第4章 情報通信ニュービジネス育成のために早急に推進すべき施策



  前章まででは、情報通信ニュービジネス育成に当たっての問題点を明らかにすると
 ともに、問題解決のための政策的対応の方向性について、中長期的課題を含めて検討
 してきたものであるが、情報通信ニュービジネスの創出が急務の政策課題となっている
 中、早急に推進する必要があると考えられる施策を以下のとおり提言する。

 1   情報通信ニュービジネスに対する新たな資金供給スキームの創設
   リスクの高いシード段階の情報通信ニュービジネスに対する投資を促進するため、
  情報通信ニュービジネスに特化して投資を行う投資事業組合(テレコム投資事業組合
  という。)を設立することが求められる。テレコム投資事業組合には、通信・放送機
  構からの出資を行い民間からの投資の呼び水とするとともに、国として情報通信ニュ
  ービジネスに資源を投入し、これを育成していくという政策的方向を明らかにする。
  具体的なスキームとしては、図表4−1のようになると考えられる。
   テレコム投資事業組合については、現行の特定通信・放送開発事業実施円滑化法の
  スキームでも対応が可能と考えられるため、予算の効率的な活用の観点からも早急に
  具体的な検討を進めることが必要である。

図表4−1 テレコム投資事業組合のスキーム



   また、現在地方公共団体で進めている地域ベンチャーキャピタル施策との連携も図
  っていくことが必要である。さらに、成長初期段階以降については、全国的・国際的
  な判断を行いうる公的なベンチャーキャピタルや民間ベンチャーキャピタルによる支
  援の充実を図っていくことが必要と考えられる。
   情報通信ベンチャー企業等の先進的な研究開発を促進するため、通信・放送機構の
  助成金の大幅な予算拡充を図るとともに、ベンチャー企業に対する通信総合研究所に
  よる技術指導に係る費用についての補助制度を創設することが必要である。
   また、大企業と情報通信ベンチャー企業等の共同研究を促進するため、通信総合研
  究所や通信・放送機構が共同研究の斡旋を行えるような予算措置等を講ずることも検
  討が必要である。

 2   情報通信技術に関する公設試験研究所の設置
   地方公共団体においては、工業技術センターや農業試験場等の公設試験研究所が設
  置されており、産・学・官の連携により各分野の研究開発を行うとともに、地元企業
  や起業家の研究開発に対する施設・設備の提供、技術指導、依頼研究等を行っている
  ところであるが、現在のところ情報通信技術に関する専門の公設試験研究所を有する
  地方公共団体は存在しない。
   インキュベーション・システムの一翼を担うものとして、ハード・ソフト両面にお
  いて公設試験研究所の役割が期待されるところであることから、地域における情報通
  信ベンチャーの育成のため、地方公共団体またはより広域的な単位で情報通信技術に
  関する試験研究を行う公設試験研究所の整備とともに、研究所における人材確保のた
  め、地方公共団体と有力な情報通信関連企業との人材の交流を進める必要がある。ま
  た、国においても、施設整備に対する補助や地方債の起債に係る交付税措置の特例を
  認めるなど、情報通信技術に係る公設試験研究所の円滑な整備を促進する措置を講じ
  ることが必要である。
 
 3 地域広帯域LANの構築と全国展開
   我が国における産業経済の発展には、企業、大学、研究機関など種々の機関間での
  情報交流、共同研究開発、業務提携などの連携が不可欠である。特に、全国各地に根
  付く中小・中堅企業や新たに起業化を目指す人々にとって、自社内に経営、技術、営
  業リソースを求めるのではなく、必要なときに社外、すなわち、他企業や大学等から
  経営、技術等に関する支援を求めることが合理的である。これまでの企業系列の延長
  線ではなビジネス・ニーズに応じて形成される「互いに対等で部分的、一時的な
  タイアップ」が要請され、情報通信関係のニュービジネスも、このような環境から成
  長していくことが期待されている。さらに、研究開発、生産、流通などにコンピュー
  タの導入が進み、「スピードの経済」が要請される今日、リアルタイムでの情報交流
  が必須である。
   このような要請に応えるには、その情報通信基盤として、これまでの、音声レベル
  の公衆網や、特定の恒常的な利害関係企業間のみをつなぐ専用線では不十分な面があ
  る。動画像、精細画像などの大量の情報を瞬時に伝送でき、特定の利害関係者に限る
  ことなく、地域に立地する企業、大学等が広く加入できる地域広帯域LANを早急に
  構築すべきである。この地域広帯域LANは、隣接のLANと相互に接続するなどの
  手段によりネットワークを拡張し、最終的には全国的な広帯域ネットワークに発展し
  ていくことが期待される。

