平成9年9月12日          
(株)タイタス・コミュニケーションズ

電気通信事業法施行規則の改正案に対する弊社の意見


1.今回の「グリーンペーパー」方式に対して
 施行規則改正等に対する意見を申し上げる前に、今回、貴省がいわゆる「グリーンペーパ
ー」方式をとられたことに対して歓迎の意を表したく思います。弊社が意見を表明すること
を通じてルールづくりに参加できる機会と、他の事業者の意見を知る機会が得られたことを
歓迎致します。
 また弊社は貴省が今後、今回のような「グリーンペーパー」方式を重要なルールづくりの
際の原則とし、公開性を維持し続けることを望んでいます。
 例えば、NTTのFTTHのCATVサービスへの利用の問題や、今後NTT分割において発
生する諸問題を解決する際にもこのような方法が用いられることを望みます。これらの問題
も、「グリーンペーパー」方式による公開性の高い方法により解決すべき重要な問題である
と考えます。

2.今回の電気通信事業法施行規則の改正案に対して
 今回の施行規則の改正案は、昨年の末に出された接続のルール化に関する電気通信審議会
の答申、先般の改正電気通信事業法、または9月末に公表される料金算定要領及び接続会計
と密接不可分であり、施行規則の改正案のみならず、これら全てを含めた接続ルールのあり
方に対して意見を述べさせていただきます。

(1)「接続の請求を拒める正当な理由」について 
 弊社は、貴省が「誰とでもつながる」ということを基本原則として支持されると信じてい
ます。そのような原則に照らすならば、「接続の請求を拒める正当な理由」というものはい
かなる場合であれ、存在しないと考えています。ゆえに、電気通信事業法第38条及び施行規
則第23条にかかれているような、「接続の請求を拒める正当な理由」という言葉自体を削除
してしかるべきであると考え、仮にそのような言葉を残したいと強く望むならば、「接続の
請求を拒める正当な理由」となる要件を業界に問い、議論を尽くした上で、明確に定義する
べきであると考えます。

