続の導入が円滑に行われるよう、導入に際
しての問題点等の残された課題について、引き続き検討したものである。
 本報告書は、本研究会にオブザーバーとして参加した関係事業者からの意見も参
考として、6回の会合を経て最終的にとりまとめたものである。



1 優先接続導入に関する基本的な考え方 

 (1)基本的な考え方
    優先接続導入に関する基本的な考え方については、前研究会報告書で次の
   3点を基本とする旨述べられており、本研究会の検討に当たっても、この基
   本的な考え方を踏まえて検討を行うこととする。

   利用者利益の確保
    優先接続は、国民生活に不可欠な電話サービスの利用方法や電気通信事業
   者の営業形態に大きな変革をもたらすものであるため、その在り方を検討す
   るに当たっては、利用者利益の維持・向上を図ることを基本とする必要があ
   る。
    特に、電気通信分野は技術革新が著しく、競争の進展とあいまって、ネッ
   トワーク系及び端末系において多種多様な機能、サービスが登場することが
   期待されており、利用者がこうした機能、サービスを選択、利用できる機会
   を増大させる方向で検討することが必要である。
    また、優先接続の導入によって、利用者がより簡便なダイヤル手順で電話
   サービスを利用できるようにすることが必要である。

   公正競争の確保
    優先接続は、そもそも、中継電話サービスに競争を導入する際に、既存事
   業者と新規参入事業者との間の競争条件をできるだけ同等にするということ
   が導入の大きな理由の一つとされてきたところであり、今般の優先接続の検
   討に当たっても、公正競争の確保が重要なポイントとなる。

   諸外国の制度との整合性の確保
    1998年2月のWTO基本電気通信合意の発効を受けて、世界的に外資
   規制が撤廃され、現在国境を越えた相互参入が活発化している。このような
   状況の中、各国の電気通信制度は国際的に整合性のとれたものとすることが
   求められている。したがって、我が国における優先接続の在り方についても、
   できるだけグローバルスタンダードに配慮したものとすることが必要である。
   優先接続は、既に米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、
   ドイツ等で導入されている。


 (2)優先接続導入の必要性と導入時期
   優先接続に関する経緯
    優先接続については、1985年の電気通信制度改革後、長距離系NCC
   が参入した際等に、長距離NCCからNTTに対して、公正競争及び利用者
   利便の観点から、優先接続を導入して欲しい旨の要望がなされ、事業者間協
   議が行われた経緯がある。
    しかし、1985年当時は、優先接続機能の提供のために大幅な改造が不
   可欠な旧式の市内交換機が存在していたことや、接続ルールが必ずしも十分
   整備されておらず、事業者間で協議が整わない事項を実施することが事実上
   困難となっており、優先接続についても、費用負担等の問題でNTT、NC
   C間の協議が整わなかったことなどからその導入が見送られた。

   優先接続を巡る環境の変化及び現時点で導入する理由
    しかしながら、近時において、次のように優先接続を巡る環境が変化して
   きており、優先接続の導入が可能となっている。また、優先接続導入のタイ
   ミングとしても現時点の導入は合理的なものと考えられる。
   ア 1995年3月に旧式の交換機を全て廃止し、ソフトウェアで動作する
    交換機となり、1997年12月には国内網のデジタル化も完了したこと
    から、優先接続への容易なシステム対応が可能となったこと
   イ 接続ルールが整備され、いわゆる不可欠設備の接続条件の約款化や事業
    者間の接続協議が整わない場合の手続きの迅速化などが実現したため、優
    先接続について再度議論する土俵が整備されたこと
   ウ 規制緩和による競争の進展に伴い、新たな中継電話サービスや外資系企
    業等による国際電話サービスへの新規参入などが行われており、東京通信
    ネットワーク、九州通信ネットワーク、MCIワールドコムジャパン、P
    GEジャパン、グローバルワンコミュニケーションズ等の事業者から優先
    接続導入に対する要望が出されていること
   エ NTTの再編成に伴い、長距離NTTに関し、公正競争条件及び利用者
    利便の確保の観点から、優先接続導入の必要性が高まっていること(注)

