加入者系ネットワークにおけるxDSLの可能性

第3章 xDSL導入に当たっての課題


   1 技術的課題

   2 制度的課題

   3 光ファイバ化との関係

   4 地域事業者による提供の必要性





1 技術的課題

(1) 同一ケーブル内の回線相互の漏話の問題
 xDSLでは、高周波数帯での信号伝送を行うため、同一ケーブル内に収容されている他のメタル回線上を流れる電気信号との間で、通信信号の漏話(干渉)が起こることがある。こうした漏話の問題は、xDSLにつきまとうものであるが、回線の状態によっても影響の度合いが異なってくることが指摘されている。
 また、特に、我が国の地域事業者の回線の場合、欧米の通信事業者の敷設している回線と比べて、以下のような点が異なるので、我が国における漏話の影響の評価が必要である。

  古いケーブルを中心に、紙を絶縁体として用いているため、欧米で主流のポリエチレンの絶縁体を用いたケーブルと比べ、漏話が起こりやすい。
  欧米では、2本の銅線を組み合わせたペア・ケーブルを一単位として、太束のケーブルにしている場合が多いが、我が国の場合、4本の銅線を一単位とするクァッド(Quad)・ケーブルが主流なため、ペア・ケーブル方式と比べて、漏話の影響が異なる。
  我が国では、ISDNにピンポン方式が用いられているため、欧米で主流のエコーキャンセラー方式のISDNの信号と比べ、信号帯域が広い。このため、xDSLとの重複周波数帯が大きく、漏話による影響が起こりやすい。


 また、我が国における、これまでの評価実験においては、漏話の影響は、主としてISDNからxDSLに対する影響に限られており、また、伝送距離が一定距離以下の場合には影響が少ないとの結果が出ている。他方、漏話の影響が一定水準を超えるとxDSLの信号が一時的に途絶してしまうこともあるとの結果が出ている。

(2) ブリッジタップの問題
 我が国の地域網においては、複数のエリアをまたがる心線の融通を柔軟に行えるようブリッジタップ(分岐)が多用されている(下図参照)。
 ブリッジタップの存在は、電話に用いられる4KHz以下の帯域の信号に関しては大きな影響を及ぼさないが、高周波数帯域の信号については、信号の減衰、反射が起こり、伝送特性が悪化するため、xDSL技術を応用したサービスを提供する場合、ブリッジタップの存在が伝送品質に影響を与えるのではないかとの指摘がある(ただし、ISDNにおいても、同様の影響が、一部存在する)(*)。

(*) xDSLの場合、ブリッジタップの存在は伝送品質に影響を与えないとの指摘もあり、後述の実証実験における評価が必要である。


(3) 対応策

  使用回線の選択
 回線相互間での伝送信号の漏話の度合いは、同一ケーブル内の回線相互間の距離や回線の太さ等にも左右され、回線相互間の距離が近いほど影響も大きくなる傾向にある。
 このため、同一ケーブル内で、xDSL用の回線とISDN用の回線が複数存在する場合には、回線相互間の距離を一定以上に保つために、使用回線の選択を行うことにより、漏話の影響を少なくすることが可能であると考えられる(こうした使用回線の選択は、現行のISDNサービスにおいても一部行われている)。

  伝送速度の調整
 また、漏話の影響は、伝送距離や伝送速度によっても左右されることから、漏話の影響が大きい場合には、伝送距離を短くしたり、伝送速度を落とすといった方法も考えられる(RADSLの技術を用いれば、自動的に回線状況に適した伝送速度の調整することも可能であるし、ADSLにおいても、実行上の困難性は伴うが、個々の回線毎に可能な伝送速度を設定することは可能である)。

  使用周波数帯域・電力の調整
 現在、米国において製造されているxDSL装置の多くは、米国のISDNとの使用周波数帯域の重複を少なくするように中心周波数帯域が設定されており、結果として、我が国のISDNの使用周波数帯域との重複が大きくなっているとの指摘があり、我が国のISDNの使用周波数帯域を勘案して、xDSL装置の中心使用周波数帯域や電力を調整することにより、漏話の問題はある程度解消できるのではないかとの指摘がある。

  フィルターの挿入
 更に、ISDNからxDSLへの影響が大きいことから、ISDNのDSU(回線終端装置)にフィルターを挿入し、ISDNの提供品質に実質的な影響を与えない範囲で高周波数帯域の信号をカットすることにより、xDSLへの漏話を減少させられるのではないかとの指摘がある。
 ただし、この場合には、そのためのコスト負担についての検討が必要になるとの指摘がある。

  光ファイバとの組合せ
 また、光ファイバとの併用によりメタル回線の伝送距離を短縮することにより、提供可能地域の拡大や伝送速度低下の防止を図ることが可能との指摘もある。

 漏話の問題については、これらの対応策の組合せ、あるいは更なる技術開発(*)により、影響をある程度少なくすることができる可能性があることから、xDSL技術を用いたサービス提供に当たっては、これらの対応策をとることにより、提供品質の向上を図ることが望まれる。ただし、上記各項の指摘については、その実現可能性及びコスト面での検討も必要である。