(2)アンバンドルされた機能ごとの接続料について
 アンバンドルされた機能ごとの接続料の算定方法は、9月末に発表される料金算定要領の
中で規定されると認識しておりますが、それに関しまして二点、弊社の意見を述べさせてい
ただきたいと考えます。
 第一点目は、発信の足回りと着信の足回りを区別していただきたいということです。
 昨年10月に「接続の基本ルールのあり方について」に対して弊社が述べさせていただきま
した意見の通り、「相互接続」という言葉は広い意味でつかわれる言葉であり、規制による
介入の中でこの言葉が使われる場合には、市場及び投資の配分の歪みを避けるために、その
意味を正確に定義することが必要であると考えています。
 発信の足回りと着信の足回りは構造的に異なった市場で取り引きされる財であり、その経
済学的性質も異なっているため、介入においても別々に取り扱う必要があると考えます。
 着信の足回りとは、発信者がまわした電話番号によって特定される電話機のベルを鳴らす
ために必要となる一連の設備のことです。どれだけたくさんの事業者が着信の足回りとなる
設備を提供したとしても、特定の電話番号によって示されるのはただ一つの足回り設備であ
り、したがって、その着信足回りの設備を選択することができるのは発信者だけです。着信
の足回りは、その意味で「不可欠設備」であり、それがなければ通話は成立せず、「誰とで
もつながる」という原則は破られます。発信側事業者は着信側事業者の協力をえられなけれ
ば、通話を成立させることはできません。
 発信側足回りもまた相互接続という言葉によって表現されますが、着信側足回りとは性質
が構造的に異なってます。ここの部分には有線や、無線、CATVネットワーク、衛星通信
等代替となる設備がすでに多く存在しています。このように供給者が多くあるということは、
発信側足回りが競争的な市場であることを意味しています。つまり、発信側足回りの部分は
自然独占ではなく、また規模の経済性も技術革新により縮小しています。たとえば、弊社は、
住宅用利用者の加入者回線設備を、世界の多くの事業者がここの部分では利潤が得られない
と判断してるにもかかわらず、自前で建設することを選択しました。
 発信側足回りは、自前で建設するか他事業者から借りるか選択することが可能であり、し
たがって取り引き市場が存在しています。
 もちろん、いかなる市場においても支配的地位の濫用の問題は起こり得るので、このよう
な濫用にたいしては介入が必要ですが、 発信側足回りの場合、介入をしなければならない
原因は、あったとしても過渡的なものです。しかし、着信側足回りの場合はそのような原因
が永続的に存在し続けます。
 したがって、発信側足回りと着信側足回りとを区別しなければ相互接続の問題は解決でき
ないと考えます。
 第二点目は、NTTに対して発信側足回りをアンバンドルし、コストベースの使用料で提
供することを義務づけるべきではないということです。
 発信側足回りをサービスとして提供するかわりに、NTTの設備をアンバンドルしてコス
トベースで提供することは、新規参入者のみならずNTTが加入者回線に投資を行うインセ
ンティブを低下させることになります。したがって、競争促進とは相容れず、利用者の選択
の幅も小さくなります。
 NTTが発信側足回りの市場において、支配的な地位の濫用が行われているのならば、そ
のような濫用は代替的な設備への投資の促進という方法により阻止されるべきだと考えます。
 それに対して、アンバンドルされた設備をコストベースの使用料での提供を義務づけるこ
とは、新たな投資を阻害し、NTTの支配的地位を持続させることになります。このように
発信側足回り設備を「不可欠設備」と呼び、コストベースの使用料で提供することの危険性
に理解を示されることを期待します。
 もし貴省が、インフラに対する投資、特に弊社のような事業者が現在行っているような、
広帯域のインフラに対する投資が促進されることを望むならば、NTTに発信側足回りをコ
ストベースの使用料で提供することを義務づける政策により、NTT及び新規参入者の投資
に対するインセンティブが低下させられることをご理解いただきたいと思います。
 どのような政策がインフラの競争を促進するか、あるいは停滞させるかは、アメリカとイ
ギリスの例により知ることができます。
 イギリスでは、規制当局はインフラによる競争の促進により、マルチキャリア市場を創生
することを基本原則としたので、BTはMDFにおける相互接続や、加入者回線をアンバン
ドルすることを義務づけられませんでした。
 その結果、多くの事業者(CATV事業者、固定無線アクセス事業者等)がBTに対抗し
て代替的な広帯域、狭帯域のインフラに何十億ポンドもの投資を行いました。その結果イギ
リスの新規インフラ事業者は10%を超えるシェアを獲得し、1997年末には3百万回線を
超える電話回線を提供しています。 
 それに対してアメリカでは、1996年の新通信法は電話サービス競争の新時代の始まりと信
じられていたにもかかわらず、電話サービスを提供するための新規インフラへの投資は、現
在ほとんどストップしてる状態にあります。
 このように競争の進展が停滞している主な原因の一つは、加入者回線を不可欠設備とみな
し、アンバンドルしコストベースでの提供を地域通信事業者に義務づけたことにあると考え
られてます。
 このような規制はたしかに規模の大きな長距離事業者がサービス競争を行うことを容易に
しました。しかし、潜在的新規参入者は、このような規模の大きい事業者が加入者回線をコ
ストベースで利用しすばやくサービスを開始することを考え、費用がより多くかかり、時間
もかかるような投資をとりやめるようになり、競争的インフラへの投資はアメリカではほと
んどストップしてしまいました。
 弊社は日本のあるべき姿として、インフラの競争こそ進展させるべきだと確信しているの
で、貴省がイギリスの規制当局のような政策を踏襲することを望んでいます。
 なぜならば、弊社はこのような政策が真のインフラの投資の競争を喚起する、唯一の方法
だと考えるからです。
 もし短期的なサービス競争の進展のために、加入者回線での接続を「相互接続の技術的に
可能な点」と呼ぶことを義務と感じていらっしゃるならば、発信側足回りを利用する事業者
が競争的で不可欠でない設備に対して払わなければならないものと、着信側足回りにおける
不可欠設備となる構造とを区別するべきであると考えます。
 もし、NTTに加入者回線をコストベースで提供することを義務づけるようなアメリカの
政策にならうならば、このような政策はサービスの競争のみ進展する結果となるため、NT
Tの加入者回線の独占は持続し、したがってボトルネックは今日と同様に存在し続けること
になると考えます。