 4  ストックオプション制度の導入
   創業・発展期にある情報通信ベンチャー企業が優秀な人材を円滑に確保するととも
  に、ベンチャー企業の役員や従業員の経営努力や勤労意欲を向上させるため、特定通
  信・放送開発事業実施円滑化法の改正により、通信・放送新規事業として郵政大臣の
  認定を受けた企業については新株の有利発行形式によるストックオプション制度を導
  入すべきである。なお、当該制度の導入に当たっては、その実効性を確保するため、
  前章で指摘したとおり、税制面での特例措置が併せて講じられるべきである。
  5 情報通信関連団体等の活動への期待
   情報通信の普及・促進に関する活動を行う団体等においては、ニュービジネスのシ
  ーズ・研究開発・公的支援制度等に関する情報提供や、経営ノウハウ等に関するセミ
  ナーの実施及びニュービジネス関連団体間の交流促進等を積極的に推進していくこと
  が望まれる。また、情報通信月間等において、画期的な情報通信ニュービジネスを立
  ち上げ、高い成長を遂げた情報通信ベンチャー企業に対して、「情報通信ニュービジ
  ネス大賞」等の顕彰制度を設けることにより、こうした企業の社会的知名度・イメー
  ジを向上させるような取り組みが望まれる。
 6  インターネットを活用したニュービジネス相談窓口の設置
   情報通信ニュービジネスの起業家が、ビジネスを立ちあげるに当たって、通信・放
  送の制度面の理解・公的支援策の活用等のための情報を簡便かつ迅速に入手できるよ
  う、インターネットのホームページを開設して情報通信ニュービジネス起業の手引き
  となるような情報を蓄積し、広く一般に利用させるべきである。特に、情報通信ニュ
  ービジネスに対する政策金融、助成金等の公的支援制度については、制度が複雑で手
  続き等も煩雑であると言われていることから、起業家の関心事にキメ細かく対応でき
  るような工夫が必要である。

 7  規制緩和の推進等
   前章で述べたように、情報通信ニュービジネスの起業、発展・成長の制約となって
  いるような経済社会の各分野での規制・制度について、早急な見直しが求められる。
  情報通信分野では、本年1月に郵政省が発表した規制緩和策について、政府の規制緩
  和計画等に基づき着実に実行していく必要がある。また利用者のニーズ把握等におい
  て不確定な面があるため、直ちに本格的なサービス提供を行うことが困難なものにつ
  いて、本格実施へ向けての準備段階として利用者の範囲や期間を限定して行う試験役
  務については、料金その他の提供条件が認可対象外とされており、事業者が試験役務
  を柔軟に実施する環境が整えられている。情報通信ベンチャー企業等による新たなサ
  ービスの開発を促進するためには、法令の趣旨の範囲内で試験役務の範囲をできるだ
  け広く解釈するなど、料金面を含めベンチャー企業等が試験役務を機動的に活用でき
  るような運用とすることが望まれる。
   また、事業者間の公正有効競争が図られないことによりベンチャービジネスの参入
  等が阻害されることのないよう、公正有効競争の一層の促進のための取り組みが必要
  である。
   通信料金の低廉化・体系の多様化は、アプリケーションやコンテント制作の分野の
  情報通信ベンチャーの成長・発展の基盤となり、これら企業による通信需要の拡大に
  つながるため、マルチメディアサービスに相応しい多様な料金体系の設定と料金水準
  の一層の低廉化が期待される。また、料金認可については、95年10月に事前届出
  制を導入し、認可対象となる料金数を半数以下に縮減したところであるが、今後もサ
  ービスの特性や競争の進展状況に応じ、市場の実情に対応した料金認可の在り方を検
  討すべきである。
   さらに、社会の幅広い分野において情報通信の高度化のもたらす利益を最大限に活
  用するためには、情報通信の高度利用が期待される分野の諸制度の見直しを積極的に
  推進することが必要である。

 8   政府調達における情報通信ベンチャー企業の優先的取扱い
    行政の情報化の推進に当たって、情報通信ベンチャー企業の製品等を政府が率先し
  て購入することは、情報通信ベンチャー企業の売上げ増につながるとともに、社会的
  信用力の付与効果もあることから、ベンチャー企業の成長・発展に大きく寄与すると
  考えられる。
   このため、ベンチャー企業については、WTO政府調達協定等の調達手続との整合
  性に留意しつつ、入札参加資格の緩和(資格等級に対応する契約の予定金額の引き上
  げ等)、ベンチャー企業向け優先枠の設定などを検討することにより、政府調達にお
  ける情報通信ベンチャー企業への門戸の開放を一層促進すべきである。

 9   情報通信ニュービジネス育成のための総合的法体系の整備
   情報通信ニュービジネスの育成に必要な資金調達、人材確保、研究開発、規制緩和
  等の各側面における支援措置や特例措置等について、総合的かつ効率的な実施を図る
  とともに、21世紀のリーディング産業として期待される情報通信ニュービジネスに
  対応する取組みの方向性を国として明らかにするため、既存の振興法との関係等を勘案
  しつつ、情報通信ニュービジネス育成施策のバックボーンとなるような総合的な振興
  法の整備の必要性について検討すべきである。