(*)TCM方式を併用したSDSLの開発により、ISDNと同一の収容条件での使用が可能になるとの指摘もある。






2 制度的課題

(1) 提供可能地域の限定性
 上記のように、伝送速度の調整等により、xDSLサービスの伝送距離をある程度伸ばすことは可能であるが、そうした調整によっても、一定の限界が想定されるため、電気通信事業者がxDSLサービスを提供する際、事業者の局舎からの距離、ケーブルの特性及びISDNユーザの数等によって一定距離以内のユーザでないとサービスの提供を受けられなくなる可能性は残ることになる。

(2) 提供品質の不安定性
 また、xDSLの場合、回線の状況によって伝送可能速度も左右されることから、電気通信事業者がxDSLサービスを提供するに当たっては、個々のユーザの利用している回線の状況(外部ノイズ等)によって、伝送可能速度が異なってくるばかりでなく、同一の回線であっても、その時々の状況によって、伝送可能速度が変動しうるといったような提供品質の不安定性が存在する。

(3) 基本的考え方
 このように、電気通信事業者の提供サービスにおいて、提供可能地域が限定されたり、提供品質が保証されないと、利用者間の公平性の観点から問題があり、利用できない人々の意見も十分に聴取する必要があるとの指摘もある。
 しかし、利用者ニーズの多様化も踏まえると、サービス提供条件に地域的制約や品質上の不安定性が存在することを利用者に対して明確にすれば、提供を行うことは許容されるとの指摘もある。
 また、提供地域によって、伝送可能速度に違いが出てくる場合には、伝送可能速度に応じて、提供料金を変える等の措置をとれば、公平性の問題は生じないのではないかとの意見もある。
 いずれにせよ、xDSLサービスについて、提供条件の均一性が完全に確保できないという理由のみで提供の検討を行わないことは、適当ではないと考えられる。
 ただし、電気通信事業者は、xDSLサービスの提供に当たっては、できる限り最新の技術を応用して、提供可能地域や品質上の制約を少なくするよう努めることが望ましい。




3 光ファイバ化との関係

(1) メタル回線「巻き取り」への影響
 いったんxDSLの提供が行われるようになると、xDSLサービスのユーザが回線の光ファイバ化を承認しないと、その提供回線が収容されているケーブル全体について、光ファイバへの置き換えを行うことが困難になり、結果として光ファイバ化自体そのものが妨げられるのではないかとの懸念が出されている(いわゆるメタル回線の「巻き取り」の問題)(*)。
 この点に関しては、光ファイバ化は、いったん実現すれば、無限に近い伝送能力が確保され、将来的には、加入者宅までの光ファイバ化の需要が出てくることが予想されることから、通信回線の光ファイバ化は、地域事業者の計画に従い着実に進められることが必要である。
 他方、xDSLサービスの提供が、地域網を有する電気通信事業者(以下「地域事業者」)の回線の光ファイバ化の計画に支障を来しかねないという懸念に関しては、例えば、地域事業者が、xDSLサービスを提供したり、アクセス回線をアンバンドルしたりする場合に、回線を光化するまでの「時限的な」提供という方法で提供するという対応が可能であると考えられる。ただし、光化時にxDSL装置を一方的に使えなくすることが許容されるのかどうかに関しては、更に検討を行うことが必要である。
 この点に関しては、将来的には、xDSL装置の小型・経済化が進めば、ISDNと同様に、途中段階までの回線の光化が行われても、その先にxDSL装置を接続するという方法で、ユーザは引き続きxDSLサービスの提供を受けられるようになるので、xDSLサービスの提供は、光ファイバ化の促進にとり、余り障害とはならないのではないかとの指摘もある。また、将来的に、光ファイバ上でのアナログ信号の伝送を可能にするアナログ・トランシーバ技術が具体的に実用化されれば、光ファイバとxDSL技術との共用が可能であるとの指摘もある。

(*)ISDNにおいても同様の問題が生じうるが、ISDNの場合は、ONUに入れる回路が小型・経済化しているため、途中まで回線の光化をしても特段の問題は生じない。

【参考】光ファイバとxDSLの比較


(2) xDSL実現によるアプリケーション開発の促進
 また、我が国において、早期にxDSLが実現されれば、高速な通信環境に適したアプリケーションやコンテントの開発・普及が促され、将来の光ファイバ化実現の際に提供されうるアプリケーション等の幅を広げるという意味で、xDSLは光ファイバ化実現へのいわば「橋渡し」の技術としての効果も期待されると考えられる。

(3) 光ファイバ化実現後のxDSL
 また、アクセス回線部分までの光ファイバ化(FTTH)が実現すれば、高速アクセスが可能になるので、xDSL技術は不要になるのではないか、との議論があるが、光化が実現した後でも、例えば、集合住宅の配線部分で光ファイバを引き直せないような場合においては、引き続きxDSL技術の活用が想定されることから、xDSL技術は、アクセス回線の光ファイバ化の実現後も、必要性が残ると考えられる。

【参考】想定される各種メディアに対する需要の推移






4 地域事業者による提供の必要性

 以上のように、xDSLには技術的にいくつかの課題があるものの、その導入には、高速アクセスを非常に安価に実現できるという大きなメリットが存在すると考えられることから、地域事業者は、技術的課題に関する実証実験を早急に行い、できる限り速やかにサービス提供を開始することが望まれる。