(3)ネットワーク改造費用について
 弊社は、昨年末の審議会答申における、「基本的な接続機能の提供ためのネットワーク改
造費用は、事業者間接続に固有の費用ではなく、ネットワークが本来有すべき機能を備える
ための費用とみるべきである」という見解に賛成いたします。
 この問題は、特に弊社のような新しく市場に参入する事業者にとって大変重要な問題だと
考えます。現在のNTTの要求どおりにするならば、タイタスのような新規参入者はまだ収
入を得られない段階で、過大な負担を強いられることになり、大きな参入障壁となるからで
す。
 したがって、タイタスは料金算定要領で、NTTが加入者に対して提供しているあらゆる付
加サービスと接続するために必要な共通線信号装置の部分を含めた、すべての設備も基本的
機能の定義の中に含まれるべきだと考えます。

(4)三者接続の接続協定の簡素化
 弊社のような新規に電話サービスに参入する事業者が、NTT以外の事業者と、直接接続
するに足るだけのトラフィック量が確保できる前に、接続を実現するもっとも容易でかつ安
い方法はNTTを通じて接続をおこなうことです。しかしながら、現在はそのような接続を
行うためには事業者の数だけ接続協定を締結する必要があり、事務的に大変煩雑な作業とな
っています。郵政省の研究会のなかで現在ご検討をいただいておりますが、三者接続が「誰
とでもつながる」という原則を早く実現する、最良でもっとも安い方法だと考えますので、
三者接続の場合すべての事業者と協定の締結を必要としないような、海外の通信市場と等し
い形態が、早期に実現することを弊社は期待しております。

(5)長期増分費用(LRIC)の早期実現
 弊社は着信足回りの費用算定をおこなう公正で透明な唯一の方法は、将来見込原価にもと
づいた長期増分費用(LRIC)しかないことを確信しております。
 例えばABC方式や、接続会計を導入したとしても、総括原価主義を用いる限り、公正で
効果的で透明な相互接続を推進することはできないと考えております。これらの方法はすで
にイギリスですべて経験ずみであり、結局イギリスはこれらの方法を放棄し、長期増分費用
(LRIC)を採用したという経緯があるからです。
 総括原価主義は次のような欠点があると考えます。

 ● 費用の実際の配賦は支配的事業者に委ねているため、自らの競争上有利なように費用配
  賦を操作する余地がある。
 ● 支配的事業者の過去の非効率が競争事業者及び加入者へ転嫁されている。また、規制当
  局は常に支配的事業者のデータに依存しなければならないため、介入の是非を判断するシ
  グナルとするには不適切である。そして、費用の配賦方法の恣意性のために、調査し立
  証することは困難である。
 ● 費用の配賦方法に恣意性があるため、この方法自体が透明性を欠いている。公開してい
  るにもかかわらず、また、接続料金の範囲が指定されているにもかかわらず、新規事業
  者はつねに不公平にとりあつかわれていると感じる。また、常に支配的事業者のデータ
  に依存しているため、どれだけ支配的事業者から完全なデータを得ようとしても、接続事
  業者は常に何か隠していると感じ、結局他の事業者は決してアクセスチャージの数値を
  信じることはできない。
 ● 会計分離をおこない、他事業者と内部の事業部門との取引条件を等しくしたとしても、
  彼らの全社の会計上は差し引きゼロになるため、不当な取引条件を設定したとしてもN
  TTの経営にまったく影響をあたえない。しかし新規参入者にとってはその取引条件に
  より実際の支出額が決まる。
 ● 会計分離によっては着信足回りと発信足回りの区別を明確できない。したがって着信足
  回りにおける不可欠設備の問題を解決することはできない。 

 アクティブベースコスト算定(ABC方式)の導入も、もし適切に運用されるならば、総
括原価主義の範囲内で改善することはできますが、この方式自体の欠点は是正することはで
きません。しかし、長期増分費用(LRIC)は総括原価主義自体を改善することができる
と考えます。
 イギリスではBTは1994年にABC方式を導入しており、したがって接続料金の算定も適
切であると主張しました。しかし、そのような主張をオフテルは支持しませんでした。その
ような方式により配賦方法は多少改善はするかもしれませんが、恣意性は依然残っており、
総括原価主義による価格設定に対する根本的な批判をはねのけることはできなかったからで
す。
 したがって、われわれは現在のスケジュールを見直し、LRICの導入の検討を急ぐべきであ
ると考えます。
 LRICによる着信足回りの費用算定は海外では、インフラの競争を促進するマルチキャ
リア時代の常識となっています。
 弊社は、これまでも主張し続けてきましたように、それが日本の公正で透明な着信足回り
接続料金を決定できる、唯一の方法であると確信しております。