(3)アジア 通貨・経済危機を克服し、電気通信市場の自由化や通信網の整備計画を推進  1997年以来のアジアにおける通貨・経済危機を、1999年に入ってほとんど克服したアジア諸国は、電気通信市場の自由化や通信網の整備計画を一層推し進めている。 1)中国  中国の電気通信市場は、拡大を続けている。携帯電話の普及は著しく、1999年12月末における契約者数は4,000万人を超えており、我が国の契約者数に迫る勢いである(図表1))。  また、市場の改革も進められている。1999年3月、中国電信の独占体制を打破し、市場の活性化を図るため、中国電信の分割案が国務院で承認され、同年末までに中国電信は固定通信部門の「中国電信集団公司」、携帯電話の「中国移動通信集団公司」、衛星通信の「中国衛星通信集団公司」及びページングの「中国尋呼通信集団公司」の4事業体に分割された。  さらに1999年4月、鉄道部、中国科学院、広播電影電視総局、上海市政府が出資して、中国網絡通信有限公司(網通)が設立され、国務院の承認を受けた。網通は中国の主要15都市を結ぶIPバックボーンの建設を進めており、2000年中に開業予定である。  中国には現在、電気通信分野全体を規制する原則を定めた法律が存在しないため、信息産業部では「電信法」の起草作業を進めており、その前段階として「電信管理条令」を2000年前半に発布する予定である。 2)香港  香港は、1999年5月に新たな電気通信の自由化を発表した。2001年1月から無線固定ネットワーク、ビル内ネットワーク及び衛星ネットワークについて、新規事業者に免許を与えることとした。   一方、有線固定通信事業については現在、香港テレコム社(C&WHKT)のほか、95年から新規参入したハチソン・コミュニケーション社、ニューT&T香港社及びニュー・ワールド・テレホン社の4社が存在するが、新規3社の事業拡大を条件に、この4社の競争体制を2002年末まで維持することとしている。  また、域外回線設備を自由化し、2001年1月から無線通信事業者の新規免許申請を受け付けることとし、さらに近年の域外ケーブル需要の高まりに応えるため、香港へのケーブル敷設に直接投資する者に限って2003年1月まで免許申請を受け付けることとしている。このように域内・域外通信分野ともに自由化を促進する施策を展開しており、中国返還後も香港はアジア有数の自由化された通信市場を維持している。  なお、香港テレコム社の親会社である英国ケーブルアンドワイヤレス社(C&W)は、2000年夏をめどに同社を地元の新興インターネット・ベンチャー企業であるパシフィック・センチュリー・サイバーワークス社(PCCW)に売却する予定である。 3)韓国  韓国政府は1999年9月、次世代インターネットや光通信等の研究開発を含む情報通信技術開発5か年計画(2000年から2004年まで)を発表した。本計画では電気通信分野での技術開発費として4兆1,400億ウォン(約4,074億円)を投入するとしており、この技術開発の成果によって電気通信関連輸出額は、1998年末の300億ドル(約3兆3,000億円)から、2004年末までに1,000億ドル(約11兆円)に達すると予測している。  また、同政府は1999年4月、「CYBER KOREA 21」を発表した。これは創造的地域基盤国家の建設を目標に、知識情報の創出、蓄積、活用能力の先進化を行うもので、2002年には世界で10位圏の情報化先進国になることを目標とする国家計画である。さらに2001年1月には、その一部である「国家情報化計画」を前倒しすることを発表した。本計画では、2005年までほぼ全世帯がマルチメディア・データをいつでもどこでも送信できる国内高速インターネット・インフラの建設に40兆ウォン(約3兆9,360億円)を投入するとしており、当初2010年までの完了を予定していたが、近年のインターネット需要の高まりに対応するため前倒しすることとしたものである。 4)シンガポール シンガポール政府は、電気通信自由化の時期を2002年4月から2年早め、2000年4月に前倒しする方針を発表した。これにより、現在シンガポールテレコム社が独占している固定通信市場に競争が導入されたほか、すべての通信事業者の外貨制限が撤廃されることとなった。  こうした中、2000年4月よりスターハブ社が新規に固定通信、移動通信サービスを開始した。同社には、地元資本と英国のBT社、我が国のNTTが資本参加している。 5)マレイシア  マレイシアでは、政府によるマルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)計画が95年から進められており、同計画に参加する企業や、開発のために重要あるいは戦略的な貢献を行う企業群に対して「MSC ステータス」と呼ばれる認定基準を設け、基準を満たした企業に対し税制面での優遇措置などを与えている。認定のための基準は3つあり(図表2))、これらをクリアした企業数は1999年10月時点で243社となっており、これは1年前(1998年10月)より64社も増加している。こうした企業の中には、サンマイクロシステムズ・マレイシア社、NTT・MSC社、オラクルMSC社及びインテル・マレイシア・デザイン・センター・MSC社等、世界の有力情報通信関連企業が名前を連ねている。また、1999年7月にはMSCの中核をなすインテリジェント都市である「サイバージャヤ」が正式にオープンした。 6)ASEAN  1999年11月、ASEAN首脳と民間企業による合同会議は、ASEAN諸国の情報通信技術のための包括的なアクションプランやグローバルな情報化経済の中で競争力を強化するための諮問機関として、e-ASEANタスクフォースを設立することを発表した。  本タスクフォースでは、(i)ITマーケットの創出、(ii)インフラの高度化、(iii)人材開発、(iv)Eコマースの促進、(v)電子政府の支持、を提案している。具体的な協定内容は2000年5月にミャンマーで開催されるASEAN経済担当相会議で提示され、同年11月にシンガポールで開催される非公式のASEAN首脳会議で調印される予定である。