3 技術シーズを生み出す先進的研究開発の推進



  情報通信ニュービジネスのシーズを生み出すのは、独創的・創造的なアイディアと、
 それを新たなサービス等に結びつけていく研究開発である。国際競争力の向上の観点
 からも、次世代の我が国の経済を担う情報通信ニュービジネス創出の契機となる情報
 通信技術の先進的な研究開発を官民の適切な連携により積極的に推進し、我が国の知
 的資産の充実を図っていくことが必要である。また、情報通信技術の標準化に当たっ
 ては、将来の技術動向を見通し、幅広いユーザーニーズの反映を図ることにより国際
 的な標準化等に対応する柔軟なものとすることが求められる。


 (1) 通信・放送機構による先導的研究開発の推進

    通信・放送機構が実施している先導的研究開発は、緊急な取り組みが必要である
   にもかかわらず、高リスクであり長期の期間を要するため民間企業ではインセンテ
   ィブが働かず実施が困難な情報通信技術の研究開発を、通信・放送機構が産・学・
   官の人材を結集して国(基礎研究)から民間(応用)への橋渡しを行おうとするも
   のである。95年度までに、高度三次元画像情報の通信技術の研究開発、障害者・
    高齢者対応通信入力自動設定技術の研究開発、光通信の高度化・効率化・長寿化の
   ための研究開発等21課題についての研究開発が実施又は実施される予定となって
   いる。
    これら先導的研究開発は、情報通信分野でのニュービジネスのシーズを生み出す
   ものであることから、今後予算措置の一層の充実を図ることが不可欠である。
    また、ニュービジネスのシーズとなる先導的研究開発の成果は、大企業だけでな
   くベンチャー企業へも円滑に移転させていかなければならない。このため、研究成
   果については、適正な料金で広く一般に普及する仕組みとするとともに、通信・放
   送機構が研究成果の事業化を行うベンチャー企業等を堀り起こし、成果の普及を図
   っていくような取り組みが必要である。


 (2) 委託研究制度の有効活用

    96年度から先導的研究開発のうち、民間企業の技術力を活用することによりそ
   の効果的な実施が図れるものについては、通信・放送機構から委託研究を行うこと
   を予定している。委託先の選定については、十分な情報開示を図ることにより技術
   力のあるベンチャー企業が委託研究制度を有効に活用できるようにすべきである。
   また、研究成果に係る特許等の権利の帰属については、委託先がベンチャー企業の
   場合は特別な配慮を行うことなどベンチャー企業が当該権利自体を源泉として十分
   な収益をあげられる方策を検討すべきである。


 (3) 大学・通信総合研究所等との連携による研究開発の推進

    大学・通信総合研究所等の有する技術シーズを事業化に結びつけていくため、大
   学・通信総合研究所等と情報通信ベンチャー企業との共同研究の推進や、大学・通
   信総合研究所等による情報通信ベンチャー企業に対する技術指導について、財政的
   に支援するスキームを検討すべきである。ベンチャー企業は大学等とのつながりを
   有していないものが多いことから、公的機関や地方公共団体が共同研究の斡旋を行
   う仕組みも併せて検討する必要がある。大学等と民間との共同研究については、大
   学等が民間から研究者・研究経費等を受け入れて行うという形式になっており、大
   学等の研究者が民間の施設等で研究することは制限されている他、出張手続きを採
   らなければならないなど手続き的な問題もあることから、大学等の研究者が柔軟に
   共同研究を行えるよう規制の緩和を検討すべきである。
    また、地方公共団体レベルでの公設試験研究所には、情報通信技術専門の公設試
   験研究所はみられない。地元のベンチャー企業の多様な技術支援ニーズに対応する
   ためには、既存の公設試験研究所の拡充を含め、情報通信技術に関する公設試験研
   究所の設置を検討し、地元ベンチャー企業との共同研究の実施、技術支援等を行え
   るようにすべきである。


 (4) 研究開発型ベンチャーに対する公的支援制度の拡充

    情報通信ベンチャー企業の行う先進的・独創的な研究開発については、研究開発
   のリスクに加えて事業化に係るリスクが存在することから、円滑な資金調達が困難
   である。このようなリスクの軽減を図る観点から、ベンチャー企業が行う先進的な
   研究開発に対する助成金の拡充、通信・放送機構による債務保証制度及び政府系金
   融機関による通信・放送新規事業育成融資の活用を図るとともに、海外の優れた技
   術・人材の導入への支援制度の創設や、技術情報をベンチャー企業へ提供するシス
   テムの確立を図る必要がある。
    なお、ベンチャー企業に対する公的支援措置の決定は、当該ベンチャー企業に対
    する信用力の付与効果もあることから、例えばベンチャービジネスの著名な成功者
   が審査を行うような体制とし、公的支援措置の効果を一層高めることも検討すべき
   である。


 (5) 基盤技術研究促進センター制度の活用

    基盤技術研究促進センターは、民間のR&D会社が行うリスクの高い基盤技術に
   関する試験研究を出融資により支援するとともに、国の試験研究機関との共同研究
   の斡旋や海外の研究者の招へいを行うことにより、民間の基盤技術の向上を図るこ
   とを目的とした特別認可法人である。出資事業については、情報通信分野では関西
   学術研究都市における(株)国際電気通信基礎技術研究所関連のプロジェクトをは
   じめとして30件の試験研究プロジェクトに対して出資を行っている。
    センターの出資対象である試験研究は基礎研究段階のものが多く、ニュービジネ
   スの技術シーズにはなり得るものの、事業化するためには実用化研究を実施する必
   要があることから、試験研究の成果の情報をベンチャー企業に提供するシステムを
   構築することにより、ベンチャー企業の技術力を活かした実用化研究を促進する方
   策を検討すべきである。その場合、研究開発の対象が影響度・波及性の高い基盤技
   術であることにかんがみ、実用化研究を行うベンチャー企業に対して、センター出
   資のR&D会社からの工業所有権の取得を含めた実用化研究に係る費用を軽減する
   ための公的支援措置を講ずることが必要である。