   (注)NTT再編後の長距離NTTのネットワークは、地域NTTとの関係
     では他の長距離系NCC等のネットワークと同列に位置づけられ、競争
     条件の公平性を確保する観点からは、地域NTTの利用者が長距離NT
     Tのサービスを利用する際には、他の長距離系NCC等と同じく4桁の
     事業者識別番号を追加してダイヤルする方式とすることが求められる。
      しかし、多くの利用者に4桁の事業者識別番号を追加してダイヤルす
     るように求めることは、明らかなサービス利用条件の低下であり、利用
     者利便の観点からは好ましくない。
      そこで4桁の追加ダイヤルを代替する方策として優先接続を導入する
     こととし、利用者が長距離NTTの長距離通話サービスを利用する場合
     のダイヤル方式は現状のままとすることが必要である。

   オ NTT再編成や市内通話を含めた全分野での競争など、新しい市場競争
    の姿が明確化してきたところであり、今後各分野への参入事業者数の増加
    はあるにせよ、この基本的な市場競争実態を踏まえた優先接続導入の検討
    が可能となったこと


 (3)配意すべき事項
    また、各個別論点について検討を行う際には、以下の点に配意することと
   し、多様な観点から検討を行うこととした。
   利用者にとって分かりやすい制度及び制度周知とすること
   不正優先登録(スラミング(注))等のトラブル発生を未然に防止するこ
   と

   (注)スラミングは、利用者の同意を得ずに優先登録先事業者を変更する不
     正な優先登録のこと。米国では1984年のAT&T分割を機に優先接
     続が導入されたが、その後約15年を経た現在でもスラミングが大きな
     問題となっている。

   現在の競争環境を踏まえ、競争促進的なものにすること
   導入コストをできる限り低廉なものとすること

   更に、導入に際しては、我が国の場合は、競争導入後約15年を経過し、そ
  の間に長距離系NCC等がアダプタ等を普及させてきたという実態や、国内・
  国際の統合化の動き、市内・近距離分野での競争の進展状況等を踏まえて、こ
  のような我が国の電気通信市場の特殊性にも十分配慮する必要がある。

 【参考】我が国の電気通信市場の特殊性に配慮した措置の例
   競争導入後約15年を経過していること
   ・ 利用者に事業者選択の意思表示を求める方法として、一斉投票(注)で
    はなく、各事業者が随時に営業活動を行う中で、自社を指定する優先登録
    の勧奨を行うこととしている。

    (注)一斉投票方式は、米国やオーストラリア、韓国の一部でとられた方
      式であり、事前の制度周知の後、優先登録申込書を全利用者に郵送し、
      申込書に記入の上、利用者に優先登録の受付窓口あて返送を求める方
      式

   アダプタ等が普及していること
   ・ 優先接続導入後もアダプタ等は併存(設置)できることとしている。
   ・ 固定優先接続方式(注)を優先接続のオプションの一つとして認めるこ
    ととしている。

    (注)固定優先接続は、専ら特定の事業者に接続したい場合に選択するも
      の。既にある事業者のアダプタ等を設置している利用者が、そのアダ
      プタ等の機能を使用せず別の事業者を登録する場合には、利用者のア
      ダプタ等に組み込まれている事業者識別番号にかかわらず、登録され
      た事業者に接続する。

   国内・国際の統合化の動き、市内・近距離分野での競争が進展しているこ
   と
   ・ 優先登録の通話区分を「市内」、「県内市外」、「県間市外」、「国際」
    の4区分とし、異なる事業者の登録を可能としている。



 (4)本研究会の位置づけ
    優先接続については、前研究会報告書で2000年度中を目途に導入する
   こととされている(注)。

    (注)前研究会報告書の要旨は別添資料のとおり。

    本研究会は、優先接続の導入が円滑に行われるよう、導入に際しての問題
   点等の残された課題(注)について、利用者が円滑に対応できるように、ま
   た、事業者間の公正競争を害さないようにとの観点から引き続き検討したも
   のである。

    (注)本研究会の検討事項
       優先接続の具体的な導入時期について
       実施に当たっての利用者利益の確保について
       優先接続に係るNTT再編成後の公正競争条件の確保について
       国際区分への優先接続の導入について
       固定優先接続の導入に関する条件整備について(利用者に対する
       混乱防止策)
       その他

  以上の基本的な考え方等を踏まえ、以下、優先接続の導入に関する具体的検討
 課題(論点整理)について、個別に検討していく。